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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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作戦実行

 作戦の通り桜が先頭に立ち、そのあとに優、魔王らが後を付いていった。

 南の方角に歩いていく程に家が多く建っている、だが南の山に近づくにつれて壊れ、腐敗した家が多く建ち並んでいた。植物は荒れ放題になり、家を囲うようにして枝が伸びている。


「…これは…5年前からずっと人が住んでいないんだな…」


 無人化した家が多く、長いこと使われていないことが分かる。

 すると、優が思わず呟いた声を聞き取った寝子が答えた。


「はい、襲撃があってからは殆どここには誰も近寄ってはいません…でも、今はこんなに静かですが、昔はあの山から他国へと出入りして、村というよりは町といった方がいいほどに盛んだったんですよ…」


 そういいながら、寝子は一つの家をジっと見つめていた。

 見つめる先には少し目立つ色をした赤い家が建っている、その家を見つめ、懐かしい光景を思い出すかのように、寝子は目を細めた。

 

「…襲撃があってから南の方角に近寄らなくなったのは…やっぱり…あの突然あった攻撃や人が消える霧と関係しているのか?」


 優は顔を少し上げ、南にある、山の中では一番低い山を見上げて言った。

 

「そうです…なんとか生き延びた何人かは、私達のいる東方面に住まず、南の山の付近で暮らしてたんです、ですがそこで暮らしていた彼女らは忽然と居なくなってしまったんです…」

「失礼なこというかもしれないが…それってこの村を出たとか…そういうことじゃないのか?」


 南の山の近くに住んでいた住人が居なくなっても、襲撃があって怖くなりこの村を逃げ出す者くらい出てきてもおかしくはない。

 だがその憶測はすぐに寝子の言葉によって違うと分かった。


「…彼女達の中に、私達の友達がいたんです」


 そういって寝子は少し後ろを振り向き、さっき見つめていた家を見る。


可憐かれんっていってとても優しい子で、喧嘩なんか一度もしたことなかった、それでいて臆病で、生真面目で、とっても優しい可憐…そんな可憐が心配になって、ある日あの家にいったんです、…でも、その家には可憐の姿はなく、テーブルには一口も口につけていない冷めた食事が置いてあっただけでした…」


 寝子は声を震わせ、涙を流した。溢れ出る涙には目もくれず、優の顔をハッキリと見つめて言う。

 

「食事をわざわざ作って置いて、食べずに村を出る人なんていますか?…いませんよ!…それから何回も家を訪れても可憐は居なかった、それから…も、もう…5年近くも…会ってないんです…あ、あんなに優しかった可憐が…な、なんで…」


 桜のように村人は全員深い悲しみを心の奥底に隠しているだけで、本当は誰かに頼りたいだけだった。

 自分達には何も出来ない、だからといっても同じ目に合っている人に頼ることも出来ない、助けを呼べない、だったら自分が強くならないといけないと考え、その中でもっとも決意の強かった桜が彼女達を率いたのだろう。

  

 さすがに1日に二人もの女性を泣かせた優は、まるで自分が悪い事をしたように思えてしまった。

 どう声を掛ければいいのか優は迷っていると、魔王から声を掛けられる。


「優くん、優くん」


 いつもよりも魔王の声のトーンが低い。    


 傍目だと優と寝子が何かを話し、歩いている最中に寝子が突然立ち止まって泣き出す光景を横から見ていた魔王の目にはどう映って見えたか。


「あ、いや、魔王、誤解してるって、そんな失望した目を俺に向けないでくれ!!!」


 魔王が勇者に対して失望するのは、戦いに敗れた勇者に向けるのであって、女を泣かせたと勘違いされ、その勇者を見て魔王が失望した目を向けるのは断固として違う!


「っふん、そんなこといっても今回ばかりは優くんの思ってることを見透かしてやるんだから!」


 そういうと魔王は片目を閉じて、もう片方の目を大きく見開いた。

 その目が赤く光る。

 

 優は魔王の光る片目を見て、初めて魔王らしい赤く光る目を見て息を呑んだ。


 ま、まさか!そんな力が魔王に備わっていたなんて!…っていうかそういえばこいつ魔王だった!


「見えた!…えっと「私が、優くんに、対して失望するのは、女を泣かせて、失望した目を向ける、のが断固?」どこが誤解よ!」


 魔王の目はしっかりと優の心の中を読み取っていた。途中途中が断片していておかしな形で形成され誤解される感じに。


「ちゃんと見透かせてねえじゃん!所々抜けて解釈が凄い誤解を招く形にしてんじゃん!というかそんな力あるならもっと役立つことに使えたじゃねえか!」


 優は咄嗟に誤解だと周りに目で呼びかけようとした。

 その際に魔王のその後ろにいた佐紀、麗、九沙汰が視界に入る、魔王と口論してる最中、一人だけ九沙汰が驚いた顔をしているのが一瞬見えた。見れば九沙汰は魔王をジッと見つめている。


「……?」

「読み取る相手は近くじゃないと駄目なの、今の私だとこれだけ近くでもちゃんと見れてないってことは、多分額を当てて密着するくらいしないとちゃんと読み取れないかもってことでキスしながら読み取るから口だして口」


 魔王が途中からハッとした顔になり早口で喋り始めたが、優は魔王の話よりも九沙汰を意識していた。

 偶然視界に入った際、九沙汰の反応が気になり、魔王の話を真面目に聞いているフリをして、九沙汰に目を向けて意識する。すると、魔王の訂正を聞いた九沙汰は少し安堵した表情になったのが分かった。


 ……。


 魔王と優のやりとりをしばらく立ち止まってみていた桜が、少し怒った顔で話しかけてくる。


「もう、勇さん!」


 桜の怒った声が聞こえ慌てて優は後ろを振り向いた。

 まだ宿を出てから目的地に辿り着いていないというのに、勝手に立ち止まっているというのは誰だって良くは思わないだろう。


「あ、すまん、立ち止まってる場合じゃなかったな…」 


 桜は頷いて泣いている寝子を抱き寄せ、頭を撫でながら言った。


「あんまり女の子を泣かせるんじゃありませんよ!」

「ええ?!そっち?!」

「1日に私と寝子ちゃんの二人の女性を泣かすなんて、勇さんは女性を泣かすのが趣味なんですか!?」


 怒った声をしているが、声とは裏腹に顔が少しにやけていて、笑いを堪えているのが分かった。


 あ、この状況を楽しんでるこの人。


「ふふ、なんて冗談ですよ、…寝子、辛いならもう少ししてから行く?」

「…ううん、大丈夫、…辛くない、というか話してちょっと泣いたらスッキリした」


 寝子は笑顔を見せたあと首を横に振る。

 

「…そう、なら行きましょうか、大丈夫、生きてますよ!」


 寝子の元気なところを見た桜は同じように笑みを作り、そういって桜は優の少し前を歩いて振り向いたあと、笑顔で言った。


「可憐とお父さんが、村の皆が待っています!」

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