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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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男の夢(ロマン)



 感情はいつまでも静まることがなく荒波に揺れていた。その事の発端は魔王が死んだ事に起きる。



 俺は床に横たわっている魔王を見る。怒りの感情が湧き上がり、奥歯を力の限り噛み締める。自分の不甲斐なさに対しての怒り、魔王を殺した相手への憎しみ、魔王が死んでしまったことに対しての悲しみ。魔王に対する行為への激しい怒り。そして…守ることが出来なかった自分の不甲斐無さ。



 ザワリと波打つように様々な感情が巡る。同時に体内に流れる血液のように行きわたり、全身から自然に力が溢れ出てくる。今なら何でもできてしまいそうな、そんな子供の野心が生まれてくるような活気。



「…ほんと、謎だらけだな」



 競技場でのときに比べるとその力は劣っている事から殆ど戻ってきてはいない。関与を探ろうにも突然この力が現れては、気が付いた頃には消えてしまう。



 不安定過ぎて応用が利かない点もあるが、本来の要素を知らないから上手に扱えないせいだと思うが。



 現に力の乱れが不安定過ぎて抑えきれていない。



 ふ…ぐ…うぎぎぎ!!



 踏ん張ったところで意味なんてない。



 とまれぇええ!!



 念じても意味はない。



 穴の空いた風船に空気をひたすら吹き込むように、膨らみながら力が身体から抜けていく。蛇口から出てくる水を、満タンになったコップに注ぎ続けているようなもの。



 急に力が無くなってしまうのは、その力の制御が出来ずに枯渇するまで漏らし続けているから、そう俺は予想している。



 まあ、その力の源がどっから出てくんのか知らないんだけどね。



 もし寿命を削ってるとか言われたら駄々洩れだしその内死ぬだろうしなあ。あ、でもそれなら普通はとっくに死んでるだろうし違うか。



 本来あるはずの危険性が皆無っていうのも気になる。



 まあ、考えていても仕方のない事だ。



「どうした、掛かってこないのか?」



 剣を白木に向けて構える。何時まで待っても動かないのは様子を見ているという事か。



「さっきまでの威勢はどうしたよ、怖気づいたのか?」



 挑発に乗る様子もない、もしやあの一発だけで戦意を失ったとでもいのか。



 全く動く気配がないし、というかさっきまで感じた敵意がない。



「…………もしかして…気絶して」



 突然視界が眩い光に包まれた。



「っぐ!?」



 目晦まし…隙を見て詠唱していやがったな!



