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【ミソロジーライフ】  作者: 文悟
冒険の書1
11/20

メインクエスト:僕も私も主人公

本日二話更新です。


評価・感想などありがとうございます!

毎週日曜更新予定ですが、突発更新など報告はお気に入りユーザーを登録していただきますと確認が便利です。


リクエストやアドバイスお待ちしています!

この物語の主人公・源九郎は、休みの日であってもとても早起きである。


二月二十日。

ゲーム開始の翌朝・五時半頃、セットされた目覚ましが鳴り始める寸前に起床。

わざわざタイマーでなくセルフで炊飯ジャーの炊飯を開始すると顔を洗ってご近所の迷惑にならない程度に軽くラジオ体操。終わったらスウェットからシャツとジーンズに着替えて今日のゴミを捨てに行く。


カラスが荒らしたのかゴミ捨て場の周辺が少々汚かったので掃除をしておき、戻ってきたらさくさくと料理を開始。目玉焼きや味噌汁などを作り上げ五分ほど待つとご飯が炊き上がり、今日も食材とそれらを用意してくれた作り手の方々に『いただきます』と感謝して朝食となる。


食べ終わったらすぐに片付けて歯を磨き、トイレに行って、出たら今日のスケジュールを確認。


ここまで一時間と少し。


特に何も無いのでいざ【ミソロジーライフ】へ!……と意気込んだのだが、計算すると今入るとミソロジーライフの世界では恐らく深夜だと気付き昨夜遅くまで読みふけっていた日本神話とファンタジー動物の図鑑を手に取って再読する。


まだまだ資料は必要そうだが、だいたいの神話のキャラクターと日本に登場しそうな有名なモンスター(ほぼ妖怪の類)は把握した。


九郎としては神話には少々納得のいかない部分(特に思兼の記述)はあるが、まあ、結局その作者も、作者が資料としたものの作者も想像で書いたのだから不満を感じても仕方がないと自分を納得させる。


――ピッ――


時計が七時半を知らせる。



九郎はパソコンを起動し続いてゲームのソフトウェアもスタートさせると、画面の指示通りに準備してハコブネに乗る。どうやら向こうでは三日目の朝を迎えた頃らしい。


「『開門』」



九郎がゲーム開始を告げると意識が白く薄れていき、【ゲンクロウ】二日目のミソロジーライフが始まった。





◇◆◇◆





「……おおっ……」


意識が覚醒し目を開けると、九郎は白い砂浜に立っていた。

視界いっぱいに朝日煌く海が広がり、九郎は思わず感嘆の声を上げる。

まだ夜が明けて間もないのだろう。丁度水平線に太陽が顔を出した頃であった。


揺らめく波と光りがなんとも美しい。



「……あっ!きょ、今日は大丈夫かな」


そこでふと昨日のバグを思い出し、九郎は恐る恐る後方を振り返った。


大丈夫だ、問題無い。

九郎の背後に広がる森の入り口には、ちゃんと・・・・プレイヤーホームが建っていた。


「よ、よかった」


ほっと胸を撫で下ろし、九郎は早速ホームに向かう。




ホームの中は静まり返っていた。

ウカノミタマたちはまだ寝ているのだろうと予想できたが、とりあえずと九郎は二階に上がる。


二階にあるのは九郎の部屋であったが、部屋の主である九郎は中に居るであろう者たちを気遣い、そっとドアを開けて中の様子を窺った。


「お、寝てる寝てる」


ウカノミタマを中心にオキツヒメとオキツヒコがくっついてベッドで寝息を立てていた。

自分の居ないときはベッドは好きに使えと指示を出していたので、ちゃんと指示通り使ってくれているようだ。


九郎はうんうんと満足げに頷くとそっとドアを閉め、外に向かう。


「みんなが起きるまで、ちょっと散歩でもしようかな」


異世界で朝の散歩。なかなかにオツなものではないだろうか。


「装備は……いっか、このままで」


リビングで道具や装備を揃えてから出ようと思ったが、九郎はログアウト時に装備を身に着けたままだった。散歩程度で装備を固める必要も無いだろうとリビングには立ち寄らず、革鎧に青銅剣一本を腰に差しただけの格好で、九郎はひとり外へ出るのだった。



