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【ミソロジーライフ】  作者: 文悟
説明書
9/20

チュートリアル「3」:最後に(2)

長かった。


書いてた本人が長さにダウンしそうになった。←


これにて序章・【説明書】が終わります。


次回からはもっと読みやすくいい感じの文字数になるように頑張ります。たぶん。


評価、登録、感想、ありがとうございます。

リクエスト、アドバイスもお待ちいたしております。


4/15(月)誤字脱字修正

さて、あんなものが戦闘と言えるかは甚だ疑問ではあるが、なんにせよ九郎たちは今度こそチュートリアルバトルを終えてリビングへと戻ってきた。


「おちゃをいれてきます」


再びテーブルに着こうとしたところでオキツヒメがそう言って気を利かせてくれたので、九郎はオキツヒコにもお茶請の用意をお願いした。


お茶に使うお湯はすぐに沸き、買っておいた安物のお茶(緑茶)はお茶請けのお菓子(ストレス減少アイテム)とともにカップラーメンを待つよりも早く九郎たちの前に並ぶ。


「流石はかまどの神様だな」


二度三度息を吹きかけ九郎は早速お茶をいただいたのだが、これはなかなかと唸った。

安物のはずのお茶は高級なそれとかわらないくらいの美味しさだ。

まあ、高級なお茶など飲んだことはなかったが。


「どうですか?」


オキツヒメが不安そうに九郎を上目遣いに見つめる。

そんな顔をせずとも九郎の答えは決まっている。


「凄く美味しいよ。お茶入れるの上手だねヒメちゃん」


「えへへ~」


九郎は微笑みで返し素直な感想をのべた。

嘘偽りなく美味い。


呼々もウカノミタマもそれには同意しオキツヒメを褒めてやっていた。

もちろんオキツヒコも労った。




「さて、それでは最後の仕上げといきましょう」


改めて全員が席に着いたところで呼々がまた拍手かしわでを打った。


「残る項目は【ボーナスポイントで成長させよう】と【評価ポイントでゲットしよう】の二つです。先ずはボーナスポイントの項目から。……ゲンクロウ様ステータスメニューを」


「ああ、はい。えっと……」


オプションで表現を変えたが結局呼び出すには『情報』と言わなければならない。

九郎としてはもっと雰囲気のある呼び出し方をしたいのだが、そこは仕様でどうにもならなそうだった。


「『情報』」


九郎は呼々の指示に従いステータスメニューを呼び出した。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


            《ステータスメニュー》


◇プレゼントが 2 件届いています!


◆使用可能なBPボーナスポイントが 3 あります!


☆メッセージが 3 件届いています!


★仲間が 2人 レベルアップしています!


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


▼プレイヤー情報


▼装備


▼アイテム


▼コミュニケーション New!


▼オプション


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




「あっ、何か新しい情報が表示されています。プレゼントとBPとメッセージ……あと仲間がレベルアップしたみたいですね」


「……こちらでも確認しました。プレゼントやメッセージは見ての通りです。プレゼントはまたあとで報酬分が増えますからまとめて確認してください。メッセージはコミュニケーションからでもおしらせからでも確認できます。仲間はオキツヒコとオキツヒメのレベルが上がったようですね。これもあとでいいでしょう。メッセージと同じくコミュニケーションでも確認できます。とりあえずここではその新しく出た使用可能なボーナスポイントという項目を選択してください」


「了解です」



指示された項目をタッチすると、気の抜けた電子音とともに表示が切り替わり二枚の板が現れる。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


             《 ボーナスポイント 》


ポイントを使用することによりボーナスが受けられます。

1ポイント消費で能力は5アップできます。

ポイントはレベルが上がるごとに1ポイント取得されます。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


手前は解説。

後ろはステータス画面だった。

ステータス画面には能力を上げ下げできる矢印が出現している。


「能力が5ポイントもアップするのか。結構美味しいですね」


九郎のようにプレイヤーが前線で戦うなどということはあまりないだろう。だいたい一番後ろの安全な場所で引き篭もっているはずだ。だが、そうしてしまうと必然的にプレイヤーのレベルは上がり難い。このゲームは自分が直接状況に関わらないと経験値が入らないのだ。


