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【ミソロジーライフ】  作者: 文悟
冒険の書1
17/20

ミッション5:準備をおこたるな

本日連投!明日が投稿できないので今日やっておきます!


毎月第三日曜は投稿できない仕様になりそう。

その場合は前後するかも。

「おきつひめと『オキツヒコノ!』、『おリョウリきょうしつー!!』」


「いえーい」


「い、いえーい……」


「呼々殿、もう少し元気よくがよろしいかと」


「は、はあ。……って、何でわたくしが……」


集との出会いから数時間後。

ゲンクロウのホームのリビングに九郎の仲間たちが集まって、双子の神を中心に揃って歓声を上げた。


仲間として呼ばれた呼々は困惑気味にエプロンを身に着け、今日提出の報告書があるのにとうな垂れている。



何故こうなったのか?


少し時間を巻き戻して順を追って見ていこう。


九郎が近在プレイヤーとの驚きの遭遇を果たしたその日の夜、食事や片付け、風呂まで済ませた九郎は万全の状態で【ミソロジーライフ】への門を開いた。


現実世界は夜だったが電脳世界では夕方で、今はまだその先には何も見えない水平線が夕陽に染まる光景をなんの遮るものもなく堪能した後、ホームに入った九郎は出迎えたオキツヒコとオキツヒメに『料理を沢山つくるから準備を』と命じてリビングに向かった。


そこではウカノミタマが収穫した野菜を並べて箱詰めしており、それを労い手伝いながら九郎が居なかった間の報告を聞いた。


最近小鬼や餓鬼が畑を荒らすらしい。


レア素材、特殊素材を植えるようにと用意した場所はホームの周辺であったため、ホームから一定距離に自動で張られるモンスター避けの結界セーフエリア内に在って問題無かったが、それより外に広く作った畑が度々被害に遭うとのことだった。


九郎は罠でも買おうかとウカノミタマに提案してみたが、罠は基本消耗品ですぐ駄目になる上、一定の知恵のあるモンスターや力のあるモンスターにはあまり有効ではないと考えられるので、今はオススメできないと首を横に振られた。


とりあえず手が見つかるまではウカノミタマが見張って対応するということになり、九郎は新たに支給された二枚の銅の魂石スピリットストーンで早急に人手を増やすことを考えた。


畑はモンスターが活発になる夜に荒らされることが多い。

新たな仲間には夜の見張り番をさせるつもりだ。



それからしばらくして、まな板と包丁などの調理道具に材料を山盛り運んできた双子を九郎は撫でることで労ってやり、ウカノミタマにも沢山料理をすると説明した上で、報酬を使って皿に材料を追加した。そして、オキツヒコ、オキツヒメに頼んで料理教室を開いてもらうことにしたのだった。


なお、呼々は九郎の『こういうのは賑やかなほうがいい』という提案で賑やかしに呼ばれただけで、特にここに居る必要は無い。


彼女自身は『わたくしはナビゲーションがお仕事なので』と辞退しようとしたのだが、高天原あちらに戻ろうとしたところ何故か戻れなくなっていて、このイベントへの強制参加が決定し、未だここに居るわけである。


ちなみに犯人が誰であるかは言うまでもないだろう。



「それで、何故急にお料理をしようなどと考えられたのですか?」


いつもの巫女服に白ベースで花の刺繍の入ったエプロンというミスマッチな姿で諦めたように呼々が訊ねた。


九郎は黒に白でワンポイントカラスのシルエットが入ったエプロンを身に着けながら『技能が欲しいんだ』と答える。


「対馬頭・牛頭用に沢山の料理と特殊な料理が必要なんですよ。それに“医食同源”って言うことなんですかね。どうやら調合やその他の技能にも影響があるらしいと聞いたので【料理の才能】を取っておきたいんです」