「うーん……いいなぁ、やっぱり。自然っていい」


再び浜辺に戻ってきた九郎は伸びをしながら波打ち際に沿って歩いていく。

寄せては返す波の音がなんとも心地良く、潮の香りもリアルだが現実よりはキツクなくて風もベタつかない。


早朝であり、また、波打ち際であることからか少々肌寒い感じもするが、とても気持ちが良かった。



十分ぐらい歩いただろうか。浜辺の砂をきゅっきゅと鳴らしてを進んでいると、ふと視界の前方に人影が入ってきた。


「女性……か?」


どうやら焚き火をしてワンピースの水着で服を乾かしているらしい金髪の女が一人。二十代前半か。

服はどうも何かの動物の毛皮のように見える。大きさからいって丸々一匹分だろう。

ちょっとワイルドな人なのかもしれない。


九郎が近づくのに気付いたのか、女も怪訝な顔で九郎を見ていた。


(もしかしてこの領地に住む|NPC(先住民)かな?)


そう思って警戒させないよう距離に注意しながらさらに近づくと、九郎は穏やかな笑みで会釈をしてみた。


「……?」


すると女は少し驚いたような顔をし、そしてすぐに笑顔になると会釈で返してくれる。


(やっぱりNPCか。日本人タイプではないんだな。まあ、敵性ではなさそうで良かった)


説明を読む限りは現地の住民との接触には気を遣うことになりそうだったが、どうやら交流は問題なくできそうだ。


九郎は作り笑いではなく、安心から素直に笑顔になって『おはよう』と声をかける。


「オハヨーウ」


ちょっと発音がおかしいが、しっかりと返してくれる。

結構な碧眼の美人で、声も澄んでいて綺麗だった。


(そういえばNPCにも【見抜く】は使えるのかな?)


失礼かとは思いながらも折角の第一先住民発見なので九郎はとりあえず【見抜く】と念じてみた。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名称:【 セルキー 】

種族:【 妖精:海獣 】

スピリットタイプ:【 善 】


レベル:【 3 】


《装備》


【海獣の骨小刀ボーンナイフ

【アザラシの毛皮+8】

【珊瑚の首飾り:水】


*【攻撃評価】:G

*【防御評価】:E-

*【心力評価】:D+


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



「――ぶふぅぅっ!?」


「――!?ド、ドウシマーシタ?」


「い、いえ。ちょっとむせまして……」



女は先住民などではなかった。

スピリットタイプは【善】だが、彼女はれっきとしたモンスターである。


(ここは日本エリアじゃないのかよ!)


九郎は動揺を隠しながら、セルキーについての情報を記憶から呼び起こした。



――アザラシの妖精・【セルキー】――


スコットランド北東岸沖のオークニーやシェットランド諸島に棲むとされるアザラシの姿をした妖精の一種。このアザラシと言うのはオオアザラシを指し、この地方ではオオアザラシ=セルキーが毛皮を着ている姿と考えられていた。

セルキーは今みたいに時々毛皮を乾かすために浜辺に出て毛皮を脱いでいたりするのだが、そのときの姿はまさしく人間だ。


ちなみにセルキーのオスは人間の姿になると人間の女にちょっかいを出してきて、メスは毛皮を盗まれてしまうと訪った男と結婚するいう。




セルキーが人間になった姿は人間と差異が無い。人間と結婚して暮らせるくらいなので見分けがつかないだろう。そのため九郎が人間と見間違うのも無理はなかった。


恐らく違うところがあるとすれば、ちょっとした言葉の違い・・・・・くらいであろうから。



九郎は心配そうな顔で近づくセルキーに身構えてしまいそうになるのを二度三度深呼吸をして鎮め、落ち着かせる。


身構えると自動的にと戦闘の状況が発生し、【鬼殺しの威圧】も発動する。それはいらぬ誤解を招いてしまうだろう。


恐らくスピリットタイプ【善】のモンスターは好戦的ではない。しかも彼女のように意思疎通ができるならば不要な戦いは避けられるはずだった。


(落ち着け。とりあえず、人間なんでもコミュニケーションが大事だ。……相手は人間じゃないけど)


