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背信者に捧ぐゴスペルソング(2)

お腹を八分目に満たして、私達はいざラスター教大聖堂へ。既に大聖堂には数多くの人達が集まっていました。


「俺達、注目の的だな」


ステンドグラスからの光を浴びるラスター神像、教卓とパイプオルガンを囲むように並ぶ長椅子の最高列に身を預けながらフレスさんがポツリと言います。


「途中で白い服を勝手くれば良かったですね」


辺りには純白が溢れている。信徒、巡礼者、教団関係者は一様に白を基調にした服装。その白い集団の中でフレスさんがその大きな図体に色褪せた銀色の鎧なんて身に付けて居るから目立つんです。その横に座る色褪せた藍色の服に、赤茶色のマントを羽織る可憐な美少女は、今、周囲の人々にどのように見られているのでしょうか?壁際に並んで立つこれまた純白の鎧を着てるラスター教団の護衛騎士さん達が何やら先程から私達のばかり見ています。私達は怪しい者じゃありませんよ。少しは怪しく見えても、何も出来ない薄弱な美少女です。


他の町にあるラスター子教会では、白い服よりもその他の多種多様な色の服が目立つほどでした。でも、ラスター教本拠地であるここでの私服訪問は避けた方が良かったようです。

周囲の視線が痛いです。隣で憎たらしいほど落ち着きを払っているフレスさんの様に図太い神経が欲しいものです。しかし、ここまで来てシラク司教の演奏をお預けは絶対に嫌です。私はその為にどんな神の試練も耐えてみせます。


「おっ、レミのお待ちかねの人物が来たようだぞ」


ラルゴな欠伸を隠さずに大袈裟にリピートしていたフレスさんが私に告げます。今まで、私達に向いていた多くの視線が二人の守護騎士に付き添われラスター神像の前に立った男性に向けられ、大聖堂内に静寂が訪れます。純白の修道服に身を包み、ロマンスグレーの髪と丸眼鏡、顔には柔和な笑みを浮かべている男性。写真でならば、お顔を拝見したことがありますから、間違いありません。神に指を授かりし、ペザン・シラク。


「女性の守護騎士も居るんだな?結構な別嬪さんじゃんか。教団の重要人物の警護しているって事はそれなりの腕があるのか?」


貴方は一体何を見てらっしゃるのですか?確かにシラク司教の隣には、羨ましいほどスレンダーな体型の女性がその整った顔を仏頂面に歪めて、槍を携えて、伴っています。でも、今はシラク司教の方が重要です。シラク司教の演奏を毎日聞けるだけじゃなく、私と違って肉体の成長に恵まれた女性騎士なんて全く興味無いのです。


シラク司教は辺りをゆっくり見回した後に、その女性に何か耳打ちをします。今、シラク司教の視線が私に止まったように感じたのは気のせいでしょうか?もしかしたら、シラク司教は自分を越える未来の大音楽家の存在を感じ取ったのかも知れません。さすがはシラク司教です。


そんな私の心の高鳴りは、シラク司教が壇上に立つとピークに達していきます。


「お集まりの神の子、そして、我が兄弟達。まずは、この出会いを神に感謝しようではありませんか」


バリトンの声が聖堂に響き、シラク司教は腕を胸の前にバッテンに組みお辞儀をします。その拝礼を真似る人々。隣で欠伸を堪えている人と違って、私も拝礼をします。フレスさん、郷に入ったら郷に従えですよ。


「フレスさん、そんなに眠いなら、先に宿を取って休んでいて貰っても良かったんですよ?」

 

声を絞ってフレスさんに言います。フレスさんは私を見ずに声を出します。


「いや、宗教に興味が湧かないだけだ。レミの影響かな、最近、音楽にちょいと興味が出てきた」


それは私としては大変喜ばしいことです。ならば、私の隣で欠伸は止めて下さいね。せっかくの厳粛な演奏が台無しになりますから。私はシラク司教の奏でに全神経を傾けたいのです。


