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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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忍び寄る影

 ---話は少し遡り、優が四季に誘導され扉の中に入っていった同時刻。


 九沙汰の死体は汚染され、迂闊に触れることもできず、その死体をどう処理するか、魔王は一人それから目を離さずに考えていた。


 魔王が見つめる先、その先に転がるものは、闇だ。

 這いより、蠢き、一度付いた闇は全てを食らいつくすまで纏わり付いたまま離れない。


 死体といってもあくまで仮の話、ただの人間が全身を覆い隠してしまうほどの瘴気に触れれば、瘴気は毒として全身に回り、生きていることは不可能と結論付けているだけだ。

 本当に死んでいるのか生きているのか、瘴気に全身を黒く染められてしまい、正確には死んだのかを確認してはいないだけ。しかし、自ら瘴気に呑まれた男が生きていたとしても、既に意識が無くなり、今からでは恐らく助からりはしないだろう。


「………」


 魔王は九沙汰の死体を、負に落ちない面持ちで見つめる。

 もし仮に九沙汰が生きていて反撃する力が残っていれば、不意を突かれ魔王に闇が襲い掛かり、食らいつくそうとしてくる。

 だから迂闊に手を出せない。


 というわけではない。


 目の前に広がる闇は、魔王と同じ魔力でもある。魔王の方が魔力の力量が上回っている為、九沙汰が操って襲い掛かろうが弾き飛ばす自信はある。

 魔王が迂闊に手を出せずにいる理由は、九沙汰の意識の有無ではない。


 肝心なのは、その闇を、瘴気をどう処理するかだ。


 九沙汰に纏わり付くそれは、術者関係なく無差別に襲う殺戮兵器。

 一度解き放たれてしまえば、あとは体を、心を、記憶を食らい、全てを壊する。

 しかし、ただ水晶から解き放つだけで殺戮が始まるわけではない。解き放つだけでは、周りに分散し、不完全で意識を持たないただの瘴気でしかない。


 殺戮兵器と化するその発動条件は、

 その水晶を使った者『自ら』を食わせる行為だ。


 一度発動すれば、闇はその術者の体をエサとして、意識を、知能を、知力の全てを食らいつくし、食らいつくし終われば別の獲物を求め、意思を持つ殺戮兵器は動き出す。

 それを止めるには、コアであるみなもとを破壊するか、闇に自ら食われ打ち勝つか、町を一つ消し去るまで。

 そして、問題はそこだ。

 九沙汰は、それを知っていた。


 どうなるか知っていて、九沙汰は身を滅ぼしてまで発動させた。

 魔王が優と桜を戦闘から下がらせたのは、その最悪の事態を想定しての判断だった。


(……魔力は私の方が上…ッ!!なら力ずくで止める!)