これは恐らくそんな引き篭もり化しなければならないプレイヤーのための救済であり、前線へ誘き出す“餌”なのだろう。


「ちゃちゃっと割り振りますね。何が良いかな。とりあえず【筋力】から……」


九郎はステータスは割り振ろうと画面に手を伸ばした。


だが、その手を呼々が待ったと手で制す。


「……ゲンクロウ様、できればポイント消費は1のみで抑えてください」


声をひそめて呼々が言う。

その目は九郎ではなく“天上”を窺うように上を向いていた。


九郎は同じ様にチラリと上を見た後、何もないことを確認し首を傾げる。


「何故ですか?当面俺が直に戦わなくちゃなりませんし、能力は高いほうが良いのですが」


体力に割り振って頑丈にしたり、筋力に割り振って攻撃力の足しにしたりと、とにかくられないようにしなければ。


呼々は確かにと頷いて、しかしやっぱり手は引かない。


「……もう一度解説を読んでください。ボーナスポイントは何が受けられますか?」


「えっ?」


九郎はもう一度解説を見た。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


             《 ボーナスポイント 》


ポイントを使用することにより“ボーナスが受けられます”。

1ポイント消費で能力5アップできます。

ポイントはレベルが上がるごとに1ポイント取得されます。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


ボーナスが受けられる。


能力は、五アップ。



「……あっ!」


「気付きましたね?……そうです。ボーナスポイント、通称BPは能力に使うだけではありません。別の技能やスピリットストーン、アイテム、ソウルの交換などの様々なサービスがこれを代償に受けられるんです。それらで得られるものはすべて貴重なもので、また、もしものときの救済サポートにも利用できるんです。訊ねられれば教えますが、訊ねられなければわたくしたちスタッフからは通常教えないことになっています。……コレ、知らない人はどんどん使ってしまい、知ったときにはポイントが無いって落とし穴なんです」


ナイショですよ?と呼々はさらに声をひそめる。


「なるほど。分かりました」


運営もなかなかエグい。

九郎は呼々に倣って声を潜め頷いた。


「では、とりあえず1ポイントだけ消費としましょう。……何がいいでしょうかね。一応筋力から割り振ろうかなんて思っていましたが」


「そこはわたくしにはなんとも。ただ方針を決めて、やってみたいことによって能力を振るほうがいいでしょう。戦闘系前衛なら体力や筋力、後衛なら理力や器用さ。生産系なら器用さをメインに体力を上げると良いかもしれません。まあ、プレイヤーの能力は多少上がっても大した違いではありませんから気負わず使ってみてください」


「そうですか。どうしようかな……」


腕を組み考える。

五ポイントに限定されると逆に悩む。


ほんの僅かなポイントが非常に貴重に感じられた。


たかが五。

されど五。


ほんの僅かな差が生死を分けるなどこの世にはざらにあるのだ。


一円を笑う者は一円に泣く。

違うか。



呼々には気負わずと言われたが九郎は悩んでうんうん唸る。


すると、九郎の中にふと疑問が浮かんだ。



「そういえば呼々さん、俺、三つもレベルアップしたんですが器用さが1しか上がらずに体力や理力が偏って上がっていたんですが、これってこのゲンクロウがそんな風な成長の仕方をするキャラってことですか?」


レベルが三上がって器用さは一しか上がっていない。


これはキャラごとに成長の仕方があると見たほうが良いのだろうかと九郎は考えた。

返答如何では振り方は変わる。


だが、呼々は首を横に振った。


「全キャラクターには確かに得意不得意が有り、基礎能力に偏りがあります。ですが、レベルアップでの割り振りはどのような経験を積んだかで変わります。戦闘向けのキャラをずっと生産で使えばレベルアップ時に生産に必要なステータスが上がり、非戦闘員でも戦わせ続けたら戦闘用の能力に変わります。どんなことをして成長させていくか。それが重要ですね。

 ゲンクロウ様は最初の戦闘でずっと走り続け、最後には格闘で倒しましたから、それで体力が上がったのだと思われます。また、理力は纏神により限界を超えたために心力につられて著しく上がったのだと考えられます。ちなみにボーナスポイントはプレイヤーのみに与えられるものですのでご注意を」


「……そうだったのか。そうするとやはり呼々さんの言うように今後の方針を決めるのが重要ですね」


「ええ。そうなりますね」



とは言ってもやはり悩む。


九郎は戦闘系前衛向けの技能を持っている。

しかし、能力は理力が高く後衛向きだ。個人的にもガチンコの殴り合いは勘弁してほしい。

加えて仲間は生産系で九郎自身は生産系に興味があった。


「……ぬぅ」


九郎はため息を吐き出し再び唸った。



そして少しの沈黙の後、九郎は頷きポイントをステータスの画面に手を伸ばす。


ポイントは一ポイント消費。

割り振れる数値は五。

バラバラに振り分けられるが一度に入れる。


入れるのは――



「【理力】だな」



―――ポンッ―――《 理力 18 → 23 これでよろしいですか? 》――


OK。


再び間の抜けた電子音が鳴って数値が確定された。



それから九郎は残りを間違えて使ってしまわないようにすぐステータス画面を消す。


すると電子音が鳴って項目がまた一つ【済】に変わった。



「ちなみに何故【理力】を選んだか訊いても?」


呼々が首を傾げた。

他の三人も九郎を見つめる。


「これから戦闘は俺が中心ですからね、体力や筋力はどうしたって上がっていきます。速さも多分ついてくる。器用さに関しては俺も生産を行う予定だからそこら辺でつくんじゃないかな。でも、理力に関しては経験を積むって難しそうな気がするんですよ」


