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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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単純な作戦



「……もう…朝か…」



 長く短い時間を閉じていた瞼を開く。窓から日差しが差し込んで、次に目を覚ましたときには部屋全体が明るくなっていた。



 まだ頭がぼぅっとしていて上手く働かない。昨日に比べて身体へに圧し掛かる疲労は、減るどころか一層に増していた。



 何とか重たい身体を引きずり起こす。少しして扉からコンコンと二度軽いノック音が響いた。



「---ん?」



 誰だろうかとその扉へと顔を向ける。



「…優さん。起きていますか?」



 扉の向こう側に立っている人物は、声からして桜のようだった。俺とは違い、朝早くから一早くに起きて身なりを整え終えたのだろう。どうやら起こしに来てくれたようだ。



「…ああ、起きてるよ」

「部屋に入っても宜しいですか?」

「別に構わないが」



 すると扉を開けて「失礼します」と、律儀にもいって桜が部屋に入る。ただ入って来たその桜の姿は……ほぅ、これはこれは……。と思わず口に出してしまうものだった。



 どうやら替えの服に着替えたようで、いつもの巫女衣装の姿では無く至極一般的な私服を着ている。なんというか、可愛いの一言だ。



「おはようございます優さん」

「おはようありがとうございます桜」

「え、ええと…」



 戸惑うように言葉を濁し、困惑な表情を浮かべられた。いかん、桜の服装を見つめながら挨拶を交わしたら、無意識的に途中で心の声が口に漏れてしまった。



「あ、いやいや何でもない。…ちょっと驚いただけだ。…巫女姿は勿論だったが、普通にいやそれ以上に今の格好も似合ってるぞ」

「え、あ、そ、そうですか?ありがとうございます」



 そういって、桜は少し照れた様子で自分の服を見回すと、嬉しそうに口元を緩めた。



「此方こそありがとうござます」



 ただ、俺も同じく口元を緩めていたのは言うまでも無い。



「しかし、その服どうしたんだ?」

「あ、これは柚依さんが、『桜さん、巫女の服意外に着る服ないの?どうせだったら何か服を貸してあげ…おおと!そういえば丁度私が着ていた服で今は使ってないのがあったっけ!…ってことで桜さん、貴方なら似合うと思うから、是が非とも着てみて欲しいんだけどどうかな!』と言われたものでして…何着かあったその一つを貸してくれました」



 そうはいうが、柚依が持っていた服が桜にピッタリという時点で、少しは不自然だとは思わなかったのだろうか。聞いていた限り色々と不自然過ぎてどう見ても桜の為に用意してあったと言わざるを得ないのだが。



「まあ、いいんじゃないかなうん」



 ただまあ、今回は柚依の行動に対して評価だけはしておこう。



「……一応興味本位で聞くが…他にはどんな服があったんだ?」

「えー…と……異様に長けが短いスカートや…白や黒のメイド服…ゴスロリ衣装…とかでした…」

「あいつロクなもん持ってないなおい」」



 とかいって桜の気持ちを分かっているように便乗したが、内面では『何故それを着せなかった…ッ!』と唇を噛み締めて柚依の評価を下げたのはここだけの話。



「それはそうと、よく眠れましたか?」

「…んー、まあそうだな。…もうこれ以上とないほど爆睡してたよ」



 良く寝ていたと、背筋を伸ばしてあくびを漏らす仕草を作る。



「それは良かったです。では皆が起きたことですし、朝食にしましょうか」



 昨日は何だかんだで色々とあった。それを心配してのことだったのだろう、俺の何てことの無い様子を見た途端、桜は安堵したように表情を和らがせニコリと笑みを作った。



「……何だ、俺意外はもう起きていたのか?」

「はい、柚依さんと魔王さんは私が起きた頃には既に」

「…いつも俺に起されてたくせに…今日は随分と早起きだなあいつ…」



 結局、昨日魔王から感じた違和感は気のせいだったのだろうか……。



 これといって、胸騒ぎが起きていないし…、でも…じゃああの少女は一体何だったん__



「__ッっぅ!?」



 昨日の出来事を思い返そうとした途端、脳裏の奥底で鋭い痛みが走る。



(な…また…急に……ッ!)



 思い出そうとしたのは昨日の夜中に見た少女。しかしその記憶を妨げようと、強烈な頭痛が走ってきていた。



(…これ…呪いとかじゃ…ないだろうな…!)



