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そしてめぐり合う時計

主人公の女の子は長髪ポニテな感じでよろしくどーぞ(๑╹ω╹๑ )

サブタイトルのほうが実は本タイトルだったりするのだよアケビ君。

古今東西、特別な日は特別な人と過ごすものだ。


誕生日や年末など、人に依るが、中でもクリスマスをあげる人は少なくないと思う。


言うまでもなく、ご存じ某世界的な清涼飲料会社のカラーリングの服をまとったご老体が、街中、いや世界中に溢れる日だ。


とはいっても、溢れているのは赤い老人ばかりではなく。


街中に活気が、色が、そして笑顔が満ちあふれていた。

電車から降りて改札を抜けた私を迎えたのはそんな風景たち。


誰も彼もが浮かれているし、かく言う私もうかれている。

なぜなら今日、クリスマスは彼氏とデートなのだ。

浮かれないでいられるはずがない(そこ、月並みだとか言うな)


現在四時半。

待ち合わせは5時。

待ち合わせ場所は、駅前にある時計塔で落ち合うことになっていたはずだ。

事前に話しておいた通りの場所にスタンバイすると、目に入ってくる周りの風景。

周りは同じように連れを待つ輩ばかりである。


……うむ。

見ては爆発しろと呪詛を吐いていたさもしい学徒だった頃が懐かしい。

今となっては同情さえできる。


……とはいっても同情がしたいわけでもないし、他にやることも無い。

私はあらかじめ調べていた場所を思いを馳せながら――妄想ともいうが――時間を潰すことにした。


刺さるような冷たい風が私の背中まである髪を撫でているにもかかわらず、

私の脳髄が春の陽気に満たされたかのように色惚けるのには時間はかからなかった。


やがて惚気の魔の手はは私の表情にまでその触手を伸ばし、

とうとうにやけ顔を御することができなくなった。

20分が経過したようだった。


やむを得ないので地球と言う名の現実へ不時着。

のろけたっていいだろう?愛しているのだから。


あの栗毛のサラサラショートヘアも、

地味にプニプニするのが癖になるほっぺたも、

全部、大好きなのだから。


待ち切れないあまり『ああ、長針が五時を示すのが待ち遠しい。いっそのこと、この時計台をブッたたいて進めてしまおうか』などと考えている私こそぶっ叩かれて直されるべきなのかも知れない。


そんな風にエモノに飛びかかる前のネコのようにウズウズしていると、五時になった。


そう、五時である。

誤字でも五井でもゴミでもない。

とうとうあのやわらかい彼の耳を存分にぷにぷに出来る時間だ。

逸る気持ちに身を任せ、ゆっくりとあたりを見回してみた。

もちろんポーカーフェイスは崩さずに。


右なし。


左なし。


異常なし。


……いや、異常なしというのが異常だろう。

とっさにケータイの時刻も確認すると五時だった。


……!…そうか、きっとこの時計と時計台の時計が速「よっ」「おー、丁度五時ぴったりじゃん!」

「すげーだろ?ちょっと運命感じちゃったぜ」

「運命じゃなくても愛してるよっ」

「おいそこの脳天気なリア充バカップル黙れ」と危うく言いかけて踏みとどまる。

危なかった。……大丈夫、私はクールだ。びーくーる、すていかーむ、だ私。


……まあ、それなら仕方がない。

時計は壊れてなかったにせよ、少しくらいは仕方が無いさ。


「うん。仕方がない。仕方が無いとも。ああ、仕方ないともさ」


誰に言うでもなく、言い聞かせるようにそうつぶやくと、

風が溜息をついたみたいに、私の髪が揺れたのだった。



「……やっぱりこない」

……おそらく、電車が遅れているのだろう。よくあることだ。

そう思っていたのだが、10分が経ち、30分が過ぎた。


見れば周りで寒さに耐え、その瞬間を待ち続けていた戦友は次から次へと幸せそうな顔で去っていく。

思わず爆発しろと言いたくなったが、笑顔で見送ってやることにした。


大丈夫、びーくーる、すていかーむである。……悔しくなんて無いんだからな。

「……チッ」


閑話休題(それはともかく)


