ミッション2:アイテムは多いほうがいい
本日連続投稿ですご注意ください。1/2。
次回更新はわたしのメイン作品のほうに力を入れるので更新が日曜でない恐れがあります。ご理解ください。
いつもお読みいただき、感謝感謝です。
ゲンクロウ・プレイヤーホーム:リビング
双子の神の慌しい足音があちこちを駆け回る中、ウカノミタマの怒りと呆れの混ざったため息が板張りの床へと転げ落ちた。
「――で、鬼たちからボコボコにされながらも、どうにかこうにか包囲網を抜けてきたと」
「……ぶぁひ(ハイ)」
そのため息を拾うのは住所NOT不定無職の源九郎二十三歳(独身)である。
情けなくも右の鼻腔からだらりと垂れる鼻血に布で栓をし、パンダのように目にできた青あざをオキツヒコに、切り傷・擦り傷をオキツヒメに手当てしてもらいながら九郎はシュンとして項垂れた。
ウカノミタマはそんな情けない姿でイスに腰掛ける九郎を腕を組み見下ろす形だ。
「プレイヤーは基本的に仲間に頼らないといけないほど弱い存在ですぞ」
「存じてぱす」
「エンカウントするモンスターとの戦闘は一対一とは限りませんぞ」
「はひ」
「森だけでなくこの島々の各所には色んな敵や罠が待っているでしょうな」
「それはぼーホントひ」
「二度と無謀なことはしないでいただきたい」
「……申し訳も……」
はぁ、と主従二人のため息が重なった。
あのとき、モンスターハウス罠で出現したモンスターの数は恐らく半径だけで百を超えていただろう。九郎はそんな絶望的状況の中をタコ殴りにされながらどうにか生還した。
切り傷・擦り傷・打ち身を作って血を流し、土に塗れ、幾度と無く吹っ飛ばされながらも距離を取ることに成功し、即座に帰還の笛を吹いてホームへと逃げ延びた。
考えれば考えるほどによくもまあ生きて戻れたものである。
アガペー動画で見ることのできるゲンクロウのライブ放送では、九郎が宙に浮いたり囲まれたりする度に『はい、詰んだー!!』という九郎の叫びを揶揄したコメントが顔文字と一緒に弾幕となって何度も流れたくらいだ。相当危険な場面が多々あった。
こんな状況下を突破できたのは、ほとんど技能と称号の効果のお蔭だったが、赤鬼との戦闘での経験もかなりの後押しになっていたに違いない。本人に自覚は無いが、こと逃げると避けるの技と感覚は相当に鋭くなっていた。
また、牛頭馬頭の二頭が何故か九郎の後を追ってこなかったということも逃げ切れた一つの要因である。それについては運が悪い九郎にして運が良かったと言ってもいいかもしれない。
九郎は知らないが、モンスターはその視界やキャラごとの補足範囲……縄張りのようなもの……が定められている。一部のモンスターを除いて、大抵のモンスターはそれが五十メートルであり、そこから抜け出すと視界に無い限り追われることは少ない。
牛頭馬頭もこの例には漏れなかった。
馬頭があのとき九郎を最後に捉えたのが既に補足範囲ギリギリ。しかも視界にほとんど入っておらず、他のモンスターが邪魔で追えないという状況にシステム的な命令が二頭に伝わり、二頭の思考が自然と『諦める』に切り替わったのだった。
九郎は牛頭に放ったあの一撃以外とにかく戦わず、殴られようとも反撃せず、敵から距離を取ることだけを考えていたのでこれが功を奏した。
まったく、ゲームシステムさまさまだ。
「それで、その黄金色に光る木というのは?」
九郎の治療が終わり、九郎を上座に仲間たちがテーブルにつく。
オキツヒメの用意したお茶とオキツヒコの用意したお菓子が並び、九郎がお茶をひとつ啜ったところでウカノミタマが九郎の戦利品について訊ねた。
「ああ、これだよ。あと、他にもドロップした種とかもあるから見てくれ」
九郎はアイテムボックスから黄金色の木を取り出す。それに続いてイマモからドロップしたアイテムも取り出してテーブルの中央に並べた。
本当は小鬼たちから出た牙やら爪やらの素材系アイテムが主な戦利品だが、胸を張って見せるような物でもなかったのでそれらは端っこにまとめて雑に置く。
「この木は……どうやら外の国の物のようですぞ。わたしの技能でも詳細までは判りませんが、特殊アイテムで【バロメッツ】と名が付いております。どうも今の状態では何にも価値のない、育成ありきの物のようです」
ウカノミタマが(多分)目を細めながら木を上から下へと手に持って眺める。
ウカノミタマには九郎のような【植物図鑑】や【鑑定】の技能は無い。しかし、それが食材であったり、食材になりうるものを使っているものであったりすれば、ほぼ百パーセントその用途・用法・効果などを見抜くことができる特殊技能を持っていた。
それを【ウカの眼力】という。
この技能が効果を発揮できない数少ない例外は、条件によって変化するような特殊な品や、何らかの事情で詳細が見れないように封印されたもの、もしくはプレイヤーメイクの品くらいである。
