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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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深まる謎


 桜が今まさに殴られてしまう。その瞬間に優は丁度谷底から帰還した。桜に迫る拳を止めたい。その光景に優は守ろうと≪想像イメージ≫する。それに体が反応し、一瞬で桜にまで近づく。



 いつもよりも体が軽い。それに、まるで周りの全てが自分の一部のかのように分かる。全く知らないはずの魔法の源の位置が、情報が、動きが分かってしまう。これが本来の力なのだろうか。



「……異例の指名手配者、確か黒沢優…だったか…、魔王と一緒にいる身の勇者が指名手配されていることを知ったとき、俺は鼻で笑い飛ばしていた」



 九沙汰はそう言いながら手を地面に突き出し、魔法を構築。ぶつぶつと呟き詠唱の声が響く。



『水魔の新玉よ、立ちふさがる敵を濁流となり飲み干せ』



 青く光り輝くと、九沙汰の目の前から大量の水が現れ、洪水となって押し寄せる。もし洪水に飲み込まれれば、後ろにいる桜と一緒に谷底に落ちてしまう。押し寄せる濁流を前に、優は拳に意識を集中させた。

 


 源を破壊するときとは違う≪想像イメージ≫をする。同じような手を使えば力を一点に集中した水が弾け飛び、濁流に飲み込まれなかったとしても残った水が桜に襲い掛かってしまう。


 

「なら、全部を吹き飛ばす!」



 両側から空間を引き裂くように腕を振る。強い風の衝撃が交互に交差し、小規模な竜巻が発生した。しかし心もとないと思われたその竜巻は一瞬にして巨大、濁流の全てを空に舞上がらせる。



 舞い上がった水滴は豪雨となって降り注ぎ、その場にいる3人を濡らし、尚も雨となって降り続ける。それに九沙汰は眉一つ動かさずに次なる魔法を構築させていた。



『樹の植物よ、汝の敵を束縛せよ』



 大地から無数のつるが現れ、纏わり付こうと優に向かって一斉に襲い掛かかる。即座に剣を構え、襲い掛かってきたツルの全てを切断する。だが切断した断面に変化があった。ぶるぶると震えると一瞬にして新しいツルがズルリと音を立てて生え変わる。



「っ!切っても切っても一瞬で生え変わってきりがないな…」

「お前が大量の濁流を舞い上がらせてくれたお陰で、植物が必要とする水が今は雨となって降り注いできているからな」

「なら、その雨も吹き飛ばしちまえばいいんだな…?」



 ≪想像イメージ≫する。それは全てを吹き飛ばす強風。瞬間周りに強風が巻き起こり、辺りに撒き散らされた水滴を一滴残らず舞い上がらせる。



『数多の降り注ぐ滴よ、刃の矛先となって降り注げ』



 散らされて吹き飛ぶはずだった水滴は、続けに九沙汰が詠唱した魔法により、空気中に舞った雨を尖った氷の破片させた。暴風に呑まれた破片が不規則な動きの刃となって無差別に襲い掛る。


 無差別に飛び散る刃が頬を掠る。破片の一つ一つの殺傷能力が高い。


「これじゃあ吹き飛ばすと逆効果になっちまう」


『神聖なる守護の障壁よ!参れ!』


 桜が咄嗟に魔法を詠唱した、何かの加護なのか、見えない何かが舞う刃をことごとくと弾き飛ばす。

 しかし、その加護も長くは持たない、見えなかった障壁が薄っすらと見えている。原因は飛び散る刃によってできたヒビのせいだろう。

 

 その光景を、九沙汰は落ち着きを取り戻した様子で静かに眺めていた。

 九沙汰に襲い掛かる刃は、似たような形で何か見えない壁によって弾き飛ばされている。

 明らかに桜の使う障壁よりも強度が高い。

 

