ミッション4:取扱注意
お待たせしました!ってあまり進んでいませんごめんなさいorz
時間が流れるのは早いものだ。
九郎が色んな意味で敗北したあの日からゲーム内時間で三週間ほど経った。
九郎は三つほどレベルアップして、あの逃走劇によるものを含めて技能も三つ増え、確実に強く……いや、マシにはなっている。まあ、その辺はまた後日話そう。
そうそう、時間の流れが早く感じているときは本当に時間というものが早く流れている、という話があるのはご存知だろうか?
いや、単に余談であって、今はこれ以上拡がらないから忘れてくれてもいい。
現実ほうではまだゲーム内時間の三分の一しか流れていないから、さほど日は経っていない。ゲームとは違いそんな短期間では何も特別なことは起こらない。
この数日のうちにあった仕事の面接は、三件受けて三件不採用。内、面接の場所にすら行けなかったのが一件。
隣を歩いていた妊婦さんが突然産気づいたり、大荷物を抱えて道に迷っている外国人の老夫婦に道案内を頼まれたり、自転車に轢かれそうになった男の子を助けて怪我をしたりといつもとはちょっと系統の違う、けれどいつも通りのトラブルにまみれた日々を送っていただけなので、やはり特筆することはない。掘り下げるつもりは無いのでこれも忘れてくれていい。
自転車衝突の衝撃を吸収したお尻が腫れて座るのが苦痛だが、九郎の不幸はいつも通り、今日も今日とて平常運転だ。
さて、現実は以上になるのでお次はゲーム内のお話。
ゲーム内で言うこの三週間の内に九郎が何をしていたかだが、簡単に言うと呼々の言う身の回りの充実……“ゲンクロウ軍”の強化に取り組んでいた。
九郎が最初に取り掛かったのは物作りからだ。
現在ホームには九郎謹製のそれなりに良質な武器防具が仲間の数で一揃い揃えられている。九郎は現時点では武器を持たないほうが良いのだが、しっかりと自分用の剣を二本用意してあった。
例えステータスが上がったとしても、素手で化け物に相対するというのはなかなかに勇気がいる。不安を軽減するためにも、一応備えをしておいたのだ。
また、あの日買った簡易鍛冶セットに加えて、九郎のホームには新たに初心者シリーズの生産系セット商品である調合セットが設置され、少しずつではあるが装備以外の面でも環境の改善が進んでいるところだ。
このセットも設備に五千ソウル、素材のまとめ売りで千ソウルと高かったが、九郎は必要経費と迷い無く購入を決めた。また、これからソウルが貯まったら生産系の設備の初心者セットを買い揃えていくつもりもある。
かなり痛い出費にも関わらず九郎が設備の追加購入を決めた理由は二つ。
一つは作成をある程度こなしていくと、生産系の【○○の才能】という技能が追加されることに気付いたこと。そしてもう一つは、その技能を所持したプレイヤーが作成した品だと、同じ品質の同名の販売商品よりも性能が良くなることを知ったためだ。
当然、素材の良し悪しや組み合わせ等によってはその限りではないが、普通の品質の素材でマニュアル通りのレシピに則り基本に忠実に作り上げたら、あら不思議。販売品を上回る性能を持った品が生まれるのだ。
なお、九郎がそのような技能を得たのは四十二本の短刀モドキと十三本の青銅剣モドキを山と築いたあとのことで、成功すればするほど技能の取得や成長が早まると知ったときにはもっと慎重に作っていればと反省した。
ああ、出来上がった物は九郎が丁寧に供養したので安心してほしい。
とにかく、この苦労によって九郎は【鍛冶の才能】を手に入れたのだ。
このような才能と名の付く技能は関係する複数の派生技能の基礎でもあるようで、現在九郎は剣だけでなく防具や装飾品にも手を出して他の技能出現の条件を探っているところで、また、それと同時に、技能獲得のためにも新規購入した調合セットに貼り付いて、ああでもないこうでもないと眉根を寄せて練習を繰り返している。
ちなみに九郎はウカノミタマと二人で調合を行っているがどちらも未だ【調合の才能】は得られていない。今日も今日とて朝早くからホームの裏の小屋に篭って二人仲良く唸っていた。
「むむっ、混ぜ合わせの比率がなかなか面倒ですぞこれは……」
「あぁっ、薬草すり潰し過ぎた」
各工程で二人のため息が幾度も漏れる。
調合は工程こそ少なかったが、出来上がりの品質を±0である【普通】に届かせるのに非常に神経を使う作業の連続だった。
今は傷薬を作成しているのだが、三十三個作った現時点で【普通】以上の状態で仕上がったのはたったの六つ。あとは粗悪品ばかりだ。
「ゲンクロウ殿、やはり“自動”でやったほうが早いのではありませんか?」
ウカノミタマが混ぜ合わせの最終工程を終えて手を止め、疲れ果てた声色で主に伺う。
横では九郎も同じく疲れを色濃く宿した顔をしていたが、しかし、彼は首を横に振った。