 咄嗟に瞼を閉じて視界を遮る。直で閃光を見たせいで視界がよく見えない。



 ボヤけた視界の中、小さな閃光が遠くで眩いた。



 ロクに見えない状態なら当たるという目論みだろうが…。



「あめぇ!!」



 剣を振るって飛んできた矢を弾き飛ばす。



「残念だが、その程度の小細工でやられてやれる程ぬるい世界に使ってきたつもりはない。盗賊相手に似たような小細工を散々受けているからな」



 複数人が相手ならまだしも、弓の一本や二本飛んでくるくらいなら目が見えなくとも気配を辿ればどうとでもなる。



 しかし意外だな、てっきり一撃で沈めてくるかと思ったんだが。矢の放たれた位置からして右肩を狙っていた…的中率を高める為に急所を避けて注意の低い箇所を狙ったか。



 思ったよりも冷静みたいだが…さて、次はどう出てくる。



 追撃に備えて身構える。と、もう一度閃光が光る。



 さっきと気配に変わりはない、二度も同じ手とは芸がないなあ。



 俺は迷わず腕を振るって矢を消失させた、その瞬間。



「あ?」



 大きな黒い影が瞳に映る。



 まだ視界が回復していないから正体が掴めないが、気配からして矢ではない、魔法でもない。



「っち!」



 咄嗟に剣を振るうと甲高い金属音が響き渡った。衝撃音から、手に伝わった手ごたえは紛れもない剣と剣が当たった時のもの。



「弓使いが特攻って…実は特技は弓じゃなくて剣とかそういうパターンだったりするのか?」

「…っく、どっちも防がれるなんて……」

「驚いているところ悪いけど、相手の視界を奪ったんならあんまし迂闊に喋らない方が身の為だぞ」



 俊足。猛スピードで白木に向かって駆け寄りぶん殴る。



 いい手ごたえだ、少しスッキリした。



 壁に叩き付けられたと思しき音が鳴ったところ、結構吹っ飛んだか。



「ごっぷぱはぁ!? な、んで…ッ!?」

「鼓膜に届いた際の声で向きを特定し、大きさで大よその距離を把握し、周囲に反響した振動で位置を固定する。目が見えない時の為にと身に付けた、まあ経験の差だ。目が見えていないからって油断したな」



 と、丁度いいところで視力も戻ってきた。



 何度か瞬きを繰り返してみる。うん、視界良好でよく見える、大体は治った。



「で、まだ続きを……」



 白木は床に横たわったまま動かない、今度こそ気絶したか。



「……魔王」



 白木を他所に、俺は魔王の元に駆け寄る。



 本当は白木の事なんてどうでもよかった。それよりも別の事で頭がいっぱいだった。



 今までの出来事で一つ分かった事がある。それは俺の力は想いの強さに比例して反応を示しているのではないかということ。



 もしかしたら…もしかしたら可能かもしれない。



 理を無視するような荒業でも顔色一つ変えずにこなせる力。本来なら強力な魔法であればある程に術者には対価を求められるが、俺には何故か無い。【反動】とい≪危険性リスク≫が。



 魔法が使える者が様々な形式で魔法を使う。すると対価として術者の持つ魔力と呼ばれる力や体力を奪う事で成立する。



 その時に代わりとして与えられる力が魔法だ。火の陣を書けば火が現れ、水の陣を書けば水が現れる。



 一見便利に思える魔法だが、当然落とし穴がある。



 詠唱から生まれた水は元々この世にある水分をかき集めて放出させたもの。石もまた同様に生み出したのではなく収集され構築されただけ。



 言い換えれば元々存在する物質を一瞬で集めて変換しただけで、無から生み出されたものではない。その為、世の法則に逆らう事がない魔法は≪危険性リスク≫を負う危険性は極めて少ない。



 術者に掛かる負担は実質的に考えて0体1だ。



 だがそれが動物や植物に変わると話はガラリと変わる。



 植物は一つの生態として命を持ち、動物もまた持って生まれた一つの体を持っている。



 持つものの意思、身体、構造、役割、知能、そして記憶。それらを魔法によって同じものを復元させるのは不可能とされている。どんなに試しても魔法として機能せず、無理に行えば発動が不完全に終わり、術者は同等かそれ以上を対価として失うだけ。



 腕を失った人間を魔法で治療する事は出来るが、それは傷口を塞ぐ行為に限定される。理由は皮膚の自己再生能力を高めるだけで、欠損したものに関しては一切触れていないから。



 もし炎で腕だけを焼かれて消滅し、それこそ灰も残らない状態、完全に世に無くなり消えた腕を元に戻せるかと言われれば、答えは不可能だ。



 切った腕があれば接合は可能だ、だけど壊死した部分は治らない。



 焼かれた腕は戻らない、だけど代用があれば。術者の腕を媒体に、全く新しい腕として再生させる事はできる。



 生命に大きく影響を及ぼす事に対しては、求められる対価は実質的に1体1となる。



 肉体の一部で同等の等価なら、それなら命になるとどうなるだろう。



 一人の命で、一人の命を生き返らせられるのか。



 魔法でそれが成功したという例は、この世に存在してはいない。





 そう、魔法では。





 俺のこの力なら、魔王を…生き返らせられるかもしれない。



 魔王を強く抱きしめる、生き返れと強く願う。



 何度も、何度も、何度も。結果は何度やっても同じだというのに。



「起きろ…起きてくれ魔王!!」



 返事はない、どれだけ揺さぶっても起きてはくれない。



 泣き出しそうになるのを堪え、拳を握り怒りを床に叩き付ける。



 くそ、くそ、くそだ俺は。



 出来ないなんて…そんなの初めから分かりきっていた事だった…分かっていたつもりだったっていうのに!!



