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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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作戦会議



 少しして、村に残っているとされた村人全員が集まった。一人が倉庫から取り出した地図を主むろに広げ、行方不明となった浅辺救出についての作戦を考える。



 ただ、そんな作戦を他所に優と魔王は席を離れていた。今は桜と九沙汰を囲うようにして村中の女性が集まっている。



 また襲撃か、念のために見張り当番として寝子、佐紀、麗は外を警戒するようにドアで待機。



 そして肝心の優と魔王といえば。二人はまたいつくるか分からない攻撃から村人達を守るため、見渡しのいい屋根で待機している。優と魔王には前衛を勤めてもらうため、大まかな説明で十分だということで守護に回っていた。



 一方での作戦を話し合う桜等は、九沙汰だけが南の山について証言できる人物であるため、どういう状況だったのかを詳しく説明していた。 



「南の山の中間辺りだったか、途中深い霧に包まれた道があってどうすればいいか立ち止まっていたんだが、唐突に霧が襲い掛かって全員を覆いかぶさって視界が悪くなってしまったんだ。しばらくすると霧は晴れたんだが、視界が良くなったときには俺以外誰も居なくなっていた……」

「【闇雲】か【霧雲】魔法の類でしょうか……?それとも自然に発生している?どちらにせよ。周囲が見えなければ危険ですね。九沙汰さん、その霧を魔法か何かで吹き飛ばすことはできないのでしょうか?」



 九沙汰は桜の質問に首を横に振る。



「わからない、あれは前には無かったものだ。多分昔に突如現れた黒い衣装を纏った輩の呪力か何かかもしれん…だが、やってみる価値はあるかもしれないですな」



 しかし名案とばかりにニカッと口元をワの形にする。



「それでは風を起こせる魔法を覚えている者は前に出てもらえますか?」



 桜は周りに風の魔法が使える人が居ないか呼ぶ。その言葉に周りがざわつく。結局、しばらくしても九沙汰と桜以外、誰一人として前に出てくる者がいなかった。



「申し訳ありません…今では魔法を習うこともできず、火や水、光の魔法なら覚えている者は少なからずいますが…風についての魔法を習得できている人は私達の中ではいないようです…」



 一人の少女が桜の質問に理由を返す。村として少ない人が住む中では、焼くための火、作物を育てたりするのに必要な水、そして明かりを灯すための光を基本として最初に学び、風の魔法は後回しとされていた。



 生活している分、火と水の魔法が使えれば特に困ることが無い。風は会得しても使われず、あまり必要とされていなかった為でもあるのだろう。書物が失われている今、教えるにも時間が掛かり、今からでは無難な策ではない。



「……そうですが」

「ご、ごめんなさい桜さん……肝心な時にお役に立てなくて…」

「あ、謝らないで!そんなことないです!」



 桜の前で消沈したように落ち込む彼女は、多分は桜に出来れば力になりたいと本気で思っていたのだろう。それを察した桜は慌てたように手を振る。



「でも……」



 気を静めた彼女はチラリと後ろに居る村娘等に視線を送る。同じように顔を伏せる者が多く存在していた。



 恐らくは黒服に襲撃されてから5年という年月の間、魔法の書の殆どが燃えてしまい、魔法を取得している者達の殆どが殺されてしまった。そのため魔法自体使える者は、九沙汰や桜、それに寝音と麗、佐紀といった五人を除いて殆どいなかった。 

 


「……となると…風魔法を使えるのは私と九沙汰さんの二人だけ…ということになるのでしょうか……勇さん、真御有さん」



 辛辣な面持ちになるも、桜はすぐに気持ちを切り替えて顔を上げた。



 屋根で攻撃がないか見張りをしてる優と魔王を桜は呼ぶ。すると天井を一直線に突き破り、大きな穴が空いている場所から優が顔を覗かせた。



「呼びましたか?」

「勇さんか真御有さん、お二人のどちらかで風の魔法を使えはしませんか?」



 桜の言葉に優は渋い顔になって答える。



「…えっと……俺は魔法が全然駄目なんだ。魔王なら多分できるかもしれんが、魔力がどれだけ残っているかわからんからできれば避けたいんだけど…」


 

 桜は「そうですか……」と呟くと、残念そうな顔に顔を伏せる。が、少しして優の発した言葉に違和感を覚えた。




 ……今…何て?




 ふっと、優の言葉に疑問を持ち、桜は今聞いた一部を小さく口を動かして呟く。



「(…魔力?)」



 魔法を使うにも、種族の違いや使い手によって必要になる力は異なる。




 魔界、天界、そして人間界。



 人間は太陽の光り、天使は月の光り、魔物はそのどちらでもない暗闇を求める。



 天使は聖力、人間は法力、魔物は魔力を使い、魔法を発動させるとされている。



(魔力を持てる、それは魔物だけなはず…。なんで今そんなことを……)


 

「……ぁ。さ、桜!さっきいったのはミスだ!何でもないから気にしないでくれ!」



 慌てて優は訂正を促す、というよりも忘れるように言う。



「あ、は、はい。わ、分かりました」



 桜も慌ててコクコクと頷く。双方が納得したことで、これ以上話には触れず終わりを迎える。



 だが、桜は一瞬、瞳の端に映りこんだ魔王を目にした途端、不思議な感覚を覚えた。



 ……あ…れ?



