表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

背信者に捧ぐゴスペルソング(6)

シラク司教と共に現れた規則正しいテンポの足並み達。


シラク司教併せて七匹、二足歩行、体長は大体1マアから1.1マアでしょう。間違いなく人間。食肉には不向きな獲物です。


私の音楽家として養ってきた正確無比な耳ならば、集中さえしていれば足音で様々な事が分かるのです。


“山では常に弱肉強食。如何なる時も神経を研ぎ澄ましていろ”


あぁ、今、何故音楽家たる私に狩人教訓のワンフレーズが流れてくるのでしょう。


「あのう、シラク司教?」


地面に這いつくばりながら無様な姿で申し訳ありませんが一つ聞いても宜しいでしょうか?


聞けませんでした。突如現れたフレスさんを拘束するための光の縄。しかし、フレスさんは巨体に似合わず以外にも俊敏。その地面から沸き上がる光を勘良く器用に交わします。


「ルー。フレスさんを捕縛しなさい」


フレスさんが向ける剣に注意を払いながらじりじりと近寄ってくるお方は私のお相手はしてくれないようですね。


「シラク司教。どういう事ですか?この少年はともかくこの方達は何も」


戸惑うルーさんが言う正論。心清らかな私は貴方に地面に張り付けにされる事をしたことは有りませんよ。心当たりが全くありません。


「確かにルーのいう通りですね。フレスさんに特に罪はないかもしれません。逆にこの少年達には罪があります」


少年達で纏められるのは泣く泣く諦めましょう。しかし、この引ったくり少年と罪人としてくくられるのは遺憾です。


「このレミファ君の持っているリュートは元々ラスター教会のものです。七年前に盗難にあってからは行方を知らずでしたが……」


上から見下ろされているからでしょうか?微笑むシラク司教のお顔が酷く歪に見えるんですが。


とにかく、此れは師匠から頂いたものであってですね。あの師匠が盗みを働くわけがないわけでしてね。


ハッ!まさか、シラク司教は私の身から隠しきれずに漏れる音才に嫉妬して、未来の大音楽家の若き芽を今の内に摘み取ろうと。

全く気が早すぎますよ。私が今にもラジオデビューを易々と果たしても可笑しくない罪な才を秘めてるからって。


「勿論、彼が直接盗んだと言うことは年齢的に可笑しいでしょう。しかし、彼がそのリュートをどのような経緯で手に入れたかを聞きたいのです。手荒な真似はしたくありません。フレスさん、少しの間、彼の身柄を我々に預けて頂けませんか?勿論、彼に重罰を課すなどと言うことは私がさせません」


ああ、そういう事ですか。少し迷いますね。このリュートを手に入れる過程についてはいくらでもお話ししますよ。しかし、それはこの思い入れがたっぷりなリュートを取り上げられる可能性も在るわけで。でも、手荒な真似はしたくない。つまりは地面に縛り付けた美少女に手荒な真似も出来ると言っているわけでして。


「そう優しく説いて欲しいものを手に入れた後は、こっそり始末するのは教会の十八番だよね。僕の両親みたいに」


私とお揃いで地面に頬を寄せてる少年からショッキングなカミングアウト。始末って多分……私の聡明な頭脳にはっきり浮かぶそういう事ですよね?


「そうでしたか。君は横笛の…。あれは君のご両親が我々から奪った品。我々としては返して頂ければ穏便に事を済ませるつもりでしたが、彼らが」


「ふざけんな!あれは僕が生まれた時から家にあった物だ!」


先ほどまでの陽気さ交じりは何処へのアジタート。


「ウィルマ、我が枷を断ち切れ!」


なんて適当なスペル!一様、定型は踏んでるものの、暴走したらどうすんだ!っと、思う間もなく、見事に切れ、光に還る縄。


「お父様!」


解き放たれた少年の刃がシラク司教に迫る。が、ほっとしました。またしても、衝撃なカミングアウトを叫びながらもルーさんの槍が、お父様、シラク司教の事でしょう、刃が届く前に間に合ったのです。


「レミ、ボケッとすんな!」


いや、息継ぎすら許さないパートでした。素早く私の前に背中を見せたフレスさんの檄に。慌てて立ち上がった私。良かった。地面と私のお腹にサンドイッチされていたリュートは大事は無いようです。


「銃士!動かないで頂きたい!」


やっと、視認出来たシラク司教の取り巻きさん。長銃を持っていらっしゃる方がお二人。シラク司教の指揮に従い、二つ銃口は既に私へスタンバイです。下手に動けば、銃声をベースに私の断末魔でコーラスする羽目になりそうです。しかし、一拍の間、私の指揮者が変わります。


「俺が何とか防ぐから!レミ、歌え!」


私の隠すように立ちはだかった肉の壁が怒鳴ります。


本当に馬鹿か!


スペルソングは前奏を弾かなければ発動出来ないのです。明らかに銃の引き金を引く方が速いに決まってます。銃の威力は良く知りませんが、この肉壁を貫く可能性は多いにありです。


私にはそれが重々分かっていますとも。でも、フレスさんが見せる銃を向けられて尚、余裕の横面に手がリュートに触れ、指が動き出しました。


「歌えだと?まさかスペルシンガーか!」


驚くシラク司教に贈りましょう。あなたには名音を聞かせて頂いたので、今日は特別無料です。選曲はスペルソングの中でおとなしく、シラク司教への返曲にはぴったりな曲。後は、集中です。


「銃を下げろ!彼を傷付けずに生け捕りに、いや、全員直ちにこの場を離れろ」


もう、遅ぇんだよ!

闇に墜ちやがれ!


歌うは、闇より深き悲恋歌。



光を纏った兄と対にして闇に包まれ生まれた男。


誰しも疎むその存在。ただ独りで闇に埋もれていく。


彼を照らした光。闇を優しく照らし出した月の女神。


彼が唯一つ、自分の姿を映し出すその光。月の光、その調べは、闇を、彼の心をも暖かく照らす。


しかし、耀かしい陽光は闇を消す。月光を奪い、全てを陽光で埋め尽くす。


明るさ過ぎる光に隠れ、闇の王は影と消え。地へと闇へと深く潜る。


ただ、夜闇に浮かぶ優しき光にその届かぬ想いを浮かべ……。




「お父様!どうなさったのですか?」


何故か事態を理解しないルーさんが声を掛ける先には、手をさ迷わし、足元の覚束無いシラク司教。まぁ、その後ろにいる神殿騎士面々も同じ状態です。きっと、果てなき漆黒の白昼夢を見ているのでしょう。


「フレスさん!少年逃げますよ!」


「はっ?何がどうなって」


少年、話は後です。


「……目潰しか。甘ぇな」


フレスさん、私は音楽家です。殺生は行いません。あまり関係在りませんが狩人たる父ですら無益な殺生をしない信条を娘に叩き込んでいるのですよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