「早いは早いよそりゃあ。でも品質は素材に合わせたものしかできないし、どうも“手動”でやらないと経験値とか熟練度みたいなものがほとんど上がらないみたいなんだよ」
「ふぅむ。便利な機能には便利ゆえの落とし穴、ということですか」
「ああ、そういうことだろうね」
専用の施設・設備を利用して何かを作る際にプレイヤーは【手動作成】・【自動作成】の二つの方法を選べるようになっている。
【手動作成】は文字通りのマニュアル操作だ。
この方法では、使う道具や技能などによる出来上がりに対しての効果的な補助はあっても、作成を手伝うような動作的な補助は起こらない。プレイヤーは己の感覚だけで最初から最後までを作り上げる必要がある。
もちろん、あくまでもゲームであるため、本当の鍛冶の工程を踏むわけではない。
どんな素材を使ってどんな工程で作り、どれくらいの力加減でもってどういったタイミングでどのように叩いたか、そういったところで作成の成否と品の良し悪しが左右される。
この成否に関してだが、マニュアル操作のときにのみ成功時の評価がこの他にも二段階現れるようになっていた。
通常、正しく出来上がったときには、
《 初心者の短刀 の作成に 成功 しました 》
というようなメッセージが表示されるのだが、これが最良の手順で作られたときの極低確率で、【大成功】もしくは【天下一品】になることがあるのだ。
これら二つの評価が出た場合は素材の良し悪しに関係なく品質や性能に大きく補正が付く。
また、【天下一品】ができた場合にはさらなる恩恵があるのだが、成功すらまともに出てこない九郎には縁遠い話か。
さて、ウカノミタマの勧める【自動作成】だが、これは素材を用意するだけで挿入された作成手順もしくは発見されたレシピをもとに、システムが道具を動かして目的の品を必要分作り上げてくれるサポート機能だ。
技術が無くても手順さえ知っていれば、指定の品を素材に合わせた同一の品質、同一の性能で作り出せる。手順はシステムが補助するからほとんど失敗もない。
単に目的の物が欲しいだけなら非常に便利な機能の自動作成だが、この機能を使うと九郎の言った通り経験値も技能のレベルアップに必要な熟練度もまったくと言っていいほどに伸びないようになっていた。
楽をしよう楽をしようとする者に成長は無いのだ、とシステム化・オートマチック化されていく現代社会を暗に皮肉っているようだと九郎は感じていた。
「慣れてきて、熟練度も上がればもう少し気楽に作れるようにもなるとは思うから、今はただただ忍耐忍耐だ。こんな地味で面倒くさい下積みも、ゲームの醍醐味だよ」
「ふむ。そういうものですか」
「そういうものだよ。とはいっても流石にゲーム的なスタミナ切れを起こしそうだから、あと二つ三つ作ったら休もうか」
九郎がそう言って疲れきった微笑を浮かべると、ウカノミタマもコクリと頷く。
現実では物作りをしているだけで意識を失って倒れるようなことはそうそう無いが、ゲーム内は生産行動をするだけでストレス値が上昇しスタミナがガンガン削られていくのだ。
生産行動の取り過ぎで死亡だって有り得る。
現代社会でも問題視される過労死が、ゲーム内では簡単に起こり得るのだからなんとも笑えない。
(戦闘と同じように経験値が貯まるわけだなこれは)
それで効果があるわけではないが、九郎は凝り固まった肩を解すように回して傷薬作成最後の工程に入る。
それからしばらくすると、作成していた手元が黒く光ってメッセージが現れた。
《 残念!作成に失敗し 接触不可アイテム : 危険な臭いの傷薬? ができあがりました 》
ああ、そうそう。マニュアル操作だと、失敗の評価にも下に二段階が出ることがある。
【大失敗】と【接触不可】の二つだ。
その内容は言うまでも無いが成功時の真逆で、これも一種の極低い出現率の品である。
「あー……ゲンクロウ殿?」
「今日はここまでにしよう」
「そ、そうですな」
九郎には【鑑定】の技能は無く、ビンの中に出来上がった黒くてドロドロした異臭を放つナニカが何か判らない。
とにかく【接触不可】の言葉通り直接触らないように注意して、その危険物をアイテムボックスの中に放り込んだ。
「ふう。お昼は何を食べようかな」
「げ、ゲンクロウ殿……」
大成功も出ないのに先に大失敗より下を目にするなんて、無い。
九郎はさっきのナニカを見なかったことにして異臭の残る小屋を後にした。
成功時の評価について:品質の評価とは違います。また、品質は数値で表されるため、作中のように【ふつう】とは表示されません。
最大成功、最大失敗時には特殊な効果が付与される仕様です。
今回クロウがアレを出せたのは、調合完了の状況発生時に【運】が負の上限値に近い数値を出したからでした。という裏話。




