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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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助けに行くか

「殺された…だって?」


 桜の話を一通り聞いた魔王は、眉を顰め聞き直した。


「…老若男女関係なく、この村にいた全ての人だそうだ…」


 それに優は正確な状況を付け足して説明をする。

 

「それに魔王、お前はここに来てから何か気づいたことはないか?」


 それに一つこの村の、優が最初に疑問付いていたことを質問として魔王に聞き出した。


「…気づいたこと?」


 それに魔王は辺りを見回す。今この部屋にいるのは優と九沙汰を除いた男が居ない。

 しばらく魔王は考え唸っていたが、それに気づくとハっとした顔になった。


「…そういえば…九沙汰という人以外、男の人がいない…?それに…九沙汰さん以外は若い人ばかり…」

「ああ…正確には桜の父と九沙汰さん以外の男性が見当たらない、だ。それに、あとは若い女性で、どれも10代、20代といった若い人ばかり…」


 俺は魔王の言葉を繰り返し言う。

 これはとてつもならない程に重要な問題だった。 


「…優くん…これは…」


 魔王が生唾をごくりと飲む。

 事の重大さに気がついたようだ。


「…そうだ、これはとてつもない程に深刻なようだ…」


 拳を強く握り締め、俺はありったけの闘志を燃やして叫んだ。 


「二人の男以外、全員が若い女性だなんて…なんてハーレムな生活を送ってんだエロジジイ!!!」



 ジュグシュッ!!!



 足を思い切り魔王に踏まれた。

 グリグリと魔王のかかとが優の足に食い込む。


 ……今ので骨逝ったんじゃね?


 と、考える余地を与える暇さえもらえず。

 その食い込むかかとは尚も押し込まれ、残酷な音を立てて行く。


「ぐぅおおおおおおおおおおお!?待て魔王!!足の骨が!メキメキっていってるから!や、やめ!」

「優くんは私という彼女がいるのを忘れないで欲しいなと思って☆」


 ニッコリと可愛らしい笑顔を向けながら、

 勇者である優の足を、今まさに魔王がかかとを使って砕こうとしている。


「一体誰がお前が彼女だと…」


 優は気迫に負けじと精一杯に反論をする。

 足に掛けられた圧力が強く、引き剥がすことができないため、反論できるのはこれしかない。


 ---勇者である俺が魔王なんぞに屈服するなどあるはずが無い!






 メキリィ……





 足から嫌な音がした。既に優の足の骨は折れているのかも知れない。それによって少し前まであった意気込みは一瞬で消沈した。


「う、うそです!彼女だったね!」

「…だったね?」


 メリリとさらに魔王の足が食い込む。

 

 その小さくか細い足の一体何処にそれだけの力があるというのだろうか。


「か、可愛い彼女がいて…お、俺はとっても幸せだなぁああ!!!」


 少なくとも今は幸せでない優は全力で嘘を付く。すると魔王は満足したのか足を退かした。優は蹲って足を押さえ半泣きの状態になる。


「…お前悪魔だ」

「その悪魔の頂点に立つ魔王だけど?」

「……なんでもないです」

「ふふ…あはははは!」


 と、突然優と魔王のやり取りを見ていた桜が笑い声を上げた。

 肩を小刻みに揺らし笑を堪えているが、

 耐えかねずにくすくすと口に手を当て小さく笑う。

 