「そうですね。術を使ったり、精神系の修行を行うなどが必要でしょう」


「でしょう?ということは、伸びにくいであろうそこを重点的に伸ばしたいのと、あとは自分の強みをより強化していきたいってのがあって」


「ゲンクロウ殿は【心力】が並外れていますからな」


「そうですね。長所を伸ばし、一点集中で上げていけばいずれプレイヤーと言えどソロでも侮れない存在になれるかもしれません」


「まあそんなわけで、これからは戦力が整うまで“最前列で戦う後衛”って育て方をやっていこうと思う」


「オイラモソレガイイトオモウゾー!」


「あたしもです」


「わたしも協力しよう」


「わたくしもそれで良いと思います」



さて、無駄に時間はかかったが、どうにか九郎の“ゲンクロウ育成計画”の方針も全員の賛同を得て決まった。


これが後に流行する【肉体言語術士スペルドレッサー】と呼ばれる奇妙なプレイスタイルの原形となるのだが、それはまた別の話でいいだろう。






◇◆◇◆






――ポンッ――



毎度の如く間の抜けた電子音が鳴ると、九郎の目の前に横長の宝石箱のような意匠の箱が淡く輝きながら現れた。


そして、輝きが収まると箱の蓋が貝のようにパカッと開き、その中から紋章の入った銅貨が三枚と紐でくくられた小さな布の袋が飛び出てくる。

布には藍色で火の玉のような模様が描かれていた。


「わわっ」


九郎は慌ててそれに手を伸ばすが、その甲斐も必要もなく、袋も銅貨も九郎の手に飛び込んで消えた。


「あ、あれ?消えましたよ呼々さん」


「はい。今のが【評価ポイント】で得た報酬の取得演出です。どこに居ても、どんな体勢でもプレイヤーに獲得される仕組みになっています」


「ああ、そうなんですか。あはは、慌ててしまいお恥ずかしい」


九郎は苦笑して頭を掻いた。


演出に遅れ、頭の中と視界の端には


《 本日の評価報酬 銅の魂石スピリットストーン を 三枚 手に入れました 》

《 本日の評価報酬 1238 ソウルを手に入れました 》 


という情報が入ってくる。


「おぉ……」


簡単だが、これが最後の項目【評価ポイントでゲットしよう】である。




ここで学ぶことがどんなものか簡単に説明しよう。


プレイヤーは現実世界での一日(ゲーム内での三日)に一度評価を受ける。

もちろん評価するのは神々アイツらだ。


評価は【注目度】・【支持数】に分かれ、各項目の数値で報酬がある。


【注目度】はソウルで。

【支持数】は魂石やアイテムで支払われるといったところだ。


加えてその結果、総合評価が高いと【ランク】が上がり、月の終わりに一定のランクを得ているとそのランクに応じたさらなる報酬が得られるといったシステムになっている。



簡単に言えば、動画サイトの再生数が【注目度】で、お気に入り数マイリストが【支持数】なのだが、これは実際のところ評価というよりも正しく言い表していた。


神々はプレイヤーの動向を録画もしくはライブ映像で監視している。

それはプレイヤーも知るところなのだが、実際はそんなお堅いものではない。


九郎はオモイカネから聞かされているが、実際には神々の一部が運営する“唯我チューブ”や“アガペー動画”などでアップされたものをみんなで共有し、面白おかしく観賞しているといったところが真実であったりする。


プレイヤーが必死で戦っているその姿を軽快な音楽に合わせて編集し、様々なコメントでやり取りされながらたまに弾幕張られちゃったりとかしているのだ。


プレイヤーが知ったら怒るだろう。

みんな命を懸けているのだから。


だからほとんどのプレイヤーは知らされていない。プレイヤーには生涯伏せられるべき真実である。


なお、これは日本の神だけでなく全世界の全種の神々が共有しているため、評価もやはり全世界の神々がしてくれるようになっていた。



「……でゲンクロウ様の評価は【注目度】12381ポイント、【支持】338ポイントですので、初日としてはかなり高評価と言えます」


「おお。ありがたいですね。えっと、確か【注目度】の十分の一がソウルに、同じく【支持】の十分の一が魂石に換算されるか同等のアイテムとして渡されるかになるんですよね」


「はい。そうなります。補足すると注目度に関してはソウルでなく現実世界のお金に設定することもできますよ。また、支持で得られる魂石は同じレアリティの魂石で一定枚数分以上報酬として支払われることになると、自動的に魂石が上位のレアリティのものに交換されて出てきます。なお、報酬の換算のときには小数点は切り捨てになります」


「ああ、お金はそうやって稼ぐのか。諸々理解しました」


「お金は他にもモンスターを倒してドロップしたりもしますけど、こっちで稼ぐのが効率が良いかもしれませんね。あと、自分が今どれくらいの評価を受けているかは現実世界の【タマユラ】か、こちらのこちらの世界でステータスメニューのオプションを開くかで確認することができますのでよろしくお願いします」


