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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
23/112

イグベールの問題3

「それでは話させてもらいますね」


 魔王、麗、寝子、佐紀が、桜に目線が集中する。

 桜は瞼を閉じ、

 俺と話た言葉を思い出すかのように、

 ゆっくりと話し始めた。





 ☆★☆★☆★☆





「ご、ごめんなさい…取り乱してしまいました」


 脈拍を落ち着けるよう深呼吸をし、乱れた心を落ち着かせる。

 それでも中々脈拍も呼吸も正常には戻らなかった。


(…まさか、あの巨大な刃をたった二人で弾き返してしまうなんて!)


 もう部屋として原型を留めていないほどに壊された惨劇の中、

 たった二人だけが何もなかったかのように佇んでいる。

 今も刃を弾き返したときの光景が目に焼きついたまま離れない。


(もしあの刃を止めていなかったら、後ろにいた私達全員の命が危うかったかも知れない…この人達は私達を助けてくれたというの?)


「いや、いいよ、それよりさ…ちょっと休みたいんだけど…」


 彼は片腕を抑えていた、

 額からは脂汗が出てきていて、明らかにつらそうな表情をしている。


「ま、まさか今ので怪我を?!」

「い、いや…大したことではないんだけど…」


 大した…といって腕を押さえている彼の腕の、

 その肩辺りの服が赤く滲み始めている。

 脚も赤く染まっていた。


「大したって!そんなに血を流しているじゃないですか!待っててください!今すぐ治療する魔法を!!」


 血が流れ出している箇所に魔法を掛ける。


「汝の傷を癒し、汝に安らぎがあらんことを!」


 出血の多い腕を先にし、両手をかざして唱える。

 かざした両手の前に淡い光りが現れ、腕を光りが包む。


治癒ヒール!」


 詠唱が終わると光りが包み込むことがなく弾け飛んだ。

 回復することが出来ず、失敗したということだ。

 

「ど、どうして?!なんで血が止まらないの?!」


 回復呪文を唱えても、血の止まる勢いは全く変わらずにいる。

 

 どこか間違えて詠唱をしてしまったの?!

 いや、魔法の詠唱はあっていたはず!


「…多分、ちょっとした魔法じゃ直せないと思うよ…」


 呼吸を荒くし、苦痛の表情を浮かべながら彼は言う。


「…魔王、また直せるか?」


 魔王が桜の隣に座り、優の怪我の状態を確認していた。

 目を細め、軽く血の出ている箇所を魔王がなぞる。


「くっ付けるだけなら全然問題はないよ、ただ、完治させるのは無理だけど…」


 そういって血の出ている箇所に彼女が触れた

 、瞼を閉じて聞いたことのない言葉を凄い速さで詠唱している。 


「十分だ、頼む」

「あ、もうくっ付けた」

「はええな!!!」


 彼は血が出ていた箇所を脱いで確認した、

 そこには傷一つない素肌があるだけで、まるで傷が見当たらない。


「ッつう…痛みは消えないのか…やっぱりっと、そうだ、俺等が何者なのかっていう話でしたっけ」


 腕がくっついたことを確認した彼は、

 私が興奮して口走ってしまったことを聞いてくる。


「ッ!」


 その言葉に私の心臓が強く脈打つ。

 

「それは…悪いけどいえない」


 だが、その返答に答えてはくれなかった。

 真剣な眼差して言われ、その目を見て諦めがつく。


「…そう、ですか…」

「それに…俺達はすぐにこの村を離れないといけないかもしれない、長いしていると桜さん等にも迷惑を掛けることになってしまうかもしれないしな」


 その言葉に思わず表情が曇る。


(…そう…よね)


 この村を離れる。その言葉を聴いた瞬間、

 桜の脈拍と呼吸は正常に戻り、興奮状態も冷めてしまった。


(こんなに凄い人なんだもの、何か深い事情があるに決まってるじゃない…じゃなかったらなんでこんな村に来るの?)


 突然の危険を助けてくれた、

 何者か分からない人物に少しだが、

 それだけで私は願望を抱いてしまっていたのかもしれない。

 もしかしたら、父を助けてくれるのではないかと、

 もしかしたら…この村を救ってくれる救世主ではないのかと。


「………」

「でも…まあ、助けてもらった恩もあるし、ここの村の話だけでも…聞かせてくれないか?あの南の山には何があるのか、それに…君の父さんの話…とか」

「え?」

「それに、まだ聞きたいこともあるしね」


 助けてくれるといってくれたわけじゃない、

 それでも、今までどんな人からも相手にされず、

 助けてもらえなかった私には、話を聞いてくれる、

 それだけで嬉しかった。


「…は…はい!」


 桜は元気いっぱいに笑顔で返事をした。


「…ぁ、優くん、ちょっと力んだあとにむちゃくちゃ集中したせいで気分が…少し横になっていい…?」


 いいですよ、と桜が口を開く前に真御有は部屋にあるソファに横になってしまう。それを見て、優はため息をついて桜に謝った。


(…変わった人達…あんなに失礼なことをした私を助けてくれて、なにも咎めないなんて…)


 そんな二人に興味が引かれた。 


「…ここも色々散らばって危ないですし、場所を移しませんか?黒部さん」

「そうですね、お願いします、桜」

「…はい?」


 唐突に呼び捨てにされて、桜は間の抜けた返事をする。

 その反応を見て、優は慌てて口を動かして訂正をした。


「あ、や、なんというか桜さんってずっと呼ぶのもなんかもどかしいっていうか…そういうのあまり好きじゃなくてな…いや、嫌だったら止めるけど…」

「あ、いえ、桜でいいです!」


 あまり呼び捨てにされたことに対して不愉快に感じなかった、

 それどころか少し嬉しく感じる、呼び捨てを止めた方がいいかと聞かれ思わず大きな声で言った。

 

「え、あ、わ、わかった…」


 驚いた顔で優が桜を見つめた。

 桜はしばらくしてゆっくりと顔を伏せる。


(ななななななななに熱くなっちゃってんだろ私!)


