ミッション1:時には逃げる勇気
お待たせしました!
ようやく時間がとれて更新です!
本編は冒険の書(章)ごとに複数のミッション(章の始まりのメインクエストにちなんだ話)があって、それを主人公や仲間が解決して進んでいく作りです。
だいたいはテーマ提示→各問題解決→次クエストといった感じになります。
現世の話は突発ミッション的な扱いで書くことになります。
また次回の更新は日曜?
偽ゴールデン週間の間に書きためたりできればもっと早いかもです。
評価・感想・アドバイス、いつもありがとうございます!
ご覧頂いている皆様に感謝!
「うけけけー!」
ホーム近くの森の中。
どこか懐かしささえ感じる鳴き声で、青い体をした小鬼が金棒を振り上げ九郎に飛び掛る。
「よっと」
それを九郎は難なく避けるとカウンターで腹に拳を一発。
「うげっ!?」
拳が上手いこと鳩尾にめり込んで小鬼が唾液を飛ばしながら蹲る。九郎はすかさずその頭目掛けて踵落としをお見舞いしてやった。
「ぐべっ!」
小鬼はまるでヒキガエルのような呻き声を上げて地面に突っ伏すと、数秒悶えた後、光りの粒になって消えていく。
「これで十八匹目……か」
安堵か落胆か。九郎がため息を漏らす。
新技能【魔物使いの才能】の効果の程を試すため侵入した森の中、あれから九郎は既に一時間を超えて彷徨い、魔物を求め、狩り続けていた。
「また何も無し。方法が悪いのかな?」
ガリガリと頭を掻く。
なかなか成果のでない展開に、テンションは下がりいつもの落ち着きは取り戻したものの、いい加減疲れ始めていた。
とりあえずゲームのように倒せば確率で仲間になると予想していたのだが、流石は極低確率といったところか、まったく仲間になる魔物は現れない。何度か仲間にならないかと声をかけたり拾った果物をくれてやったがまったく状況は変化無く、戦闘は続行するだけだった。
声をかけたりで唯一変化したように思えたのは、敵が死亡したときの光りが消えるまでの時間。
抽選でもしているのかほんの数秒長くなったくらいだが、多分あれが何か関係しているような気はしている。
とはいえ、光りが変化してもアイテムや素材になるばかりなので、予想は大ハズレかもしれないが。
「出てくるのはほとんど鬼だけだし倒すのは楽なんだけど、ドロップ率も低いしモチベーションがさがるなあ」
九郎がこの森の中で遭遇したのは赤と青の小鬼と、餓鬼が主であまりバリエーションが無い。
たまに疫鬼という中国の病の妖怪や天邪鬼が混ざるが、どこへ行ってもだいたい鬼族という偏り具合は【鬼が島】を連想させるほどだ。
そうそう、まだ二匹しか見かけていないが恐らくはレアモンスターなのだろう、かつて天草諸島下島で出現していたという妖怪イマモも居た。
鬼族ではなく【幽霊族】で、血だらけの足が飛ぶというかなりスプラッタな生き物だが、『今も!』と脅かしてくるぐらいで大した害は無く、蹴り一発で沈むお茶目さんだ。
九郎にとっては鬼族狩り放題で胸焼けしたところに出てきた新鮮なサラダのようなもの。美味しくいただかれている。
「イマモはアイテム100パーセントドロップぽいからもっと出てくれると張り合い出るんだけどな」
イマモが落とすのは謎の木の実や種だ。
現在手に入れているのは二つ。
一つ目はオレンジ色をした大きな胡桃のようなしわくちゃの実。
二つ目は青い柿の種。
植物図鑑では何も出ないので特殊なものか上位の品かもしれない。
そう思うともう少し数が欲しかった。もし良い物ならばウカノミタマに管理を任せ増やすつもりだ。
「イマモやーい、どこだー」
あちらこちらをイマモを探して練り歩く。
もうこの森に入った趣旨が変わり始めているが気にしない。
すでに仲間にするよりも素材やアイテムを集める過程で仲間になったらいいな、というくらいの気持ちでいるほうがいい気がしてきていた。
「ぎゅげげー!」
またまた小鬼がポップして九郎に向かって飛び掛る。
「お呼びじゃない」
小鬼が振りかぶる間もなくカウンター気味の蹴りが飛ぶ。
クリティカルヒットのようなものだろう。丁度踵が顎に入っていい音がしたかと思うと小鬼は何の活躍もできないまま光りの粒になって消えた。
やはり今度も何も起こらない。
「しょっぱいなぁ」
九郎は再びため息をついてさらに森の中を進んでいった。
◇◆◇◆
ちょくちょく現れる敵を倒しながら森を進み、見つかる食べられる野草や果実、ゲームオリジナルの薬草などを採集しつつまた三十分ほどが経った。
気が付けば九郎は森のずいぶんと奥の方までやって来ていた。
オプションで時間を確認するともう三時間近くの“散歩”になっている。
「……っと、そろそろ帰ろう。いくら鬼族ばかりでもこのまま進むのは危険かもしれない」
