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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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何故殴ったし

「っとまあ、冗談は置いといて~」



 いつまで経っても口論が終わらず、魔王は話を変えようと手を右から左に置く仕草をしてみせた。



「…どっからどこまでが冗談なんだ?」



 すると魔王はきゃぴ☆とうざったらしいぶりっこをして笑顔になった。



「…えっと…土下座辺りかな~、えへ」



 魔王は俺のことを良く理解しているようだ。ピクピクと青筋を浮かべて魔王を睨む。



「ほうほう、どうやら喧嘩を売っているようだな…」



 拳を構える俺を見てさすがにまずいと思ったのか、魔王は手を振って自らの主張を否定する。



「嘘ウソ、ちゃんと見てたから安心してって~」



 なんとも白々しい。半眼になって魔王を見つめる。



「…んで本音は?」

「…………あは」



 笑って誤魔化しやがった。



「お前やっぱり寝てたんじゃねえか!」



 どうして魔王はいつもこう自己中マイペースなんだろう。



 少しは相手のことを考え、慎んだ行動を取るべきだ。



 ここは少し、俺がどういう人間かビシッと厳しく接しなくてはならないようだ…。



「……でもね優さん」



 突然魔王から発せられた重圧に、少し戸惑いを感じつつ返事を返す。



「お、おう?」



 あれ、何か立場逆転してね。



 という考えに至ったが、どういった訳か魔王は何故か俺を侮蔑しているような目で見つめて来ている。



「いやね、意識を失っている間に私の体に何をしたかわ知らないし、だがら別に追求するつもりもないのだけれど、こういうのはちょっと優さんらしくなくていくら私でも嫌かな…」