「はい」


「ではこれで、チュートリアルはすべて終了ですね」



呼々がそう言って拍手かしわでを一つ叩くと目の前の箱が消える。



それと同時に九郎の頭の中にチュートリアル完了の知らせが入り、目の前の項目もすべて【済】に変わった。



その瞬間だ。



《 おめでとう! チュートリアルクリアです! 》



黄色いスクリーンが天井近くに飛び上がると巨大化し、パンパカパーンなどと滑稽なファンファーレが鳴り響いた。


追って九郎の周囲で極小の花火が上がり、花吹雪が舞っては消える。


九郎は顔が熱くなるのを感じ、スキップできないか呼々を見たが……。


「あ、あの、これ――『我慢してください。あと十二秒続きます』――は、はい……」


呼々にはハッキリ却下され、恥ずかしすぎる空間の中、九郎は居心地悪そうに肩を竦めて終わりを待った。



十二秒後、呼々の言った通りにファンファーレは止み、全ての演出が終了する。


その瞬間、電子音とともに視界の端っこに九郎しか見えない“お知らせ”が現れた。



《 9 件の贈り物が届いています 》



「呼々さん、『贈り物が届いてます』と出ていますが開けても問題ないですよね?」


「ええ。チュートリアルの報酬と、登録のお祝いなどが入っていますよ。意識したら触れるように実体化しますからどうぞ開けてください」


「はい。意識……意識と……」


九郎が視界の端の表示を触ろうと手を伸ばすと、薄かったお知らせが電子音を立てて実体化し、ステータスメニューのように目の前に移動した。


そして九郎が何かすることもなく、その画面は縦長に伸びて贈り物の一覧を呼び出し表示した。


内容としてはチュートリアルクリア報酬が


【 傷薬 (小) 】×3

:軽い傷なら元通り。液体・ビン入りなので扱いに注意。

【 戦士の証 】

:装備すると戦闘時【体力】・【筋力】が+2。勇猛なる証。

【 防具硬化剤 】×3

:防具に使うと性能が+1。

【 砥石 】×3

:刃物系武器に使うと性能が+1。

【 強化の勾玉 (並) 】×3

:召喚した仲間を強化する素材。仲間の能力のいずれかをランダムで+1。


となっていた。


次に登録特典だが、


【 畑作りセット 】

:野菜の種三種・計一万個。普通の肥料十トン。祝福されたクワ・一万S相当。無限ジョウロ(小)。

【 海の男セット 】

:普通の餌三種・計十トン。祝福された釣竿・一万S相当。異空間ビク(中)。

【 冒険セット 】

:旅立ちの剣。旅立ちの外套。旅立ちの靴。セーフテント。

【 3000ソウル 】



となっていて、先の二つは一万人目の祝いの品なのだが内容が嫌がらせの領域だった。

十トンとかどうするのか。どこに置いておく場所があるというのか。


だいたいこういうときは戦いに役立つ道具を贈るべきではないのだろうかと九郎の眉間にしわが寄る。


最後に残った登録サービスの二つなどは悲しいくらいに普通だ。

そこまで一万に関連する物をくれるならソウルも一万ソウルで良かったのではないかと九郎はため息とともに肩を落とした。


何故だかこのとき九郎の脳裏にはオモイカネが腹を抱えて笑っている姿が浮かんだ。



「ちなみに種や餌などは平均的なサイズのものですのでご安心を。そこから規定の重量や個数分取り出したら消えます」


「そうですか。それは良かった」


袋を開けて垂れ流しにしておこうか。


一括取得のボタンがあったのでそれをタッチしてすべてまとめて受け取る。


すると九郎の尻に敷かれた道具箱が一瞬光る。

全部ではないだろうがきっとこの中にしまわれたのだろう。

箱の中は見た目とは違って広い。拡張された空間だった。



「では最後に、今回の不具合のお詫びの品を選んでいただきましょう」


そう言って呼々が空中を何度か突くと九郎の目の前に赤い巻物が一本現れた。

巻物には目録と書かれている。


九郎がその巻物に触れると、巻物は勝手にしゅるしゅると開き、テーブルの幅いっぱいに開いて止まる。


「ゲンクロウ様にはこの項目からお二つ選んでいただきたいと思います。簡単な説明はついていますが何か分からない点がありましたら気軽にお申し付けください」


「ああ、はい。……ちなみに蘇生薬は?」


「もちろん贈らせていただきます。二つ、道具箱に入れておきますのでご安心ください」


「あ、そうですか。お願いします」



九郎は忘れられていなかったとホッと胸を撫でて目録に意識を向ける。


内容は一回目の死亡で呼々から聞いていたように【兵器】・【武器】の類や【施設】・【道具】のセット物。あとは【領地】移住などの権利だった。


めぼしいものとしたら自動で遠距離砲撃を行う【兵器】か、自動回復効果の付いた【武器】。それと開発系施設と関連する道具をまとめた【セット】もしくはフィールドからホームに一瞬で帰還できる【サポートアイテム】だろうか。


「ちなみにコレだけなんですよね?」


「ええ。今そこに表示されているものだけですね」


「そうですか……」


内容は悪くはない。


だが、よく考えれば【兵器】は今活かせる場がないことに気付く。

【武器】も自分が持つと能力を発揮できないし、仲間は非戦闘員だ。


(だったら開発だろうか……)