「……待ってください。今、聞いたとおっしゃいましたか?」


「ええ、聞きました。別の日本エリアのプレイヤーに」


「会った、のですか?」


「ええ。偶然」


すぐ近くに住んでいてお互い驚いた、と九郎は苦笑する。

呼々はそれに『そうですか』とだけ答えて一人難しい顔をして腕を組み首を傾げて、何か考え始めた。


九郎はそれに対し同じ様に首を傾げた後、すぐに双子オキツヒコ・オキツヒメにお料理教室開始をお願いする。

双子を『先生』と呼んでやると嬉し恥ずかしいといったように頬を染めながら元気よく最初の料理の説明を始めた。


先ずは簡単な炒め物からだ。






――― それから 四時間後 リビング  ―――




「炒め物、汁物、揚げ物に鉄板焼き系?………肉、魚、野菜、デザートで………計八十二品成功か。これで酒を造れるようになったなら言うことは無いんだが、まあ、言っても仕方ないか」


大量の料理を新たに追加購入した保存庫に収納しながら、九郎は八割方満足のいった様子で額の汗を(実際には流れていないが)拭う。


「技能も無事獲得できたし、目的は達成。効果は料理の成功率が上がったりレシピを自動で作れたりってだけだったのは予想外だったけど、そこはこれからの成長に期待、かな。――よいしょっと」


全てを収納して蹲踞そんきょの姿勢から立ち上がると、同時に呼々とウカノミタマがリビングに入ってきた。

傍にオキツヒコとオキツヒメはいない。


「二人はどんな感じ?」


「ゲンクロウ様のベッドで並んで気持ち良さそうに寝ていますよ」


「ええ、本当に。今日は沢山遊んでもらって満足したからでしょうな。揺らそうが体を拭こうがちょっと目を開くだけですぐに寝息を立ててしまいます。気持ちが良いのでしょう、さっき購入していただいた寝間着にも着替えさせておりますゆえに、今夜は特別良い寝顔です」


「そうか。良かった、良かった」


遊んだわけではなかったが、そんなことを九郎は口にしない。

仲間の精神のケアも大事だ。こうやってみんなでワイワイやったことで彼らが楽しんでくれたならそれが一番であると、そう思っている。


だから九郎はただニコリと微笑み頷いて、あとで二人の寝顔を見てこようかなと付け加えた。



「それでゲンクロウ様、この料理をどのようにお使いになられるのですか?」


「ん?ああ、それはですね……」


九郎が足元の箱に腰掛け、語り始める。

呼々とウカノミタマも各々手近なイスに腰掛けながら聞く体勢に入った。



九郎が集から聞いた情報によると、馬頭と牛頭を楽に倒すには【料理】と【酒】が有効なアイテムとなるとのことだった。


これはあの二頭だけでなく鬼族全体に有効なのだが、これらを使うことにより相手の行動を制限したり、精神状態を変えたり、またはバッドステータスを容易に与えられるようになるのだという。


「飲み食いさせるわけですか?」


「そうですね。言ってしまえば、“餌付け”をするんです」


「しかし、ゲンクロウ殿、それではマズイのではないですか?【酒】は知りませんが【料理】は成功すると全てが回復か能力補正の効果を得るものになる様子。今日作ったものも全部そうでした。そんな物を食べさせてはこちらが不利でしょう」


「うん、そうだね。俺もそう考えたよ」



では、どうして【料理】と【酒】なのだろうか?


それはキャラクターの隠された設定、アイテムの使用における【好き・嫌い】にある。

あくまでプレイヤー側の経験から立てられた予想ではあるが、どうも好む物は効果が上がって手を出し易くなり、嫌いな物は効果が下がって手を出し難くなる傾向が各キャラクターにあると集は言った。


そして、鬼族は【料理】と【酒】が好みであるとも。


「――で、今回用意しようとしているのは、それを利用した罠だ。上手くいけば俺と馬頭牛頭のように彼我ひがの力量に大きな差があっても酒呑童子しゅてんどうじハ岐大蛇ヤマタノオロチの如く倒すこともできるだろうさ」



つまり、要点をまとめると、鬼族にとって【料理】と【酒】は“好き”なものであり、その種のアイテムを使うと効果が抜群になったり、例え罠だと判っていても手を出してしまったりするので、それを上手く使って行動不能、弱体化を図るというのが集から得た“策”であった。


