表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
11/112

強いからだよ



「…触れるな」

「うるせえ! 邪魔だ偽善者風情が!!」



 突き飛ばされるも身体に力が入らない。



「汚い手で…触れるんじゃない」



 他人が魔王に触れている。それを見て呼吸が荒く、心臓がドクンと大きく脈を打った。



 呆けている場合ではない。まだその時じゃない。



 奴らは魔王をどこかに連れて行こうとしているのに、俺は何をしている?



 その行動を阻止すべく体が無意識に動き出す。動けなくなった魔王をいいように弄ぶ。そんなことをさせていいわけがない。



「失せろ…さっさと…じゃないと…!」



 魔王は死んだ。その結果を招いたのは俺の不注意によるものだ。



 だが元を辿れば、ことの発端を起したのは。


 

 ゆらりと身体を動かし顔を白木に向ける。その犯人である白木は優々と立っている。



 心がざわついた。



 目の前の人間が、魔王を殺したのだ。



「…ゆる…さねえ…!」

「…さっきから何言って」



 言葉など既に耳に届かない。殴り倒したい衝動は後回しだ、今はは魔王を取り返す目的のみ。



 これ以上、魔王に…触れるな。そいつは…何も悪い事をしていない。



「はぁ…ぶつくさと独り言を言い出したかと思えば…何無視ぶっこいてんですか?」



 白木が俺の肩に手を置いて突っかかってくるが、構わず魔王の元へと近づこうと歩を進める。




 ――ッゴン



 

 頭に鈍い音が響いた途端、視界が揺らぎ鋭い痛みが走る。鈍器のようなものでで強く後頭部を殴られたか。



 視線だけを白木に向ける、手には大きな石が握られていた。


 

 ぐらりぐらりと視界が乱れ、歩こうにも足元が覚束なくなる。殴られた衝撃によって軽い脳震盪を起こしたようだ。



「ぅ…ぐ…」

「…人が折角殺さないでいてやっているのに、さっきからその態度は何? お前ぶっ殺されたいわけ?」



 優位な立場に置かされている状況化の中で、白木は堂々と無視されていることに苛立ちを覚えたようだ。



 その後も何やらモゴモゴと口を動かして喋っているようだったが、その言葉はよく聞き取れなかった。



 まあ、聞こえたところでどっちにしろ、そんなことは関係のないこと。



 だから無視した。魔王の元に行こうと再び歩を進める。



「っち! おい! 無視してんじゃねえよ! もう死んでる死体なんかどうでもいいだろうに!! あんたは自分可愛さに俺に助けてもらえるよう見っともなく懇願してればいいんだよ!!」



 とりあえず、朦朧とした意識の中で白木が俺を煽っているのだけはよくわかった。



 何だ、煽られているのか。戦えっていいたいのかこれは。



 とはいえ、所詮はただの戯言だ。茶番に付き合うつもりはない。



「っくそが! もういい! 魔王と同じ元に送ってやるよ!!」



 ただ、そんな戯言にも。



 たまにどうでもいいような事で無性にムカツク事だってある。



 例えば…本当に勇者なのかと疑われたところ、そして魔王を馬鹿にした事とか。


 

「自分の人生に後悔しながら死にな! 三下!」



 そういって、白木は恐ろしく洗礼された動きで素早く矢を打ち放った。



 本来であれば弓なんてものは至近距離で放つものではない。遠距離から一方的に狙うのが本来の戦法だ。だというのに、こうして自ら姿を現していた時点で白木は自分の腕を相当に過信している。至近距離という圧倒的に不利な立場でも勝てるという自信が。



 確かにその動きはまるで無駄がない、弓を打つ際の姿勢は熟練者そのもの。



 でも所詮は弓だ。どれだけ腕を磨こうとも構え、引き、放つまでの間は生じてしまう。



「おせぇよ」



 拳を握り、俺は振り向く際に腕を振るった。



 その瞬間、放たれた矢は一切の痕跡を残さず消失する。



「え?」



 それに白木は目を見張っていた。



「あ、え、今何が…」



 どうやら忽然として矢を消されたことに戸惑いを感じている様子。



 いや、それとも後ろを向いていたにも関わらず反応できた事についての驚愕か?