空を見ればもはや日はとっくりと暮れ、周りには葬式のような顔をして歩いて行くバーコードたち。

きっと年末だから忙しいのだろうか。

おそらくバーコードの情報量が少なくなる勢いで仕事に打ち込み、社畜と化す毎日なのだろう。まあ、私には関係がない。


「そのままレジで読み取られて400円くらいで売られてしまえ」

と、無意味に毒を吐いても、状況は一向に変わらない。

祈るように折るように見たケータイは沈黙を守りつつも、待ち合わせから一時間半が経ったという事実を無感情に突きつけた。


もはや私の頭には焦りと心配がハーフハーフといわずミックスで提供されている。

そんなピザもピザ的な肉塊もいらないので、切実に彼に会いたい。


むしろこういう時こそ出前ピザの如く迅速に届けて欲しい。彼を。

特にこうなる前に。

具体的には、頭が単に止めどなく流れては消えていく最悪なイメージの高速道路と化している状態のことだ。


たとえば、もし人ごみに押されて電車に轢かれていたらというイメージ。


たとえば、もし2トントラックに跳ねられ、顔がすべて挽肉のようになっていたらというイメージ。


もしくは、驚かせる為に仮装をして…………それで補導されているかも知れない、というイメージ。


「あり得るッ………っ!!」

とまあ、そんな具合に心配事は止まらなかった。

ああそうだろうさ、身長160を超える女がせわしなくヒールで

「待つのは無理だ」と駅に行っては、

しかし「行き違ったら元も子もないな」と戻り、

「ああもうどうしたら?」と不機嫌そうに頭を抱えている姿は、

さぞ奇妙であっただろうさ。

……悪いか。


――あいも変わらず裏切っていく戦友が一小隊を超えたところで、ふと、一つの疑念が私の頭をよぎった。

『そういえば最近、彼の様子は何かおかしくなかったか』と。


たとえば、メールの返信が真夜中をすぎていた奇妙な時間。


たとえば、会話中、心ここにあらず、といったような様子。


そうして、思索の果て、友人が他の女といるのを見た、と言っていたのを思い出し、私は思考の迷路を越え、一つの答えに行き当たる。


「もしかして私は…飽きられたのだろうか」




後悔という言葉がある。後に悔やむとかいて、後悔だ。


きっと今の私はその字の表現するところを余すところ無く、全身全霊で体現していることだろう。


この右手で悪ふざけとはいえ、はたいたこともあった。


ツッコミとはいえ、どついたこともあった。


この目で、いくら彼に非があったとしても、ゴミを見るような目で見るべきじゃなかった。


あの時、いやこの間も、……そもそも、出会って直ぐの頃もそうじゃないか。


なんて心ないことを彼に言っていたのだろう。


ヘタレとか、男なら言いたいことははっきり言えだとか……。



世界がどんどん灰色になっていく。

あの赤い光も、表情も、私を嘲笑っているのじゃないだろうか。

どうしようもない女だ、と。


穴があったら、入るだけでは足りない。

生コンクリートを流しこんでから飛び込み、沈み……そして私の躯は雑踏に踏みしめられるべきだとさえ思う。心の底からそう思う。


こんな女、見捨てられてしまって当然かも知れない。


きっと今の彼にはいないのだろう。私が。


今の彼の心のなかには、私が、どこにもいない。


彼の世界には、私が、いない。


今、彼は私のことを笑っているのだろうか。


私とは違う、他の彼が愛する人と共に。


……いや、笑ってくれている方がまだ幸せだ。


もしも忘れられたりしていたら……私は生きていけない。


いや、そもそも……生きていく意味なんてあるのだろうか。


そんな世界に、価値なんてあるのだろうか?