 こんな力があったところで、肝心なところで結局は無力。あとに俺に残るものは空しさと深い後悔だけ。



 俺は魔王に悲愴な面を向けていた。



「……なんでお前は俺なんかを庇ったんだよ。あのまま庇わないでいれば、勇者の俺が消えて、魔王の身として嬉しいんじゃなかったのかよ…」



 目に熱を帯びて涙がこみ上げてくる。涙が出ないように堪えようとしているのに、堪えれば堪えるほど涙が溢れ出す。溢れ出した涙は頬を伝って、魔王の顔に滴り落ちていった。



「…お前がいつも好きだの愛してるだの言っていたのは、俺を騙す演技じゃなかったのかよ」



 少しくらいは魔王らしく…嘘っぽい演技をしとけよ。



「なんとかいったらどうなんだ、魔王………」



 何を言ったところで返事がくるはずもない。わかっている。目の前にいる魔王は一生動くことがないことなど。



 それでも呼ばずには入られなかった。生き返るかもなんて微かな希望を信じて。



 それでも一向に返事を返さない魔王に俺は乾いた笑い声を漏らす。



「何…してるんだろうな俺…」



 最後に一度だけ、俺は魔王の名前を呼ぶ。



「今まで…ありがとうな、楽しかったよ…魔王…」

「ん、なーに優くん?」

「………ん?」



 幻聴かと耳を疑った。



「あめんぼ赤いなあいうえお」



 大丈夫だ、ちゃんと聞こえてる。



「………んー?」



 視線を魔王の顔に向ける。



 目が合った。それに俺はゴシゴシと瞼を擦る。



 もう一度魔王を見る、今度は笑顔で手を振っている。



「………………あれぇ? ……………………えぇぇぇ?!」



 間抜けな声を漏らし驚愕に身を固める俺を他所に、今までピクリとも動くことのなかった魔王は平然な顔で起き上がった。



 さっきまで重く閉じていた瞼は、今はしっかりと開いて魔王の瞳が俺の姿を捕らえている。



「ま、魔王!? あれ、お前生きて!?」

「うん、ぎりぎり生きてるよ~」

「嘘じゃないよな!?」

「何がどう嘘を付いているっていうの、死んでたら喋らないし動いてないよ」



 そりゃそうだけど…。



 いや嬉しいけどね? でもさ、じゃあ今まで返事をしなかったのは何でなん……。



 よく見ると、いつの間に抜いたのか魔王に刺さっていたはずの矢が床に抜け落ちている。



「あれ…これ…」



 拾い上げてみる、そして鋭利な先端を見つめる。



 おかしい。刺さっていたのなら、本来あるはずのものが無い。



 俺は不可思議な出来事に混乱する頭を整理する。

 


(あれ、なんでだ。これって魔王に刺さっていたよな? 抜いて落としたならまだ納得がいくが……刺さっていたなら普通…)



「血が付着しているはず…だよな?」



 だが手に持っている矢にはどういう事なのか一滴の血痕さえ付いていない。



(…そういえば…大分あの時も混乱していて気づかなかったけど、出血した跡がどこにも見当たらない? どういうことだ?)



 一命を取り止めた魔王は何とか生きているが、もし怪我を負えば刃物が刺さったんだ、当然血を流す。



 それが肝心の魔王は血を流してはいないってのはつまりはどういう事?