 しばらくして舞散る氷の刃が納まると、ゆっくりと顔を向け、口を開けた。


「…なんで笑い飛ばしたのか、何故なら勇者が魔王と一緒にいたところで、指名手配がされることはありえないからだ」


 その言葉に驚きを隠せずには居られなかった。

 指名手配がありえないというが、現にこうして指名手配をされて追われる身になっている。

 それに、指名手配された理由の大きな原因が、魔王と共同しているということなはずなのだ。


「おい!今なんていった?!」

「だが、何故指名手配されていたのかがこれで確信した…その力は危険すぎる」


 九沙汰はそういうと、ポケットから小さな黒い結晶を取り出す。

 その結晶は、黒く黒く、ドス黒く染まっていて、中にあるのはただただ漆黒の闇が広がっているだけ。


「…なんだ?」


 一目でとても良いものではないと分かる。


「これは一気に片つけて聞きたいこと聞くしなかいな」


 九沙汰が下手な行動をとる前に終わらせようと力を込める。


「優くん、それは私に任せてくれるかしら」 


 だがそれは、後ろから聞き覚えのある女性の声から呼び止められた。

 

 後ろを振り向くと、そこには知らない女性が立っていた、歳はそれ程高くは見えないが、スラリとした体つきで、とても大人びた顔をしている、顔は異様なほど綺麗な顔立ちをしていた。


 いやに声に聞き覚えはあるが、これほどまで大人びた女性を優は今まで見たことがない。というかこんな綺麗な人知らない。


 …だが、俺の名前を知っているってことは、もしかして崖のときに聞こえた声の主か?…いや、待てよ?優くん?


「あの結晶には多分…相当の邪気が入っているわね、下手に近づくと危険よ、あの男は私に任せて、優くんは桜ちゃんを安全な場所まで連れて行ってあげて」


 俺の名前をくん付けで呼ぶ奴なんてあいつしか…

 いや、そういえば服装があいつと同じ…


 いや…でも…

 

「何アホみたいな顔してるの?って何マジマジと見て、ま、まさか私の魅力に気が付いて襲おうなんて思っているんじゃ」 

「お前魔王か!?」 

「そうよ?気が付いてなかったの!?」


 驚いた俺が魔王か問うと、魔王は一瞬呆けたあと驚いた顔で聞いてきた。


 あまりにも姿が別人で全然気づけんかった。


「分かるかよ!誰だよ!」

「だから魔王だって!」

「いくらなんでも変わりすぎだろ!もう一つの魔王か!」

「変わりすぎって…力を戻した私はこういう姿なんだけど」


 初めて魔王から会ったときから、元々の姿を見たことがなかったが、まさか…こんなお姉さんになるなんて…あんなちびっ子が。


「今なんか失礼なこと思ったよね」


 いつもの魔王以上に感が鋭くなっている。


「いやいや思ってないって!」


 慌てて手を振って話しを誤魔化すことにした。

 それよりも、問題は九沙汰の持っている結晶だ。


「なんでそんな体になっているがわからんが、今は緊急事態だ」

「今、誤魔化したよね」

「魔王、あの結晶はどれくらいやばいんだ?桜を安全な場所にといっていたが、魔王が連れて行くのじゃ駄目なのか?」

「誤魔化したよね」

「…いや、あの、」

「誤魔化したよね」

「…はい、すいませんでした…」


 頭を深く下げて猛謝罪。


「って!それどころじゃ」


 ビシリと、九沙汰の方から何かが割れた音がした。

 一気に周りに邪気が流れ出していく。


「…ほら、なんかとてもよくないんじゃないかあれ?」

「…そうね、優くん、急いで桜ちゃんと一緒に崖の底までいってきてくれる?」

「っは?!」

「あとの説明は崖の底にいる人達が話してくれるから!急いで!」


 この邪気に俺が耐えられるかどうか怪しいし、このままでは桜が危ない…魔王に任せるしかないのか…。


「…分かった!魔王、あとは頼んだ!」


 勢い良く身を翻し、桜の元に近づいた優は、有無を言わさずに桜を抱きかかえた。


「桜!行こう!」 

「っえ?、へ?!」 


 桜を抱え、崖に向けて優は勢い良く駆け下りる。


「っひぃやああああああああああああああああああああああああああ!?」


 魔王と優の会話が聞こえていなかった桜は、突然抱えられ顔を真っ赤にしたあと、崖を飛び降りた瞬間に顔を真っ青にして悲鳴を上げた。


 それがとても可笑しかった。


「なななな何がどうなって!?って!優さん笑うなんてひひひ酷いですううう!!」

「ごめんごめん!…まさかもう一回崖を落ちるなんて体験を1日に2回もするなんて思わなくてな」


 今思えば、まるで起きる出来事を分かっていたかのような感じだな…。


「私は、突然抱えられて嬉しい思いをしたと思ったら、これですよ!天国から地獄に落とされた気分です!」

「え?そうなの?」

「あ、えあ!いえいえいえいえ!あの!その深い意味でわ!」

「…まあ、何にせよ、この下にいる奴が理由を教えてくれるさ」


 優はそういって、底の見えない暗闇を見つめ、少ししたあと桜と優は目的地に移動する。



 