 魔王は優が力技でコアを破壊した現象を見ている、魔王よりも優の方が破壊をさせるという面での打倒案が生まれるだろう。

 しかし、闇で埋め尽くされたそれは、蠢き、這いより、コアが何処に在るのか特定ができない。位置を特定する間もなく闇雲に触れれば、破壊できず食われるのは必然。

 だが今の魔王なら破壊は出来なくても抑え込むことくらいはできる。例え食われるような事態が起こっても、魔力で上回っている魔王の方が打ち勝てる可能性が高い。


 蠢いていた闇が段々と静まっていき、止まり始める。全てを食らいつくした後、闇は瘴気となって次の獲物を求めに動き出すだろう。


「そこから動くなッ!!」


 魔王は手を前に出す、前に突き出された手のひらが薄紫に光り出すと、放出された強力な魔力は膨大な重圧となり、辺り一面に圧し掛かる。ズンッと轟音が鳴り響いた。

 魔王が放つ力は周りに広がる木々諸共巻き込み、木は倒れ、地面にヒビが入る。


「っく!!」


 だが手を緩めることは許されない。もし少しでも力を緩めてしまえば、闇は活動を開始してしまう。


「これでも、まだ足りないっていうの…ッ!!」


 それどころか、一層に力を込めなければ駄目なようだ。強力な重圧が圧し掛かっているにも関わらず、闇は抵抗し、抗うように動き出す。

 このままではいずれ抜け出してしまう。


「これは…!全力じゃないと駄目そうねッ!!」


 ぐんっと片手から両手を突き出す姿勢になり、両腕に力を込める。両手はより一層強く光り出すと、更に増す。

 完全とまでは行かないものの、大分全盛期にまで戻っている魔王の全力は凄まじく、その力は大地を揺るがす。

 魔王よりも魔力の劣る闇は、その力に抗うことが許されず、成すすべなく沈黙する。


 ---はずだった。


 突如闇が蠢き出し、力が増し始めた。

 急激に強くなっていく闇に、焦燥を覚え始める、魔王よりも劣っていた魔力が、今では殆ど大差が無くなっていた。

 それに魔王は驚愕する。しかし、魔王はその後の光景に目を瞠った。


「ど、どういうこと?!なんで生きているの!!」


 それに続くように、それは立ち上がった。

 闇に全身を食われ、生きているのが不可能だったはずの男は、魔王の重圧に何食わぬ顔で立っている。

 その男を見つめ、口を震わし声を出す。


「九沙汰…貴方まさか……支配したというの…?その闇を…」


 九沙汰に纏わり付いていた闇は綺麗に剥れ、しかし壊れ霧散することも、瘴気となって周りに分散してもいない。


「………」


 九沙汰は無言で手を無造作に動かす。闇はそれに従うように形を変えると、禍々しい殺気を放つ巨大な一本の刃になる。

 九沙汰が手を振りかざす、巨大な刃はそれに反応してロケットのように魔王に向け一直線に放たれた。

 重圧をもろともしない九沙汰の動きに、魔王は押さえつけていた力をを中断させた、避けるのは厳しいと悟ると、放たれた巨大な刃を弾き飛ばすため即座に強力な防壁を作り出す。


「ッハ!!」


 現れたのは薄紫色に光る障壁。桜や九沙汰が形成させた障壁とは違い、魔王の障壁は正面だけに特化し、全方向を弾けない代償に、一部の位置だけ強力なバリアとして張っている。

 その強度は、桜や九沙汰が使う障壁のおよそ6倍。魔王の魔力により、今では数十倍にまで高まっている。


(…相手は闇を武器として使っている、しかし、それは今私に向けて放ち闇から離れている、弾いた瞬間、その隙を狙って九沙汰を仕留める!)


 と、魔王の張った障壁に刃となった闇は弾かれると同時に霧散する。どうやら一度命令をしたら、別の命令が来るまで動かないようだ。

 それなら話は簡単だ、次の命令を送る暇を与えなければいい。

 ---好機!


 一度命令を送った後、連続で攻撃の命令を送り出され続けたら、危うかったかもしれない、しかし、九沙汰はまだ、力を使いこなせてはいない。

 この好機を逃すまいと、九沙汰に詰め寄ろうとするが、ふっと九沙汰の姿が霞む。一瞬姿が消えたかと思うと、九沙汰は魔王の目の前に立っていた。


 ---ッ?!


 少し遅れて反応した魔王が反撃にでようと腕を上げるが、よりも先に蹴りを食らい、少し先で地面に転がる。


「っかは!…っく!」


 反動ですぐに体を起し体勢を立て直す、しかし九沙汰は同じように一瞬で魔王に詰め寄ると、それ以上の行動を取らせないまま追撃を行う。魔王はそれに反応することができず、成すすべなく強烈な一撃を腹に食らう。

 ---ゴポリと魔王の口から血が溢れ出す。

 だが、魔王はそれに笑みを浮かべた。


「……つ…かまえた!」


 腹にめり込むように突き出された腕を、離さないよう強く掴む。

 と、九沙汰の足元が強く光り始めた。下には、いつの間に用意したのか巨大な陣が刻まれている。

 魔王が仕掛けた陣は、ダイナマイトのようなもので、言わば爆弾のようなものだ。陣を書いた後、魔王が魔力を注ぎ込むことで発動する。

 九沙汰はその場から離れようとするが、強く握られた両手は決して離すことはない。


「悪いけど…ちょっと吹っ飛んでもらうわよ!」


 爆発する寸前、魔王は手を離し正面に障壁を張る。

 ッカ!! と強い光線を放つと同時に、轟音が辺りに鳴り響いた。

 辺り一面を吹き飛ばすその破壊力は、消し飛んだ傷跡が物語っている。


 爆発は男を確実に捕らえていた。

 生身で受ければ、無傷では済まない。


「……さすがに、これであの男もっ」



 ドスッ と魔王の背中で物音がした。



 一瞬にして全身の力を奪われ、地面に倒れこむ。

 僅かに首を動かし、物音の正体を見る。

 背中に刺さっていたのは、闇が変形して作られた、巨大な刃。体を貫通しているにも関わらず、血は流れていない。


 食っているのだ、魔王の身体能力を。


 顔を前に向ければ、尚も爆風で粉塵を撒き散らすその場所から、砂煙を払って姿を見せる。

 姿を現した九沙汰は顔色を変えず、無傷で立っていた。


「…な…んで……」


 掠れた声を漏らし、目を見開いて九沙汰を見つめる。

 あの時、爆発に呑まれる瞬間を魔王はこの目で見ていた。

 だが、魔王の目に映る男は、こうして無傷で立っている。

 それは何故か。


「っこ…のぉ!!」


 最後の気力を絞って立ち上がると、九沙汰に向けて持った石を投げつける。

 それを九沙汰は避けることはなかった、代わりに石が九沙汰の胸に当たった瞬間、石の当たった胸部分だけが黒い霧となる。

 しかしそれは一時的なもの、すぐに霧は何事も無かったかのように集まると、体の一部と同化する。

 その正体に気づくと、魔王は諦めたように、膝を突き、今度こそ地に倒れ付す。


「……まさか…貴方自信までもが…闇、そのものだった…なんて…」


 倒れ付した魔王に追い討ちを掛ける様に、闇が体を蝕んでゆく、しかしそれに抗える力を、今の魔王には残されてはおらず、ついには闇に意識を食われ、そこで魔王の意識は途絶えた。

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