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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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次に会う時は



 ハッキリと申し上げたら、それはどんなに気持ちの悪いものだろう。二つとない自身という存在が、実は違うものだったという可能性が生まれてしまったとしたら。



 唯一無二のその存在が、感覚が、感情が、それは自分の意思とは関係の無い、無意識に操られて作り出される偽の人格ではないのかと。



 鳥肌が立てば血の気は引いていく。息苦しさに酸素を求め、吐き出した息とともに全てを吐き出してしまいたくなるような嗚咽が混じる。



 ただ、それでも勘違いしてはいけない。間違えてはいけない。例えそれが本物ではなかったとしても、今そこに存在しているものは何者でもない、本物としてそこに居るのだから。



 元がどんなものか分からない、それともただ単に記憶を失っているだけで本物なのかもしれない。けれども失った記憶が戻らないとなると、過去の自分という存在が何だったのか、今こうして実在して、考えて、思った行動を移す結果を生み出したのは、過去のままか今による未来のものか。



 どちらだとしても、必ずはどちらかに偏るものだ。過去の断片的な記憶を頼りにするか、今を生きた自分を貫くか。果たしてどちらが正しいものなのだろう。



 勘違いしてはいけない。どうして生きているのか、記憶が曖昧なのか。その全てを知る可能性が一番に高いのは、最も自分を知るものは己自身ではない魔王なのだから。



「…恐らく謎の鍵を知るのは魔王だけ」



 だからこそ、演じ続けながらも何時かは問わなければならない。魔王が何を考えて、一体何を行ったのか。そして一番に謎なのが、あれ程までに好意を寄せた魔王が、どうして10年近くもの間を俺の元から離れていたのか。



 今になって、どうして魔王は俺の傍に居続けるのだろうか。



「あいつは…どう答えるのだろうか」



 はぐらかすのか、それとも押し黙るのか。もしかしたらまた俺の元から離れていってしまうのかもしれない。語らないという事は、語りたくないから秘密にしているという事。聞かれないから、ただ何も答えずに黙って隠していたという事。



「怪しい行動を起こせば、必ずあいつは行動を移す」



 これまでの魔王の行動は、時々奇怪な行動を起こしながらも、適当に見えても何かしらの結果を残していた。まるで、問題を起こす事で他の事から欺くように。



 不思議で仕方が無かった。魔王のただの『悪ふざけ』による発言で、まるで初めからそうなる事が分かっていたかのような素早い処置で行われた指名手配に。



 誰が魔王本人による彼女だなんてふざけきった放送を鵜呑みにするのか。予めにに魔王は知っていたのではないのだろうか。既に何者かの手によって危険が迫っていた事を。



 深く考えれば考える程に謎は謎を呼んでいく。



 あれだけ立場を悪くするような口外を行わなければ、暫くの間は断固としてあの場所から離れたりはしなかった。逃げ出す事なんて真似は絶対にしなかった。立場が立場である以上、守るべきものから命を狙われるだなんて危険性は無に等しいはずだから。



 けれども、実際にそれとは異なっていた。あまりにも対応が早すぎていたんだ。



 ただの子供の悪戯だったら、そんな可能性だってあるだろう。それなのに僅か一日足らずで国の勢力を上げてまでして自体を収束させようとした、その根拠は何処にあった?



 万が一を考えれば当然の事だったのかもしれない。が、しかし仮にも相手は一国である王に認められた勇者だ、早々たるに疑いを掛けて賞金を掛けるなんて、やはりどう考えてもおかしい。



『私を恨んでいないの?』



 魔王の言っていた昨晩の言葉がさっきから離れない。客観的に考えれば魔王は後悔していたようみ見えた。ただの悪ふざけだったのなら、一大事になった途端に冗談のつもりだったと無責任に逃げ出しそうなものだというのに。



