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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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私と勇者はラッブラブ☆



 魔王のテンションは高い、そして何故か鼻息が荒い。



「大丈夫大丈夫!私に任せて!」

「大丈夫じゃねえよ、てかまだ何の話しも聞いてないからね? ねえちょっと勝手に始めようとしないで聞いてるの魔王さん」

「いいからいいから私に任せとけば大丈夫だから、大船に乗った気持ちで任せてよ」

「だから何が大丈夫なのかまずは説明してくんない、このままだとその大船に大穴空いて沈没しそうで怖いのよ」



 この調子で魔王から発せられる大丈夫は、今までの信頼度は俺にとって皆無に等しい。つまり大丈夫という言葉は不安という逆の意味を発揮していた。



 掃除で綺麗に片付き終わり、まあいいやと満足してイスに座り休憩していると、魔王は突然足音をドタバタと立てて部屋を出て行ていく。


 

 的確に狙ったかのように、折角綺麗に片付けた場所を散らかしながら。魔王の蹴りのおかげでゴミ袋に穴が開き、蹴り上がり宙に舞う事で纏めた書類が床にまんべんなく散らばる。



「おぃいいいい」



 そんな俺の苦労を見向きもせずに出ていく魔王。文句をいう前に颯爽と部屋を出て行ってしまった、そのため声は魔王の耳元までには届いてはいない。



「あんにゃろう…」


 

 わざわざ追いかけて片付けさせるほど、今の俺にそんな気力は残っていない。何となく「あ、掃除やろっかな」という気分で湧き上がった気力なんぞたかが知れている。


 

 その証拠に掃除が一段落終わったと自覚した途端、ドッとした疲労が身体中に巡っているのだ。



「…しょうがない、もう一回片付け直すか」



 めんどくさい、その一言で片づけたい衝動はあるものの、折角ここまでやったのだから最後までやろうという意思が僅かに優った。諦めにイスから立ち上がって作業に移るものの、不幸中の幸いにも少量しか入れていない袋だったのが良かった点だ。それもあって何とかもう少しだけ動けた。



(…折角だし、床も拭くか)



 不思議なものだが、動き出すまではもの凄い、世界が滅ぶと言われても動きたくないような気分で鈍くさくなるのに、いざ動くと色々とヤル気に満ちるのは何なのだろう。



「辛いのは最初だけ的な奴か、そんな事誰か言ってたような」



 ヤル気が出た後の行動は速い。ついでといって雑巾も取り出し、軽く床の周りを水拭きをしてからワックスで磨きを掛ける。

 


 人間、一度何かしようと始めると目的が変わることがある。



 例えば片付けが面倒だと思っていても、一度始めると片付けること事態に楽しさを覚え、気づけば綺麗にする作業に夢中になっているといったように。ただ片付けるだけだと思っていても、しかし綺麗に片付くのがほんの少しだけだが嬉しくて、そして目的がいつしか変わり、無意識に行うといったある種の本能的作用が働く事がある。



「…ん? ここに汚れがあるな」


 

 雑巾を床に置き、ちょっとした汚れを擦って落とす。


 

「…おお、落ちた落ちた。ん…ここにも…あ、ここにも……」

 


 そして、それがまさに今の俺の状態だ。



「やっべ掃除超たのしぃ…!」







 …・…・…・







 

 掃除を開始してから一時間くらいが経過した頃、部屋は俺の抜群な掃除テクニックにより綺麗に整頓され、床は新品のようにキラキラと輝いていた。



「っふ…まさかこんな事が得意だったとは、以外な一面を見つけてしまった」



 その見事な素人の腕前によって、床は鏡のように周りを映し出している。我ながら見事な輝きだ。



「がっつり磨いたけど、ここまで綺麗になるとはな」



 試しに指で床の表面を擦ってみる。 

  


「おお、つるつる!」



 摩擦をまるで感じない。ッキュッキュと愉快な音が鳴る。きちんと磨きが掛っていなければ、これ程に清清しい音はそうそう鳴るまい。



「いやー、最近掃除をしていなかったが、何というか身の回りが綺麗になると自分まで綺麗に洗われたような…。身の回りがスッキリするとなんでこんなに清清しいんだろうか! うん、良いぞ! 実に良いな! まるで心が洗われるようだ!」



 少しテンションが上がる。こういうのもたまには悪くない。全ての掃除が終わり、俺は汚れた水の入ったバケツを流しに持ち上げる。

 


「気分も良いし、さてと…これが終わったら次は何をすっかな――」


 


 ――ギィキィィイイイーーーーーーーーーーーン!!!!!