……わからない。




………………わからない。




………………………………わからない、けれど。



「…………………………それでも」


それでも………………、いい。


どんなに忘れ去られても。


どんなに無意識に嫌われていて、存在すら他の何かに置き換えられていたとしても。


「……彼に会えるならば、それでいい」


たとえ彼がだれかと結ばれて、子供を授かったとしても。


たとえ私が、醜く矮小な、とるに足らない様な老婆になったとしても。


きっと、この世界には意味がある。


すれ違うだけでも、同じ空間に居合わせるだけでもいい。








――彼に、いつか、逢えるなら。








私にとって、時計は意味を成さなかった。


もう、どれだけ時が過ぎていても、私が待つ人は、来ないのだから。


しかし、何故だろう、木々と街並みを彩るイルミネーションが、あんなにも無機質に見えるのは。


気分がこんなに空っぽで、かれた枝のように折れてしまいそうなのは。


うつろなのは私の心だけではない、すでに周りには誰もいない。

みんながみんな、どこからどこかへと、向かっていく。

皆が歩き、笑い、寄り添って、活きていた。


そうして彼も去ったのだろう。

そしてどこか別の、暖かい場所へ行くのだろう。


私は、止まったままだ。

冷たい風に抱かれながら、壊れた時計の秒針のように、

ここで足踏みを踏んでいただけで、今もまだ、踏んでいるだけだ。


別に……歩き行く人々を妬んでいるわけでは、ないんだ。


「……ただ」



ただ。



こんな風に……。




「キミと……過ごしたかったんだよ……」



初めての、誰かとふたりだけの、クリスマスを。



「……ッ、」


そう呟いた途端に、私は呼吸が苦しく、いや胸が苦しくなった。

肺の空気全て吐き出して、窒息しても泣いていそうなくらいに。



少しくらい、泣いてもいいよな…?





そう思い、涙がでる前に、何かが二回、肩にあたる。







振り向けばそこには

















――脳裏に焼き付いた、彼が、いた。


















『君の意見は、完全に間違っているという点を除けば、概ね正解だ』


どこかで読んだ小説に、こんな表現があった。

この言葉ほど、今回の事件(私にとっては大事だ!)を表現できている言葉はそう無いだろう。


あれからとっさに彼を目前にした私は、彼に抱きついたんだ。


見事に大団円、感動的なシーン、お涙頂戴、ハッピーエンドという形で終わった。



――いや、終わるはずだった。のだ。



というのも、私は、叫びながらだった。



噛ませ犬的位置づけの兵士が、

勝てるわけのない相手に向かって行く時の叫び声のような声をあげながら、

私は彼に抱きついたのだ。


そして依りにも依って、捨てないでくれ、と叫びながら。



……臨界寸前だったのだから不可抗力であるという主張をさせていただきたい。



ちなみに、彼曰く。

「世間一般には抱きついたんじゃなくて…あれ、軽いタックルだったよ」


無論、周りの白い眼と言うか、好奇心と言うか、

二十四の瞳も吃驚なほどの種類の目に晒されたのは言うまでもない。

そもそも、往来の真っ只中である。


泣きながらだったのであまり良く覚えてはいないが、

私の次の記憶は、家族向け飲食店の店員に空席がないか聞く彼の姿だった。


慌てているのか怪しんでいるのか、

どっちでもないような表情の店員に案内された席についても、

私の涙は止まらなかった。


「(一度泣くと、なぜ泣いているかわからなくなる事もあるものなんだな)」

と、ひたすら宥め謝る彼を尻目に、泣きながら他人事のように頭の傍らで思っていた。


堰を切ったようにあふれる感情の奔流はなかなかに止まらないので、

抗うのをとうに諦めていたのだ。

(とはいえ、鼻はハンカチでかんだぞ。垂れ流しにはしていない)


なんにせよ、泣き終わった頃には声もすこしかすれていた。

こういってはなんだが正直、ここまで泣くことはかつてなかったから、新鮮な経験だったと思う。


それからつききりでそばにいてくれた彼に礼を言おうと口を開いた私の口から出たのは……

……我ながら驚いたが、なぜ遅れたんだ、という言葉だった。


私の声が「高くも低くもない、凛と響くいい声」だと言われたのはいつだったか忘れたが、その一声で店の空気が変わった気がしたのは、私の気のせいではないだろう。


が、そんなことは知らない。


知った事ではない。


彼のここ数日の奇異な行動の理由から詰問は始まり、挙句証言に出てきた彼の親類にまでケータイを駆使して証言させ……と、驚きの尋問具合だった。

やっと私の口が火を吹くのを辞めたのはとうとう九時半を過ぎた頃だった。


結論を言ってしまえば、問題は無かったのだ。


否、そもそも問題『が』なかった。



彼の証言をまとめるならば、働いていただけ、だったらしい。


休暇に入ってからは日の出と同時に家を出て、


日が沈んでからは、駅から攻め来る酔いどれ共をさばき、


出会った二つの針がすれ違い始めた頃に返れれば御の字だったそうだ。


しかし鉛のように重い体を横たえる前に唯一の楽しみと、

私のメールに返信していたのだそうだ。


日中、上の空であったことが多いのはどうやら疲労からだったのだろう。



では、私の友人が言っていた、一緒にいた女というのは誰だったのか?