「それでは神から授かったこの指を。神に福音曲を贈ることに捧げましょう」


フレスさんとの小さきやり取りの間に神への祈りを終えて、自身の背を五倍は凌駕しているパイプオルガンの前へ腰を下ろすシラク司教。

この聖堂に集まった皆一同に神から授かりし指が鍵盤に舞い降りるのを待ちます。


大聖堂にある全てを震わせんばかりの長大な一音。私の身体も共鳴するかのように震え、鳥肌が立ちます。


ラスター聖戦曲。闇を照らす月の女神ルーファス。彼女を疎ましく思った闇の神プレアスが彼女を地底奥深くの牢獄へ閉じ込め、それを太陽と天空を守るラスター神が助け出す。このラスター神話の一節を基に作曲したシラク司教の代表曲。


ルーファスが夜空を照らす場面は静かに柔らかく、プレアスの登場で段々と重々しく激しく、ラスターがプレアスと戦いは力強く荒々しい。そして、ラスターの取り戻した月が静かな夜を再び優しい音色で照ながらフィニッシュを迎える。


まさに、音による神話の再現。重低音なパイプオルガンが千変万化な音色を奏でました。まだ、私の心身は余韻で震えています。


「レミ、泣いてんのか」


何処からか取り出した薄汚れたハンカチを差し出しながら、フレスさんが苦笑しています。貴方はこの演奏に感動出来ない可愛いそうな人なんですね。私はシラク司教のこの演奏を聞く為に産まれてきたと思ってしまうぐらいですよ。私もいつかこんな大舞台で人々を感動させる音楽をしたいものです。勿論、シラク司教のように無料でとはいきませんけどね。


シラク司教の腕ならば一曲金1タームは稼げるのに、それを無料で聞かせ続けている。なんて、尊いお方何でしょう!


「レミ、そろそろ行こうぜ?別にお祈りは良いだろ?」


シラク司教がパイプオルガンから離れ、信者達の中を歩いてお祈りを始めたのをきっかけにフレスさんが私に静かに語り掛けます。徐々に退席していく巡礼者達も居ますし、私達はラスター教の信徒と言う程の人間では無いので失礼させてもらった方が良いでしょう。


「申し訳ありませんが少々お待ち頂けませんか?」


聖堂を出ようと立ち上がった私達に突如後ろからアルトソプラノな声が掛けられます。

私達と椅子を挟んだ後ろに先程シラク司教と共に現れた女性守護騎士がしかめっ面で立っていました。


「何でだ、姉ちゃん?」


私はこの女性から感じる威圧感たっぷりの態度に冷や汗が滲んで来ているのですが、フレスさんは怯む様子も無く、軽い口を聞きます。まさか、服装が白で無いから、冒涜罪とかでは無いですよね?絶対に牢屋には入りたくありません。


「シラク司教様があなたと話したいとのことですので、他の方々のお相手が終わるまでしばらくお待ち頂けないだろうか?」


シラク司教が私と話したい?


「是非、待たせて頂きます!」


これでもしも、私に秘められた音才に気付かれたシラク司教に私を弟子にしたいと申し込まれたらどうしましょう。私は偉大な音楽家である先生やシラク司教のような見る目がある人が見れば、輝かしい偉大な音楽家の原石なのです。全く我ながら己の秘めた才能には困ってしまいます。


「ハァ~。面倒だけど付き合ってやるか」


私の華麗な即答に、溜め息を吐きながら再び長椅子にもたれ掛かるフレスさん。それでよろしいのです。

シラク司教のご指名です。フレスさんに引っ張られても私は絶対にここを動きませんよ。シラク司教、そんなおばさん信徒なんか構ってないで、早く私の所に来てください!

投稿がかなり久々に感じます。今日はもう一話投稿しちゃいます。


皆様のご感想をお待ちしておりますよ。

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