 ・…・…・…・…・…・…





 ジッと優と桜が落ちていく光景を見据え、安全に目的の場所にいけたと確信したあと、九沙汰へと向き直り睨みつける。


「貴方には色々と聞きたいことがあるわ」


 持ち出した塊は一向に収まることがなく、尚も周りに黒き瘴気が溢れ出していく。


「なんでそれだけの力があって、今まで襲わなかったのか、なんで私達のことを貴方だけは知っているのか、なんで…私の所有物の一つを貴方が持っているのか…ね」

「………」


 周りに溢れ出す妖気が、突然意識を持ったかのように、一斉に襲い掛かる。


「無駄よ!」


 魔王に向かって襲い掛かっていった妖気は、魔王による一言で全て触れる直前に弾け飛んだ。

 強く九沙汰を見据え、鋭い眼光を向ける。

 

「答えなさい!一体何を企んでいるの!!」


 刹那、九沙汰の体が魔王の威圧により、固まったように動かなくなる。


「ッ!!」

「足掻いても無駄よ、その束縛から逃れるには、私と同じかそれ以上の力を込めないと解けない、分かったら観念して何が目的なのかを言いなさい、口を動かして喋られるくらいなら動けるでしょ」


 だがそれに九沙汰は口を閉ざしたまま、無言で何も答えない。


「…答える気がないないらいいわ、直接覗いて見させてもらうわ」


『デビルアイ』


 通称『悪魔の目』

 全てを見透かすその目の前では、悪魔に嘘は通じない。


 九沙汰を見据える魔王の目に赤き光りが点りだし、目の前の相手が考えていることの全てを透かし読み取ろうとする。


「今の私なら、これだけ至近距離なら読み取るなんて容易いこと…?」


 後ろから強い殺気が感じられた、だが、それでも自分にとってはさほどの脅威は感じられない。

 どんどんと殺気が膨れ上がっていくのだが、全方面から襲う気満々で、殺気がだだ漏れなのだ、これでは簡単に払うことの出来る魔王にとって、まるで脅威にはならない。


 ……この男、一体何を考えているの?


 膨れ上がっていく殺気に、いつ襲い掛かかってくるかわからない攻撃に備え多少の意識が持っていかれるが、それだけでは時間稼ぎにしかならない。


 ……まだ何か手を隠している可能性があるし、即急に決着を付けたほうが良さそうね。


 そう考え、攻撃に対しての意識を無視して九沙汰の思考を覗こうとする。

 だが、読み取ろうとした瞬間、一気に殺気が膨れ上がり襲い掛かってきた。


「無駄っていったでしょうに!」


 発動させた魔力を中断させ襲い掛かる攻撃を、後ろに向いた刹那に魔力の防壁を形成させ弾き飛ばそうとする。


 だがその予想は思わぬ方向へと流れ外れた。

 その妖気が自分を避けるように曲がり、後ろに向かっていった。


「何?!」


 全方向から向かってきた妖気の全てを、自らの体へと九沙汰に直撃させていた。

 集中した妖気が全身を蠢き、全身を這いより九沙汰を蝕んでいく。


「ごが…ぎぐげごがぎごがががあががああああああああああ…ぁ…」

「貴方一体何考えているの!死ぬわよ?!」


 妖気に全身を犯し、尚も妖気が這うようにし九沙汰の周りを包み込んでいく。

 途中から悲鳴がピタリと止み、ピクリとも動かなくなった九沙汰を見て、魔王はやられたという顔になった。


「…まさか自らを犠牲にしてまで、情報を抹消してくるなんて…」


 魔王はただ呆然と、

 倒れ伏せたまま動かない九沙汰を見ているしかなかった。

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