「ふふふ…本当に不思議な人達ね!」


 桜は楽しそうに笑った後、優を見て笑顔を向けた。


「…勇さん、ありがとうございます」

「へ?」


 唐突にお礼を言われ、

 その意味が理解できず優は間の抜けた返事を返す。


「重い不陰気を和らげるよう、気を使ってくれていたんでしょう?」


 理由を聞かれれば、実のところその通りではない。

 ただ単に悔しさの余りに本音を漏らし、魔王が足を踏んだだけの話。


「う、…うん」


 しかし、そのことが違うなんて口が裂けてもいえず、

 言葉を濁しながら頷いた。


 それでも不陰気を和らげようとしたというのは、

 多少なりに本当でもあったからだ。


「現状では、もう殆ど俺が桜さんから聞いたことを魔王に話したようなものですからね」

「……え?今の話ってまだ途中じゃなかったの?南の山とか、桜ちゃんのお父さんとか、どうして桜ちゃんは無事だったのか」


 話を変えた理由を向けて話すが、それに反応したのは隣に座る魔王だった。

 魔王は首を傾げ、俺の発言に疑問を持つ。

 実際に聞いていない、分かっていない話を魔王は持ちかけた。


「ん、ああ、それか…なんで桜は無事だったのかというと…これらしい」


 そういって、俺は桜の首に掛けたペンダントを指差す。


「…これは悪いものを払う、まあ、簡単に言えば魔除けみたいなものらしい」


 優は目線を寝子、佐紀、麗さんの3人に移す。

 目を向けたのは、3人が着けている飾り。それぞれ魔除けとして寝子は指輪を、佐紀はイヤリング、麗は髪の結びに付けていた。


「…魔除け?」

「ああ、桜の言う話だと生まれてすぐ、女性には魔除けの具が付けられたらしい」

「……なんで女性だけなの?」


 魔王は俺から桜の方へと顔の向きを替え、その理由を桜に問う。

 らしい、という言語に良く意味が分かっていないと勘付いたからだ。


「…この村の古くから伝えられた伝統でしょう、女性は巫女で魔除けを、男性は地の恵の供物を、20歳を越えると魔除けの具を外し、次の子へ移すということになっています」


 桜は首に掛けたヘンダントを触りながら、目を細め言う。

 ペンダントに自然と目線が行く、

 気のせいか、一瞬だけだが光りが灯ったように見えた。


「……でも、それじゃあなんで九沙汰さんと桜ちゃんのお父さんは無事だったの?」

「…私の父は、幸い村から離れていたためしばらく意識を失うだけでした、ですが九沙汰さんは…妻の具を外し、たまたま持っていたから助かったんです…」

「それってどういう…」

「簡単なことですよ…自分の娘に自ら触って付けてやりたい、ただそれだけのことですよ…」


 そこまで言うと、魔王は察してに顔を伏せる。

 いつも破天荒な魔王でも、感情のコントロールはきちんとできているのだ。何が駄目で、何ならいいかくらい、魔王にだって分かる。

 ただただ、娘に自分で付けてやりたいと妻の具を外したら、目の前で妻と娘が死んでしまったなんて、一体どう思ったのだろうか。

 後に、自分が死んでいれば娘だけは助かっていたと知ったとき、どう思ったのだろうか。


「…すいません、また暗くなっちゃいましたね…」


 桜は浮かない顔で、申し訳なさそうに顔を伏せる。

 しばらくの沈黙の中、優は口を開いた。

 

「…だから、暗い顔しているのか。でもそれでいいのか?そのままでいいっていうのかよ」


 そこまで話を聞いて、九沙汰のことは分かった。

 だが、この人が自分のことを棚に上げている理由にはなっていない。


「…勇さん?」

「父親を助けに行くんだろ?そんな暗い顔してたら君の父親が助かるのか?違うだろ!?それに君はなんで父親を助けようとしないんだ!」

「……南の山は、一度行ったきり九沙汰さん以外に帰ってきた人がいなかったんですよ?もしかしたら父さんはもう…」

「だとしても!それがどうした?帰ってこないからそこでもう諦めるっていうのかよ?!まだ君の父親が死んだと決まったわけじゃない!違うか?!」


 それに桜は体をビクつかせる。

 口をわなわなと動かし、声を震わせ始めた。


「で、でも!な…何があるか分からないんですよ?!もしかしたら死んでしまうかもしれないんです!そ、それでも…ぅ…わ、わた……私と一緒に行ってくれると言うんですか?!」


