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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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もう一つのイグベール

 桜は笑顔を向け、泣きじゃくりながら抱きついた。

 抱きつかれた二人は、同じように抱きつき笑顔を向けている。

 しばらく無言の時が流れ、すると女性はゆっくりと桜を放し、笑顔を向けたあと俺の方に顔を向けた。


「黒沢優さん、初めまして…というのはちょっと違うかしら」


 女性は苦笑いを浮かべ、俺を見つめる。

 

「…俺は貴方に会ったことはないはずだが」

「私は桜の母親の四季桜といいます、数字の四と書いて、季節の季で四季です」

 

 桜と着ている服が似ていて、

 予想はしていたが合っていたようだ。

 桜と同じ格好をし、不陰気も瓜二つ。しかし、その風格には似合わないほどに、まるでスキがない。

 

「……やはり、あの時助けてくれたのは四季さんですか?」

「はい」

「あの時は助けていただきありがとうございます」

 

 その言葉に四季は苦い表情を浮かべ手を振った。


「いえ、お礼を言わなければいけないのはこちらの方なんです…それに余り時間が残されてはいません、聞きたいこともあるかもしれませんが、今は危険ですから一旦中に」

「…わかりました」


 四季に促され、聞くこともあったが今は抑えることに、頷いて開けられた扉の方に向かう。

 

 桜は男性に事情を話してもらったのだろうか、さっきまで泣いていた桜は顔をしきしめ無言で扉の奥に入っていく。

 その後ろに続くよう四季さんと共についていく、外部の進入を拒む結界は、今は消されていて何事も無く入ることができた。

 

 俺が入り終わると同時に、扉が閉まっていく。

 扉が閉まっていく中、ふと魔王のことを考えた。


 そういえば魔王はどうするんだ?

 

 思えば魔王と離れてどれくらい経っただろうか、それ程に時間は立ってはいないものの、強大な魔力を取り戻している魔王がまだ戻ってこないことに気がかりを覚える。


 ……魔王は大丈夫なんだろうか…余裕ぶっこいていたわりには戻ってくるのが遅い。


 ---ッズ


 っと、一瞬遠くで、微かだが何かが蠢いた気がした。

 だが、手で触れて感覚を感じるものではなく、目で見て感じず、肌で感じ取っているわけでもない。まるでそれは、何か別の力によって感じたもの……。


「あ、勇さん」


 何かを考えるよりも先に桜に声を掛けられる。

 それに意識を引き戻した。

 さっき感じた気配は気のせいと思い、気に留めるのを止め桜て顔を向ける。

 

 ……ここにいるのは桜とその母親と父親、それに俺の四人だけだ。

 魔王の魔力が感じられないほどに底が深い場所に立っている、そんな場所で気配を感じるはずないか。


「……あ、何?」

「九沙汰がいっていたので、気になっていたことがあるのですが…いいですか?」

「どうしたんですか?突然」

「私に自己紹介したとき、辺部勇っていっていましたけど…あれって…」


 ……そういえばそんなことあったような


「本当の名前は黒沢優って言うんですよね?さきほどお父さんから聞きました」

「…九沙汰といい、桜の母親といい父親といい…なんで俺の名前を知っているんだ…」


 …俺って、想像以上に有名人なのか?


「なんで嘘ついていたんですか?」

「ああ、もう知ってる通り指名手配だから…魔王が馬鹿正直に言おうとした際、咄嗟の誤魔化しでな…」

「でも優さん、呼ばれているときは名前とまんま同じでしたから、あんまし誤魔化しにはなってなかったですよ?」

「いやまあそうだが…」

「誤魔化すならもうちょっとマシな誤魔化しにしないと駄目ですよ?私信じて優さんのこと勇さん、魔王さんのこと真御有さんって律儀に呼んでたんですからね?」


 …律儀に呼んでくれてたのはいいが…今のでは何が違うのか…違いがわからん


「いやまあうん…悪かった…」

「ならいいです、今後一切、これから私に対して嘘は駄目ですからね?」


 それに桜は笑顔で頷く。


 ん?今…今後って…、何かで誤解をさせた覚えはないが…どうやら俺はこの村にずっといるものだと思われているのだろうか


「桜、優さん、着きましたよ」


 四季に呼ばれそちらを見れば、いつの間にか通路を抜けるようで、光りが差してきていた。

 