なお、この“効果が上がる”、“効果が下がる”というのは、正負どちらにも働くので注意するべし。



「なるほど。……ということは、ゲンクロウ殿はこれからあの料理に何か細工をするつもりですな?」


「そういうこと。《眠り》効果だったり《毒》だったり、《麻痺》とかも好いかな。ああ、有用そうなステータスアップが付いた料理はそのまま自分で使うけどね。まあ、そんなわけでこれから朝まで毒薬の調合作業だ。作れない【酒】と毒薬の材料は……ちょっと財布には痛かったけど多めに買っておいたんで今夜は何度でも失敗できる」


「失敗しても状態異常を引き起こす材料になるかもしれませんし、毒薬調合はお得ですな」


「言ってくれるなぁ」


間違いではない。間違いではないが複雑だ。

九郎は苦笑し、頬を掻く。


「わたしは収穫前の畑がありますので今夜は寝ずの番で警戒いたします。朝方にはご一緒しますぞゲンクロウ殿」


「ああ。回復系の薬も沢山作らなきゃいけないし、お願いしよう。ただ、無理はしないようにね」


「心得た」


ウカノミタマはオキツヒコ・オキツヒメよりランクは一段上で、九郎よりも基本ステータス的には強い。だが、それでも非戦闘員である彼女が一人で活発化したモンスターと渡り合えるかと言ったら微妙な線である。


九郎はしっかりと装備を整えるようにとも声をかけておいた。



「では、わたくしはそろそろおいとましましょう。帰り道も正常に戻ったようですし」


「あ、もうお帰りになるのですか?」


「呼々さん、お忙しいところをお呼びたてして、申し訳ありませんでした」


呼々が立ち上がるのに合わせ九郎とウカノミタマも立ち上がる。

そして、不意に九郎が呼々に手を差し出した。


「今日はありがとうございました」


「え?ああ、いえ、最初は戸惑いましたが最後にはわたくしも楽しみました。気分転換にもなったですし、ひとつ収穫もありましたので結果としてはニジュウマルです」


呼々はその手を握り、柔らかく微笑んだ。

九郎は呼々の手の少女のような細さと意外な小ささに内心驚きながらもぎゅっと握り返し、『それは良かった』と微笑み返した。


「俺も呼々さんの家庭的な面が見られたので良い収穫でしたよ」


「あら、ふふふ。わたくしは自炊していますのでこう見えて料理は得意なんです。お友達のウズメ様や卑弥呼様、千々姫様たちをお呼びして、高天原あちらでも現世のほうでも度々ホームパーティーなど開くのですが、そのときのお料理は全部わたくしが用意するのですよ」