奥に進むにつれて体感的に鬼たちの能力が上がってきているように感じた。【見抜く】は使っていないがもう一つか二つはレベルが変わっているのではないだろう。
九郎のほうもレベルが一つ上がり、技能は【採集】と【野生児】がレベル2に、【徒手格闘】がレベル4に上がっている。技とかは覚えていないが、格闘をしている間は相手の攻撃を見切り易くなり、格闘技の経験など無いのにアクション映画のようなバトルができるようになっていた。
「まあ、でも、今ならあの赤鬼でも倒せそうな気がするけど。シュシュッ!へへっ燃えたろ……なんてな」
軽くシャドーをしてみて九郎は悦に入る。
誰かから見られていたら大火事だが幸いにしてここにはモンスターしかいない。
しかも現在は九郎が狩りつくして周囲にポップするにも時間がかかりそうだった。
「さ、帰ろ帰ろ」
自分の行動の痛さに気付き咳払いを一つ。努めて冷静を装いつつショートカットでアイテムボックスから木魚風の笛を取り出す。ホーム帰還の笛だ。
九郎は笛に唇に当て、息を吸って――そこで、木々の間に黄金色の光りを見た。
「なんだアレ?」
近づいてみるとそれは盆栽サイズの木だった。背の低い木と木の間で不自然なほどに『触れてくれ、採ってくれ』と輝き自己主張している。
ゴクリ――九郎の喉が鳴る。
その枝にはひょうたんのような、はたまた落花生のような実が生っており、それが黄金の塊のように艶々とより強い輝きを放っていた。
妖しい。妖しすぎる。明らかに罠くさい。
だが、九郎は、その木を目にした瞬間から持ち帰らなければならないような使命感に駆られていた。
それは、『押すなよ!絶対に押すなよ!』という言葉を聴いた芸人の胸中のようであり、川を流れる桃を見たお婆さんの心境であり、ゲームの主人公が避けて通ることが許されないフラグを目の前にしたときの感覚。
「…………よし」
やらねばならない。
九郎はその黄金の木の傍まで歩み寄り、その周囲の土を掘ると、おもむろにその幹に手をかけ、一息で引っこ抜いた。
その瞬間――けたたましい警告音とともに軽く半径ウン十メートルの魔方陣のようなものが出現したかと思うと、足元から紫色の光りが噴出し、真っ赤な警告文が九郎の視界を埋めた。
《 モンスターハウスだ!! 》
「はぁぁぁぁぁっ!?」
TV番組ならウハウハの罠発動。
ビョウビョウンと奇妙な電子音が立て続けに鳴り、九郎の視界いっぱいに黒山のモンスターだかりができていく。
赤鬼、青鬼、餓鬼、小鬼、疫鬼に天邪鬼。
先ほどまで戦っていた奴らはもちろん、まだ一度も見たことも無い化け物がポップし続ける。
出現は当然、前後左右すべて。
それはまさにダンジョンRPG恒例の極悪トラップ・モンスターハウスの発動演出そのものだった。
「う、嘘だろ!?なんでこんな場所でモンスターハウスなんか。ちょ、ちょっと待て――って、くそ!なんで体が動かないんだ!?」
すぐに逃げ出そうと黄金の木をアイテムボックスに放り込み駆け出そうとするが、体はピクリとも動かず、空中には呼び出されたアイテムボックスが空しく浮いていた。
「まさか……自力の脱出以外許さないとかないよな?」
モンスターのポップが続く中、九郎はその手に一度は収納したホーム帰還の笛を呼び出してみる。
《 このアイテムは現在使用を禁止されています。 使用なされる際は戦闘状況を終了されるか、敵対者から五十メートル以上距離をとってください 》
「はい、詰んだー!!」
どう考えても脱出不可能。
至高の装備・ダンボールを身に着けたへビのオジサンですらインポッシブルだろう。
ここまで十秒ほど。
九郎の目の前に、身の丈三メートルはある大きな牛頭・馬頭の大男がお揃いの服と凶悪な棘つき棍棒を装備して現れるのを最後に魔方陣(?)と九郎を拘束していた力が消えた。
「ブルゥフフフ……」
「ンモォフッフッフ……」
ニタリ――牛頭と馬頭の怪物が九郎を見やり、その顔に薄気味悪い笑みを浮かべた。
どちらも草食動物のくせして立派な極太犬歯が生えている。
恐らくはこのモンスターの群れの中で一番危険な奴がこの二頭だった。
ゴクリ――再び九郎の喉が鳴る。
九郎が僅かな動きも見逃さぬように睨みつけながら、その二頭を注視した。
(……み、【見抜く】……)
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名称:【 牛頭 】
種族:【 獄卒鬼 】
スピリットタイプ:【 中立 】
レベル:【 15 】
《装備》
【痛打の金棍棒】
【獄卒鬼の腰巻】
*【攻撃評価】:C
*【防御評価】:E+
*【心力評価】:F
