山賊のトラムポルカ (1)
食欲を誘う香しい薫りの兎の肉を受け取りながら。
「なんて言うか、レミ姉ってさあ、案外逞しいね……」
燃え上がる炎に映る顔はまだ青さが抜けきらないようで、ご馳走にかぶり付こうか迷う街育ちの貧弱少年。
「ダメですよ。シャン君奪った命はしっかりと戴かねば」
確かに、この箸より重い物を持った事の無さそうな、花の乙女が、可愛い兎さん達を見事射抜いて、ナイフで首を落とし、ちょっとグロテスクな血塗れな手捌きで皮を剥いでいくという光景は、私に憧れを寄せる彼にはショッキングだったかもしれません。
「ほら、美味しいですからしっかりと食べて下さい」
でも、この世界は弱肉強食なのです!そんな甘っちょろい考えでは肉にありつけないのです!私は見ての通りの草食女子ですが男ならガッツリ肉食であるべきです。
「坊主、レミは喰いっぷりとか男らしい奴だろ。細っこい身体して」
「うん。凄い逞しい」
クッ、全くこの男共は女性に対する扱いがなっておりません!風が吹けば散ってしまう可憐な乙女になんて事を!
次いでに言うなれば、シャン君!そんな恐る恐るちびちび食べずに、私やフレスさんを見習って喰らい付きなさい!
“野営でちびちび飯を食うな!匂いで魔物が寄ってきたら、食いそびれるぞ!”
拳骨と共に教わったかりゅ……旅人に共通する教えです。
とにかく!夜の山を嘗めたらいけないのです!
まぁ、今は夜の山でグースカいびきを立てて寝るなと、可愛い娘の頭に、欠くはずの無いいびきなどの罪を擦り付けながら平気で拳骨を落とすとある非常識な狩人よりは、幾分良識的で紳士的なフレスさんがいらっしゃるので、か弱い女の子な私は野営でもぐっすり寝かせて頂いていますが……今日はそうはいきませんね?
「どうしたのフレス兄さん?」
流石はフレスさん、恐らく、歴戦の戦士って奴ですね?
「レミ姉?」
「レミ、何人だ?」
「十一までは聞き取りました」
シャン君には夜風の鳴らす木々の音と区別が付かないかもしれませんね。音楽家として培ってきた私の天才的な耳にはどんなに気配を殺した足音でも聞き取れるのです。火を恐れないのは知能がある証拠。そして、足音の響きから二足歩行な二重奏。魔力が上位な魔物か、もしくはもっと厄介な二足歩行で知能が発達した哺乳類か?
どちらにしろ数が多いですね。しかも、この森に川の畔にぽっかり開けた小さな広場、辺り一帯、円状に囲まれています。それは敵意の表れる行動。まるで蛾のように火に集って忍び寄ってくる連中ですね。
でも、此方には闘いのプロフェッショナル、シャットの傭兵のフレスさんが居るのです。最悪、フレスさんを盾に、血路を開けば良いのです!
「十一か。腕試しにしても少しつまらねぇな。まぁ、せめてそれなりの手練れが居ることを祈るぜ」
この人は置いてかれても全く気にしないようですし……。
「シャン君、逃げる準備をしておいて下さいね?」
「逃げるのは得意だけどさ。もし、ラスルルからの追手なら、ここで全滅させちゃった方が後で楽だよね?」
「いい覚悟だな。坊主」
「それはどうも」
フレスさんと男らしい笑顔を見合せ、腰のダガーナイフを引き抜く彼は先程と違って可愛い気の欠片もなく好戦的な笑顔。
良いです。私はこのリュートと共に先に逃げさせて頂きます。
貴方達を置いて独りで逃げますからね!
……もし、本当に駄目そうだったらです!それまでは弓で援護して差し上げましょう!精々しっかりと私の盾になって守って下さい!
……死に体となり、密やかな更新。……次は何時出来るのやら……。