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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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二つの選択肢

「……あ、あれえ?」


 四季は張り詰めていた空気に、間の抜けた声を発した。それに優は驚愕する。隙を全く見せていなかった四季は今、不思議そうな顔で俺を見つめていた。マジマジと腰を曲げ下から顔を覗き込むように見つめるその姿は、なんというか……無防備極まりない格好になっていた。


「……そのジロジロと見る目を止めてもらえませんか」


 ちらちらと目に映る四季の谷間に、真剣な話なのに視線が持っていかれて集中が出来ない。少しして四季は一旦目線を止めて顔を上げる。が、それでも不思議そうな顔をしたまま顔を見つめることは止めない。


 それの繰り返し。なんだか馬鹿にされている気分になり、いぶしげな顔になり眉を寄せる。


「……顔に何かついているんですか」

「……いやいや、ごめんごめん、ちょっと意外だったから、びっくりしちゃって」


 優の仏頂面に、四季は慌てて手を振って謝る。

 からかっていたわけではなく、本当に驚いていたようだ。

 しかし、これといって驚かれるような話をしてはいない。ただ頼まれた願い事を承諾するのにびっくりするのは、さすがは桜の母親といったところだろう。

 桜から同じような話をされて承諾した時も、四季のように同じ反応を見せていた。


「てっきり断られるかと思ってたんですか?」

「そうね、承諾してくれた貴方には悪いけど、正直断られるかと思っていたわ」


 四季にはどう思われていたか想像ができ、それに顔を顰める。


「……予想以上に俺が甘ちゃんだと、それに驚いたということですか」

「違うわ」


 だが、考えは違っていた。四季は一瞬の迷いもなくそれを否定する。


「じゃあ指名手配されている俺が人助けするから?」

「それも違う」


 予想しているものとは違う返事が二度続き、正解を求めるよう四季の顔を見つめる。

 意外にも返事はすぐに返ってきた。


「私はね、未来が見えるのよ」

「……未来?」


 四季の話に一瞬考える素振りをしたあと、人差し指をくるくるとさせ、…それってあの?……と、理解はしているものの表現に困り言葉を濁す。

 

 ことわりを知り、真実を知る力『真理眼しんりがん


 透視や夢食いのような、覗くというみなもとに関しては同じだが、魔王のように個人の心を読む力と、未来を見る力となると、個々とぜんとの差で次元が全く違う。

 未来を見るということは、世界の答え、即ち真理を見るということ。

 その先に起こりうる出あろう出来事を先読みし、回避又は対処することができ、真意を乱し、世界のことわりを崩すことになる。

 実在する魔法とされているが、秩序を守る為に禁忌として封印された、禁忌の一つ。

 

 もし、本当に未来が見えていたのなら、桜と離れることも、村人を危険に合わせないルートを選ぶことができたのではないのだろうか。


「……俺は何て言っていたんですか?」


 その問いに、四季は苦い表情を浮かべて言う。


「……貴方は信じるのですか、それに理由を問わないなんて」 

「嘘を付くメリットがない、それに未来を見ても尚、この未来を選んだのは必要があったからでしょう?」


 それに四季は表情を変えず、無言で返す。

 しかし、驚きを隠せないのか顔に表情が出ている。


「……貴方は…ね、私とは違う未来を生きている…。この目で見たあの未来とは違う…貴方は未来を、世界を変える力がある」

「……褒めてくれるのはありがたいですけど、スケールでかすぎません?」

「本来の未来なら貴方は私の願いを断っていたはずなのよ、しかしその未来を貴方は変えた」


 話の話題が急に変わり、思わずツッコムが四季は大真面目に答える。そして四季は瞼を閉じ、思い返すようにして続けて喋りだした。


「私の選んだルートは最善だと思っています、皆には辛い思いをさせてしまったけれど、それでも死ぬはずだった人の運命を変えることができた。本来起こりうるはずだった悲劇を回避することができた……今の未来は私が選んだ道、そしてその道がどうなるか、もう私にも分からない…」


 その話を、それ以上聞くまでもないだろう。

 つまり、見ていた、四季が覗いたであろう未来では、今よりも死人が出ていたのだ、それは数十か、それとも数百人にも上るのか。

 優は一言も喋らず、ただジッと四季の話に耳を通す。


「私の『真理眼九しんりがん』について、九沙汰意外の大人は皆真実を知っています、知っていて、騙されていたフリをしていた、もしも異変に気づかれてしまえば全てはお終いになってしまうから…」


