イグベールの問題2
壊された個室から牢屋に連れて行かれるはずだったのだが、今は広い部屋のベッドで横になっていた。
だが俺一人ではない、
そこには魔王、それに桜、寝子、佐紀、麗が部屋にいる。
そのうち桜、寝子、佐紀、麗が優を囲うようにして立っていた。
魔王は少し離れた位置にある椅子に座って様子を伺っているようだ。
「それでは詠唱を始めます」
桜、寝子、佐紀、麗の全員が一斉に同じ魔法を詠唱し始める、
すると同時に4人が手を前に出し手の平を向ける。
「「「「この者の犯した傷を癒すべく、この者が負った罪が善であるのならば、この者の罪が消え去らんことを」」」」
それぞれが優の体に触れる、
詠唱が進んでいくにつれて優の体が淡く光り始めた。
「「「「聖なる加護で癒したまえ」」」」
最後の詠唱を合図、
優の体が一気に光りだしたかと思うと、一瞬で光りに包まれた。
だがそれもすぐに収まり、光りが消えると腕と脚の痛みが消えていた。
「…どうやら成功したようですね」
ジャンプしても腕を振り回しても痛みが全く無い、
まるで最初から無かったかのように痛みも傷も消え去っている。
試しに腕と脚を動かしている俺の様子を見た桜さんが、安堵した様子で話しかけてきた。
「みたいですね、ありがとうございました、桜、それに寝子さん、麗さん、佐紀さん」
「いえいえ!礼を言うのはこちらの方です!あれだけ失礼な事をした私達を助けてくれて…しかも私のお願いまで…」
「いや、いいんだよ、俺はそれでいいって思っているんだから」
「でも…」
「いいのいいの、優くんがそう言ってるんだし大船に乗ったつもりでいいじゃん!優ってばほっっっんと甘いからね、特に女には!」
魔王が椅子から立ち上がり、俺の前に来て睨みつけてくる。
折角いい話になっていたのにどうしてこいつは…
「俺はただ困っているこの人達の力になりたいだけだってーの!」
「どーだか…二人っきりで何かを話したたあと、突然「この人達を助けよう!」とか言い出して…しかもいつの間にか桜って桜ちゃんのことを呼び捨てにしてるしね!」
「え?あ、いやこれは桜さんっていちいち呼ぶのもなんだと思ってな…あはははは…」
そこまで言うと魔王は、
まるで俺を女垂らしの駄目人間を見た目で見つめてくる。
「あのなあ…この人達と合うまで魔王以外の女性を助けたことなんて無かっただろ…」
魔王と合ってからはそんなに他の女性と会ったことはない、
それに勇者活動で動いていただけで、女性の頼み単体を聞いて助けていたことはないし、それ以外は殆ど城にいた。
「(だって…だって優くん私のとき、最初からそんなに親しげじゃなかったんだもん…)」
魔王が何かを言おうとしているのか口をごにょごにょと動かした、
小さすぎてうまく聞こえない。
「ん?」
「あ、いや、そ、そー…だね」
だがしばらくすると俺の発言に肯定した。
「だろお!?」
アハハウフフと一頻り乾いた声で魔王と俺は笑った。
その光景を見て口を引くつかせているのが見えたので、すぐに笑うのを止め、軽く咳払いをして椅子に座る、
このあとにある問題について話すことにした。
「ん…んっんー!ゴホンゴホン!…さて、俺の傷が治ったことだし、あのとき話してくれた話をもう一度話してくれますか?」
さっきまでの行為をまるで無かったことにするべく、俺は笑顔を向けて言った。
「あ、はい、では作戦を………え?作戦ではなく…ですか?」
「はい、桜は俺に事情を話しました、でも、まだ魔王には事情を話していなかったんで丁度いいかな…と…---ッ?!」
「そうなんですか」
「は、はい…それに…」
背筋に悪寒が走ったため、ゆっくりと後ろを振り向く。
何故か魔王が俺の後ろに立っていた。
「………桜さんが話てくれないと{ッチ}魔王の誤解が解けそうにないんで…」
ゆっくりと前を振り向き、魔王に聞こえないようささやき声で伝える。
さっきから魔王が俺の後ろに立っている、
というかさっきから魔王がむちゃくちゃ怖い。
魔王に聞こえないよう桜に近づいてささやいた際に、なんか舌打ちが聞こえたような気がするんだけど気のせいかな?!
部屋は少し涼しいくらいで暑くもないはずなのに、優の額からは汗が滝のように流れていた。
「そ、そうですか、わかりました…大変なんですね…」
納得してくれるとともに、俺の苦労を分かってくれた。
俺の苦労を分かってくれる理解者がこんなところにいたなんて…!
散々魔王にもてはやされた優の苦労が分かってくれた人に巡り会えた感動に優は嬉しさに震えた。
なんで魔王が怒っているのか分からないが、いつも困らされてたし少しぐらい…
桜と魔王の現状を、頭の中で再生してみた。
桜の好感度が5上がった!
魔王の好感度が300下がった!!!
魔王の怒りが500上がった!!!
魔王からの優だけに対する目力が250上がった!!!
ダメジャン!!!!!!!
っていうかこの上がり下がりの比率おかしいだろ?!
それに俺だけに対する目力ってなんだよ!!!
「あ、あの…話しても?」
突然うな垂れてしまった優を見て桜は話し初めていいのか惑っている。
「あ…ああ、うん…お願い…」
俺はテーブルに額を当てたまま、
顔を伏せたまま手だけで相槌をうった。