開発とはいってもどちらかというと農作業系に強そうな仲間しかいないことを考えると微妙なのかもしれない。


狭間ではお得な風に聞こえたが、このお詫び、大したものじゃないと九郎は思えた。



「あの、呼々さん、ちょっといいですか?」


「ええ、どうぞ」


「この二つのお詫びの代わりに、あの【纏神ベルト】一つでいいんでもらうことはできませんか?」


アレならばこのお詫びの品二つ分の価値はある。

九郎はそう思ってダメもとで訊ねてみたが、答えはハッキリとNOだった。


「できません。アレは神話級に相当しますので今回のようなお詫びでも差し上げることはできません。何よりアレはオモイカネ様の私物ですから」


「では、それをいずれ・・・手に入れるための権利でもいいのですが。オモイカネに交渉はできませんか?ちょっと言い難いのですが、正直あまり欲しいものがなくて」


別に今手に入れられなくても今後手に入れられるならそれでも良かった。

ここで誰でも手に入れられそうなものを得るよりも、誰も手に入らないものを今後得ることができるというだけで大きなアドバンテージになる。


そう考えて食い下がったのだがやはり、呼々は首を縦には振らない。


「申し訳ありませんが、この目録から選んでいただく以外にありません」


「そうですか……」


「はい。何よりもゲンクロウ様の安全が確保できていない品ですし、オモイカネ様をお呼びしても交渉は――『できるよー!』――なっ!?」


「ナンダナンダ!?」


「わわわっ!」


「敵襲かっ!?」



シュパーだろうか?シャキーンだろうか?


しょっぱい効果音のあと光りの粒が奔流となって足元から噴出し、天井、そして部屋中に流れ出す。あまりに突然の出来事に九郎以外の全員が身を竦ませて光りに手をかざした。


続いて光が収束していくとそれに合わせて悲しくも優しいメロディが流れ始める。


風の中、思い出を振り返るようなその曲。

九郎は覚えがあった。


収縮する光りに九郎は問いかける。



「『黒の撃鉄』の“風の道程”。そうだろ、オモイカネ?」


「ふっふっふ。正解っ!流石は我が同士!」


光りが完全に消え去ると、名作RPGのBGMと赤髪白衣のいかしたイカレタ眼鏡の美青年が残る。


青年・オモイカネはテーブルの上で膝立ちになり仰け反って白い喉を晒していた。


「オモイカネ様!?」


「ア、オモイカネダー!」


「ほう。これはこれは」


三人がやんややんやと拍手をする。

ひとりオキツヒメだけはムッとしていたが。


「……おぎょうぎわるいです」


「そうだね。下りろオモイカネ」


「うん。ごめんね」


とりあえずやりたいことはやれたのか、オモイカネはさっさとテーブルから下りて九郎の対面、呼々と替わって席に着いた。


呼々は頭痛を耐えているかのようにため息混じりに頭を押さえ、オモイカネの後ろに控える。



「オモイカネ、会いたかったのは会いたかったんだが、そんなほいほい現れて大丈夫なのか?」


「大丈夫だ、問題ない」


「まあ、それなら俺としては都合が良い。……で、交渉できるってのは本当か?」


「ああ。キミの望む形になるかはキミ次第だがね」


オモイカネの眼鏡がキラリと光る。

いちいち演出が鬱陶しい。



「さて、“交渉”ということだが――『ああ、その前にBGMを止めてくれ』――ふむ」


オモイカネが真面目な顔になって指を鳴らすとかの名曲はフェードアウトしていった。


「改めて“交渉”ということだけども、結論から言うとキミにあの纏神ベルトを譲ることは……・」


オモイカネがチラリと後方を見やる。

こほんと呼々が咳払いをしてオモイカネをジト目で睨むと、オモイカネは肩を竦めて苦笑した。


「できない」


「何でだ?交渉できるっていっただろ今。ひとをおちょくるためにわざわざ来たのか?」


「ふむ。確かに言った。だが、まあ怒らずに話は最後まで聞いてくれないかね」


「……ああ」


「ありがとう。でだ、譲れない理由はコッコちゃんが説明した通りだね。始めたばかりのキミに、お詫びとはいえど神話級チート装備をくれてやることは、このゲームのバランスを保つという理由からできない。これは神々が作ったルールに基づいたものであり、ゲーム外のシステムによって監視されている我々にはどうしようもないのなんだ。なによりホラ、あの名作ダンジョンRPGの商人だって何十回も死なないとチート装備はもらえないんだから、死亡のお詫びの二回分じゃどうしたって……ね?」


それは……それは“トロネコの不可思議なダンジョン”のトロネコさんのことかっ。


「まあ、確かに性能は飛びぬけているもんな。なによりトロネコさんの話まで出されたら納得せざるをえないな」


「そうだろ?流石、我が同士」


仕方がないかと九郎は頷く。


(俺はトロネコさんほどに何度も命を捨てて・・・戦ったわけではないものな。それを考えると二回死んだからといってチート装備要求など、なんとあさましいことをしてしまったのか。トロネコさんに合わせる顔がない)