 最善のルートを選んだ、しかし、桜が最初に優に話す内容では、村人の殆どが殺されたといっていた。

 優はそれに、それが本当に最善のルートと呼べたのだろうか…と。思わず口を開こうとして、止めた。

 それまで聞いて思わず顰めた反応に、四季は苦い表情を浮かべたからだ。


「……貴方は桜から話を聞いていると思います、村人の殆どが黒服の男に殺されたといっていたことを…私にも想像しえない事態でした…あれは……私の目の映らなかったのです……私が、自分の目に驕って、注意を怠ったから…」


 それに、どう言葉を掛けていいのか分からなかった。それどころか、優までもが悔しくて、言葉が出ない。

 その男は父親を奪い、村を襲い山を消す。未来を透視する禁忌でも、その男を捕らえることが出来ない。

 知れば知るほど、その男はもはや人間ではなくなってゆく。それはもう、人ならざる力を持ち、禁忌を超えた化物。


 それに額に手を付き肩を落とす。

 無力な自分が悔しくて強くなっても、それでもまだ足りず、近づいていけば行くほど、黒服の男は自分から遠ざかってゆく錯覚を覚えていく。


「…これは、死の運命に抗い、生き延びている私達の未来、そして、これがこの村の正体です」


 そういって、四季はにこやかな笑みを優に向ける。しかし、その瞳の奥はもう笑ってはいなかった。

 四季の瞳に映るものは、悔しさと決意の念が刻まれている。

 思い返すように話す四季の一瞬瞳が揺らぐが、しかしその乱れは一瞬にして落ち着く。それほどまでに、彼女の背負うものは重く、そして彼女もまた、それを背負う覚悟を持っていた。


 四季の話はそこまで言うと話を止め、優の力についてを語り始めた。

 話を切り替えた彼女の瞳はそれ以上揺らぐことがなく、強い意志で押さえ込んでいる。優もそれは同じだった、互いの持つ思いは違えども、意思の強さはどちらも劣りはしない。


「……それでは今度は、貴方にの力についてお話します、分かっていると思いますが、貴方の力は強大なものです、そして不安定、それが何を語るか」



 話の内容は簡潔に3つ



 1つ目は、何者かによって力を封印されていること。

 

 2つ目は、その封印が解けかけていること。


 優が持つ力は、何か特別な力で押さえつけられているのだという、しかし、その押さえつけている力が弱まっていているとのこと。


「……誰が力を封じていたのか分かりません、ですが、その封印は今、外れかかっていて、不安定に揺れています」


 そして3つ目に、その封印を解いてはいけないということ。


「……封印を解いてはいけない?」

「はい、その不安定な状態では、一時的で、中途半端にしか力を使えません、しかし、中途半端だからこそ、安定し力を使うことができるのです、何もしなければ封印がこれ以上解ける心配はありません、ですが……」

「……もし解けたら?」


 優はその後に四季が言うであろう言葉を想像する。

 四季が言葉を濁し、すぐに言おうとしないのは、最悪な事態が起こりうるということだ。


「……強大な力に飲み込まれてしまうかも知れません」


 予想は当たっていた。

 そうか…と呟く俺の様子を見た四季は、それに顔を伏せ、歯噛みをする。


「もし共に戦うとなるととても危険な未来が待っています……止めるなら今です、私が見た未来には貴方と魔王は居なかった、もし封印が解けてでもしまえば、貴方の助かる見込みはありません」


 今の四季の表情はどこかで見覚えがあった、桜が助けて欲しいと、泣きながら言う、その桜の姿に、今の四季は限りなく似ている。


 それに、どう答えるか迷った。


 魔王の目に届かないところで自分が死んだら魔王はどう思うか。一度ならず二度も助けてもらったというのに、死んでしまったら魔王は泣くだろうか。魔王なら考えるまでもなく、当たり前のように泣く。

 そして、魔王だけが残されたら、誰が魔王を守るというのだろうか。


 自分が死むかも知れないと分かっていながら、それでも四季達を守るため戦うか。それとも魔王を守る為、逃げ出すか。

 どちらの選択が正しいのか、それに優は少し考えた後、四季に返事を返す為に口を開く。

 