 顔を赤くしてたった今自分が起こした行動に後悔をしていると、顔を伏せたまま今度は無言になったのを、黒部さんは心配そうにして話しかけてきた。


「だ、大丈夫か?」

「だだだだ大丈夫です!平気!元気!」

「そ、そうか…?」


 心配されないように元気なアピールをした結果、余計に心配した顔をされてしまうことになった。


「あ、あと!私は勇さんって呼びますから!」

「ええ?!」

「勇さんが私を桜って呼び捨てにするんですもん!別にいいですよね!」

「え、いや、いいけど大丈夫か?顔赤いが…気分悪かったりしないか?」


 これ以上なく心配されてしまう、

 そう考え落ち着くことにした。

 目を瞑り、深い深呼吸を繰り返す。


「…すいません、取り乱しました…、大丈夫です」

「…ならいいが」

「本当に大丈夫です、あ、で、でも!さっきの呼び捨てはいいですから、私も勇さんって呼びますからね!」


 と、落ち着かせたはずの心が、目を開けて優を見た瞬間からすぐに乱れていたというのは桜も気づいてはいなかった。

 




 少しして部屋につき、ドアを開けて優を部屋の中に入れる。

 桜と優が部屋に入ると、カギを閉める。


「…あれ?他の人は入れないんですか?」

「あ、はい、大切な話ですので…」

「そうですか、なんていうか…そんな重々しく言われると、聞いたら絶対手伝わないと失礼じゃん俺…」

「い、いえ!別にそんなわけじゃ!」

「あ、いやいや!そういうわけでいったわけじゃないから!」

「そ、そうですか…」


 それから少し私は沈黙してしまった。

 大事な話をするといって、騙しているのではないか、

 疑っているんじゃないかと思うと、口が上がらなかった。

 

「…え、えっと…悪い、気分…悪くさせたか?」

 

 しかし優は全く疑ってはいなかった。

 それどころか、自分が悪いのではないかと思っている。


 …不思議な人。


 自然と、優を見ていると口元が綻んだ。

 席を立ち、桜は紅茶を注いで優に渡す。

 優はなんの疑いもなくその紅茶に口をつけた。


「…いえ、そういうわけではないです、ただ、勇さんって素敵な人だなと思って」


 ちょっとからかってみたくなってしまい、桜はちょっとだけ本音を言ってみてしまった。


「ゴホッ!?!」

 

 すると優は紅茶を噴出しむせた。それに桜は少し可笑しくなってクスリと笑ってしまう。


「…ふふ、冗談です、では話ますね」

 

 それから私はこの村の現状、

 あの南の山についてを話すことにした。


「この村は、昔は私達は平穏に暮らしていました。畑を耕し、農家で動物達を育て、南の山から他国へ行き来もできました」

「…南の山から行き来って、もしかしてあの山からだと近いのか?」


 その時点で優が南の山から下って下りてきたという話が矛盾しているとわかり、少し意地悪に言う。


「…南の山から来たのに知らないなんて、本当に南から来たのですか?」

「っう」


 そういうと優は言葉を詰まらせた、

 ジーッと見つめていると、桜から目を逸らす。

 それにまた桜は可笑しくて少し笑ってしまう。


「…ふふ、南の山からなら、大体、速くて2日あれば着けると思います」

「…だが、俺が最初に聞いたときに、一番近い町でも10日掛かるっていっていたということは、何かあるんだな?」


 何故、一番近道であることを知らせなかったのか、

 優は重々しい口ぶりで聞いてくる。


「…はい、5年前、この村に黒いマントを着て帽子を被った、左目に眼帯をし

た人が現れたのです」

「…今…黒いマントに帽子…それに、眼帯をしていたっていったのか…?」

「え?あ、そうですが」

 

 その言葉に突然優が血相を変えた。


「…_ッ!そ、そいつの、そいつの眼帯に何かマークが無かったか!?陣のような模様とか!」


 あまりに突然に声を荒げたため、桜は思わず驚いてしまった。

 身を乗り出し、真剣な面持ちで見つめていてとても冗談には見えない。


「…い、いえ…そこまでは…」


 5年前突然現れた、

 真っ黒な姿をした人、

 まるで闇を見ていたかのようでとても衝撃的だった。

 だが、桜は眼帯に模様があったどうかまでは覚えてはいなかった。

 

 …もしかしたら、私は見ていたのかもしれない。

 けれど、あの暗い闇に、

 全ての意識が、

 記憶が、

 その存在に飲み込まれてしまっている。


「そ、そうか…悪い、なんでもない、続けてくれ…」


 何故その男に強い反応を見せたのか、

 それについて桜は理由を聞こうとはしなかった。


「…それで、その男が私に聞いてきたんです…今でもはっきりと覚えています。『ここに沈まぬ太陽はあるか?』と」 

「…沈まぬ太陽?」

「はい、何のことを言っているのか分からなかった私は、見たことも聞いたこともなかったのでそんなのは無いといったんです…そしたらその男は何も言わず姿を消したのですが…しばらくして、またその男が現れたのです」


 桜は昔みた光景を、はっきりと思い浮かべていった。


「この村にいた殆どの人が…その男に殺されました」

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