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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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不変な偶然



「全く優くんは!どうしてそう女心ってものが分からないの!?」



 そう唐突に声を上げたのは魔王だ。目に涙を溜めうるうると浮かべている。



「いつもいつも優くんは身勝手……!もう好きにすればいいじゃない!」



 口元をフンッと尖がらせると、魔王は怒ってそっぷを向く。



「優くんのせいで私の心はズタボロだよ!!」

「お…俺はお前のせいで……たった今身体をズタボロにされたのだが…?」



 何処かで見たことのある悲劇のヒロインのように、パタリと手を床について嘆く魔王。それに今まで床にキスする形で倒れ込んでいた優は、顔を上げると魔王の発言に対して意義を申し出る。



「何言っているの!優くんは時間が経てば癒える傷でしょ!私の傷は時間じゃ解決できないの!!」

「いや……俺も時間で解決できるか…ゲフッ……今にも死にそうで取り返しが付かない事になる気が…」



 到る箇所に及ぶ全身の重度の打撲。そして全身の内部に巡る未知なるエネルギー。原因は魔王の手に持っている凹凸おうとつ状にへこんだ鍋にある。



「っふん!そのままくたばっていればいいのよ!何よもう……私が折角作ったというのに…」



 ツーンといじけたように魔王は優からそっぷを向く。因みに魔王が所有する赤色に染められた鍋の中は空だ。何処へ消えたと言えばそれは全て優の体内に納められている。散々物理攻撃という名の愛を浴びせられ、見かけからして毒を盛られた料理を愛情料理と自称し、抵抗の術を持たない優へ無理やり口に流し込むという愛とは掛け離れた所業。もはや愛ではなく殺意か拷問として呼ぶに相応しい。




 結果から歪んだ愛から作られた、未知なるエネルギーとは即ち魔王の手料理から生まれた産物である。



「お……お前が何を言いたいのか……さっぱり分からないのだが……」

「どうせ分からないでしょうね!っふーーーん!」

「誰か……俺を助けてくれ……」



 料理なら先ほど嫌々に断末魔を上げながらも強制的に完食したのだ。それに何故まだ怒る要素があるのか不明で不毛だと、救いの手か状況説明を優は懇願する。そしてそんな優の様子に、桜と柚依は苦笑の表情を浮かべ心の中で合掌した。






















「ギブギブギブギブギブ!!!!」

「……それで。優さんを襲ったとされる相手は何者なんですか?」



 しばらく優と魔王の片側に偏った一方的な不毛な争うを眺めていた桜は、ギリギリと魔王が優の足を固め技している最中、随分と落ち着きを取り度したと判断して質問を切り出した。



「折れる!折れるって!」

「優さんと対峙していたとすれば……相当な腕の持ち主ということになりますよね……」



 バンバンと床を叩き魔王に訴えかける優。それを眺めながら桜は相手の力量に対して驚嘆の息を漏らす。



「桜さぁぁん!?眺めてるだけですか!!質問するくらいならせめてこの状況を何とかしてからにして欲しいんですが!!」

「そうは言ってもですね……悪いのは優さんの方なのですよ?」

「いやいやいやいや!?ここまでされる程の事していない……というかそもそも俺何か悪いことしたっけ!?」



 涙ぐむ優に桜はコクリと頷く。



「乙女の純情を弄びました」

「何処で!?というか桜、俺に対して結構手厳しくない!?」

「ふふ、冗談です。魔王さん駄目ですよ?優さんは病み上がりなんですから」

「……む」



 その言葉に魔王はピクリと眉を動かし、腕に込めていた力を弱める。それもそのはず、桜の言っている事は正しい。優による魔王の魔力の吸収によって不思議な事に傷は完治していた。しかし傷が癒えたとしても、ほんのつい少し前は重体の身で深手を負っていたのだ。



「怒りたい気持ちもあるかもしれませんが、感情のままぶつけていると優さんの身体が持ちませんよ?」

「む、む~……」

「それに乱暴でいては優さんに嫌われてしまいますよ?それでもいいんですか?」

「そ、それは……」



 桜の言葉に魔王は口を紡ぐ。優は桜に対して感嘆の息を漏らす。



「そうそう、嫌われたくないんだったら次回からはばれないよう上手くすればいいのよ」

「なるほど!」

「いやなるほど!じゃねぇだろ!?」」



 柚依の発言に魔王は盲点を付かれたように関心してっぽんと手を打つ。それに優は声を上げるもチラリと視線が送られるだけで無視に終わる。どうやら次からは工作ありの嫌がらせが待ちうるようだ。