答えは他の女というわけではなく、単に彼の姉であったらしい。

普通にクリスマスのプレゼント選び、ということだったのは、彼女自身がケータイを介して証言をした。

そして、今日遅れたのは……。


――単なる、寝坊であったらしい。


曰く、前日に給料を受け取ったが終電を逃したので、

その足でプレゼントを選んだ店の近くまでに行ったのだとか。


それから、開店するまでは漫画喫茶で待機し、

店前の札がひっくり返るのと同時に店に突入してプレゼントを購入。


そして、帰宅。


これが今日のお昼にあたる、のだとか。


ここまでは、レシートとICカードの履歴で証明済みだから、信じるに値するだろう。


――しかし、その後がいけなかった。


曰く、そのままぶっ倒れたままだったそうだ(玄関で!)

待ち合わせの時刻を過ぎてもまだ寝ていたらしい。


最終的に姉が発見し、蘇生させたのだとか。

それから、彼はあわてて部屋のドアを突き破る勢いで自室へ。

音速で着替え、光速で来た、のだそうだ。

(ちなみに、彼の姉が帰ってきたのは偶然であったそうなので、ほとんど奇跡のようなものだったらしい)


そうして、今に至る。という具合だ。


轢かれたわけでもなければ、補導されたわけでもなかったことに関しては、

良かったと言うべきだが、なんというのだろう、やるせない。


ついでに、私は自他ともに認めて憚らない、感情に素直な性格だ。

誰であろうと嫌なことは嫌というし、意見はちゃんと伝えるのが私である。

故に、怒っていた。

造り付けのテーブルをひっくり返すぐらいには怒っていた、のだが。


先に彼は言った。「……怒ってるよね」と。


最悪の雰囲気のなかで、謝罪以外に初めて口にした言葉がそれだった。

思いがけず先制されたで少し戸惑ったのだが、

私は「さすがによく分かっているな。ああ怒っているとも」と、皮肉を込めて言ってやった。


「渡すものがある」

「おっと、買収はされないぞ。私は怒っていると言っただろう?

……四時間だ、四時間だぞ……?私は…私は四時間もキミを待ち続けたいたんだ!!

それをッ……ハ、物で許せだと!?ふざけるなよ。

キミを愛しているとはいえ、それは……ッ、それは私を侮辱しているのかッ!?」

咎めるような、糾弾するような口調。


「そんな事で……そんな事で許す……私だと思うのかッ!!」


怒りは中で暴れ、体が冷えているのに熱い。

そうしてありったけの憤怒を込めて射た言葉は、


――言葉で、消えた。



「赦さなくていいよ」


「………………は?」


ことばがりかいできなかった。

ゆるさなくて、いい?


「赦さなくていいから、開けてくれ」



疑問符には答えず、小さな箱を渡してきた。


四角くて黒い、光沢のある、両の掌で隠れそうな、その箱を。


「…………。」


気持ちがこんがらがってて気持ちが悪い。


手は伸びる。取って、開けた。



瞬間、また疑問が集まってきて

――そして、呼吸が迷子になった。


それは、指輪だったから。


絡み合う様な、螺旋が印象的、

そんなシンプルなデザインのシルバーの指輪。


一度、デート中に欲しいと言った、指輪だったから。



体が、動かなかった。



声が、出てこない。



水と油を混ぜたような感情が更にぐちゃぐちゃになって、よく、わからない。


「…えっ」


驚いたような声は彼。私は。


「……は…泣いて…る?」


どうしたら良いか分らないとでも言ったような様子で慌てている彼を見ながら、

私はまた、泣いてしまった。


だって、愛されているって、こんなに嬉しいものだったんだな、って。




そうして、戻ることが出来た。彼のいる世界に、戻ってこれたのだ。私は。


最後に行くはずだったレストラン、


走って登った高台でみた夜景。


車両で見た、彼の寝顔。


場所を変わって、時間もたった。

気持ちは……もっと深まった(ほっぺも堪能した!)



長針が指すのは零だが、短い針が指すのも零。


私たちは、一緒だ。

そうして、クリスマスだ。

終わりました。

すいません一ヶ月もたってしまって。

年越しちゃいましたね 笑


嗚呼、こんな相手がいればいいのに。良かったのに。


なんにせよ、素直クール成分を堪能していただけたなら幸いです。


では、皆様の今年のクリスマスも楽しめるよう、願っております。


僕はちゃんと渡米できるのかどうか、ですが 笑



ではまた。


                          あまの。

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