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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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捕まっちゃった、あは☆



「…そういえば、何で白木と戦っている最中に乗り込んで来なかったんかな」



 影から此方の様子を観察していたのは間違いない。



 手札を覗いてからの奇襲は強力でもある。相手の手の内を読んでおくことで次の手を予想し、先手を打てる成功率が格段に飛躍するためだ。



 だが、それはあくまでも相手に勘付かれていない場合に限られる。奇襲を受けると身構えている相手と、不意による突然の奇襲に反応してから動くでは明らかに違いが生じてしまう。



 視覚による作法、心理による戦法。相手の出方がどうくるかを知る知らないでは全然違うのだ。

 


 それだけ情報は戦況を左右する。



 だというのに兵隊による統率は穴が多過ぎる。戦方を記した紙を蜂の巣に打ち抜いたように穴だらけな作戦、とても国を任された一軍が行う所業にしては考えにくい。



 まあここまでくると、考えられることは一つ。罠を張っての待ち伏せか。



 砲撃は外に誘き出すだけの布石……とすると窓からの視覚情報は当てにならない。恐らくは少数と誤認させ、油断しているところにさっき見た兵軍の2倍……いや3倍の待ち伏せがあると考えた方がいい。



 思考を巡らし俺は状況を整理する。



 少数が此方の様子を観察、そしてもう少数が城の探索、そして城を抜ける通路付近、又は森林の到る死角には装備を携えて待ち構える兵軍の構図が浮かび上がる。



 もし兵隊の陣営を切り抜けて脱出したとして、相手がどれ程の手練れかが問題となってくる。



 白木程の実力者を捨て駒にしたくらいだ、最悪の場合は白木と同等、又はそれ以上の猛者と一戦を交える羽目になる可能性があるな。



「全部を片付けてからというのもきついしな……」



 まあなんのこっちゃ。さっさと【空間転移テレポート】して逃げてしまえばいいか。



 いくら相手が戦力を上回ろうが、俺にとっては結局の話出くわさなければそれまでの話。



 今なら奇襲の心配が無く躊躇せずに退散できる。



「だが少し困ったな」

 


 魔王の顔が赤かったのを見ると、もしかしたら体調でも悪いのかもしれない。



 もうあまり体力が残っていないのだろうか。そうなると逃げた先で医師にでも見せたいところだが。



「…そういやこの俺の力って謎だらけなんだよな…」



 本来は他者の力を渡す事は不可能とされているが、この力はどうなのだろう。もしかしたら分け与える事が出来たりして。



 ……なーんて、無理だよな。



「おーい魔王、お前あんま俺から離れんなよ」



 そういって扉を開ける。



「…」

「…」

「…」

「ムー!ウームー!」



 そこには沢山の兵隊が魔王を取り囲んでいた。しかも魔王を縛り上げている真っ最中らしい。



 俺は口元をピクピクと引きつらせる。見詰め合う状態で全員がその場で固まった。



「ムフー、ムガガガガー!!」



 口元を布のような物で抑え付けられているのか、魔王は鼻息を荒くし身体をジタバタと忙しなく動かして俺に何かを訴え掛けてくる。



「あ~、そのぉ~、取り込み中でしたかすいません」



 取り込み中のところに突然割り込むのは礼儀知らずだ。これ以上忙しい身の兵隊と呆けているのは失礼だと思った俺は、伝えたいことは後回しにして扉を閉めた。



 そのまま扉の鍵をしっかりと掛ける。



「いや助けてよ?!」



 布を口元から外すのを成功したのか、扉越しから魔王が救援を必要とする声が聞こえる。だが魔王の悲痛な声を打ち消すように後からは扉を壊そうと打ち付ける音が鳴り響いた。



 ドンドンドンとノックというよりは拳を叩きつける音。外にいる兵士が無理やりドアを抉じ開けようとしている。これでは助けを求められようが危なくて行こうにも行けない。



 ……というか行きたくねえ。



「助けてじゃねえよ! お前ほんとバカなの?! 何してるの?! 普通気づくだろ! 気づいたら普通逃げるよねぇええ?! なんで扉の目の前で捕まってるのぉおお?!」



 振り返れば後ろに扉あるのに捕まるって、どうしたらそうなるの!?



 バタァァン!!



 騒ぎに駆けつけた何人もの兵隊による打ちつけに、ついに扉が耐え切れず破られた。同時に沢山の兵隊が部屋の中へと押し寄せる。



 兵隊の隣には囚われとなった魔王が連れられて立っていた。



 俺は縄でぎゅうぎゅうに縛られたまま、とても申し訳なさそうに顔を背けている魔王を睨む。すると魔王は俺の顔を見つめ、弱弱しい声で、でも可愛げのある声で言った。


 

「ごめん…捕まっちゃった、あは☆」



 そういって魔王は優に可愛らしくウィンクをした。それはもう普通の男なら落ちてしまうくらい可愛かった。



 何故か周りの兵隊が「おぉ…」とざわつくくらい。



 どうして捕まってしまったのか理由を述べなかった魔王だが、俺はそれを素直に受け入れた。



 落ち着いた仕草で静かに腰に掛けている剣に手を置く。そのまま笑顔を振りまく魔王と兵隊を交互に見た後、俺はこれまでに無い程の満面の笑顔を振りまきながら剣をゆっくりと引き抜いていく。