「……はぁ、もうそれは好きにしろよ……。それよりも今は話す事が他にもある。……そうだろ桜?」



 魔王を退かして立ち上がると、諦めの溜息を漏らして席に座る。本題に戻して欲しいと桜に視線を戻す。



「……はい」



 コクリと桜は相槌を打つ。本題の話に移ると分かると、桜に続き魔王と柚依も同じように席に着いた。どうやらスイッチの切り替えは出来ているようだ。




 優は軽く三人に視線を送ると、考えた素振りを見せた後から口を開いた。




















「……呪人…という話を聞いた事があるか?」



 初めに切り出したのは、認識の確認と情報に誤差が無いかの確認によるものだ。物事と現状を理解するには一番に情報が必要となる。



「……呪人?」

「いいえ」



 それに首を振ったのは魔王と桜の二人だ。魔王は首を傾げ、桜は一言で否定する。桜の場合は人里の離れた小さな村に住んでいた。それに優は当然かと思う。しかし何故魔王が呪人の存在を知らないのかと不思議でならなかった。魔族は主に類を問わずに操る能力を基本としているからだ。



 呪人という存在は言うなれば呪具のようなもの。主が存在して初めて呪人は存在する。さらに言うなれば呪人は主の命令によって動いている。



(それ以上に詳しい事は知らないが……呪人として命を吹き込んだ主がいるのは確かだ……だが……)



 優は記憶を探る。対峙したチェックとメイトと呼ばれる呪人は、命令によって動いているというよりは自分の意思で行動を起していた。 



「柚依は……どうやら何か知っている、という顔だな。いや、当然か?」

「………」



 ただ無言で話に静かに耳を澄ましていた柚依に目線を向ける。顔には出てはいないが、眉一つ動かさずまるで表情に変化が無い。今の質問に対して沈黙しているいうことは知っているという肯定の意だろう。



「……幾つかお前に聞きたいことがあるんだが、構わないな?」



 鋭い視線を向ける。柚依はまたも沈黙、優は肯定として受け取る。



「柚依に何度も助けられている。それは感謝している。……だが何故だろうな?」



 人助け、そう認識するにしては柚依はあまりにも深入りし過ぎている。勇者という荷を持つ者が指名手配者を助ける義理は無い。あるとすれば、それは特別な理由が存在しているということだ。



「白木の妹というのは分かったが、ただそれだけの話。偶然転移先に柚依が居て、偶然俺らと鉢合わせした。そして白木の妹だったのも偶然という訳だ」



 そう、これは幾度となる偶然が積み重なって起きている。



「…にしては、何というか……いくら何でも偶然にしては出来過ぎた話なんだよな」



 偶然桜の村に来たばかりの優と魔王の二人に、見計らったような襲撃。九沙汰との死闘を終え、長いは無用だと決意すれば翌日には偶然転移陣の発見。優の言葉に未だに魔王は眉を顰めたままだが、桜は何かに気が付いたように顔を硬直させる。



「そして呪人による初めから知っていて行ったとされる工作。そして魔王の異変……」



 たとえ城に居た何者かが優のように【空間転移テレポート】が出来たとして、居場所の特定と力量を絞れば可能性は極めて低い。優等の行動を見張る、情報操作や伝達の要因はほぼ皆無とされる。ただ、それが先代の勇者のような実力の持ち主、現役の勇者という称号を持ちえる者ならばまた話は変わってくる。



「あくまで勘だが先代は違うだろうな。予測は推測は出来ても一瞬で消えて見せる相手が、一体何処に消えたなんて想像が付くはずも無い……とすればだ」



 優は白銀の衣装を纏う目の前の人物を見つめる。敵意がなければ騙している訳でも無い。だからこれはただの優の考え過ぎという結果が生んだ、一人相撲の産物かも知れない。



「どうもただ無償の人助けには、何か裏がある。俺の勘が違うって意義を唱えちまうんだよなぁ……」


 

 推測と鋭い勘。ただそれだけで根拠や確信は無い。ただどうしても疑問が浮上するならば、今ここでハッキリさせてしまえばいい。



「……柚依は何が目的でここに居る?」



 と、優はそこまで一旦話を遮ると首を横に振る。



「いや、違うな。聞きたいのはそれじゃない」



 目的は別にこの際どうでもいいのだ。ここで肝心なのは、柚依の行動が優等に一体どんな影響を及ぼすか。



「……率直に聞きたい。柚依、お前は味方か?」



 肯定か否か。優は沈黙する柚依の眼差しを見つめる。そして柚依は口を開き、その答えを返す。





「…………違うわね」





 スッと眼差しを優の瞳に向け、声音を変える。まるで別人のように表情を一転させた柚依の返答は、否だった。



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