 少し考えた後、俺の脳裏にある推論が浮かび上がる。



(つまりは…いやまさかな。でもそういうことになるのだろうか)




 俺は笑顔を浮かべたままギチギチと音を立てて首を動かす。




「あの、魔王さん? もしかして、もしかしての話だけど。初めから刺さっていなかったとかいうオチ? 人が散々呼んだのに起きないで、てっきり俺死んじゃってるのかと思ってたんだよね。うん。それで俺は白木に切れて力とか引き出したというわけよ。なのになにこれ、これだけシリアスな展開になってから実は生きてましたとかいうの? 気絶とかじゃないよね無傷だし、死んだふりしてたの? そうなの?」



 まさかの死んだふり疑惑に、俺はこの状況で起きた魔王に対して生きていたことの喜びが1割、そして怒りが9割を占めた。



「ち、違う違う断じて違うから! ここは感動のシーンだよね!? なんで私に向けて剣を構えるの?! 待って待って! 話を聞いて! これには深い事情があったの! だから剣を収めて深呼吸しようね! はぃ、吸って~吐いて~吸って~吐いて~…落ち着いた?」



 ふしゃー、ふしゃー。



 元勇者が吐くような呼吸でない音を立て、俺はなんとか心を落ち着かせる。平常心とまではいかなかったものの大分落ち着きを取り戻せた。



「…まあなんとか…じゃあ早速聞くけど、つまりどういうわけなの? 返答次第では…」

「だから剣を構えないでって! 大丈夫だから! 違うから!」

「…そうはいうけどよ」



 普通に考えて胸に矢が突き刺されば、万が一死ななかったとしても致命傷。すぐに処置を施さなければ死に至る。



 だが、魔王には矢が刺さったはずというのに、ところがどっこい致命傷どころか血を一滴も流していない。



「お前、身体は機械ですとか言わないよな」

「言わないよ! 私を何だと思ってるのさ!?」

「……………………………魔王」

「その異様に長い間は何!? 傷ついた! 色々と私の心は傷ついたよ優くん!」

「ッハ! 鋼のハートが何抜かしてんだか」

「純情な乙女のハートだよ!!」



 怪我をしていない時点で嘘だってばればれだっていうのに。何をそんなに必死にしているんだか。



 さっさと認めればいいものを…そうすれば寛大な心で痛い思いをするだけで済ましてやろうというのに。



 まさか、本当とでもいうのだろうか。いや、ありえない、常識的に考えてありえない…けど。



(…まあ服を脱がして胸を確認したわけではないからなあ…絶対とは言い切れないけれ……ど…ッ!?) 




 刹那、俺の脳裏に電撃が走る。




(……実際に胸を確認していないッ!? そうだ…まだ俺は怪我をしていないかなんて確認していないじゃないか!)



 変なところで俺のくだらない野望に闘志が付いた。



「待て魔王、その前に確認傷があるかどうか確認したい」



 魔王が口を開く寸前に手を前に突き出して制し、俺は魔王に傷の確認しなくてはいけないと主張する。



 これは勇者、いや…元の。どちらにせよ俺にとっては死活問題であり、確認しなくてはならない問題。



 否! 男として確認せねばなるまい!



 いつも積極的にアピールしてくる魔王に対して、そういうのを好まない俺だが、男のロマンとなれば話は別だ。



 さあ、見せるんだ魔王。万年発情期のお前だ、喜んで俺の意見を聞き得れてくれるだろう?



 さあ、さあ、さぁあああああ!!



「嫌」




 むちゃくちゃ冷たい声で一言でばっさりと拒否されてしまった。



「え、なんd」

「嫌、絶対に嫌」



 それも恐ろしく早口で。そして全力で。



 それから魔王は氷点下の如き凄く冷たい目で俺を睨んでくる。



「なんで?! 俺はお前が大丈夫かどうかを確認するがためにだな!!」

「いやだって優くん、顔がにやけてて気持ち悪いんだもん」

「へ?! あ~いや、それはその何と言いますか……というかお前、いつも好きだの愛してるだの、時には何してもいいよだのいってくるくせになんでこういうときに限って断るわけ!?」

「あれはあれ、これはこれなの! だから嫌!」

「わからん! お前の定義がわからん!」



 ち…ちくしょう!俺の求めている男のロマンが!



