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みはる著 風・窓 『SEVEN WINDOWS, SEVEN WINDS』

生島修は鑑別所の窓から、切り取られた青空を見上げていた。


審判の結果、保護処分となって初等少年院送致となった。 

処分には異論はなかった。犯した罪は重いと分かっていたし、

父親には申し訳ないことをしたと反省もしている。半殺しにしたのはやりすぎだった。

ただ、後悔はしていなかった。

あんなやつ、やられて当然だ。生きてる価値なんて無い。

──やっぱり、半殺しじゃ生温かったか。


鯉のぼりのような白い雲が流れていた。

風が吹いていた。


                    *


本山茂樹は自宅の部屋の窓から、通りの向こうの公園を眺めていた。


なんであの日にゲーセンなんか行ったんだろうと、これでもう何度めかの

後悔をめぐらせていた。

放課後に下駄箱の前で慎司たちと出会したのが運の尽きだったんだ。

いつものあのハイテンションで誘われてついて行き、それであの喧嘩騒ぎに

巻き込まれた。

知らないヤツに殴られて、気がついたら別の知らないヤツが隣で口から血を吐いていた。

交番に連れて行かれて、担任と親が飛んできて、それで停学。

美弥からはずっと連絡がない。電話をかけてもメールを送っても、フルシカトだ。

──何様なんだ、あの女。


公園の木々がざわっと揺れた。

風が吹いていた。


                   *


丸山美登利は教室の窓から、校庭のトラックを走る生徒たちを見ていた。


父親が二週間前に出て行ってから、今のところ何の連絡もない。

それ自体は別に平気だった。部活と塾で忙しいし、、いちいち気にしていられない。

ろくでなしの父親がどう足掻いたって、今さら一旗揚げるなんてできっこないのだ。

それより、気になるのは彼のことだった。逢えないのは辛かった。

私にとっては、彼だけが安らぎ。彼のためなら何だってできる。

──早く逢いたい。


トラックを走る生徒の足元から砂埃が舞い上がった。

風が吹いていた。


                   *


夜────                  


                   *


川島智は電車の窓から、ゆっくりと流れていく街の夜景を眺めていた。


予備校からの帰り、さほど混んでいないはずの車両で座れないのは辛い。

朝七時半に自宅を出て、授業、部活、予備校とフル回転の毎日。

この時間、ぐったりと疲れているのは身体よりも脳味噌の方だった。

今日、この前の模試の結果が返ってきた。国立は相変わらずC判定。

私立はべらぼうに金がかかるらしい。何せ医学部だから。

──医者の息子になんて生まれたくなかった。


線路脇に立つラブホテルの壁に掛かった広告用の垂れ幕がふわりと揺れた。

風が吹いていた。


                   *                   

 

深見茜はホテルの小さな窓から、目の前を流れる淀川の川面を見つめていた。


連れの男はバスルームでシャワーを浴びている。40代前半くらいのリーマンだった。

遅い結婚だったらしく、子供はいないんだと言った。だからどうしたと茜は思った。

子供がいないから、娘みたいな中学生とヤってもいいのだとでも言いたいのか。

オトナは汚い。その中でも中学生の制服の匂いを嗅いで勃たせてるエロオヤジは特に汚い。

そんな汚いヤツらをカモにしてるあたしはもっと汚い。

──こんなあたし、誰が相手にしてくれる?


川面に映る白いネオンが陽炎のように踊った。

風が吹いていた。



岡部美弥は車の窓から、梅田の夜の賑わいを眺めていた。


運転席の男は、さっきナンパしてきた大学生。ちょっとかっこいい。

あの刑事ほどではないけれど。

今朝、めずらしく早起きして居間に下りたら、両親が離婚話をしていた。

お祖母ちゃんが原因らしい。ママをいじめるから。

パパはちっとも味方してくれないって、ママは泣いていた。

あたしもあのお祖母ちゃんは嫌いだ。弟の大樹ばかり可愛がる。

あたしはママに似ているから可愛気がないらしい。

パパはずっと黙っていた。

──男なんてサイテー。


ボタンを押して窓を下げた。髪が頬にまとわりついてきた。

風が吹いていた。


                  *


西条琉斗はいつもの土手から、彼女の部屋の窓を見上げていた。


毎日、ただ時の過ぎるのを待っているだけの日々。

殴られて蹴られて、そのあと泣かれて謝られて。

両親にとって、自分の存在がどれだけ不要なものかを思い知らされるだけの人生。

なぜなら、オレはとてつもなく頭が悪いから。

だけど彼女は違ってた。オレがどんなにバカなことを言っても、いつもちゃんと正してくれる。

オレの道を照らしてくれる。

──オレがもっと、頭が良ければ。


立ち上がってズボンの尻を払った。足元の雑草がさらりと音を立てた。

風が吹いていた。


                   *


街は人で溢れ、空の星は透き通って高い。

窓の明かりの下、家族の団らんは一様に暖かい。

そう思えたなら、彼らはきっと楽だろう。


ただ、風は誰にでも平等に吹いている。


END

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