別にゲームキャラは九郎の顔など見てはいないが、九郎は自分の言葉を恥じて諦めのため息をついた。


「ああ、でも、諦めることはないよ」


「ん、どういうことだ?俺はトロネコさんになれるのか?」


「あのでっぷりしたお腹になりたいのかい?」


「いや、それは遠慮する」


「そうだろう?」


オモイカネはくっくと笑う。


トロネコさんは九郎の好きなキャラだが、九郎はああはなりたくないとも思っていた。



「あー……キミは交渉はできるかと言ったよね?交渉とはお互いに利がないと成立しないが、ボクはそれに対してできると言った」


「言ったな」


「言った。でもお詫びを返すのじゃボクらには利益は無く、ルールがあって渡せないとも言った」


「言ったな」


「言ったね。じゃあ同士よ、どうしたら手に入れられるだろうか?」


「俺がそれを訊いている」


「だったね」


オモイカネがまた笑う。

そして今度はそれに合わせて指を鳴らした。


すると九郎の目の前にあった巻物が消え去り、代わりに二枚の紙が現れる。


「これは?」


「【契約書】と【誓約書】……まさかゲンクロウ様にお仕事をさせるおつもりですか、オモイカネ様?」


「そうだよー」


「いや、どういうことだよ」


確かにパッと見た一番上に【契約】と【誓約】の文字があった。


九郎は眉根を寄せてその紙の【契約書】のほうを取る。


「『どうやったらキミは纏神ベルトを手に入れられるか』……答えは簡単なんだよ。キミが神々われわれに代価を追加で払えばいいのさ」


「代価?」


「そうさ。その【契約書】にサインしたらキミは一つの義務を負う。それに書いてあるのは『私は神々の依頼をお請けしますよ』というものだ。まあ簡単な雇用契約だね。コイツが代価だ。これにサインすれば、キミがその書面通りに神々からの仕事を請け負う限り報酬として纏神ベルトを含めた神話級の道具や技能を得る機会を増やし、クエストとして与えてあげることができる。ただし、義務と言ったように一度契約したら解除はできないし断ることもできない。死ぬまでね」


「仕事……」


「もちろんそれとは別に仕事に見合った報酬も出るから安心してくれ。現実、ゲーム内、どちらでも請求できる仕様にしてある。

 ああ、ちなみに余談だけどこの仕事を請けているプレイヤーは日本では千人弱だ。各プレイヤーは様々な理由で請けている。それを多いととるか少ないととるかはキミ次第だね」


「…………」


小さく頷いて次に九郎は【誓約書】を手に取る。


「でだ、こういった依頼を受けるということ、そしてキミたちにそんな権利を与えるということは神々がキミに干渉するということなんだね。本来は認められないけど、神々の仕事を手伝うという形にするとシステムから許可が下りるんだ。

 もちろんそれだけで済むとは思わないでくれよ?これでもまだキミたちへのメリットが大きすぎる」


「他にもなにかあるのか?」


「もちろんさ。これによってキミたちには義務を負う分様々なメリットが発生するけど、それでは他のプレイヤーと差がついてフェアじゃないだろ?キミたちには二つのデメリットを背負ってもらうようになっている」


「二つ?」


「多いと思うかい?……一つは先に言ったように【神々に干渉される】こと。これは基本的に味方である日本の神々だけでなく世界中の神々がキミに干渉する権利を行使できるようになること。メリットでもあるけどデメリットでもある。二つ目。こっちが本命かな?二つ目は【領地の制限解除】だ」


「制限解除?」


「ああ。敵キャラには【格】があり、キミたちが買う領地にはエリアごとに【格の制限】がされている・これによって定められたエリアには定められた格の範囲の者しか侵入ができないし現れないことになっているんだ。だけど、【制限解除】はこれを解除してしまうんだよ」


「そうなるとどうなるんだ?」


「モンスターは勝手にポップし始めますし、自由にエリア移動ができるようになります。レベルも際限なく高いものが生まれるかもしれませんし、先程言った神の干渉を受けた何かが送り込まれてくる恐れが多分にございます」


呼々が代わりに答える。


「制限を解除すると、敵勢力の神が強力な魔物を別の領地からこの領地に何らかの手段で移動させてくるなどといったこともあるということです。場合によっては神自身がここに来てなにかちょっかいをかけてくる恐れもあるかもしれません」


「それってバランスが崩れるんじゃないの?ダメだろ、神出てきちゃ」


「今ここにいるけどね。まあ何かしようとすれば神にだって代償が要るし、何よりシステムが許す範囲しかできないからコッコちゃんが心配するようなことにはならないとは思うけど、それでもリスクはあるかな。あ、ちゃんと結界は作用するから安心してくれ」


「そうか」


「で、その二つのリスクによって起こるトラブルに対して私は文句を言いませんって誓約をしてもらうわけだ。そのうえで仕事を請けてくれるならば、キミの交渉に応じてもいいって感じだね」


