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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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魔王、誤魔化す



 私は今、静かに正座をしていた。


 

 勘違いしてはいけないのは、何も私は強制されて正座をしている訳では無い。



 そう、自ら望んで正座している。



 何故? と、もし私の行いに対しての問いがあるとすれば、きっと元からその場にいる全員が意義を唱えることなく首を何度も縦に振って納得したに違いない。


 

 何故なら、今私の目の前には鬼の形相の勇者が立っているのだから。


 

「さてと、何か言い訳はあるかな?」

「い、言い訳…ですか」



 優くんの手にはギラギラと閃光を走らす銀色の剣が携えてある。その鋭く輝く鋭利の刃先が、今まさに私の命運を握り、そして終止符を打とうとしていた。



「…えっと…その…」



 キョロキョロと居た堪れない環境と、顔を見れないという心境のせいで、何も言い出せずにせわしなく視線を動かす。やっべぇい緊張し過ぎてどうしよ何も浮かばないやテヘ。



 あわあわと口だけを動かしていると優くんは剣をクルクルと手元で回し始める。そして時々素振りの練習をしだす。



 何となく、というか絶対お前殺すマンという感じだ。



「んん?」

「ごめんなさい」



 私は一言の謝罪を告げ、深々と頭を地に付けて許しを乞う。



 いやはや、自分が悪かったとはいえ勇者に頭を下げる魔王はどういうものだろうかと、ふと私の頭の中にそんな思考が過ぎる。



(っふ、甘いわね…)



 だがそんな考えを私はすぐに鼻で笑って見せた。何故なら都合がいい事に既にプライドならもう無いのだ。それ故にどんな羞恥にさらされようとも恥かしくもないし、失うものは何もないのだから、それなら問題は無い。



「いやほんとごめんなさい。この通りです」



 床に額をぐりぐりと擦り付けて謝った後、少し勝ち誇ったような顔を思わず浮かべてしまう。ばれないようにと優くんから顔を背けると、そのまま声のする方へと歩き出して屋敷の中から窓の外の光景を見る。



「それにしても、今日は本当に」



 上を見れば綺麗に透き通った蒼天の空。真直ぐ前を見れば生い茂った草原。そして真下を見れば屋敷の周りには揃いも揃って情報に踊ろされた愚か者たちばかり。城の近くには賞金に目の眩んだ輩の群れで溢れかえっている。



「いい野次馬日和ね」

「お前何いってんの」



 チラホラと見た目だけでも



「ああ、あの人強そう」



 と何となく思ってしまうようなゴツイ体系の人がいれば



「え、何で来たの」



 と首を傾げてしまいそうになる者もいる。どう見ても戦闘とは無縁、不向きだと予想される女性や幼い子供までが剣や棒切れを持っていた。



 女子供に手を出さないだろうとでも思ってきた連中なのだろうか、下手な悪党よりもド畜生な性格だ。



「クズどもめえ!!」

「いきなり何いってんの」


 

 とはいえ、実際に放送を鵜呑みにした輩はそうはいないに違いない。この場に居る住人は、多く数えてもせいぜい100人弱あまり。それ以上でもそれ以下でもない。



 何せ、もし聞いた全ての人が鵜呑みにしたのなら、今頃は地方から見渡す限り人で溢れかえっていたことだろう。数百人で済んでる時点で大半の人間はまともだ。



「やっぱりまともが一番だよね!」

「うん、ほんとそうだね。で、何なの」



 結局は今回その他として集まった輩が、本気で信じ込んでいるか、まあ面白い見たさの野次馬といった辺りなのかな。



 私が言うのも何だけど。魔王という存在が本当にあるのかどうか、それが分からないとまで言われてしまうほどに、私というこの存在自体が既に伝説になってしまっているのだから。



「まあ…あくまでもただの、伝説として語られてきただけですから」

「それだけは確かに理解できるわ」

「あれ、否定してくれないの?」

「それは…ねえ? ていうかそこだけ反応良くない? つまりはさっきから意図的に俺の声無視してたよね? そういうことだよね?」



 まあ、だとしても信じる切っ掛けを生んだのは間違いない。勇者である優くんの城から、何故か魔王と名乗る人物が現れたら果たしてどう思うか。ありえないが故に、逆に彼等を信じこませてしまったのだろう。



 現に、私と優くんを含め二人のいるこの城が囲まれているのが現実。



 城を囲むように群がっている人達は、皆元々は半信半疑だったかもしれない。しかし一度ポスターを目にしたのならば、馬鹿げたその莫大な賞金に目が眩んだとも言える。



(本人である私でさえ、自ら捕まりに出て賞金を貰おうと考えた程だし)



 そして今、他の勇者や戦士ではなく住民が狙ってきている。これはつまり、事実上魔王と一緒にいる。そう住民に認識が及ぶ。例え誤解だと伝えても、乗り込まれて調べ上げられればすぐにばれる。