 桜は死ぬかもしれない危険な場所に、一緒に来てくれるのかと優に問う。

 声を震わせ、必死に泣かないようにしている桜さんの姿を見て、優は何処か安心していた。

 父親が居なくなったというのに、落ち着いていて、父親を早く助けて欲しいともいわず、最初から諦めてしまったのではないかと考えていた、だが、実際には違った。

 ただ桜は皆に迷惑を掛けないよう、堪えていただけだった。 


 ただただ無言で、優は何も言わず見つめる。


「…けて」


 部屋にかそぼい声が桜の口から漏れた。


「…助けて…」


 それはとても小さく、普段なら聞き取れない程に、小さい声


「…助けて!勇さん!真御有さん!!…みんなっ!!!」


 それでも、ここにいる全員の耳には、ハッキリと届いた。

 口を手で押さえ、堪えていた涙が溢れた、目元から溢れた涙がポロポロと床に流れ落ちる。


 最初に話したとき、俺は「桜昔話に興味あるし、そいつについて南の山に何か手がかりがあるかもしれないから手伝う」と桜にそう話していた。

 しかしそこまで話すと、桜は途中で話を中断し、急に治療の方へと話を持ちかけ始めた。俺にとってそれは身を案じてくれての行為だけだと勘違いをしていたが、それだけでは無かった。

 その後に話す筈であったであろうこの話に「やっぱりやめる」と言われてしまうのを恐れてしまって、そのあと中々言い出せなくなってしまったのか。


 今まで上の人間として話していた桜ではなく、桜は自分の正直な気持ちでハッキリと伝えた。

 それに俺は表情を緩め、肩を下ろすと桜の頭の上に手を置いた。

  

「んなもん決まってるだろ?…ったく、最初からそういえよな…」


 ワシワシと撫でて、桜の髪の毛をぐちゃぐちゃにする。

 俯き、涙を流し続けるその少女は、一体どれだけの気持ちを今まで押さえ込んでいたのだろうか。


「…それにさ、顔を上げて、自分の目で周りを見てみろよ」


 そこには魔王、寝子、佐紀、麗、それに九沙汰がいつの間にか部屋の壁に寄り、桜に向けられる顔は全員同じ表情をしている。


「桜ちゃんっていじっぱりなだけだったの~?可愛いところあるじゃない」

「…今まで貴方は他人の問題を全て自分の責任として、一人で抱え込んでいた!」

「いつも辛い役目だけを背負い、それでも笑顔を振りまいてみんなに元気をくれた!」

「…私が一度、南の山の奪還に案を出し、反対を押し切って実行したときもそうだった、1日、3日、1週間経っても一人も帰ってこないとき、貴方は私が悪い、私の責任だと…」

「桜さん…俺達は何かできないかとずっと考えていた、頼ってくれないかとお前さんの父親も、俺も、寝子も、佐紀も、麗も…それに」


 魔王、寝子、佐紀、麗、九沙汰の順にそれぞれが言う。


 九沙汰がドアを開け放つと、寄りかかる場所を失い、不安定になった重心が前に崩れて他の村人達が入ってきた。


「ドアの後ろで盗み聞きしている全員も」

「…み…みなさん!?」

「…私達は結局、桜さんにいつも頼りきっていて何もできなかった!」

「いつも…いつも桜ちゃんは頼られてばかりで…誰にも頼ってくれなかった!」

「…そんな桜殿が初めて助けてってお願い事をしてくれたんだ!」

「…み…んな…っ!」


 涙が再度溢れ出す。

 一人が桜の前に手を突き出した。

 また一人、また一人と手を重ねあっていく。

 涙を拭うが、それでも止まらないと観念した桜は拭うのを止めた。




「「「「「「「「助けよう!皆で!」」」」」」」」 

 



 全員が相槌を打つと共に放つ言葉は、全員が同じ言葉を迷い無く言う、全員の思っていることは同じだった。

 

「…ひっく…う…あああああああああああああああ!!!」  


 そこには初めて会ったときのような威厳は欠片も残っておらず、ただただそこらにいるような、普通の女の子だった。

 桜は俺の胸に蹲り、泣きじゃくる、強く顔をうずめていて表情が見えず、すぐに照れ隠しだと気づいた。


 自分の胸に抱きついて泣きじゃくる桜の姿を見て


「…別に…助ける気がなかったら最初から話を聞くなんていわねーって…」


 というと、屋根が壊れてしまい見えている空を見上げる、 


「…突然にあんな夢を見たのは、【あの男】のことじゃなくて、この子の父親を助けろってことだったんだな…そうだろ?…父さん」


 自分自身にも聞こえない、誰にも聞こえないほど小さい声で呟く。


「…じゃあ、助けに行くか…みんなで」


 少しして、桜が泣くのが収まっていたのを確認して、

 もう一度、桜の耳にだけ聞こえるよう、ハッキリと言った。 

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