「それで追加の代価なわけか。で、そのときはこの二つのお詫びの品を返すのは変わらないんだな?」


「もちろん!……と言うところだけど流石にコレはあげるよ」


オモイカネがまた指を鳴らす。


九郎の眼前に再び光りが現れて、手を差し出すとそこへ乗っかった。


それは木魚のような形の紐付きのホイッスルだった。


「コレは……ホーム帰還の笛か?」


「そうそう。セーフティーエリアにでもいなきゃログアウトできないからね。緊急のときには必要だし、契約を結ぶんならそれはあげる」


「…………」


九郎はその笛を見つめ、次に書類を見た。


リターンはあるがリスクが大きい。

それどころか九郎はそこまでする必要性を感じなかった。


たかがゲーム。

それなりに楽しんで過ごせばいいのではないだろうかと思う。


するとそこで、そんな思考を読んだかのようにオモイカネがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「ちょっと尻込みしているよだね。だったらこう考えたらどうだい?死亡し復活できなければ即転生。領地の取り合いに負けて神核を奪われ、ゲームオーバーになればやはり転生のこのゲーム。参加した以上どうせ逃げられないんだから、この際強くなってしまおうって。……そう、それにさ、キミは死んでもクリアしてもキミの願いは叶えられるんじゃないか?」


「俺の願い?」


「おいおい、自分の願いを忘れたのかね?キミは『みんなが幸せになる』ことを願ったんだろう?キミの力で世界を変えてみろよ」


「……そう……だったな」



ゲームクリア報酬は自分の好きな世界に変えられること。

九郎はみんなを巻き込んでしまうほどの“幸運”が欲しいと願った。


(オモイカネの言うように、俺が死んで転生すればもう家族や周りの人たちに迷惑をかけることは無くなる。もし俺がクリアしたらそれこそこの世界から不幸なんてものは無くしてしまえるかもしれない)