「つまり、これらの結論から、私の一言でこの国全てを敵に回したことになったという訳だよねー」

「まあ、そういう事になるよね実際に。だって現状が既にもう手遅れに近いし」

「まあそう気を落とさないのー、誰だって失敗はある……」



 何となく、そう何となく思った事を口に滑らした私は、建前を忘れて言い放った言葉にあっと咄嗟に口を塞ぐも聞かれていたらしい。優くんはふーと長い溜息を付くと、素晴らしい清らかな笑顔で剣を構える。



「よーしお前の気持ちはよーく伝わった。遺言はそれだけか」

「待って待って! 私はただ優ちゃんと私の恋は本物だと証明したくて! それだけなんです!!」



 私は汗を滲ませ、必死になって言い訳をするも聞く耳持たず。取りあえず誤魔化そうという意思だけは優くんに察しされたらしく、身の危険が感じる程に剣先を光らせた。



「…ごくり」



 それに私はやましい気持ちをかなぐり捨てて全力で弁解を求めた。



 別にただ悪ふざけでやったわけではないのだ。そりゃそうだろう、悪ふざけだったとしたら、その、ほら、ねぇ? 余計に口が裂けてもいえないし。



「普通に声に漏れてんぞおい」

「だ、だから、その…私は放送室の機材を使って、皆にしってもらおうかと…ッ!」



 あの時、放送局に乗り込んだ私はこう考えていた。



 ただ優くんに気持ちを知ってもらうため。優くんに対する気持ちを、偽りではないと証明するが為にと。

 


 一人の世界に入り、ヒートアップしすぎで私は興奮状態に陥っていた。そのためテンションに身を任せたら、悪乗りであんなことをいってしまい



『こんなことになっちゃうなんて思っていなかった~』



 なんてことを、口が裂けてもいえるはずがない。



 一旦の深呼吸、さて、どうしましょう。



 下手な刺激を与える台詞を吐くものならば、ブチコロ確定なのは確かだろうし。もし口でも滑らしていってしまえば、その先に待つ運命は容易に想像ができちゃうし。



「その結果、俺は裏切りの犯罪者として勇者剥奪、おまけに賞金を掛けられて追われる身になったと」



 そもそも何かを言うまでもなかった。既に優への弁解の余地が残されておらず、見開かれた瞳から除く閃光が、もう何言ってもアウトになる気配をかもし出している。



 滲み、というよりは溢れ出る全く隠す気の無い殺意。優くんの目は本気だった。



(やばい、あの目は本気で私を殺す気でいる目だわ。まずい、何か弁解をしなくては私は本当に優くんに殺されてしまう)



 ひたすら何か納得してくれる案を必死に考える。しかし必死に考えたもののやはりそう都合よくは妙案が出てくるはずもなく、何も浮かばないままどうするかと数秒思考停止後、



「……てへ☆」


 

 自分でも何をとち狂ったか誤魔化すためコツンと自分で頭を小突き、ついでにと私は片目をウィンクして下を出した。



 苦し紛れ過ぎる可愛い子アピール。言わずとも知れた所謂ところのテヘペロである。



 私ならではの必殺であり、名づけるならば奥義『いつも優に使う奥の手』だ。



 何か問題ごとを起したらいつもこれで誤魔化す。するとあら不思議、優くんはいつも満面の笑顔で拳を構えるだけで、それ以上の事が起きたことは覚えている記憶上では無かったと思った。



 そして、今回もそうなると私は信じて疑わなかった。



「そうか…」



 そしてその思いが通じたのか、優くんは一瞬とても愛らしい笑顔を浮かべたではないか。その光明の掛かった顔からは、とても今から誰かを無残なる死を与えようとしているにはとても見えない。



(優くん……私の可愛さに免じて許してくれるのね!)



 感動は二秒後に砕かれた。



「今すぐ俺に殺されたいということだな? あい分かったそこに座れ」

「あれ!? 思ってたのと全然違う!」

「んん? 違うのか?」

「『しょうがない奴だなぁ! このぉ! もうやっちゃ駄目だぞ☆』 的なセリフはぁ!? それを期待してたのにぃ!!」



 裏声で優くんの声真似をして見せた後、優くんも負けじと裏声になる。



「取りあえずお前反省してねぇな?☆」

「っへ!? い、いやいや! むっちゃくちゃ反省してますしてます!!

「…一応言っとくが、ぶりっこされた瞬間、単純にコイツぶっ殺してぇとは思ったからな☆」

「容赦ない!!」



 私が持つ奥の手のぶりっ子は、今の彼にはどうやら逆効果だったようだ。



 笑顔で剣を抜く優くんの姿は、魔王である私にとっては鬼の形相よりも数倍怖く見えていた。



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