 通路を抜け、外に出る。 

 そこで目にしたものは、巨大な洞窟の中で作られた町そのものだった。


「これは…?!」


 周りには大勢の人が盛んに動いている。


「ここは私達の住む、もう一つのイグベールです」


 四季はこの町をイグベールと呼んだ。


「もう一つのイグベール…か」


 全くイグベールとは異なるが、周りに建てられている建物は、イグベールのように似せて作られている。

 食事をしている者が居る限り、どうやって生活をしているのか分からないがここで住んでいるようだ。


「桜ちゃ~ん!」


 入り口から少し抜けると、一人が桜の名前を呼んだ。

 声のする方に顔を向けると、一人の女の子を連れた寝子、佐紀、麗がこちらに向けて手を振っていた。

 怪我を負っていたはずの3人は、治療を済まし回復したのか元気よく走って向かってくる。


「寝子、佐紀、それに麗も!皆無事だったのね!」


 桜は3人のタックルを受け止め、一人一人の体が無事であることを確認する。


「ああ、魔王さんの応急処置のお陰で一命を取り留めて、ちゃんとした治療を受けて今はこの通りだ!」


 麗は「がっはっはっはっは」と、女の子らしくない笑い声を上げながら腕をぶんぶんと振り回し無事だったことを証明して見せている。 


 …いやタックルできるくらいの元気あるんだから、わざわざ腕回したりしなくても大丈夫だって分かるわ


「優さん、貴方のこと、魔王さんのことももう聞いている、指名手配なんだってな」


 麗は振り回す手を止め、真剣な面持ちで俺に顔を向けた。

 

「…ああ、失望したか?」

「いいや!こんな指名手配者なら大歓迎だ!私達の命の恩人でもあるし、協力までしてくれて、どうだ?ここに住まないか?なんだったら私の婿になってくれても」

「れれれれ麗ちゃん何いってるの!」


 桜は顔を真っ赤にして麗をポコポコと叩き始めた。殴りかかってくる桜を、麗は笑いながら受け止めている。

 

 俺は騙していたことで罵倒されると覚悟していた分、拍子抜けして、麗を叩いている桜の姿に呆れてしまった。


「さっきまでの出来事が無かったようだな…」


 少し前まで辛いことばかりだったはずなのに、今では笑顔が溢れている。


「それにね、見て!」


 寝子は一緒に付いて来ていた女の子に目を向ける。

 だが、突然紹介された女の子に桜は不思議そうな顔に見つめていた。


「久しぶり、桜っち」

「………っ!」


 桜は名前を呼ばれ、あっという表情になって叫ぶ。


「可憐ちゃん?!」


 可憐と呼ばれた女の子は、名前を呼ばれると嬉しそうに桜にしがみついた。


「そうよ!寝子に佐紀に麗は会えたっていうのに、貴方だけ会えなくて心配してたんだから!」

「私だって…私だって可憐ちゃんが生きているか心配だったんだから!」

 

 そういって二人はお互いに顔をくしゃくしゃにして、それを見て笑いあった。 


 だが、笑いあう二人を見ていて、俺はなんともいえない気分でいた。

 可憐と呼ばれている彼女に引っかかりを覚える。


 …可憐って子…確か


「5年前、行方不明になっていた子ですよ」


 俺の考えを読み取るかのように、寝子が横から言ってきた。

 寝子は「そんな顔してたので」といって俺を見る。


「…これは一体どういうことなんだ?なんで5年前行方不明の子がここにいる?」

「それは私が説明します」


 後ろから声を掛けられ、後ろに振り向く、するとそこには神妙な面持ちでいる四季さんがいた。


「この村についてをお話しましょう…ですがその前に一つだけ頼みたいことがあります」

「…俺に頼みって…一体なんですか?」


 唐突に頼みごとをお願いされることに、俺は理由が分からずやぶからぼうに聞き返す。

 四季さんの表情はどちらかというと苦しんでいるように見え、何故そんな顔をしているのか不思議でならない。


「…無理をいうことを承知でお願いします、この村のため、私達と一緒に戦ってはくれませんか?」


 四季さんは俺にそういうと、頭を下げお願いを申しだした。

  

 俺は何故苦しい表情をしているのかすぐに悟った。そして悟ると同時に、その承諾に、俺は何の迷いも持たなかった。


「いいですよ」


 だが、俺は理由が分からなくても同じことを言っただろう。


「…え?」

「元々、桜に父親を助け出す約束でここまできました…ですが、俺は初めから最後まで付き合うって、そう魔王と決めてましたから」

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