「っふぉぶわっはぁあ!?」


 

 突如、爆撃されたかと勘違いする程のバカでかい機械音が鳴った。おかげであまりにもビックリし過ぎて変な声まで出てしまった。



 音の衝撃に身体が後ろによろめく。何とか体勢を持ち直そうと咄嗟に踏ん張ろうとするが、ワックスによって巧みに磨かれた床が面白いくらいに滑り、力を入れられずそのまま倒れこむようにして床に背中を打ち付けた。



 見事なまでの盛大な転倒で間抜けな音を鳴らす。



「いってぇえええええええええええッ!!」



 背筋に走る衝撃、そして鈍い痛み。痛みに耐えかねた俺は床をに片手を付け、ぶつけた腰にもう一方の手を当てて硬直したまま悶える。



「うぉおうぉおおうぉおおおおおお痛冷てぇええ」



 尻に液体を感じて後ろを振り返す。手に持っていたバケツもひっくり返っており、鏡のように綺麗になった床はバケツから流れ出す水によって汚れに塗れていた。

 


「あ…あの野郎ぉおお…」



 しばしの辛抱の後、痛みが落ち着いたところで立ち上がろうとする。まだ少しばかり金属音がまだ耳に残っていてくらくらするが動けるくらいには回復した。



 けれどもやっぱり頭の奥底が痛いので、一度膝を付いて耳鳴りがちゃんと収まるまで待つ。



 耳鳴りが完全に収まった俺はすぐさま立ち上がると魔王が居る放送室へ向かう。その道中、歩いて少ししてから魔王の「マイクテスマイクテス」という声が聞こえ始めた。



「は? え、何してんの?」

 


 魔王が使っている代物は、国中に響き渡るよう設定された緊急放送魔法機器を使っている。言わば、魔族が襲ってきたときや、災害をいち早く伝える時に使う基本的には避難警報装置として扱われるもの。



 むやみやたらにいじるものではない。何せ国の人間全てに聞こえるよう作られているのだから、嘘を言っても一時的に国を動かせるくらいの効力がある。



「あいつ…そんなん使って一体何を…」



 流石の魔王もそれが大変重要で危険な機器だと承知の上で行っているはず。とすれば何か一大事でもあったというのか。



「いやまさか」



 だったら俺に真っ先に言うなりするはず。そもそも魔王が機器を使う理由が明白ではない。勇者と魔王が一緒に居る時点で反逆とされているっていうのに、その張本人である魔王が喋るとなると、勇者の傍には謎の女がいるという事が噂されかねない。



「あの子は俺の血圧を高めたいの? 健康に気を遣っていての行動なの? 血流良くなりすぎてそろそろ血管破裂しちゃうよ」



 とはいえ幸い魔王だということは知られてはいない。というよりも一人で勝手に慌てて、ちょっと心配し過ぎなのかもしれない。なんたって魔王の声を耳にしたからといって大した問題にはならないからだ。