 そういって魔王は服の乱れを気にしていた。



 どうやら寝ている間に俺が魔王に対して何か良からぬ事をしたのではないかと疑いの念を抱いているらしい。



 全く身に覚えの無い。明らかに一方的な魔王の勘違いだ。



「いやいやいやいや!!!!!!」



 まさに誤解だらけの発言に俺は全力で否定した。



 ともかくその優さんという呼び方をやめて欲しい。さん付けで呼ばれる度に背筋に寒気が走って仕方がない。



 怖すぎる、愛が重く感じるわ。



「いいのよ別に、私は優さんの物だもの。例えどんなことをしようとも私が優さんを嫌いになることなんてないんだから…」



 無情な事に俺の全力の否定を無視して魔王は続ける。



 聞く耳無しですか。



「待て待て! 違うっつってんだろうが!!」

「でも、できれば私は優さんと末長く、ちゃんと愛し合う中がよかったなあ…」

「遠い目してんじゃねえ! いいから落ち着け誤解だから! 取りあえず俺の話を聞けや!!」



 俺はぜぇはぁと息を切らて抗議する。自分が一番落ち着いていないと分かってはいるが、こんな身も蓋もない誤解をされてそもそも落ち着くというのが無理な話だ。



「ッフーンだ! どーぞ勝手に言ってくださいな、私に拒否権がなんてないことくらい知ってますから!」



 魔王はツーンとふてくされた様子で俺から顔を横に反らした。



 それでもようやく話を聞いてくれるくらいの気にはなったようだ。



 頭痛にこめかみを押さえ指で軽く揉み解す。押し寄せる疲れと呆れの波に深い溜息が漏れた。



「…つうか…それってただ単にこんなところで寝てたからじゃねーのかよ」



 硬い床の上で寝そべれば誰だって身体を痛める。それに魔王は夜中に寝ぼけて城の中をうろつく癖があるほどに寝相が悪い。



「それにお前、白木に何度か蹴られてたし、服装の乱れってのは連れ去られる際にできたもんじゃねーの知らんけど」

「…………さすがは優くん、私の出した謎を見事見破るとはね」



 何が謎なんだろう。魔王は暫く黙り込み、途端にッハ! とした顔をしたと思えばこれである。



 多分、勝手な勘違いを認めるのが嫌だったんだろうな、見事な言い訳っぷりだ。



「…それでご満足いただけたと認識していいのかな俺は」

「え? う、うん」

「んで、それに対して俺に言うことは?」

「……てへぺろ☆」



 片目をパチンとウィンクして小さく舌を出して見せた魔王。



 超うぜえ。



 俺は今日という日ほど本気で女を殴りたいと思ったことは無かったと思う。



「つうかお前、いつも積極的な癖して随分とピュアな心持ってんだな」



 そういうところだけは見た目通りの子供っぽい。



 魔王は俺の言葉に照れたように真っ赤に顔を赤らめた。



「…べべべべべ別に…そんなことくらい最初っからわかってたもん!優くんのバーーーカ!!!」

「ぐぼはぁ!?」



 魔王の突き出した右手が見事に溝にクリティカルヒット。



「っごふ…な、何故殴ったし?!」

「…私は体のあちこちが痛くて休んでたってだけで、ただ単に寝てたわけじゃないから!!」



 気持ちいいくらい俺の意見はあっさりと無視られた。



 なんだろうこの理不尽。



「…はぁ…まあ……そうだよな、元はといえば俺を庇って怪我したんだし…悪いな怒って」

「許さない!」

「ごぶはぁぁ!?」



 また魔王に殴られる。今度は顔だ。



「ちょ、今度は何?!」



 横暴にも程がある。 



「だって優くん…わざわざ危険な戦い方を選んだんだもん!」

「え?」

「優くんの実力なら危険を賭してまで戦う必要なんて無かったのに、わざわざ何であんな事したの!」



 あんな事っていうのは、恐らく白木の攻撃を真っ向から受けた時の事を指しているんだと思うが…。



 いや起きてたの寝てたのどっちだよ。知ってんじゃねえか。



 怒る気持ちを否定する訳じゃないけど、俺の心配をしているなら殴るのは止して欲しいんだけど。



「まあ…悪かったよ」

「…ん…もう…」



 俺は魔王の頭に手を乗っけて優しく撫でる。少しは魔王の怒りは落ち着いたようだ。



「…ま、まあ今回は特別に許してあげるんだからね!」

「はは、わかったよ」



 頭を撫でられたことに照れ隠しで怒ったのか、また顔が赤くなっている。



 ほんと、大人しくしていていれば可愛いんだけどなあ…。



「っもう…全く、相手が女だと優くんは甘いんだから」



 ボソボソと小さな声で喋る魔王の声が耳に届く。



 ……あの女?



 あれ、今日出会ったのは天馬てんま白木しろきくらいだよな? 魔王以外の女とは顔さえ合わせてていないはずなんだけど。



「(……そんな優くんだから…好きなんだけどね)」



 再びボソリと魔王は小さく喋ったようだが、声が小さすぎてよく聞き取れなかった



「あ、悪い。何か言ったか魔王?」



 ただ単に聞き返しただけなのに、目で見てハッキリとわかるほどの速度でみるみる魔王の顔が赤く染まっていく。



「へ? ど、どうした魔王!?」


 

 頭から突然湯気を出し始めた魔王に心配した俺は、熱でもあるんじゃないのかと顔を覗き込む。



 顔を近づけた途端、ビクンと魔王の身体が震えた。



「っひゃう!?」

「…ひゃう? 何変な声上げて…」

「う、うるさいばかあああああああああああああああ!!!!!!」

「ごぶらはぁ?!」



 魔王による全力の顔面ストレートパンチ。



 吹っ飛ばされて横たわる俺を見つめた後、すぐに顔を反らし。



 「ッフ、フーンだ!」



 とだけ言い残して魔王はズカズカと部屋を出て行く。



「……俺何も悪くなくねえ?」



 考えても今なぜぶん殴られたのか理由がわからない。そういえば魔王は何かおかしいことをいっていたような気もするけど、殴られたショックのせいか思い出せそうにない。



 というか殴られまくったせいで鼻から血が出てきちゃったんだけど。



「……まあいいや、いや、やっぱ良くない」



 取りあえず理不尽に殴られた件については後回しにしよう。



「しかし妙だな…もうとっくに部隊が部屋ん中に乗り込んで来てもおかしくは無いが…」



 そういえば足音が一つも聞こえない。



「こっちの出方を伺っているのか、まあまだ来る気がならそれはそれでありがたいか。余計に体力を使わない事に越したことはないし」



 既に裏口が封鎖されているのは目に見えている。



 さっさと魔王を連れ戻し、空間転移テレポートで逃げるか。



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