最後に一つ大きく深呼吸して九郎はセルキーに向き直った。



「えっと、初めまして。私は――じゃなくて俺はゲンクロウ。あ、あなたは?」


「ワータシハ【セルキー】トイイマス。ハジメマシーテ」


九郎が軽くお辞儀するとセルキーも隠さずセルキーと名乗ってお辞儀して返してくれる。

もしかしたら個人名は無いのかもしれない。


そうですね、知っていました……とは言えず頬を掻き、九郎は一応『もしかしてそうなのかな~』と思った風を装って訊ねてみた。


「えっと、それはもしかして、アザラシの妖精のセルキーさんですか?」


「――ッ!……ヨクゴゾンジデースネ」


セルキーの碧眼に僅かに警戒の色が浮ぶ。

いつでも逃げられるように流木の上にかけた毛皮に手を伸ばした。


そりゃあ警戒するだろう。

九郎は【見抜く】を使ったし事前の知識あるが、普通は名前を聞いただけですぐに見破れるものではない。


そこで九郎は慌てて誤解を解きにかかる。


「ああ、警戒しないでも大丈夫です。そちらが何もしない限り俺に敵意はありません。その毛皮とセルキーという名前で思い至り、ちょっと訊いてみただけなんです」


「……ケガーワ、トリマセンカ?」


「盗ったりしません。それが無いと海へ帰れなくなるんでしょう?」


さらに言えばそれを盗れば九郎が彼女の旦那さまだ。

そういうイベントが起こるかどうかは興味があるが、トラブルしかならなさそうなので九郎に試してみる気は無い。


「ホントウ?」


「はい。本当にです」


「ジャア、シンジマース。ホットシマシター」


「良かった。……あ、お近く失礼しても?」


「ハイ。ドウゾドウゾー。スワッテクダサイー」


九郎はセルキーに許可をもらって近くの流木に腰掛ける。

これからちょっとお話しましょうという体勢だ。


(先ずは一歩近づけたかな)


こうやって一歩ずつ歩み寄るのがコミュニケーションの鉄則だ。

警戒が解け、心の緊張がふと緩んだところを見逃さずスッと入っていく。そしてまた少しずつ警戒を解いていくという作業を繰り返し、相手の警戒を完全に解く。


九郎が社会人になってから身に着けたヒューマンスキルだった。



(さて、何を話そうか)


九郎は顔がニヤけそうになるのを堪えながら、警戒させぬようどうにか柔らかな笑みを作った。


社会に出てまだまだ年月も経験も浅いが、九郎はこれでも色んな“化け狸”や“ヘビ女”やらの多くの“魔物”と対話を重ねてきた。だが、こうやって神話や伝承に出てくる本物の・・・魔物と会話をするのは初めてのこと。胸が躍る。


「えっと、セルキーさんはどうしてここへ?」



会話の始まりは先ずそこからだった。





◇◆◇◆





「ジャア、マタアソビーニクルネー!バイバーイ、ゲンクロー!」


「ああ、今度はうちでお茶でも飲もうセルキー。道中、気をつけてー!」


オオアザラシの毛皮を身に着けたセルキーが海面に半身をつけながら手を振る。

九郎がそれに応えると、セルキーは嬉しそうに頷いて海へと帰っていった。



モンスターとのコミュニケーション大成功である。



「なんだ……凄い達成感だな」


九郎の顔がにやにやと緩む。

その首には今まで身に着けていた【祝福された勾玉】の代わりに、彼女が身に着けていた【珊瑚の首飾り】がかかっていた。


友情の証のユニフォーム交換ならぬアクセサリー交換である。

九郎自身がここまで上手く運ぶとは思っていなかったのだが、まさに今、九郎は、“モンスターと人間”という種族の垣根を越えた友誼ゆうぎを結ぶことに成功したのだった。


「もう全部こんなんだったらいいのに」


話をしていたのは一時間くらいだろうか?時間の感覚も曖昧になるくらいセルキーと色んな話をした。あっという間だった。


セルキーがここの海に現れたのはどうやら九郎の領地の格の制限が無くなったかららしい。モンスターはプレイヤーではないので制限が無くなりさえずれば結界がどうあってもエリア間移動はできるのだろう。


たまたま海を散歩していたら、いままで行けなかった領域に入れるようなっているのに気付き、冒険気分でやって来たそうだ。


今度お友達や仲間のブルー・マンも連れて来たいと言っていたので、九郎は是非連れて来てくれと返している。


魔物モンスターと交流……最高!)