 ガックリとうな垂れ膝をつく。



 しかしいつまでもうな垂れているわけにもいかない。身体を即座に起こし、俺は魔王に本来の目的を話せと視線を送る。本題の話を中断していたまままだ話は終わってはない。



「んで、本当の事を言うとどうなんだ」

「えーっとね、優くんを庇ったときに刺さった矢はちゃんと私の胸に突き刺さったよ、まあぶっちゃけていえば死んでた」

「……ああ、確かにまるで生気が感じられなかったな…ピクリとも動かなかったし、でもおかしいだろ?だってお前生きてるもん」

「んーっとね、死んでるともいえたし生きているともいえた、

 しいていえば仮死状態ってところかな」



 確かに仮死状態なら生気が感じられなかったのにも合点がつく。寝ているのと違ってまるで意識がないのだ。それだとピクリとも動かず返事にも反応できない。



「矢が刺さる瞬間私は自分に魔法を掛けたの。全ての意識を一点に集中させる魔法。実際には全力攻撃をするため拳とかに力を集中させたりするための魔法なんだけど…私は意識と治癒能力を刺さった胸一点に集中させた。と言えば分かるかな」



 まあ説明すると長くなるし、多分分からないだろうから話すのはまた今度ね……と、魔王は簡潔に話の内容をまとめに入る。



 それでも全てを理解できていなかった俺は適当に脳内変換してみる。魔法関連に詳しいわけではないが、用はあれだ、よく聞く「この拳に全てを賭ける!」とかいうあれのことだろう。



 と、待て、それだと…。



 真実に触れてしまい、俺は小さく落胆する。



 てっきり友情パワーとか、思いの力とか、気力とか、全部込めた一撃を食らわすもんばかりだと思っていた。



(あれって魔法のお陰だったのか。小さい頃あんなかっこいいヒーロになりたいと思って『勇者を目指すんだー!』って目を輝かせていたっけ……なんか夢が壊れるな)



 まあ、魔王が目の前にいる時点で夢もへったくれもないけどな。



「まあ簡単に言えば私は、治癒能力と意識を集中させ、切断された血管を血が出ないよう閉じて、破壊された組織を少しずつ修復していたわけ!どう?凄いでしょお!」



 何てことのないように語る魔王に、俺は言った言葉の意味を知った瞬間に目を大きく見開いて驚愕し、同時に「はぁ…」と呆れた溜息を漏らす。



 凄いも何も定義が違っている気がする。



 俺の場合、今のところ分かっているのは魔法の基準に対する法則無視が可能だ。



 しかし魔王の場合は生命の定義自体を無視している。致命傷を自分の力で直す、それも一滴の血を流さず、無傷の状態にという。



 果たしてそれは人がなせる業なのか。死に抗う者。それを人は皆、不死と言うのではないのか?



 魔王の持って生まれた才は、もはや神の領域に足を踏み入れているんじゃないだろうか。



「お前…凄いも何も神業じゃねえか…回復魔法でも直せなかったような傷を一滴の血さえ流さずに治したとか…なんだそれ回復魔法とかいらないじゃん、……というかお前そもそも魔法使えたのかよ!」

「うん、とはいっても殆どの魔法は使えないけどね、使えるのは一般的な魔法だけ~」



 強力でもないただの一般的な魔法の能力を100%まで引き出だし、上級レベルの治癒魔法に勝る程に強力な魔法に仕立て上げる。血管や細胞に全意識を向ける。そんなものを人に成せられることではない。恐らくこれは、魔王にしかこなせない神業なのだろう。



(……ていうか英雄ヒーローが最後にかっこよく決める必殺技って、一般魔法だったんだね。禁じられた魔法でも特殊な魔法でもないし、挙句に上位魔法でもないのね…)



 なんともいえない虚脱感が全身を襲う。



 (いやまあいいけどね?俺もう夢に憧れる子供じゃないし、いいけどね?でも小さい頃憧れていた英雄ヒーローのイメージをこれ以上壊さないでくれ)



