山賊のトライポルカ(3)
話を戻すなら僕達は勝っていた。それは圧倒的に。
闇夜に放たれた一陣の風切り音と直後に聴こえるに野太い呻き声。
「やはり魔獣に比べればだいぶ脚が遅いようで、当てるのも容易いですね」
何が起こったのやら。先程まで兎の丸焼きに夢中だった顔はそこには無く、次の矢を弓弦につがえるその顔は……
「シャン君、武器を構えて下さい。流石に天才ながらも非力な音楽家の私では、あと30コンマほどで此処に到達する奴ら全員は射ち尽くせませんよ」
この音楽家は一体何なんだろう?……また、ただただ暗闇の木々の間に矢を走らせて。そして、悲鳴が一つ上がる。その深淵の闇拡がる森を見つめて弓を構える姿はまるで、熟練のハンター。
「フレスさん、あと15コンマ!足が速いの、任せます!遅いのは私が射ちます!」
「よっしゃあ~!任せろ!レミが唄う時間稼いでやる!」
「“ウタ”いません!天才音楽家はタダでは歌わないのです!シャン君、私の後ろに隠れてて下さい!」
未だにその神の力を秘めしリュートよりも、弓を手にする音楽家。
何を勘違いしているやら、僕がこんな野盗共にビビってる?冗談でしょ?
「チッ!一匹外し……ごめんなさい、矢を一本無駄に使ってしまいましたわ、オホホホ……、ッ!結構素早いのがいます!フレスさん気をつけて!」
「へぇ~おもしれぇ。そいつは俺の獲物な!レミ、そいつには手を出すなよ」
此方の何だか凄く愉しそうな顔を浮かべてるコンビの方が怖いし。
「来ますよ!フレスさん、シャン君気を付けて」
レミ姉の声と共にやっと焚き火が照らす範囲に入ってきた輩達。
まぁ、ここらくらいでしか暗躍出来ない山賊共だろう。
神都ラスルルからはみ出して神騎士が守る正街道では出没出来ない輩。まぁ、僕達も堂々と街道を通れない輩だけどさ。
『風の神ウィルマよ。我が刃に宿り全てを切り裂け』
……覚悟を決めた。
僕は今まで逃げてただけで。
ハハウエやチチウエを棄てて。
逃げていただけだった
そう思っていた。
でも、今の僕には頼りになるシャット人の兄貴。その剣才は己の身を持って知った豪剣の持ち主。恐らく、レミ姉の矢をかわしてさけ、初めてこの広場に到達した、凄腕の剣を止まらせる男。
そして、僕を背に守るように弓に新たな矢をつがえる人物は。
人物は!人物は……一応音楽家?であり、あのシラクに比べればまだまだの腕前な音楽家で。正直に言えば、楽器の弦を弾くよりも弓の弦を引く商売に転じた方が良い収入を得られるのではないかと思うけど。
まだ、僕が幼い頃にハハウエから聴いた伝説という法螺噺に出てきた存在。
呪歌歌手。
チチウエが守らなくてはいけないハハウエ。チチウエがハハウエを犠牲にしても護らなければいけなかった存在。
護れなかった両親を失った僕が、唯一絶対に護り切らなくてならないと想えた大切な人で。
素直に言えば、このレミ姉は本当に護る、就いて行く価値のあるスペルシンガーなのか知らないけどさ?
「ぐわぁー!ヤラレタ~!」
叫ぶと同時にバッシャーン!僕達の今日のキャンプ地は川縁であり、フレス兄が何故だか調子悪くて……。
「フレスさぁ~ん!」
いや、レミ姉、川にわざとらしく落ちた赤毛赤目野郎を心配するよりも野郎を川に叩き落とした野郎の方がね
「大人しく着いて来て頂けますか?」
シャット人とニ三合打ち合っただけで、シャット人を川に叩き落とした男。
フレス兄の血が滴る剣を僕達に向けて微笑むシャット人。
「悪いようには致しませんよ?たぶん」
その笑顔に遅れて僕達の元に集まって来た来た雑魚共も一応含めて。
フレス兄が勝てなかった奴に僕が勝てるわけが無いし。
レミ姉も観念したように弓につがえた矢尻を地に向けたし。
そして、山賊共に捕まって牢屋入りな今に戻るわけで……。
牢番を請け負う、おそらくシャット人の流れ傭兵にあっさりと殺られてくれたフレス兄さんさぁー。何を考えてんだか知らないけどさぁ~!怨むよ、マジで!
「ジャン君、恐くないですか?大丈夫ですよ?私が傍にいますから安心して下さい。こんな奴ら私が弓矢……一曲でやっつけてやりますから」
所在無く石床に胡座をかいた僕の耳に不意討ちに降りかかるのはそんな優しいソプラノと。
不意討ちに抱き着かれた僕の背中には。
その、あの、レミ姉が、あの、確かに、男で無くオン……、その!レミ兄さんでなく、レミ姉である!に足る証拠の身体の軟らかさとか、匂いとか、暖かさがあって、そのだよ!
「きっと、フレスさんはたぶんおそらく大丈夫ですよ?だから、怖がらないで大丈夫です、よ?きっと助けに来てくれますから」
ああ、ごめんね、フレス兄さん。何でか分かんないけど僕の背中に身を預けてるレミ姉が継ぎ足した言葉。
マジで怨むよ。フレス。