「さてと…魔王もああいってることだし……全員皆殺しとするかぁ!」

「待って優くん!」



 絶叫にも似た悲鳴が辺りに響き渡った。



「どうした魔王?」



 声音は優しく、俺は爽やかな青少年という雰囲気をかもしだした。



「え、あ、あの…」

「言いたい事があるならハッキリといってごらん」



 なのに何て失礼な奴なんだろう。俺の顔を見て魔王が顔を頬を引きつらせている。



「皆殺しって…私を忘れてないよね優くん!?」

「ああその事か、っふ、悪かったよ」

「そ、そだよねー…もー優くんったら~」

「訂正するよ…お前を中心にぶち殺す、だったな」

「何でえ!?」



 無慈悲。そんな言葉が魔王の脳裏に過ぎる。



 有無を言わせない言葉に加え、誰が見ても上っ面な青少年の笑顔を俺は放つ。そして表情とは裏腹に腰に掛けた剣を引き抜きながら魔王の元へと近づいていく。



「もはや殺す気満々?!」

「戦闘用意!構え!」



 皆さんにはあまり受けが良くなかったみたいだ。警戒心か周りが攻撃態勢に移る。



 パチンと指を弾く音が響いた。すると途端に前列にいるその端に立つ一人の兵隊がバッと手を上げる。それを合図に魔王を後方に下げ、銃を構えた兵隊が前方へと並びだした。



「随分と盛大な歓迎だな、今日は俺の誕生日じゃねーぞ?」



 カツンとかかとを地面に当てた音が鳴る、それに呼応してか兵隊は俊敏な動きで壁や窓を塞ぎ込んで行く。一瞬にして包囲網が張られたように四方八方から取り囲まれた。



 ほーん、統率や集団行動が良く鍛え上げられているな。周囲が剥き出しの敵意を浴びせる事で、手上相手である俺に気取られる前に退路を塞ぐとは。



 戦力の分配の構成も長けている。窓側や扉側には前列に一人が攻撃態勢を構え、後方に二人が援護として回されている。



 時に逃がすまいと過剰な戦力を投入、分散させる輩を見かける事が多いが、数が多すぎるというのはかえって味方が邪魔というものだ。そもそもそういったケースでの一番の失敗が、相手が逃げる前提で物を考えている時点で相手を舐めているということ。



 しかし、どうもその油断という隙を突け狙うのは難しそうだ。



 壁際ではまばらに一人づつ、一定の間隔の距離を開け弧を描くような陣営で剣を携えている。



 少なくとも全方位に均等な戦力を配置したらしいが、分散した分だけ一点による集中砲火に弱くなるのも事実。ここは力任せによる強行突破で押し切れないだろうか。



 他に目立った変化が無いか探るよう、視線を周囲に巡らしていく。



 あ、駄目だなこれ。



 俺はその考えを行動に移すことなく自ら断念する。その訳は彼等の行動にあった。



 ブォン……。



 低重音が響く。すると同時に兵等を守るようにして正面に光の膜が張られた。



 後方で待機していた一人が手を突き出し防御結界を張っている。さらに後方の一人は膝を折って屈むと、先の長い拳銃を取り出した。カチャリと手元の引き金に手を掛ける、すると銃口に小さな陣が浮かび上がっていく。



「小道具を使った遠距離魔法…魔銃マガンか」



 名の通り、魔法を使って撃たれる銃。



 基本的には武装した兵に支給されるものだが、勇者の立場だった俺は何度か手に持って扱った事がある為、そのときに大よその仕組みは理解している。



 銃口に浮かび上がる陣は最低限魔法が発動できる範囲に留められた、現『超小規模魔法』。超小とつく通り、少量の『魔法力コスト』で複数発放つ事が出来る。



 銃の見た目は一見ではちゃっちいもので、銃口は小指が入るかどうかという程度の大きさ。それに比例して陣も申し訳程度に小さく、基本的には威力の効果範囲も狭まられる。



 大概が手のひらに炎を出す、コップに水を注ぐ。大体その程度でしか扱われない。



 しかしそこは人の悪魔の知恵とでも言うべきか。小道具などの援助を用意る事で、引き金一つで石に穴を穿つ威力を保持する魔銃と化す。



 恐るべき事に肝心の弾は不要。何せその弾丸というのが空気なのだから。



 原理は加速を応用。発射口の長さを利用した構造で、銃口の内部には幾つもの小型で構成された加速魔法が幾度になく重ねられている。引き金を引くことによって噴出される風圧は、過度な加速により凶器となって襲い掛るという代物だ。



 しかしいくら超小規模の陣とは言え、同時に複数の加速魔法の利用が必要となるこの構造。通常の魔方陣に比べると確かに比較的に『魔法力コスト』の消費を抑えられていると言えるが、それでもそれなりの『魔法力コスト』が浪費する。



 本来必要である弾丸コストを魔法で補っているからだと思われる。



 ただそれでもニ、三発くらいは容易に撃てるじゃなかろうか。包囲しているこの状態なら、俺を蜂の巣にするには十分な弾数だといえる。



 そして俺はもう一つの要点である半透明に光る障壁に目を向けた。



 もし普通に乱射しようものなら、俺を中心に取り囲んでいる状態なんだ。蜂の巣になるだけには飽き足らず、漏れた弾が味方を襲う羽目になるのは必然といえるだろう。



 しかしそれを避けるために張り巡らせているのがこの障壁だ。



 わざわざ障壁を張っているにも関わらず後ろから銃口を俺に目掛け向けているということは、内部からの攻撃は通し、外部の攻撃を遮断するインチキ機能を持ち合わせているのだろう。



 身を守るように障壁を張り、もう一人が銃を構え、更には万が一の接近に備える為に剣を納めた兵が待機している。



 この包囲網を突破するのは…難儀な事に手間が掛りそうだ。



「……んで、いい加減出て来いよ。未だに打ってこないって言う事は、何か理由があるんだろ?」



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