 魔王は何かを隠しているということは、既に薄々気がついている。だが、それは気に掛けるほどに重要なことなのだろうか。



 肝心の勘がまるで機能しない。普段の魔王の様子からして昨日の夜の事もそうだ。特別困っているようにも何かを抱えているようにも見えない。



(じゃあ…何で俺はあいつを見て…こんなにも胸が苦しくなってんだよ…)



 ぐっと胸元を押さえる。今一番気がかりなのは昨日見えた誰かも分からない小さな少女。記憶には無いのに、まるで何処かで会ったような覚えがある。だというのに思い出せず、記憶には泣いている姿を最後にプツリと途絶えてしまっていた。



(……俺は…何処かで…昨日と同じ表情を見ている…?夢で見た記憶とは違い……手が届きそうなところまで…思い出せているってのに…!)



 それでも思い出せない。もどかしく、苛立ちに歯噛みする。



 それはただ完全に忘れてしまっているのか、ただ知らないだけなのか、それすらも分からずに、ただひたすら思い出そうと頭痛を堪えて記憶を探るが一向に進展が無いためだ。



(せめて…少女が誰なのかを思い出せれば…!)



「……優さん?どうかしたんですか?」

「__え?あ…」



 心配そうに呼びかけるその桜の声に、ハッとして我に帰って顔を上げる。見れば、さっきまで扉の前で立っていた桜は、いつの間にか目の前まで近づいて俺の顔を覗き込んでいた。



「何か…深刻な顔をしていましたが…」

「…あ、いや、何でもない」

「………それ、本当ですか?」



 すぐさま顔を上げて、何てことの無い様子を見せたが、桜はそれが嘘臭く見えてしまったらしい。頬を小さく膨らませ、表情には『怪しい』の文字が浮かぶジト目で睨んできた。



「ほ、本当だぞ」

「…本当に、ですか?」

「あ、ああ。本当だ!」



 そこまでいうと、桜は膨らませていた頬をしぼませ、しかしじっと眼差しを向けたままで黙り込んだ。



 そのため反応を伺おうと同じく黙り込んで様子を見ようと試みるが、じーっとまるで心を見透かされる気がして、思わず視線を反らしたくなった。



 見られてる…超見られてるんだが…。



 次第に表情に出てきそうになり、ならばと負けじと自分も桜の瞳を見つめ返す形で留まる。



「……そうですか、なら良かったです!」

「わ、分かってくれて何よりだ…」



 しばらくして、桜は急にニコリと笑みを作って見せる。それにやれやれと参った気持ちで肩の力を静かに抜いて脱力した。



 まるで昨日の夜に魔王に対して疑いを掛けたこと事態を、自分に向けてそっくりそのまま跳ね返ってきたようだった。



「…ただ、もしもまだ何か悩み事があるのでしたら言ってくださいね。お力になれるか分かりませんが、誰かに聞いてもらうだけでも気持ちが安らぐことがありますから」

「…ああ、分かったよ」



 そういって頷きはしたが、本当は初めから嘘を付いていて、それを桜に話すつもりはなかった。これは自分自身で解決しなくてはいけない問題な気がしたからだ。



 どうしても少しの間に見えた少女が気になり、早く思い出さなければいけない、どうしてかそんな気がして止まない。



 少し経てば記憶から抜けて忘れてしまいそうになり、忘れてしまう前にと必死に思い出そうにも、脳神経に走る鋭い格闘ばかりで時間を取られ、実のところ十分な睡眠を取れてはいなかった。



 そのため、いくら集中していて睡眠を忘れていても、身体は後々から正直に伝えてくる。先ほど桜に見せた仕草だけのあくびとは違い、本当のあくびが軽く漏れた。



(…さて…と、今頃眠くなってきたが、こんなんじゃ寝ようにも結局寝れないんだよなぁ)



 いくら考えても、いつも無駄な努力で分かりもしないのだ。こんなことで空振りばかりするくらいなら、今は的中するまでの間は保留にするしかない。



 一度気持ちを切り替えようと窓の外を見つめると、既に魔王達が向かっているであろう周辺を遠めで眺める。



 魔王達は上手く行動に移せているのか心配だが、今は他人の心配をする前に自分がやることをこなしてからが先決だ。



「…まぁ…思うところは色々とあるがもうそれは後だな。……時間的にも頃合いだし、そろそろ俺らも動くとするか」

「…はい」



 単純に推理や謎解きは苦手だが、既に謎を解いているのなら、後は俺の得意分野だ。



 だから俺は解けた謎を、自分なりに解釈して、しかしやっぱり初めと同じ結論に辿り着く。



 だから今回の目的は、比較的に単純。【ゲクロク】が企てているという野望を阻止すればいい。それに柚依は手段を問わないといっていた。つまりようはあれなのだ。



「止めましょう…私達の手で」

「……ああ、作戦名、【ゲクロク潰し】…実行だ」



 だから、作戦名も何というか単純だった。



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