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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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こんなの一方的だよ、リンチだよ、フルボッコだよ。いいぞもっとやれ。



「きひ、雑魚がいくら集まったところで…」



 チェックの愉悦は止むことはない、遊び相手が増えたという感覚か、それとも喰う為のエサが増えたという認識でいるのか、ひねくれた野郎だ。



 瞬きをしない内に目の前から姿が消える。何度目視で確認しようとも動いた姿が確認できないとなると、信じたくはないが時間を操っているのは本当で間違いない。



 さて、俺を除いた三人はチェックが消えた事に戸惑いを隠せない様子…。まさかあの一瞬で背後に回られたとは夢にも思っていないのだろう。



 無防備な姿を晒したままのブライトへとチェックの牙が向けられる。



「む、何処にいった」

「後ろだおっさん!!」



 剣が音を立てて攻撃を防ぐ。奴の攻撃を防ぐのは容易い。何せ奴の行動は常に同じで単調だ、必ず姿を消すと同時に背後に回るのだから。



 後手にまわると判断すれば何かをけしかけてくるやもしれないが、状況の改善がない限りは大きな仕掛けを打ってでる可能性は低い。



 再びブライトの背後で大きく口をあけるチェックに目掛け、すかさず剣を振るう。だがその目は前を向いたまま避ける気配が無い。



 ……何だ。一歩二歩という至近距離だ、この距離なら素人だって当てられる。外す気は無いのは百も承知のはずだ。



 まさか……!



「下がれ!」

「むう!」



 斬り付けるのではなく、力任せに押し付けてブライトの傍からチェックを引きはがす。



 その隙を垣間見たブライトは続けざまに剣を振るおうと身構えたが、危険を感じ思い切り肩を掴んで後ろへと下げる。



 あの行動からして反撃されることにまるで躊躇が無い。身の危険を垣間見ないというよりも、身の安全が保障されているから行えたに違いない。



 恐らくは少女を抱きかかえていた最中、目を離していた隙に防御結界を張り直したと見ていい。



「気を付けろ、奴には並大抵の攻撃は効かねえ…そういった結界を自身に張り巡らしている」

「ふむ? 結界か……複数使うとなると共食いをしたようだが。……つかおっさんという呼び方やめないか、俺はおっさんじゃないといったはずだが」

「んなどうでもいい嘘話は後で幾らでも聞いてやる、それより続きを言え」

「…………ところであれは何の類か分かるか? 瞬間移動か何かのように見て取れたが」



 凄く納得のいかない様子でしぶしぶブライトは答える。



 呪人であるチェックが複数の魔法を使用している事に驚かないところ、俺よりもおっさんの方が呪人に関しては知識があるのか、戸惑いも見れ無い感じからしてあまり珍しくもないのだろうか。



「違う、どうも奴は好きな時に好きなだけ時間を操れるらしい」

「…それが本当ならシークレット級の化物…≪神人しんじん≫が相手だが…」



 久しぶりに耳にした言葉だ。あまり口に出したり意識したりはしなかったけど、確か危険視される際に付けられる階級だった覚えがある。



 大概の相手なら強さを階級で表せられるんだろうけど、対峙する属によっても名称が変わるから覚えるの面倒なんだよな。



 それでもうろ覚えで覚えているといえば、前に倒したドラゴンが≪竜忌りゅうき≫と呼ばれていたはず。それに比べて奴はシークレットやら神という神々しい言葉が出てきたもんだ、神というくらいだし相当にヤバイというのはだけは分かる。



 ただし、それは完全に時を止められる事を前提にだろうな。



「安心しろ、奴の時間操作は不完全だ。おっさんの思っているような化物じゃないとは思う」

「だろうな、でなければ今頃とっくにあの世だろう」



 わーお、なんて説得力のある言葉。



「ああ、でも油断はするなよ。まだ他に何かを隠していたからな…奴は今までに時間操作、防御結界の他に再生能力や物体を動かしてみせている」

「言われなくとも油断できる相手ではない、時間を操作できる時点でそれ即ちこの世を一瞬でも支配できるということだ。どの道奴の起こした騒動を含めれば階級≪神≫の位置は揺るがん」



 まあ、時を僅かにでも意図的に操れるくらいだしな。強敵に変わりがないのは当然だが…しかしあいつが神と言われるとは…。



 チラリとチェックを見つめる。奇声を上げて身体は血まみれ、見開ききった瞳は人形なのに充血している。不気味さは満点、夜中に遭遇したときの絶望感は凄そうだ。



 ただなんていうか、神と言われる相手がこう品性に欠けるとなると、想像していたのとはかけ離れててしっくりこない。それに手を合わせてみても、神と名付けられる程に畏怖される強さにも思えないが。



 それとも今までの奴らが神レベルに強い異常者だったのかも。とはいえ一人で適う相手がどうか怪しいのも事実、そんな神と呼ばれた化け物がほいほい居られたら敵わないしこんなものなんだろう。



