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間奏曲 狂信者たちのゴスペルソング

宗教自治区ラスルルで主神ラスターに最も近い場所、ラスター大聖堂最上部。天井は全面を硝子に覆われ、日中であれば何も遮る事なく、主神の恩恵、陽光を受ける場所。


「そうですか、リュートを持っていましたか……」


その部屋の中央に置かれた机の上、口の前に祈るように組んでいた手をほどき微笑む壮年の男は静かに呟く。目の前のシラク司教に確認するでもなく自分に言い聞かせるように……。


「あの教皇様、失礼ながら質問を宜しいでしょうか?」


男の呟きの後、沈黙の支配した部屋にシラク司教付きの守護騎士は乾いた唇を遠慮がちに開いた。


彼女はシラク司教に付いてこの部屋の前まで来ては待機を命じられる事は幾度と有ったが、この部屋に入った事はなかった。それが今日に限り、シラク司教に同席を命じられた。そして、目の前にはこのラスルルの最高指導者が座している。彼女の肩にも自然と強張るのは仕方の無い事だった。


「私が貴女に質問を出来るのと平等に、貴女も我々に疑問を投げ掛ける権利があるのですよ」


横から射し込む西陽に光と影に別つ笑顔を見せる教皇。


「……ありがとうございます。……スペルシンガーとは一体如何様なものですか?後、あのレミファさんの持つリュートはどういったものなのですか?それにあんな……」


強奪のような手を、と勢いに乗り言ってしまうところだった。


「ルー、落ち着きなさい」


教皇を目の前に、幾つもの疑問に焦る頭で彼女なりに落ち着いたつもりだったが、やはり、辺りに蔓延する息苦しさには堪えられず、早口になってしまっていた事に気付いた彼女は、シラク司教の静かなたしなめに小さく頭を下げる。


「……スペルソングを行使出来る者はスペルシンガーと呼ばれています。そして、そのレミファなる少年の持つリュートは呪歌楽器スペルソングインストルメント。呪歌を操る楽器です」


そんな彼女に笑みを向けながらも抑揚なく淡々と語る教皇。


「ルー。ルーフェルルに付いては勿論、知ってますね?」


「……はい、15年前に一夜にして滅んだ小国で。原因は未だに分かっていないようですが魔力の暴発が……」


唐突のシラク司教の話題を切り換えに抱いた不信。その滅びた小国を語るに連れて、次第、彼女にもシラク司教の言わんとする事が分かり出していた。


「その原因はスペルソングの試行の失敗だと我々は考えます。危険なものなのです。小国を一夜で滅ぼす程に」


彼女、ルーの言わんとする事をシラク司教が静かに言葉をいれる。そして、引き締めていた頬を弛めて


「あれは我々が封印して措くべきなのです。少々強引な手を使っても、ここ、ラスルルをルーフェルルの二の舞にするわけにはいかなかったのですよ」


と悪戯が失敗した子供のように笑う。


「そうですね。司教は少々強引な手を使い過ぎました。その結果、刺激されたスペルシンガーが歌い、手酷い反撃を受ける羽目になったのですね」


口を挟んだ教皇の態度も子供の悪戯を優しく許す親の面持ち。しかし、おもむろに席を立つ教皇は即座に顔をその身分に相応しいものに整えた。


「それで……ですよ、ルー=シラク守護騎士。神代令です」


神代令。教皇のみが発することの出来るラスター教団にて神命に次ぐ最高位命令。勿論、教皇自らの口から、この封建的制度上最下部に当たる、一介の守護騎士である彼女に掛けられるのはこれが初めてである。


「直ちにレミファ=アニアを追い、スペルインストルメントの確保し、ラスルルへ。但し、あまり彼を怒らせないように気を付けなさい。死人を出さぬ様に単独で事に当たり、なるべく、彼の説得に力を注ぎ、彼の意思でラスルルにリュートを運ぶように尽力を計りなさい」


「神の御心のままに……」


この命令、ルー=シラクに断る権限もなければ、断る気もなく、急遽な一人旅への不安と期待を背負い、拝礼、退室へと掛かる。


「ルー。連絡を欠かさないように……気を付けて行きなさい」


「はい」


父の笑顔と心配を受け、退室する前に苦笑う彼女は努めて明るい笑顔振る舞ったつもりだった。




「……本当に彼女を手放して良かったのかね、ペザン?随分、彼女を可愛いがっていたのに」


ルーの退室後、完全に日が落ちた漆黒の室内。火を灯しましょうと、ランプに手をかけたシラクに、闇に埋もれている男が声を出す。


「可愛い子には旅をさせろと言いますよ。ルーもレミファ君から“真”の音楽を知る良い機会です。親としては寂しいものですが、小鳥が巣立つのを邪魔する訳にはいけませんからね」


「ふふ、親としてはねぇ。偽りの子育ては楽しいかい、ペザン?」


「ええ、彼女も人の子なれば、平等に愛される必要が在りますからね。……今日は妙に突っ掛かってきますね」

明かりの灯った室内で笑顔を向け合う二人の男。


「連絡を欠かさないように……私は君にそう言いたいね」


「何の事でしょうか?」


暫しの間の後、口を開くと共に笑顔を崩した教皇に、笑顔を崩さない司教。


「“横笛”を懐に入れてどれだけ経っているのか聞いているのだ」


「前もお教えした通り、“横笛”は補助です。スペルソングは起こせないのですよ。わざわざ、教皇のお耳を煩わす事ではないと思いましてね」


「私としては、君がコソコソと動き回っている事を聞く方が煩わしいんだがね……まぁ良いシラク、神罰もまた平等に下ると言うことをくれぐれも忘れないように」


揺らぐ灯に映る甦った教皇の笑顔は歪に。


「ええ、重々心に命じております」


それに返すシラク司教の笑顔もまた、今、出ていった守護騎士の彼女が見たことの無いもの。


「それでは……ラスター神の名の元に、世界に平等を」


「ええ、ラスター神の名の元に、世界に平等を」


そして、別れの挨拶が静けさと闇に溶けた。

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