香水は硝煙の香り。
「やめてくれっ!」
男は迷わず引き金を引いた。
パンッ
乾いた炸裂音と共に、血や脳みそや骨片が飛び散る。
「全く。なんで俺がこんな事を。諜報部の仕事だろう。」
男は諦めの混じった声音で愚痴った。
男は、天凪龍屠。漆黒の髪と瞳。身長は175cm。必要な所に必要なだけの筋肉がついた効率的な体つき。雰囲気はダルそうだが、その瞳には狩人の光が宿っていた。
龍屠はプレハブ小屋から出る。プレハブのそとは森林。そこには、女が独り立っていた。髪は焦茶で瞳は朱い。服はぱっと見はただの野戦服だが、袖口や首から黒いスーツが見える。
「カノン。場所がわかった。潰しに行くぞ。」
カノンと呼ばれた女は、はい。と短く答え歩き出した。
森林を歩きながら、龍屠は問う。
「お前からは、いつも硝煙の匂いがするな。」
カノンは見向きもせず応える。
「あなたからも十分硝煙の香りがいたしますが?それに私は3歳から銃を握っていますから。」
龍屠が苦笑いを返しす。
「最初に握ったのは、確か、ルガーMK-Ⅱだったか?22LRなら子供でもガンガン撃てるな。」
カノンは良く覚えていますね。といいサクサク歩いて行ってしまう。
「お前の事は大体把握してる。大切な部下だしな。」
龍屠がそう言うと、カノンが振り返った。
「では、何故私がこの会社に入ったかご存知ですか?」
冷めた目で言い放つと、また歩き出した。龍屠はそんな様子に、苦笑いしつつ応える。
「2つあるだろ?」
カノンがピクリと反応する。
「誰かさんの両親の敵討ちと…」
「それ以上いったら、射殺します。」
カノンの過激な対応につい、声を出して笑ってしまった。
「すまんな。こんな事も知ってるぞ?その硝煙の匂いは、お前の敵の男が使っていた銃の火薬の香りだろう?」
カノンが立ち止まった。俯いてぼそぼそと言う。
「だったら、どうだというんですか…?」
龍屠は懐から小瓶を取り出した。
「そいつは、3年くらい前に俺が殺した。」
カノンが振り返る。
「だから、その硝煙の香りの代わりに、お前の両親の火薬の香りをやるよ。」
龍屠はカノンに小瓶を投げる。カノンは危なげもなく片手で受け取って、匂いを嗅いだ。
「っ!!何故?」
驚いたようだ。
「ひと月一緒にいれば、相手の事が大体分かるのが俺の自慢だ。お前の五感が普通よりかなり鋭い事もな。」
カノンは無言で歩き出した。龍屠も何も言わず歩き出した。
「社長。」
「んー?」
「これは有り難く戴いておきます。」
二人はまた黙って歩き続けた。
いくら22LR弾の反動が軽くても3歳児にまともに撃つことは出来ません。社長は誇張した表現が多いです。悪しからず。__穂月