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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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片手に剣を、片手に弓を

「こ、これは…違うんだ…!!誤解なんだ…ッ!!」


 冷や汗が全身から滝のように噴出し、

 もはや水で濡れたのか汗で濡れたのか分からない。


「…ふぅ~ん……で?じゃあその左手が掴んでいる物は何?」


 ビシリと音を立てて地面に亀裂が走り、

 木々に止まる鳥達が逃げるようにして羽ばたいていく。

 それに、噴出る汗は一層強まった。


「っち…ちがッ!」


 硬直がやっと解け、

 咄嗟に左腕が掴んだ胸を離す。


「……優…さん…」

「さ、桜!お前なら信じてくれるよな!?」


 我にもすがる思いで桜へと顔を向ける。

 そもそも冷静に考えてれば、ここにたった今来たばかりだ。

 ものの数分で牢獄行きな変態行為を行おうと思えるはずが無い、

 桜ならこれは事故だったと理解してくれるはずだ!


「優さん…優さんが…優さ…優……」

「…さ、桜?」

「うふっ…うふふ…うふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 桜はカタカタと小刻みに肩を震わせると、

 虚ろな目で壊れた人形のように笑い始めた。




 _やべえ、駄目そうだ。



 

「ッそうだ!えっとそこの人!これは事故ですよね!」


 裸の女性が居る方に振り向くというのは、

 普通に考えてデレカシーの欠片も無いとは思う。

 しかしこうなった今、手段を選んでは入られないのだ。


 もう果てしない程に嫌われているかもしれないが、

 しかし本意でやっていないと証明さえできれば!


「ほら!突然上か」

「突然上から降ってきて私を突き飛ばした後、何事かと思って身体を起したら突然いきなり胸を揉んできた!!」



 ッブワ!!!!!!!!



 と、爽快な効果音が聞こたんじゃないかというくらいに、顔から大量の汗が噴出した。



 女性は赤面のまま、

 胸を腕で押さえ、身体を反らしていた。

 その目は嫌悪を抱いた様子で、

 まるでゴミ虫を見るような目で睨んでくる。


 …落ちた時の衝撃は…

 彼女に当たった時のだったのか!!


「寄って来ないで!この変態!」


 しかも誤解を解く所か、

 さらに誤解を招く羽目になっている。


「……ふぅう~ん?」

「つ…突き飛ばしたことは謝る!だが胸を揉んだというのは不可抗力で!」

「何回も私の胸を揉んできたくせに!?」

「……ふぅぅううう~ん?」



 どうしよう、

 誤解を解こうとすればするほど状況が悪化していく。



「うふ…うふふふふふふふふふ…いけませんよ優さん…私達の前でそんな…不純で不潔な行為…いけませんよぉ?…うふふふふふ…」



 _やべえ、桜が本格的に壊れてる…。



「…優ぅ~くん!」

「ッ何でしょうか魔王さん?!」


 魔王は発した一言。

 それは魅惑的で魅力的な声だった。

 それはもう、とても恐ろしい程に。


「有罪☆」

「ですよねー!」


 ニコリと満面の笑みを浮かべた魔王を見た後、

 同じようにしてニコリと清清しい程に諦めのいい笑顔を浮かべる。


 そして、可愛らしい笑顔のまま、

 同時に魔王の拳が俺の顔面を捉えた。






---






「…ははぁ…なるほどねぇ~」

「………」


 俺をぶっ飛ばしてスッキリしたのか、

 魔王は話を聞いて呆れた様子で溜息を付いた。


「丁度そこの女の上に落下して、初めは居たのか分からなかったのねぇ~…全く…最初からいってくれればいいのに」

「それ以前に話を聞かなかっただろうが!!」


 5メートル以上は吹っ飛んだだろうか。

 水面には顔に殴られた後がくっきりと映し出される。


「わ、私はモチロン信じていましたよ!!」

「うん、ありがとうね……」


 もう何も言わないことにした。


「しかし…まさか貴方に胸を揉まれるとは…」


 今回の被害者である銀髪の女性。

 俺がぶっ飛ばされて気を失っている間に、

 彼女は着替えを終えていた。


 一向に収まることの無い鋭い視線は、

 出会ってからずっと俺へと向けられている。


「す、すいませ……え?」 


 頭上がらずとにかく謝罪をしようとして、

 途中女性の言葉に引っかかりを覚えた。

 

「…あの…もしかして何処かで一度お会いました…?」


 俺と彼女は経った今始めて出合ったはずだ。


「…ん?…いいえ?それがどうかしました?」


 さっきの話し方…

 初対面の相手に言う言葉遣いにしてはちょっと変じゃないか?



 …いや、ただ単に侮蔑という意味で喋っただけか……



「そ、そうですか…すいません…」

「いや此方こそすいません、対したことは無いです」


 てっきり侮蔑されるかと思っていたんだが…?


「あの…やっぱり何処かであって…」

「優くん…突然胸を揉んできた男が無神経に話しかけてきたらそりゃ怖いって…」


 ………当たり前な事過ぎて何もいえねえ。


「何?優くんは胸でも揉んで興奮でもしていたわけ?」


 魔王に話を振られ、

 手から伝わった感触を思い出して顔が赤くなりかける。


「ッバ!?馬鹿いってんじゃねえ!さっきから言っているようにあれは不可抗力だ!だから少しもヤラシイ気持ちなんて持って無い!」

「本当?」

「ああ、ほんッブフ」

 

 急の咳き込み、

 鼻に違和感を覚え唇辺りを触ってみる。



「「「「………」」」」



 鼻から血が出ててきていた。 


 ……このタイミングで鼻自?