「イタズラ目的かあ? あいつほんと見た目通りのガキだな…」



 まあ俺からすると効果抜群過ぎて、イタズラなら迷惑極まりなくて大変困るんだけどもね。



「まあ動かしちまったものはもうしょうがないし、好きな事言わせてやるか。後で何か言われても子供のイタズラとでも言っとけば誤魔化せられるだろうし」



 例え国中に魔王の声が響き渡ることになろうが、まずバレることはないし。



「人間よ!魔族よ!天使よ!全ての生き物に告ぐ!」



 そんな俺の軽い考えは5秒くらいで速攻打ち砕かれた。




「…ん?」



 数秒動きを止める。



「ちょっと待って、今なんて言った?」



 聞こえてはいけない幻聴が聞こえたような気が。



「我は魔王!この世の混沌を統べる者だ!」

「ゴッフフォ!!!!!!!!!!!!!!!!」



 全力でむせた。そしてやっぱり幻聴じゃなかった。



 ばれるという問題を、魔王は予想の遥か斜め上ですっ飛ばしている。



「あ、ああああいつなにいってんのぉおお!? …い、いいいや待て待て! まだだっだだ大丈夫!!! どどどうせいたずらとして無視されるに決まってる!」



 でも身体は素直。汗が滝のように湧き出てきてしまう。



「はっはっは、ほんと冗談きついぜ、いやほんと今ならまだイタズラだと無視されるよねマジで。止めるなら今だよね、今しかねぇ!!」



 瞬間、俺は全力で魔王の元に駆け出す。位置では魔王と俺は端と端の向こう側。このまま走っていては距離がある。



「知った事かぼけぇええ」



 そんな事お構いなしに、2階から迷うことなく飛び降り、中庭を駆け抜け3階に向かってよじ登る。



「俺の身体能力を舐めるなぁあ!! こちとら広いとか遠いとか、危ないとか無茶だとか、もうなりふりかまってはいられねぇんだよ!!」



 ここまで焦ったのは何時以来だろう。こんなに切羽詰まった状況って、多分不意打ちで毒の着いた矢を受けて一週間くらい死の淵を彷徨ったくらいだ。



 なのに追撃を続行する魔王。



「重大な話だ、しかと聞け!勇者と魔王は、つまりこの私とできている!それはもうすんごぃくらい!優と私の愛は何者にも屈しない程までにだ!……つまり、何が言いたいか。極めて簡潔で率直な答えを簡単に言わせてもらうと…」



 そこまで言うと、魔王はまるでじらすかのように一息ついて間を空けた。



「すーーー」

「おおおおおおおおおおお!!!」



 チャンスは一瞬。その間を狙って俺は目的地に丁度たどり着く。そのまま勢いよくドアを開け放ち、これ以上いわせまいと魔王に向かい飛び掛った。



「言わせるかぁあああああああああああ!!!」



 しかし、あと一歩のところで間に合わず。



 魔王はニッコリ笑って言い放った。



「私と勇者はラッブラブ☆」



 もはや瀕死寸前の俺に対して最大火力で止めを刺しにくるという、まさに外道を極めた魔王の一言によって破滅の魔法が発動した。



「お、おま、おまおまおまおま!!!」



 「ブッコロス☆」と後に続けて言いたくなっている心境だった。しかし俺の口はショックのあまり小刻みに震えているだけで思うように動いてはいない。



 魔王の発した一言で世界は静止。いつまで立っても声はやまびこのように反響し、声が聞こえなくなった場所から世界が動き出す。少しして俺も我に返り起動する。



「ちょっとお前何いっっちゃってんのおおおおおおおおお?!」



 俺はそれこそありったけに全身全霊、力の限りに叫ぶ。



「違うから!皆さんこれは誤解ですから!!」



 精一杯に大声を張り上げ、俺は辺りに散らばった爆弾の導火線を鎮火と試みる。だが、一度導火線に火が付いたら止まることを止めはしない。



「……あれ、何か俺の声大きくなってないんだけど」



 本来なら声が反響して響いてくるはずだが、それがない。カチカチと魔法を起動させるスイッチを押すも、反応を全く示す気配が無い。



「……え、嘘…」



 不運な事に、魔王が使い終わった直後に故障したようだ。



「いやいやいやいや」



 無駄だと分かっていながらも、機械から漏れる黒い煙を見つめ、俺はカチカチと何度も空しくスイッチの音を鳴らす。



「……まじ?」



 現実というのは非常に残酷だと、俺は心底思う。







・…・…・…・…







 後日、一通の手紙が届く。



 そこには勇者としてのめいの剥奪と書かれた手紙。そして、2枚のポスターが封筒されていた。



 ポスターの内容にはそれぞれこう書かれていた。




『【別名】 サタン 魔王様』

『魔王 ??? 10000000000$』 

 


 ≪サタンとも呼ばれ、世界を混沌の闇に陥れようとしたと言われている。魔王様とは、その恐怖から人々が呼んだことによるものだと思われる。だが、そこまで分かっていながら、

  


 顔、年齢、身長、

 


 以下については今だ分かっておらず、魔王の存在は不明である。しかし、情報によれば魔王は勇者と同行している模様≫



 

 

『【別名】 元勇者(堕落した男、略してダラオ)』

『勇者 黒沢優 1000000000000$』



 ≪この者は正義の名を利用し、魔王の存在を隠す罪を犯した。めいけがし闇に落ちたとされる。尚、上記に記載したこの男、【勇者の彼女は魔王様】であるのこと≫




 本名や名称と共に、下に意味ありげに賞金が記入された、それはもうとっても素敵な指名手配書が。



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