つまり、ウカノミタマの目で全容を見抜けないということは、とにかくこの木が特別なアイテムであるということだ。
だが、名前やどうすれば良いかが一部でも判ったということは食べ物には関係すると考えてもいいかもしれない。
安全かどうかは判断できないが、わざわざ製作者が凶悪な罠まで仕掛けて用意したものだ。育てる価値はある。
「とりあえず畑とはまた別に場所をとって育ててくれ。バロメッツって名称にはなんだか聞き覚えがあるからまた何か気付いたら指示するよ」
「承知しました。ヒコ、とりあえず何か植木鉢の代わりになるものを」
「アイヨー」
ウカノミタマの指示でオキツヒコがリビングを出て行く。
(あー、畑は考えていたけどプランターとかは買っていなかったな。今後もこういうことがあると想定して買っておこうか)
オキツヒコ、オキツヒメが管理できる範囲で薬草や香草の類を育ててみるものもいいかもしれない。そうすれば少なからず内政方向の能力向上に効果が上がるかもしれないし、二人が何か育成系の技能に目覚める可能性があった
(情操教育にも良いよな。…………ん?何か違うか)
九郎はフムと腕を組み、顎を撫で擦る。
「こちらの胡桃のような物は大きいですが実ではなく種ですな。【ちからの種】と言います。細かく砕いて薬草などと混ぜて丸薬などにすると、混ぜ合わせた物によって様々な能力増強の効果をもたらすようですぞ。このまますり潰して食べても何かの能力が一つ上がるようですな」
「【ちからの種】か。懐かしいフレーズだな」
あとは【かしこさ】とか【すばやさ】とかシリーズがあれば面白いのだがどうなのだろうか。
まあそれは置いておくとして、とりあえず九郎は昔RPGを遊びながら思ったことを訊ねてみる。
「これを植えて増やすことはできそうか?」
そう、栽培だ。
○○の種とか実とかを手に入れる度に思っていた。
これ、植えて育てて増やせば勇者いらねえんじゃね?
ゲームにそんなツッコミは無粋だとは思うが、これはきっと誰しもが思っただろう。
おぼろげではあるが、某ゲーム設定資料集にはその手の品には特殊な力が働いていて、植えても育てることができないとか説明があったと九郎の記憶にはある。
さて、そこのミソロジーライフではどうなのか。
「不可能……ではありませんが現状ではかなり難しいでしょう。肥料や道具を良い物に変えなければ手持ちの物だとほぼ間違いなく失敗します。こちらの青い種は問題ありませんが」
ウカノミタマが青色の柿の種を手に取る。
「そっちは?」
「滋養の実の種ですな。柿のような大きさで甘みのある果実がなります。効果は食べると疲労回復・小といったところですか。強壮薬や飲むタイプの傷薬にも用いられたりするので用途は広いかと。トマトの栽培に似ていますから育てるのはそう難しくはありません」
「じゃあ当面はそっちを増やそうか。ちからの種は環境が整うまで保存しておこう」
「畏まりました。ヒメ、布に包んで後ほど保存庫に入れておいて」
「は~い」
ちからの種はオキツヒメに渡り、オキツヒメはそれを大事そうに両の掌で包み抱く。
また、ちょうどそのときオキツヒコも戻ってきたので、バロメッツが土の入った小型の木箱に丁寧に植えられ、ウカノミタマの指示でオキツヒコがバロメッツを持って再びリビングから出て行く。バロメッツは裏庭に植えられるようだ。
なお、滋養の実の種はウカノミタマが持っている。
彼女に任せれば栽培は上手くいきそうだ。
「あ、そうだ。ついでだから畑拡張しちゃおうか?」
「そうですな、許可をいただければ拡げたいと思いますが」
「必要なら許可が無くてもどんどんやっちゃって。畑や生活面に関しては、余程で無い限りキミたちに任せるつもりだ」
双子は生活面で、ウカノミタマは畑の管理や食材の扱いでのエキスパートだ。
ヘタに九郎が指示出すよりも『任せる』と言っておいたほうが良い結果を生むだろう。
「有り難くあります。では、早速これから取り掛かりましょうぞ」
「俺も手伝うよ。もう今日は戦いはしたくないし」
「ははは、そうですか。では、今植えている野菜とは少し離して作りたいので、土を起こすところからになりますが、お体のほうは大丈夫ですかな?」
「俺も男だ、問題ない。コレくらいじゃ疲れたなんて言わないぜ」
実際のステータス的な面ではもう疲労困憊ではあったが、そこは男の見栄。
九郎は胸を張った。
どうやらウカノミタマには見抜かれているようだが。
「ほうほう、それは失礼しました。……では、根を上げるまで頑張ってもらいましょうか」
「えっ!?」
それから九時間ほど、軽い休憩を挟んだだけでぶっ通しの畑作りと世話が続いた。
その結果、畑は一気に拡大したが、生活面でもプレイヤーの貧弱ぶりを体感することになった九郎であった。
バロメッツ:ヒントはカニ味。捨てるところがない。
ちからの種:ほんと昔から思ってました。あれを植えて増やせばいいじゃないかとww




