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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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勇者と先代勇者

 


 左足の脚を失ったことで体の重心が崩れ倒れ込む。切断された足からは血液が留めなく溢れ、床を赤色に染めていく。



 ――何が起こった?



 麻痺した思考回路は警告というサイレンを何度も起す。停止した脳が動きだすには、激痛で我に返るのに大した時間は掛かりはしなかった。自分の身に起こった出来事を理解させようと、即座に思考を巡らす。


 

(咄嗟に後ろに下がった、そこまではいい、男は腰から剣を抜いた仕草しかしていなかったはずだ…なのにどうして俺は床に倒れて伏せているんだろうか…)



 状況を理解するよりも早く、目の前の男は愉快そうに笑って見せる。



「おっと、首を刎ねるつもりが脚一本だけだったか。いやはや、歳は取りたくないものよのぉ。現役だったあの頃なら、この程度の距離なら首を刎ねるなど他愛もないことだったのだが…」

「っぐ…」



 両手を床に突けて体を起こし、片足でなんとか立ち上がるにも呼吸は荒く鼓動は速く、痛みと緊張によって焦りが生じ、急激な身体の変化による影響も兼ねてか重心がうまく定まらない。


 

「ほぉ。この状況でまだもう勝ち目があるとは思えないが…まだやるかね」

「うるせぇ…」

「強がりは止したまえ、片足では剣を交えるはおろか満足に逃げることもできまい。太刀筋がワシより優れているとしても、一本取られた後では無為に等しい。万が一ワシを倒せたとしても、この囲まれた状態の君に一体何が出来るというのだね?」



 確かに男の言うことは正しい。不意を突かれ片足を失った今、僅かな起点が訪れたところでこの状況を打開するのは限りなく厳しいだろう。



 しかしそれは口実だ。相手の心境に付け入って戦意を失わせる手段はよくある話…どれだけ正論を並べられたところで、確実な根拠は含まれていない。その通りだと真に受けて心が乱れればそれだけ相手の思う壺になる。



いくら優位に立とうとも、油断は一切するつもりが無いという事か。



 …なら、考えられることは一つ。



 痛みを無理にでも振り払い、無理やり意識を傾ける。



(…≪想像イメージ≫しろ)



 迅速な撤退が必要だ、幸いな事に指揮官の支持で魔銃の使用が止められている…今を狙うしかない。



 何処でもいい。一時的に適当な場所に飛び、即座にそこから別の目的地へと飛ぶ手立てもある。しかし顔が知られてしまっている今、下手に人混みの中に飛び込めば、逃げる前に取り押さえられてしまう危険性がある。



 ならここら辺の、どこかの森や茂みの中に隠れて逃げるのはどうだろうか。



(……駄目だ。どこかに待ち伏せとして潜んでいる可能性がある。数が数だ、外は十分に警戒されている危険性が高い)



 仮にその場は切り抜けられたとしても、その後の移動手段が極めて危うい。下手をすれば次に転移する前に力が底を付いてしまうかもしれない。



---くそ、駄目だ!



 いくら他人を自分の前に呼び寄せられても、それはあくまでも呼び寄せる対象が分かっているから行える。



 『空間転移テレポート』は元々移動する対象と、移動してくる土地が分かって初めて成立する。存在しない、もしくは存在を知りえない土地に移動するのは不可能だ。


 

 一応だが幾度か別の町を立ち寄り、名前や土地を把握している場所は他にもある。しかし一度行ったところは既にマークされていると安易に予想でき、その考えは断念するしかない。



 ……ちぃ…。これでは何処にも…いや、待て。



 記憶の片隅にある一枚の地図の存在を思い出した。丁度気の利いた事に砲弾で木っ端みじんにされた机から、見事に床に散乱しバラバラに散らばっている何枚かの用紙に目が止まる。



(……確か人里離れた小さい村を示した地図が、丁度あの机に入れてあったはずだ…!)



 しかし肝心の用紙は兵隊等の後ろに隠れていて、村の位置を確認しようにも場所が遠すぎる。それに強行突破して逃げおおせたとしても、その場にある地図を見てからではあからさま過ぎる。



 どうにか上手く誤魔化せればいいが…。無理やりいくしかねぇよな!!