 おかしくない?

 今頃魔王に殴られた時のが?



「………」

「…待て魔王!無言で拳を構えるな!せめて言い訳くらいさせてくれ!!」

「分かった、じゃあ優くん、最後に何か言い残したいことはある?」

「待て!死ぬ前提で話を進めるな!」


 この瞬間、

 脳裏に4つの最善策が思い浮かんだ。



 ①諦める


 ②桜に助けを求める


 ③銀髪の女性に助けを求める


 ④逃げる



(…①はもはや論外、④も無理だ、逃げる素振りを見せただけで即捕まってアウト…③も正直いってかなりきつい…なら②か?!)



「桜!」


 この間0.4秒。

 次こそは信じてくれると信じ、

 祈る思いで桜の方に顔を向ける。


 この状況で味方なのはただ一人桜だけ。

 だが大丈夫だ!桜なら今度こそは!


「心配しないで下さい、大丈夫、ちゃんと分かっていますよ」


 そういって、桜はニコリと笑顔を浮かべた。


「分かってくれたか!」

「ええ、既にお祈りなら済ませてありますよ」



 駄目だ、死を早めた



(ッ選択を誤ったか?!…っく!なら③だ!)



「銀髪が綺麗なそこの貴方!嫌なのは分かるがここはお願いだ!この二人を説得するのに協力してくれ!!」


 女性の居た方角に顔を向ける。

 

 見つけた、

 でも何でだろう、

 素直に喜べない。


 何かあの人正座して刀を研いでいるんだけど。


「ちょ、え」


 シャリ…シャリ…シャリ…


「あ、あの…」


 シャリ…シャリ…シャリ…


「じょ…冗談きついなあ…もう☆」


 シャリシャリシャリシャリシャリシャシ


「いやごめん、ごめんなさい!!マジで怖いから止めッ!」

『グルアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「「「ッ!?」」」


 突如雄たけびが辺りに響き、

 俺の悲鳴を掻き消した。


 物音のする位置、

 その森の奥には黒い塊が動き、

 そして荒い息と共にそれは姿を現す。


(野生の熊?!)


『グラァアアアアアアアアアア!!』


 野生の熊は、二本立ちの姿勢から4本立ちに移ると、

 雄たけびを上げ猛スピードで此方に向かってきた。


「優くん!」

「魔王、桜!伏せていろ!」


 腰に掛けた剣を抜き、

 飛び掛る熊の突進を受け流そうとする。


「っぐぅ!?」


 が、想像以上に重い。

 衝撃を受け流しきれず、押し留まる形で止まる。

 剣と熊の牙が瀬切り合いカチカチと音が鳴った。


 剣い噛み付いた牙を離さず、

 そのまま空いた手を振り下ろしてくる。


「ッぅおおお!」


 力任せに腕を動かし、

 噛み付く牙を離させる。

 

 反動で身体が斜めに反れ、

 熊の爪は空を切った。



 でかい、速い…重い。

 それに何だ?妙に凶暴だ。



『グルゥウウ……グルゥウウウウウウアアアアアア!』


 熊は一瞬怯んだ様子を見せた後、

 身を翻し森の方へ向かって走る。


「しまッ!逃げろ!」


 しかし逃げる素振りを見せた熊は、

 走る軌道を大きく変え、銀髪の女性の方に向かっていった。


「おい!?聞こえないのか!?」


 銀髪の女性は俯いたまま逃げる素振りを見せず、

 しかもただ剣を片手に棒立ちしている。


「桜!」

「はい!」


 瞬時に障壁を張ろうと、

 桜が手を女性に向けてかざそうとした瞬間、



「必要ないわ」



 そういって、銀髪の女性は襲い掛る熊の突進を軽々しく剣で受け流し、

 浮かんだ隙を突いて数発の打撃を熊の胸に叩き込んだ。


『グガ…ァ……』


 …今…一瞬で5、6発の打撃を腹部に当てた…?

 この女…一体…。 


『グルグルグルゥウウウウ!』

「きゃああああああああああ?!」

「何!?」


 後ろから別の雄たけび。

 草むらからもう一匹の熊が姿を見せる。


 まだいたのか…!


「桜!」


 くそ…!

 まずい、このままじゃ!



「剣『天穿瞬速牙!』よ……え?」


 力を発動させようとした途中、

 割り込むようにして放たれた矢は、

 桜を襲おうとしていた熊に直撃していた。


 見えたのはほんの一瞬。

 矢は凄まじい速度で熊目掛け一直線に放たれた。


 巨体な身体がグラリと揺れ、

 熊は重たい音を立てて地面に倒れ伏せる。


「…え?」



 あれ?

 この技…何処かで…。



「どうです?今のでもまだ気が付きませんか?」


 微笑を浮かべて俺を見る、

 その手には同じように見覚えがある弓が携えており、

 抱いていた疑念は確信へと変わった。


「_ッ!ちょ…ちょっと待て!!…まさかお前?!」


 銀髪の女性は一度笑顔を作ると、

 会釈をした後、口を開く。


「…初めまして、自己紹介が遅れました。私の名前は白木柚依しらきゆい、近日貴方が戦ったとされる白木相馬しらきそうまの妹です。…以後お見知りおきを」



 そういって、白銀色に輝く衣装をその身に纏い、

 白木柚依しらきゆい(勇者)は静かに薄ら笑いを浮かべた。



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