 我ながら反射神経は凄くいいよなと自画自賛できるけども。



「…だからってお前、何をそんなに驚いてんだよ、隙だらけだぞ」



 呆けたままの白木を他所に、俺は勢いよく一歩前に踏み出た。



 初速から一気に加速し、瞬く間に目の前にまで距離を縮めていく。



 反応が遅れて動きを止めたままの白木は防御に出る間も無く、俺はそのまま無防備な腹部を殴り飛ばした。



「っご…がぁ?!」



 呻き声を上げながら、殴られた勢いで白木は壁に激突してめり込む。



 これで邪魔者はいなくなったと踵を返して魔王を追いかけようとしたが、既に住民は一人も見当たらない。こんだけ時間が経ってれば当たり前か。



「っち、逃げ足の速い…」



 窓から外を見渡すも人一人として見えない。別ルートから去ったか、もしくはとっくに遠くにまで去ったか。



 それでも魔王を抱きかかえているくらいだ、今から追いかければ追い付けるはずだが…。



 無言で出て行った先を見つめる。万が一にも待ち伏せされていたら、抵抗されたら面倒だ。



「…無闇に使いたくはないが…しょうがねえ」



 瞼を閉じる。何処まで連れていこうが距離なんて関係ない。



 連れ去られたのなら呼び戻せばいいだけだ。



「ぐっ…な、なにが!?」



 そういって、意識を取り戻した白木が俺に視線を集中させ、そして言葉を失う。



 指で弾かれたような小さな音とともに、途端に魔王が俺の目の前に横たわる姿で現れる。



「――ッ!?!?」



 瞬きすら許されない一瞬の出来事。



「っはぁ!? て、転移魔法!? そんな魔法を発動させるような仕草は無かったはずだ!!」



 白木は目の前の非現実的な状況に混乱した様子で常識を語りだした。



 俺の身としては常識を今更言われても、そもそも常識で通用しないのが分かり切っているのだから聞いていてもしょうがない。



 特別な事は何もしていない、大掛かりな作業も行っていない。



「いや…仕草も何も、そもそも魔法陣自体ないしな」



 ただ俺が行ったのは。



 理念、思想、幻想、思惑、祈り、願い、想い、そして…奇跡。



 それら全ての思いを乗せたら具現化できる。



 なーんて言っても信じられる訳もない。



 本来で言う魔法は【空間転移テレポート



 仮にA地点とB地点があったとすると。



 A地点が現在地とし、魔法の紋章を象った陣を作成する。そしてB地点を目的地と仮定し、A地点にある陣とはまた別の陣を添付する。これで起動前の前工程が終わり。



 完成後、A地点である現在地から移動したい目的地B地点へ移動するよう念じる。きちんと発動すればやったね見事転移成功! 



 とまあ色々と省略した簡単な過程だが、本来ならそれらの作業が必ず必要になった…はず。



 よく覚えてないけど確かそんなんだった気がする。



 まあそもそも俺の場合だと、対象が動いている時点で地点の指定もへったくれもない。移動手段よりも呼び寄せるという方法に近いから転移とはまた違う気もしなくもないが。



「そんなのハッタリだ! 俺を惑わす目的か!? 騙されないぞ……いつ詠唱した! 何処に陣を隠していた!?」

「…んな事いったってな…詠唱も陣もないっつの」



 俺の言葉を聞いた白木は比較的整った綺麗な顔をぐしゃぐしゃに歪める。突然のことに驚きを隠せず、わなわなと口を振るわせていた。



「ふ、ふざ、…ふざけるな! そんな事が可能な奴が…そんな人間が存在してたまるか!!」

「酷い事いうな、それじゃ周りの人間から見たら俺等は化物だって……」



 ……あれ、言っててあながち間違ってないかも。



「お前、もしかして自分より強い奴にあった事がない口か?」



 同じ立場、同じ境遇に近い者が分からないのか。



 呆れるな、そんだけ俺が弱そうに見えたってことか。まあ、否定はしないけど。



「こうして俺に挑んできたくらいだ。知っているとは思うが、俺は生まれたときからまともに魔法が一つも使えた事が無かった」



 水を出せない、火も出せない、強化系も使えないし、回復だろうと何だろうと。魔法となるその全てが扱えない。



 それは才がないのか。それとも――。


 

「でも俺は一度勇者の座に上り詰める事が出来た…何でだかわかるか?」



 この力が何なのかは知らない。



 だが、それでも一つだけ言えることがあるとすればそれは。




「強いからだよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