 一か八か、片足に全体重を乗せて前に跳ね上がると、そのまま全身を前に倒れ込むようにして男に斬りかかる。



「おおおおおおおお!!!」

「…血迷ったか」

「なっ訳ねーだろ!!」



 そういって身体を斜めにずらして男の剣を避けると、振り上げた剣を地面に押し当てて身体の体制を無理やり変更し、左手を地面に付け、跳ね上がる反動で背後から再び斬りかかる。



「…手荒い手法だが面白い」

「っぐぅ…ッ!?」



 強烈な蹴りが脇腹に当たり、身体が後ろに向かって蹴り飛ばされた。背後に張られた障壁に背中が当たり、咳き込みながら恨めしそうに睨む。



「っぐ…っかっは! 全く…鬱陶しい!」

「かか、多少の小細工ではその障壁は破れやせんぞ?」

「…だろうな」

「…む?」



 口内に溜まった血液を吐き捨て、優は笑みを浮かべる。



「だから…全力で逃げさせてもらう!」

「ッ優くん!」

「魔王! 逃げるぞ!」

  


 捕まっている魔王を、目の前にいるイメージを頭の中で作り上げる。力を発動させ、魔王を自分の足元に移動させた。そのまま魔王を抱きかかえようとするが



「ふむ。何を考えていたのかは知らないが、ぬけぬけと逃がすと思うのか?」



 抱きかかえようとしていた腕を切られ、又もバランスを崩し床に倒れこむ。



「っぐぁ!」

「優くん!!」



 魔王に倒れこむようにして倒れ、魔王も同じくバランスを持っていかれ倒れこんでしまう。



 ぐぁあッ!? どういう事だ…何故この離れた距離で腕が…ッ!?



 相手とは少なからず数メートルの距離がある、男の立ち位置は先ほどから変わっていなかった。何か仕掛けがあるのか。どちらにしても確かめている余裕はない。



(ックソ! ここまで来て諦めてたまるかよ…ッ!!)



 地面に這いつくばりながらも魔王ににじり寄りる、しかし歩み寄る男にその手を踏まれ阻害されてしまった。硬い地面に打ち付けられた手の平に、重圧を掛けられグリグリとかかとで押しつぶしてくる。



 ゴリゴリと音が鳴る度に指の至る骨に切り裂かれた鋭い痛みとはまた違う、激しい痛みを伴った。



「っぐぅううあああ!」



 必死に足を退けようと腕を動かすが、片腕だけの力ではどうすることもできず、苦痛に声を上げるだけに終わる。



「…何を企んでいたかは分からぬが、まだ一人で逃げようと思えば逃げる算段は僅かならがにもあっただろうに…これでは逃げたところで死ぬのを待つだけだ」

「貴様! 私の優くんによくも! …殺す! 殺してやる!」

「ほう? 両手を縛られた状態で、しかも力も使えない魔王になにができるのかね?」

「黙れ! それ以上勇者に何かしてみろ…ッ! 殺してやる!!」

「カカッ。好きに言っていろ。どうせ貴様には何もできないのだからの」



 そういうと、男は止めを刺すべく優に向けて剣を身構えた。この体制では満足に避ける事もできない。もし避けれたとしても、その次も避けれるはずもない。



(くそ…ここまでか…)



 諦めに顔を伏せる…が、しかし剣を振り下ろされるよりも先に魔王が指揮官の男の足に噛み付く事で阻害する。



「っぐがぅ…ぐむぅうううう!!

「っむぅ!! 小賢しい!」

「っあぐ!!」



 足に噛み付いた魔王を蹴り飛ばす、それによって魔王の頬が切れ血が流れる姿が瞳に映り込む。 



「…魔王! くそ!」


 

 もう立ち上がるだけでも精一杯の体になっている、それでも歯を食いしばってなんとか立ち上がるが、それによって切られた脚と腕から血があふれ出す。無理に立ち上がったため体が悲鳴を上げた事で意識を持っていかれそうになる。

 


 まだ…諦めるには速かったな…ッ!



「まだ何かする気でいるのか。カカッ!結構な事だが……無駄なことだ」



 魔王だけでも助けようと動く、だがそれよりも早く男は剣を構え直していた。



「っく!?」

「さらばだ、若き勇者よ」



 その言葉を最後に俺に目掛けて剣が振り下ろされる。



「むぅ!?」



 だが、その剣は振り下ろされることは無かった。突然、何かによって男の剣が甲高い音を立てて弾かれる。 



「……何が…ッ!」



 同時に魔王を拘束していた縄が解かれた。縄が解けた魔王は咄嗟に俺の元へと駆け寄ってくる。



「優くん!」



 魔王の必死の叫びに我に返る。指揮官をしている男は想定外な出来事に、一瞬の隙ができたそのチャンスを俺は見逃しはしなかった。



「ま…おう…!」



 瞳に映り込んだ必死に手を伸ばす魔王。同じく手を伸ばす事でしっかりとその手を掴んだ感触が手に伝わる。



 その瞬間、絶対にその掴んだ手を外さぬように魔王の手をしっかりと握る。そしてきつく結びつけるようにしてお互いの手が重なると同時に、優と魔王は城から姿を暗ました。



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