 ぼんやりと、魔王の周囲に漂う何か。



 何…今の? 



 目を凝らし、もう一度顔を上げて今度は魔王をしっかりと見つめる。……が、今度は特に以上も無く、ついさっき見えたものは初めから何も無かったかのように忽然と消えていた。



 パチパチと瞬きをした後、ゴシゴシと軽く目を擦る。



(……疲れているのかしら……気のせい…よね)



「ん?どうかしたのか?」



 優は桜が立ち止まったまま固まっているため、どうかしたのかと尋ねてみるが「あ、い、いや……な、なんでもないです…」といって微妙な笑みをしただけで特に答えなかった。











「勇さん、真御有さん」



 またしばらくして、下から名前を呼ばれた。優と魔王は屋根に掛けられた梯子からゆっくり降りる、そこには桜、九沙汰、寝子、佐紀、麗が荷物を持って立っていた。



「…作戦は決まったのか?」 



 巫女衣装に着替えた桜が優の問いに答える。



「はい、九沙汰さんが後ろを担当し、私が先頭になって霧を払います。勇さんと真御有さんは私の後ろに付いて来てください」

「そんなの霧を避けて通ればいいんじゃないのか?どうしてもそこを通らないといけないにせよ、霧が出てきてからその列にすればいい。第一その霧を吹き飛ばせるかどうかも分からないんだろ?」



 優は首を傾げて率直な疑問に基づいた。霧が出てくる前は優と魔王が先頭に居た方が、何かの攻撃があった場合一番対処できるのはこの中では優と魔王だろう。



「それが九沙汰さんの話によると、霧は突然に襲い掛かるようです。勇さんと真御有さんが先頭の方が安全かもしれませんが、逸れてしまっては意味がありません。それと万が一吹き飛ばせないような霧を想定して、間に寝子、佐紀、麗が逸れてしまわないようにと赤い光りを魔法で灯して位置を知らせるようにします」

「まあ…確かにそうだけどな…だが逸れないようにしてるなら俺が前の方が…」

「離れすぎると強い光りを発しても見えない可能性がありますので、万が一のためにもです!」

「…わかったよ」



 その案に優は少し納得はいかないものの首を縦に振って頷いた。だが作戦については納得したものの、回りを見回してみてもさっきまでいた村人がどこにも見当たらない。

 


「……ん、他の女性等はどうしたんだ?」

「さっき離れないようにと考えた案ですが、あれは九沙汰さんが考えたんです。霧が濃いといっても全く見えない程ではなく、明かりがあれば気づける程らしいのですが……人数が多く、しかも魔法が使えないとなると……もしもの時、対応しきれない、もしくは逸れてしまう可能性が高くなるため……この村に残っているようにと、九沙汰さんが何とか説得してもらいました……。ですが、なら代わりにと」



 桜は優の前に手を突き出す。そこには村人が付けていた魔除けがあった。



「皆、お守りとして魔除けを私達に渡してくれました」



 見れば桜以外にも寝子、佐紀、麗、それに魔王も所々に身の覚えの無いアクセを付けている。



「優さんのもありますよ、これを付けていてもらえますか?」



 そういうと桜は首に付けていたペンダントを優に渡した、そのペンダントは最初に会ったときから付けていた桜の持ち物だ。



「…なんでこれを?」

「私からのお守りです!」



 そういって桜は笑顔で答える。



「ありがとう」



 優は素直にお礼をいって桜から受け取ろうとする、と



「でも、あげたわけじゃありませんからね!必ず皆無事に帰ってきたらちゃんと返してもらいますからね!」



 ちゃんと釘を刺された。



「わ、わかってるって」



 優は苦笑して今度こそしっかりと受け取り、一時的に譲ってもらったペンダントを首に掛ける。



「だが、九沙汰さんはいいのか?見るとどこにも魔除けの具を付けていないように見えるが…」



 それに初めて会ったときから今の今まで、魔除けの具を付けている所を見た覚えがない。


  

「…それが、母と娘を亡くしたショックなのか…九沙汰さんは一切具を付けようとしないんです…村に残っていた彼女達が心配して付けていって欲しいといくら頼まれても断ってしまって…」

「…そうか」



 そこまで聞くと、優は九沙汰を見つめた、すると優の視線に気がついた九沙汰が振り向き、無言で頷く。



 優は視線を桜に戻して話を続けようとするが、今度は九沙汰が優を見つめてきていた。しばらくしてニッと笑い、九沙汰がはにかんだ笑顔を見せる。




「………」




 家族を失い、一緒に同行して誰も帰って来なかった場所へ、それも因縁の相手や、それに関係しているかもしれない場所に行くというのに、九沙汰の顔には憎しみや恨み、悲しみや怒りといった類の感情が、不思議と一切感じられなかった。



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