「…で、どうする。無闇に突っ込んでも奴には掠り傷すら負わせられない」



 いや、そもそも突っ込むのは駄目だ。少女に危険が及ぶ可能性がある。



 それに此方が先に仕掛けようにも奴には時間を止められる。不意を突こうにも二度も同じ手が通じるような相手ではない。



 かといってこれでは悲しい事に無策を承知で剣を振るうばかりで、単に体力と時間を消耗しているに過ぎない。長引けば少女を守り続けるにも限界が生じてくる。



「そうだな、まずはあの動きを止めないとどうにもならん…という訳であんちゃん!」



 今の何がという訳で? そう首を傾げそうになるが驚く事に意思が伝わっている。ブライトがフィレットを呼びかける時には既に動いていた。



 笛の音色が鳴り響く。穏やかな曲が鳴り響き、淡い光が全員の身体を包み込む。



「んー…?」



 足を止めてキョロキョロと淡い光を不思議そうに見つめるチェックだが、身体に包まれて消えたかと思えば何も変化なし。見るからに魔法、しかし目立つ身体への向上や低下も無い。



「あれ、消えたけど…? きひ、失敗? それはーざーんねん!」



 そういって、チェックは隙だらけとなったフィレットの背後に立つと、そのまま首筋を狙って噛み付いていく。



「…あれ?」



 フィレットは微動だにしていない、だというのにチェックは急に身体の向きを変更させて、何もないところを噛み付いた。



「あれ、あれ、噛めない…?」



 何度やっても結果は同じ。演奏が終了し終えたフィレットは、落ち着いた様子で静かに話す。



「……休戦協定…今この時を持って貴方は僕らに一切の攻撃をできなくなりました」



 確認をとるべく此方に向けて噛み付いてくるも、避けずとも勝手にチェックの身体が回避行動をとってくれる。



 チェックとはまた違った攻撃の無力化。だが、何故ここで…動きを止めるも何も、これだとお互いに何もできないが。



「安心しな、確かに手は出せないが…」



 此方の意図を読んだのか、ブライトは俺の肩に一度手を置くとチェックの方に向かって歩き出す。



 再び笛の音色が鳴り響いた。先ほどとは違い音の響きが重い。



「『撃奏、嘆きの心』」



 するとチェックを中心に地鳴りが響く。かと思えば足元の地面が一瞬にして砕け散り、チェックの姿勢が地面に向けて下がっていく。



 一体何をするのかと思えば…なーるほど、直接危害を加える目的以外なら反則技として攻撃が可能なのかーって、いやいや何それ普通にずるくね。



 ただでさえ一人に対して複数で戦っているのに、恐ろしいコンボで追い詰めるとか悪魔だよ。涼しい顔してフィレットとかいう青年悪魔だよ。



 何が休戦協定だ。こんなの一方的だよ、リンチだよ、フルボッコだよ。いいぞもっとやれ。



 しっかしそんなの食らったら、俺だったら思わず『この鬼畜外道があああ』と叫んでしまうね。鬼畜はこっちだとして外道は敵だけど。まあそんな冗談はさておき。



「あ、あれれれれれ…な、何で…効いて…?」



 地面に膝をついたチェックに向けて、フィレットは静かに語る。



「貴方の周りから奇妙な気配が感じられたので、本人のみ重力による圧力が何倍も重く圧し掛かるようにしました。動こうにも立っているだけでやっとなはずです」

「まったく、あんちゃんの音色はおっかない。やはり幻惑の類か? そうなると対処するには鼓膜を潰す他に手がないな」



 そういって、ブライトはチェックの元に近づいていく。いくらフィレットが動きを封じたとしても無防備過ぎる、万が一を考えて距離を取るべきでは。



「おい、不用人にそいつの傍に近寄るな、危険だ!!」

「つってもこの様子だと動けないだろう、モタモタしている時間はない」

「しかし奴はまだ何か隠している! それを見せていない限り油断はできない…だから気を抜いて隙を見せるなよ、仕掛けてくるぞ」

「心配性だなあんさん…ならよ、こうすれば満足か? ……『止まれ』」



 眼帯を外し、ブライトがチェックの瞳を覗いた事で動きを封じる。



「おっさんの言う通り…モタモタしてても仕方がないな」

「…急に強気になったな」

「何いってやがる、そっちの意見に賛同したまでだ…くっくっく、フルボッコにしてやる」

「あんさん、完全に悪人の面してるぞ…」

「何いってやがる。…それよりも」



 チェックの微笑が崩れない。倒されるという恐怖が無いとでもいうのか。



「きひ、きひひ」



 …妙だ、身動きが取れないはずなのにこの余裕は何だ。ハッタリか? それとも様子を見るべきか。しかしブライトの効力を受けている以上は何もできない…か。



「…ああ、分かってる。あんちゃん、念の為に次の手を打てる準備をしておいてくれ」



 少女とフィレットは傍から離れ、俺とブライトは前方へ。相手の身動きが取れない今が好機、万が一への準備は万全だ、ぬかりは無い。これまでのチェックの能力では、この状況を覆すのは不可能だ。



「一分だ、それまでに一気に片をつけるぞ」



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