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名称:【 馬頭 】
種族:【 獄卒鬼 】
スピリットタイプ:【 中立 】
レベル:【 15 】
《装備》
【痛打の金棍棒】
【獄卒鬼の腰巻】
*【攻撃評価】:C-
*【防御評価】:D-
*【心力評価】:E-
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(ゲームオーバーか)
見ただけでも分かる圧倒的に不利に駄目押しの一撃を喰らったような精神的なダメージを九郎は受けていた。
「ブルフフフ……」
馬頭がかかって来いとでも言うように鼻先をふんふんと揺らす。
「いや、無理だろう」
思わず諦めの言葉が口をついて出る。
牛頭馬頭は百鬼夜行にも出てくるほどの有名な妖怪だ。九郎の買った本にも詳しく載っていた。
牛頭馬頭は仏教において地獄にいるとされる怪物で、獄卒という立場から亡者たちを責める役割を担っている。謂わば鬼のエリート。能力は赤鬼と大して変わらないように見えるが、赤鬼と違いスリムでマッチョのガチムチボディ。どう考えてもエリアボス、中ボスといったキャラクターだ。
頭はただの黒毛和牛と汚い白馬だが、タケミカヅチの力が使えない以上、九郎の攻撃力では素手で殴っても大したダメージにはならないかもしれない。
だが、
「……鬼族……か」
油断無く周囲を睨みつけて【見抜く】を使っていくと、九郎を取り囲むほとんどのモンスターが鬼族と出ている。恐らくすぐに襲ってこないのも九郎の身に宿る【鬼殺しの威圧】のお蔭だろう。
どうやら牛頭馬頭には効き目は薄いようだが、他の敵には充分な効果があるようだ。
悔しそうな唸り声がそこかしこから上がっている。
(敵が鬼尽くしなら、逃げることだけに専念すればどうとでもできるかもしれない)
ゴクリ――三度、九郎の喉が鳴った。
(どうせこのままだと死ぬんだ。それなら――)
ゆっくりと膝を曲げ、重心を低く構える。
左手に持った黄金の木をアイテムボックスの上にやり、右手を腰に佩いた旅人の剣の柄へと手を伸ばす。
「死ぬ気で突破してやる!」
九郎は木をボックスに放り込むと同時に剣を引き抜き、その勢いでそのまま一回転体を捻ると、牛頭馬頭の頭が並ぶ丁度真ん中に向かって思い切り投げた。
「ブモッ!?」
「ブルッ!?」
ほんの一瞬の出来事。牛頭馬頭は反応が遅れるもののどうにか仰け反って避ける。だが、それにより体勢が崩れた二頭の重心は後方へと向いた。
その態勢のまま牛頭馬頭が九郎を睨みつけるが、しかし、その視界には九郎の姿は無い。
「ブ、ブモォッ!?」
「ブゥルァ!!」
二頭の大きな体が禍した。
二頭が九郎が九郎を見失ったそのとき、すでに九郎は牛頭の足元へ駆けていた。
「うおぉぉぉっ!」
狙うは牛頭の左足。重心のかかりきった膝裏。
その場所ならば、砕くことはできなくとも折ることはできる。
「倒れろぉっ!!」
【益荒男】効果でパワーの上がった九郎の回し蹴りが、ズバンと音を立て、牛頭の膝裏に全力の膝カックンをかけた。
「プモッォォォッ!!」
ヒトの形をしている以上、ヒトの構造の限界を超えた体勢にはなれない。
牛頭は情けない声を上げ、ガクンと膝を折って後ろに仰け反るようにして倒れこんだ。
頭が重いのだろう、一度変な体勢になるとなかなかその体勢から抜け出せない。
「ブルホォァァ!!」
相棒の無様な姿を目の当たりにした馬頭が唾を撒き散らし、牙を向き、怒りの咆哮を上げて九郎を睨みつける。
「――フルルァ?」
だが、そこにはすでに九郎はいない。
「ぐげげっ!?」
「ゲギャァ!?」
「ヒィィッッ!!」
それどころか牛頭馬頭が構えていた後方から小鬼たちの悲鳴が上がる。
「ブルァァ……」
馬頭が九郎を視界に捉えたときには彼我の間には既に数十メートルの距離があった。
モーゼの十戒のように九郎の通った鬼たちの獣道ができており、足場の悪さとどうせ抜けられはしないだろうという思いから馬頭は追うことを諦めた。
牛頭・馬頭:本文と同じ。エリートなので若干知能は高いです。他にも竜やトラなどの頭の怪物もいますが毘沙門天にぶった切られる話があったり、百鬼夜行に参加したりとよく登場するので有名。牛頭は牛鬼とは違い、ちゃんと働いています。休みはなく、仏さまの指示でこんなところまで出向です。まさに社畜ですねw
イマモ:本文ではレアモンスター扱い。別に植物とは関連はありません。かのモンスターの噂をしていると出てくるそうです。似た話だと油すましもそうですね。いまもいるぞってでてきます。
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