そこにはなんのデメリットも無かった。


死ねば不幸になる人が減り、クリアすれば幸せになる人が増える。


リスクは自分が痛い目に遭うかもしれないことだけ。


たったそれだけだ・・・・・・・・



「オモイカネ、どこにサインすればいい?」


「ゲンクロウ様よろしいのですか!?デメリットのほうが大きいのですよ!?」


「そうだぞゲンクロウ殿。危険だ」


「呼々さん、ウカノミタマ、心配ありがとう。でもやるよ、俺。それが自分の願いを叶えるための近道なら」


「フハハハハ!流石は我が同士。ああ、もちろん近道さ!坂道なうえに悪路だがね!」


オモイカネが喜色満面で手を叩く。


九郎がそれに苦笑で返して目の前の二枚の書類を並べ直すと、書類が光りだした。



「そこに手を置いてくれ我が同士。それで契約は完了だ。……あ、何か気の利いた呪文とか言ってみるかね?付き合うよ?」


「いらん」


「そうかね。残念だ」


九郎が手を置くと二枚の書類は一瞬強く光りを放ち、すぐに光りの粒になって消えた。


これで契約も誓約も完了。

システムに承認されたらしい。



「さあ、これからもっとたの……ごほん……忙しくなるね。ゲームでもリアルでも幻想にまみれた『ミソロジーライフ』を楽しんでくれたまえ」


オモイカネが嬉しそうにまた手を叩く。


呼々はそれにまた頭が痛そうにしてため息をつき、他の三人はオモイカネに合わせて拍手をしていた。


「じゃあ、交渉成立ということでボクはこれでおいとまさせてもらおう」


オモイカネはそう言って立ち上がる。

呼々に席を譲ってみんなに向かって手を振った。


「ああ、オモイカネちょっと待ってくれ」


九郎も立ち上がり、オモイカネを止める。


「ん、なんだね?まだ何かあるのかい?」


「ああ」


きょとんとするオモイカネに近づいた九郎は右手を差し出した。


「無理言って悪かったな」


「お……おぉぉぉ!い、いや良いんだよ我が同士!キミとの友情が深められるならお安いご用さ!」


余程嬉しかったんだろう。オモイカネは感極まったように差し出された手を両手で持って上下にぶんぶんと振った。


九郎もそれには微笑んでそうかそうかと頷く。


「ところでオモイカネ。そんな友情の証に一つ贈り物をしたいんだが」


「贈り物!?友情の証!?なんだい!?何をくれるんだい!?」


目をキラキラ輝かせて迫るオモイカネ。

九郎は微笑んだままおもむろに左手を上げた。


「コレだっ」


「へ?――ブォラハァッ!!」


九郎の空いた左の拳が、オモイカネの右頬に突き刺さり、呼々やオキツヒメが突然のことに驚き悲鳴を上げる。


「俺の贈り物はどうだオモイカネ?気持ちは伝わったか?」


セーフティーエリアであるために痛くは無いだろうがかなりの衝撃はあったはずだ。

オモイカネは大きく仰け反ると頬を押さえて驚愕に目を開き、九郎を睨んできた。


「な、何をするんだね!?」


オヤジにもぶたれたこと無いのにとでも言いたげだ。


ちなみにこの瞬間に一部のモニタールームでは歓声が上がったのだが、それはこの二人がこの先知ることはない。


それはまあ、いいとして。



九郎は拳を鳴らしてオモイカネを睨み返した。


「身に覚えがないか?ならヒントをやろう。……俺はな、なにより家族を一番愛しているんだ」


「はぁ?…………ぁあっ!!い、いやアレは冗談というか、例えばの話で!」


ようやく思い至ったオモイカネはぶんぶんと両手を振って無実を叫ぶ。


だが、九郎は許さない。

妹を命懸けのゲーム参加させようなど、神や仏が許しても、九郎が絶対許さない。


「覚えとけ。俺に対して冗談でも家族に危害を加えようとするような発言は禁忌タブーだ」


「ちょ、ちょっと、それは確かにボク――ガハァッ!!」


二発目の拳が逆の頬を直撃する。

今度こそオモイカネも耐え切れず、床にべちゃりと倒れこむ。


九郎は仁王のような顔で腕組みをしながらその姿を見下ろした。


「次は無い」


「わ、わかったよー!ごめんよー!」


九郎が鼻息荒くそう告げると、オモイカネはカクカクと頷いて光りの中に消えていった。


相手はアレ・・でも神だ。

かっかしているとはいえ九郎もよくやるものだ。



「あ、あの……ゲンクロウ様?」


呼ばれて振り向けば呼々たちがどうしたらいいのかと戸惑っていた。

オキツヒメなどは怯えてウカノミタマにしがみついている。


九郎はそれを見て冷静さを取り戻すと、苦笑して頬を掻いた。


「あー……お見苦しいところをお見せしました。でもほら、男同士の友情って拳で語るものでしょう?」


苦し紛れの一言。


だが、呼々たちは顔を見合わせホッとしたような顔で笑い合った。



それからは九郎がもう一度席に着き、呼々も交えてオキツヒメのれたお茶を飲みながらの談笑が始まる。


それから畑の用意をしたりホーム周辺でオキツヒコ・オキツヒメの二人と日が暮れるまで遊んだりして、疲れを感じた九郎はウカノミタマに畑を頼んで今日はログアウトすることに決めた。


ゲーム内では夕方六時。現実では夜七時。


まだ三時間しか遊んでいないが九郎には調べておきたいこともあった。



「あとはよろしくね、みんな」


「オウ、マカセトケ!オイラガイルカラダイジョウブダ!」


「はやくかえってきてね~」


「畑はわたしが責任持って管理しますゆえ、ご心配なく」


「よし、じゃあまたね」


九郎は一同に手を振ってオプションからログアウトを選ぶ。



《 帰還します 》



呼々ではない音声が頭に流れると同時、九郎の体は光りの粒となってミソロジーライフの世界から消え去った。






◇◆◇◆







真っ白い世界から、赤と黒のマーブルへ。

つい先程まで感じていた匂いや感触とは違う、懐かしい感覚が体を包む。


ゆっくりと目を開けるとそこにはよく見知った天井に電灯がぶら下がってあった。



「無事、帰ってこれたな」


九郎はふぅと息を吐き出した。

ここでバグを喰らったらどうしようかと少々不安だったのだ。


「現実だよな?」


窓の外を見ればだいぶ暗くなっているが見たことのある風景だ。


九郎はハコブネから下りると頭をひと掻きテーブルに用意したジュースを手に取った。

黒色の液体がしゅわしゅわと喉を刺激しながら九郎の内側へ流れ込んでいく。


「ぷはぁ」


体に悪そうで、でもやめられない爽快感に歓喜の息を吐きながら九郎はデジタル時計を見やる。


[19:32]


「まだ本屋閉まってないよな?」


そう誰にともなく訊ねながら、炭酸飲料をテーブルに置き、ジャケットを羽織ってズボンをジーパンにはきかえる。


九郎は神話についての資料を集めるつもりだった。

インターネットで調べるのもいいが、情報が多すぎて把握し難い。何より本で読むほうが九郎は好きだった。


財布を持って鍵を持って、パソコンを始め各所の電気を切っていく。


最後に戸締りを確認してタタキで靴を履くと、九郎はつい出勤前のクセが出て、玄関に設置した鏡で身嗜みの最終確認をした。



「……え……誰?」



そこには、見知らぬ男・・・・・がいた。


髪は肩甲骨くらいまで伸びた白い長髪。

瞳の色は琥珀色。

ゲームキャラのようだが顔のつくりは源九郎と同じという奇妙な青年だ。


「誰?……ってコレ、“ゲンクロウ”?」


顔の各所を触っていく。

髪も、手足も、耳も目も歯も。


夢かと思って頬をつねってみたが――


「いひゃい(痛い)」


夢ではないようだ。


だがそれは、間違いなくミソロジーライフでの九郎のアバター【ゲンクロウ】そのものだった。


「そ、そういえば……呼々さんが纏神の影響が現実にも出るみたいなことを……」


そう、このとき九郎の肉体と精神、そして魂は、纏神での変質を経て修復した結果、現実の体がそれに合わせて“変質”してしまっていた。


現在、この体は源九郎であり【ゲンクロウ】でもあるのだ。


「う、うぅっ……」


九郎は頭を抱え、頬を引きつらせた。

その顔からは血の気がみるみる引いていく。



「うそだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



二月十九日。

その日、某市某所のアパート【メゾン・ド・ヘヴン】には青年の悲痛な叫びが響いたという。







―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


《本日の出費》


・世界の神々一発検索 ¥648(税別)

・これであなたも日本神話マニア ¥1500(税別)

・ファンタジー動物大辞典 ¥848(税別)


・オシャレな白髪染め ¥560(税込み)←

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