 魔王のずば抜けた集中力にただ漠然と驚愕し、同時に小さい頃に憧れた英雄ヒーローにただ落胆していた、その最中だった。



「ど、どういうことだこれは? 魔王は死んでいたはずじゃ…なぜ生きている? 私が意識を失っていた間に何があった!?」



 突然白木が声を荒げ始める。その目は血走り、煌びやかだった服はボロボロ。体中につけていた高そうだった指輪やネックレスは砕けて床に転がっている。



 声までもが裏返えり、最初にあったときの面影はもはやどこにも残されていない。


 

「やっとお目覚めか」



 その白木の無残な姿に、俺は半眼になって思い出したように呟く。


 

「魔王が生きているのもお前が原因なのか!? 他者を一瞬で呼び寄せる力、そして生き返えす力…今までに実在していた勇者の過去の経歴、どれも存在している勇者達は確かに凄いものだった。だが、そこまで常識を覆せるほどにデタラメな力じゃなかったぞ!!!」



 一つ勘違いしているところがあるようだが、それに答える必要はないと俺は判断した。相手がそう判断しているなら、相手の頭では答えとして出来上がっていたからだ。だから俺は白木の問いに何も答えない。


 

「お前は…お前は本当にただの勇者なのか?!」


 

 白木は俺のことを元勇者とは呼ばなかった。



「俺が勇者なのかだって?」



 別に元勇者と言われようが関係ない。誰がなんと言おうが俺は今でも自らを勇者だと思っている。



 自分が勇者だと、そう思ってしまえばそれは列記とした勇者と自分の中で定義付けられる。



 誰かを助けたから勇者になれる。世界を守ったら偉大なる勇者として名を刻む事が出来る。それらを成し遂げたから、それらを成し遂げられなかった者は勇者と呼べないのか。



 それに違うと俺は否定する。



 勇者とは、自分の思い描いた存在こそが勇者として生きて語られるのだ。

 


 例え周りを敵にしても村を守ろうとする、ある一人の勇者が存在していたように。



 その勇者は必ず約束を守り、家族を大切に思う。ただ唯一の憧れの存在だった。



 そしてその勇者同様に今の俺は世界を敵に回している。魔王という守らなくてはならない存在がいる。



 なら魔王を守る勇者となればいい。



 そこに元が付くことも、別な答えも理論には存在しないのだから。



「そんなこと、そうに決まってるだろ?」



 だから俺は肯定した。



「確かに他の勇者とはちょっと違うかもしれない…けど、それでもただの平凡な勇者の一人だよ」



 勇者として生きる者として。



「そして私は魔王、魔界を統べる優くんラブの王だ」



 「そこは決めるところだろ!」と、俺は魔王を睨みつけるが、いっちゃった後では今となっては無駄。むしろ突っ込むと思い切り台無しになると思い止める。



「……優くん」

「ああ、気づいているよ」



 少しづつ何かが近づいてくる感覚に異変を覚えていた。



 魔王の姿が忽然と消えてあら慌てて戻ってきたといったところか。随分と来るのが遅かったようだが、今では外から幾つもの足音が聞こえてくるところ、どうやら住民等が戻ってきたようだ。



「これで場が揃っt」



 ガゴン!!!



「うぉおおお何だぁ!?」



 突如部屋に何かが打ち込まれる。それにより壁には大穴が開き、広く外が見渡せるようになる。



 外では大砲が置いてあるのが見えたところ、部屋に打ち込まれた正体は砲弾か。多くの武装した兵隊が城を囲むように配置されている。



「おいおい…それに大勢の兵隊がおまけ付きかよ」



 部屋には既に武器を持っているであろう住人等が侵入済み。



「…で、お前はどうするんだ?」



 そういって、俺は白木を見つめる。



 てっきり戦意を失っているかとも思ったが、まだ戦う気力は残っていたらしい。



 再び弓を構えた白木の姿を見つめていた俺は、思わず笑みが零れ落ちる。



「そうか…なら全力で掛かってこい」



 互いに武器を構え、見合う。




「俺の全てをもって、お前の全てを捻じ伏せる!」


 


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