 けれども、魔王は一言も弱音を吐かなかった。命の危険に脅かされても魔王は俺の傍から離れたりしなかった。



 どうしてだろう。何でだろう。本当は薄々感じてはいたのに、答えを探そうと模索すると必ずといっていい程に一つのある結果に結び付いてしまう。



 魔王は何らかの情報を知っていて、ワザと存在を明かす。それによって自身にも危険に晒されると承知の上で、けれどもそれは初めから決まっていた事で。



 当たり前と思いながらも恐ろしくもあり不思議でならなかった。魔王の摂理を超えたあの治癒能力に。



 だからこそ、自分の持つ力が恐ろしくも頼もしく。それでいて人間ではない何かと言われた方が現実味が湧くくらいに、もしもそれが禁術だったとしても、平然とこなす魔王と俺はあまりにも異質だ。



「…なあブライト」

「どうした」

「アンタいったよな、呪人はまだ死んではいないって」

「ああ、言ったが…」



 倒れたまま動かない少女を見つめる。生気が感じられず、まるで死んでいるように、それでいて人形のように。



「じゃあ、彼女もまだ辛うじて生きているって事だよな」

「いや、死んだよ。とはいっても本体はな、辛うじて中身は残してあるが」

「…中身?」

「お嬢さんの中にある、そうだな…魂、それとも記憶と言えばいいか。まあそれが僅かばかりだがな。殆ど破壊したから動くことも直す事も出来ない、それでいて僅かに残された意識も殆ど消えかけで、もうお嬢さん個人の意識という概念は残っていないだろう」



 そういって、ブライトは少女の傍に近寄ると、閉じた瞼をこじ開けて瞳の奥を覗き込む。



「…それで、アンタは一体何をするつもりなんだ」

「あんさんのように、とはいえ少し荒くなるがお嬢さんの記憶を覗く」

「おいおい…覗いてどうすんだよ」

「分からないのか? 解除するんだよ、呪人に命令された術式を。そうすれば危険対象に変わりはないものの、生かしておいても問題は無いレベルまでは抑えられるだろう」

「…しかし覗いただけじゃ…もしかして解けるのか?」

「いいや、俺が見たところで恐らくはサッパリだろうな。だからこそ、僅かに残された意識を利用してお嬢さん自身に解かせる」



 そう平然といいのけたブライトの姿に、優はしかめっ面になると一歩二歩三歩とブライトの傍から離れていく。心無しか、フィレットまでもが引きつった笑顔を浮かべて数歩後ろに下がった気がする。



「清々しい顔でおっかねえ事いってんじゃねえよ」

「そうは言うがあんさんも身を持って体験しただろう、これはその為の目でもある。利用できるものは活用するべきだろう?」

「…まあ、それで問題が解決するようだし、俺がここにこれ以上いてもしょうがないよな、という訳で」



 そういってブライトは微笑を浮かべる。なるべくコイツとは関わりを持たない方がいいのではないかと、優は急いでこの場を去ろうときすびを返す。



「ああ、そうだな。これであんさんとの縁もここで終わりだ」



 言葉通り、今日あった事は無かった事に。それは次あった時はまた敵として対峙する事になるか、それとも味方になりうるかのどちらか。



「…ああ、次に会う時までには、また幾つか土産を持ってきてやるよ」

「そいつは楽しみだ」



 お互いそれだけを言い残すと、優はその場を後にしていく。



 もう対処法が見つかっているのなら、これ以上に此方が関わる必要もない。あとの事はブライト達に任せ、早急に魔王等を集めこの町を出ていくべきだろう。



「ああ、それと言い忘れたが」



 まだこれ以上何かあるというのか、ブライトが此方に向けて何かを喋っているが、聞こえていないふりをして進める足取りを早くする。


「俺はまだおっさんじゃねえ、これでもまだ二十四だ」

「何処が!?三十代後半って言われた方がしっくりくるわ!!」

「…嘘はよくないですよブライトさん」

「………」



 優に全力で否定され、更にはフィレットにまでジト目で見つめられたブライトは、納得のいかない面持で黙り込んだ。



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