 ------ッズ


 と、口を開くよりも先に、一度入り口の門近くで感じた気配を今度は近くで感じ、其方に意識が持っていかれる。

 背筋を伝って這いより、優しく撫でてくるような、粘り気のあるそれは、恐ろしいほどに鋭く尖った殺気、普通の人が感じた瞬間に恐怖で息がつまり、身動きができなくなるほど。


「四季さん…この強烈な殺気の持ち主が……例の敵か?」


 その殺気は尋常ではないほど放っているその人物は、見なくても、肌で感じる。


 ---強敵だと。


 その狂気にも満ちた殺気を浴びた四季は、驚嘆を隠せない顔で、殺気を放つ人物が出てくる出口を見つめ叫んだ。


「……っいえ!違います!この力、この……魔力は!!」

 

 そして殺気を放っている本人が姿を現す、その人物を見て、俺は目を疑った。

 そこに立っていたのは、相棒であり、彼女である



 紛れも無い、魔王そのものだった。



 魔王は殺気を周囲に撒き散らしながら向かってくる。

 それこそ、伝説に名を残したといわれる魔王として、この地を恐怖で染め上げるため。


「……魔王?」


 優は何の冗談かと思うが、その姿は正しく魔王そのもの、長く共に過ごしていたからこそ、それが偽者ではなく本物だと分かる。

 だからこそ魔王を呼ぶ。

 しかしその声は魔王に届くことはなかった。


 虚ろな目で周囲を見回し、ふらふらとおぼつかない足取りでいる。

 その目には何も映っておらず、体は今にも倒れそうなほどに不安定に揺れている。


「ゆー……くぅん?」


 優を見て魔王は口を開く、しかしそれに魂は篭っていない。ただ目にしたものを、口に出しただけの、虚ろな人形。

 後ろでは異常な殺気に気が付いた桜達が、住民を引き連れて非難の誘導をしていた。もし今の魔王を住民の下にいかせれば、大変なことになる。 


「……駄目です!今すぐ下がって!!今の魔王は正気じゃない、話の通じる相手ではないんですよ?!それに今の貴方は!!!」

「…四季さん、それでは協力してくださいといっていた言葉に矛盾が生じますよ?」

「…ッそれは最小限戦いを避けてで…!」


 魔王の方に向かって歩き出す俺を、四季は退くよう促す、

 しかしそれに返事を返しはしなかった。


 戦いに最小限なんてものは通用しない。

 俺は魔王を見据え、腰に置いた剣に手を掛ける。


「…そういえば、俺はお前に一つ貸しができてたんだっけか」


 一度だけ、魔王を助けた恩が一つある、しかし魔王は一度、矢から俺を庇い、二度は指揮官から負った重傷の手当てをして二度救ってくれている。


「あは、あは、あはははははは!!優くんだ~、あ~そ~ぼ~!!」


 魔王はゲラゲラと笑いながら、腕を掲げた瞬間、その上に黒い塊を作り出す。

 それは魔王だけの力で作られたものではなく、浮かんでいる球体には見覚えのある闇が混じっている。

 それを見て、優は溜息をついた。魔王を見た途端、さっきまで感じていた悔しさが吹き飛んでしまうほどに呆れてしまったからだ。


「ったく、あんだけ自信満々だった魔王様が、負けて操られてるんじゃねえよ…助け終わったら説教垂れてやる、……だから、すぐに正気に戻してやるよ」

 

 そういって、自分がこの前に魔王に説教を垂れていた姿を思い出し愉快そうに笑うと、魔王を救い出す為、微塵も迷いを持たずに力を使い始める。

 そもそも、四季の問いに初めから考える必要は無かった。

 優が力を使うのは、四季を、桜を、魔王を、この村を守る為。

 しかしそれは偽善でしかない、今の俺には誰かを守れる力を持ちえない、もしかしたら勇者と言い張るだけの、ただの偽者なのかもしれない。

 

 もし仮に二つの選択肢のAとBがあるとする。

 

 選択肢Aの、村を守る為に暴走して死に、魔王を悲しませるのと。

 選択肢Bの、村を見捨て、自分が生き残るのが存在するのなら。


 

 ---俺なら、勇者ならこう選べばいいのだ。



 選択肢Cの、生きて全てを守る、それこそ---本物の勇者となれ---と。

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