「おお、それは凄い。それに楽しそうですね。俺も料理は得意なほうですが披露するような場も友達もなくて。羨ましいですよ」


「そうなのですか?では、近いうちに現世のほうでまたパーティーを開くのでそのときはご一緒しませんか?」


「えっ!?良いんですか?ご迷惑では?」


「迷惑なことは何もないですよ。是非お気軽にご参加くださいな」


「ええっと、じゃあ、そのときは是非」


「うふふ。ええ、是非」


別れの挨拶からなぜかホームパーティーの話になり、流れで参加の約束を取り付けた九郎は驚きながらも嬉しそうに笑って頬を掻いた。



「では、薬の調合、頑張ってください」


「ええ、ありがとうございます。頑張ります」


「ウカノミタマも気をつけて」


「ええ、もちろんですとも。充分に」



二人の返事を聞いて呼々はひとつ頷くと、“天上”を見上げた。

そこには自分以外が視認できない光のあながある。


それを確認すると、呼々は高天原への移動を念じた。


呼々の体が光りの粒となって孔に吸い込まれていく。



そして、全部が消えて無くなったのを確認すると、九郎はぐっと背伸びをして強く息を吐き出し気合を入れた。


「よぉし、やりますかね」


まずは眠り薬からだ。

九郎はそう言って早速調合室へと向かって行った。









―― 一方、その後の高天原 職員休憩所






ガヤガヤ……


きゃいきゃい……


ざわざわ……



「でさ、依り代ボディーはどのタイプにするわけ?」


「それはもちろんボンキュボンなヤツっしょ」


「ばっかね~それじゃあ呼々の基本のイメージとかけ離れちゃうじゃない」


「下着はどうすんの?やっぱ白で清楚なのがいい?それとも黒で攻めちゃう?」


「いやぁ、白じゃお子ちゃまでしょ。黒もどうかなぁ。ここはもっとグッと男心を掴むようなさ」


「え、っていうか……やっぱり脱ぐわけ?」


「それは、ねえ?」


「………」


「………」


『きゃー!だいたーん!』


「あ、あの……みなさん……あの……」



休憩所の中央のテーブル。

呼々を中心に女性スタッフが十人ほど集まってあーでもないこーでもないと騒いでいた。


その話題のネタはやはり呼々である。



「あの、わたくしは別にそのような考えがあって……それに、こんな大事にするような話では」


「何言ってるのよ呼々。仕事仕事で色気の無いアンタがついに男とどうにかなろうってのよ!」


「いえ、『どうにか』って……」


「そうよ!相手がいくら現世の男でもね、コッチの神格さえ上がっちゃえば依り代使って子供だって作れちゃうし結婚もオッケーなんだからね!」


「そうそう、ここで攻めなきゃ!あと百年は枯れたままよ!」


「あの、子供って、結婚って……え、ええぇ……?」



呼々が高天原に帰って来た直後、呼々はその場に居た暇を持て余した同僚に何故か囲まれ、訳も分からぬまま拘束されてしまった。そして、休憩所に連れて来られイスに座らせられたと思うと、現世に降りるときに使う依り代カラダや服のカタログなどを山と積まれて『さあ、作戦会議よ!』と……つまりは先ほどのホームパーティーの話を覗いていた同僚たちによる、九郎と呼々をくっつけるための余計なおせっかいが始まったのだ。


「別にわたくしはホームパーティーを一緒にとお誘いしただけのことですし」


「それから発展するのが男女ってわけよ。それにウズメちゃん呼ぶなら絶対下ネタ系のそういう雰囲気になるしね」


「酔ってなくてもだいたい脱ぐもんねあの人」


「あと、踊るしね。それに卑弥呼様もお酒入るとボディータッチ系のスキンシップ多くなるし」


「千々姫様はキス魔でしょ?」


「愛ゆえよ。兄がアレだからね、普段は厳しさを出すために抑え込んでるから人にそれを伝えたくなるのよ。過度に。可哀想な人だわ。最後は泣き始めるし」


「うぅ……もう、止めておきましょうか」


『それはダメ!』


「な、何でですか!」


『面白くないじゃない!』


「ええええぇっ……」



がっくりとうな垂れる呼々。

結局彼女らは自分ココを玩具にして退屈な日々に刺激を得たいだけなのだ。


「ハァ……」


重いため息が出る。

今日は通常の報告に加えて、九郎が他のプレイヤーと近在していたとの情報から得たトラブル予測を書面にして出さなければならない。こんなところで姦しくやっているわけにはいかないのに。


「早く解放して……」


その視界の端には新着のメッセージが四通届いているのが見える。恐らくは報告書の催促とさっきのやり取りを見た誰かからだろう。


そして今、五通に増えた。


(わたくしも今夜は徹夜ですね)


どうせなら彼のホームで報告書でも書いていれば良かったか。

そう思うが、それはもういまさらだ。

この場から逃げ出す勇気も無い。


(とりあえず話をさっさと終わらせましょうか)


呼々は再度ため息をつきながらテーブルの上のファッション雑誌に手を伸ばした。



ウズメちゃん:裸族。

卑弥呼:行き遅れ。婚活中。


みんな刺激に飢えているんです。

なんたって百年や二百年なんにもなしなんて当たり前だもの。


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