気分は名作RPG竜物語Ⅴりゅうものがたりファイブの主人公だった。


親子三代の壮大な物語。主人公でなくその息子が勇者という不遇。しかし、主人公にはたった一つの取り柄があった。それは、モンスターと心を通わせることのできる技術ちから

九郎は学生時代、そんな竜物語Ⅴの主人公の背中に憧れを抱いたものだ。


「RPGは戦うだけじゃないんだ」


九郎は誰にともなく噛み締めるようにそう呟いた。


ちなみに蛇足だが、九郎は竜物語Ⅴにおいて実利を取って金持ちのほうの嫁をもらい、後でちょっと後悔したことがある。


本当に蛇足だが。




「さて、そろそろ俺も散歩の続きといこう」


まだまだ時間は早い。このあとは森でも行ってみようと考えた。


完全にセルキーの気配が無くなり、九郎は振り続けた手を下ろす――とそこで、間の抜けた電子音が二度・・鳴った。



《 おめでとう!新技能 【 魔物使いの才能 】 を獲得しました! 》


《 おめでとう!新称号 【 妖精さんのお友達 】 を獲得しました! 》 



「な、なに?ええっ!?……まさか、も……もしかして……?」


視界の端の表示と頭に流れるアナウンスに九郎は拳を握り、体を興奮に震わす。


今、九郎の視界には、あの憧れたファイブの主人公が飛び切りの笑顔でサムズアップしている姿が幻視されていた。


「キ、キターーーッ!!」


まるで狙ったかのようなタイミングで九郎に与えられたロマン技能。


九郎は諸手を上げて喜びを表し、そしてすぐにその詳細を開いた。


《技能》

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


【魔物使いの才能】

魔物を使役する力を持つものが得る才能。

自身に近いスピリットタイプを持つ魔物のプレイヤーに対する評価が、

+変化。変化の値は近いほど高い。また極低確率で魔物を使役する

ことができるようになる。

成功確率はカリスマ・レベル差・評価・幸運・方法によって変化する。

条件を満たすとこの技能は変化する。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



《称号》

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


【妖精さんのお友達】

種族:妖精との絆を手に入れた者に贈られる称号。

ひゅーひゅーやるねこの妖精たらしっ!

絆を手に入れた種族のプレイヤーに対する評価が+中変化。

取得:セルキー


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



「こういうのを待っていた!」


イロモノでなく。


「こういうのを待っていたんだ!」


大事なことなので二回言ってみる。


普段のっぺりとしてあまり表面化しない表情筋をフルでニヤリニヤリと稼動させ、九郎はまたより強く拳を握り、ガッツポーズをした。


これで自分も主人公だと。


「これは……これは……俺の時代がやって来たかもしれない……」


その台詞はちょっとデジャヴュ。

あまりよろしくない。


だが、精神技能でも抑えきれない興奮状態の九郎はそのことに気付かず、残念ながらギラギラ燃え輝くその金の双眸は浜辺の後方に広がる森を捉えた。


森の入り口付近にチュートリアルで戦った小鬼たちの姿がちらほら窺える。


「ちょっとだけ。ちょっと試すだけだから……」


誰に断っているのか。


危険だと分かっていながら、九郎は鼻息荒く森に近づいて行くのだった。





魔物使い:作者も実利を取ったあと罪悪感でへこんだ。個人的には一番好きかも知れない職業。ロマン技能です。…これれで魔物とも拳で語り合えますね♪


セルキー:作中と同じく。某ゲームメーカー「葉っぱ」の某RPGにはこのセルキーがモデルの女の子が出てきます。かわいいです。

ちなみにセルキーの中身は美男美女さんが多いとか。

人間が脱ぐの待って毛皮を盗み結婚するお話は多いんですよ。

これって天女の羽衣の話にも似てますよね。


ブルー・マン:ブルーマンでもよし。セルキーと同じ国の船幽霊。亡霊船に乗ってくるんですが、なんと陽気な方々で、歌のゲームをして人間と勝負します。負けたらもちろん人間は酷い目にあうんですが・・・作中では?

じつは彼らは堕天使とも言われています。



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