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背信者に捧ぐゴスペルソング(5)

幾重に続く鉄と鉄の奏でるハーモニー。


フレスさんの剣は遅い方ではありませんし、その技は鈍い訳では無いのです。ルーさんの言った通り熟練の域に達してるのでしょう。今は相手と対比して遅く見えるだけです。目に見える体格差を物ともせずに、ダガーでの鋭い連撃を繰り出す少年。それを防ぐ事に必死のフレスさん。


「坊主、やるもんだな。剣はどこで習った?」


「そんなこと忘れちゃった」


一見圧されているようにフレスさんからは余裕が見られます。逆に、フレスさんに斬りかかるまでは、余裕たっぷりな表情だった少年の口調に焦りが見えます。


何度目かの攻防の後に大きく舌打ちをして、フレスさんから離れる少年。もう降参ですか、いえ、してください。私は何時少年の背中にあるリュートに刃が当たってしまうのか、ハラハラドキドキなのです。


「世界に種子を運びたまう風の神ウィルマ。その力を一陣の刃に変えて僕の敵を切り払え!」


不意に声を上げた少年。フレスさんはそのスペルに反応して横に動き、見えない刃がフレスさんの居た地面を削ります。次の瞬間には、少年はフレスさんの懐へ。一際大きい鉄の振動音。


「目眩ましの魔法に次いで、良い攻撃だけどよぉ。今一歩、踏み込みが足りないんだよな」


お腹を狙ったダガーを剣で押さえたフレスさん。その一回り大きい体で上からのし掛かるように剣で押さえ込んでいます。少年のダガーを持つ腕には震えが目立ちます。口は固く結ばれ、減らず口も叩けないようです。


フレスさんが無慈悲に力を込めたのでしょう。少年は後ろへ勢い良く地面に倒れても、力が失われず、地面を転がる。


「フレスさん!乱暴過ぎます!」


その光景に思わず叫んでしまう私。慌ててその少年に駆け寄ります。


「大丈夫ですか!」


少年と共に地面を転がった私のリュートは!少年は私からリュートを盗った罰を受けただけですが、私のリュートは地面に叩き付けられる謂われは無いのです。これで壊れていたら、私は先生に顔向け出来ません。


「アッハッハ、やられちゃったよ!僕の負け」


地面に強か打ち付けられた少年は、仰向けから顔だけを上げ元気そうに笑います。私のリュートを下敷きにしたままです。


「立てますか?」


そう聞いて私は少年に手を差し伸べます。怪我が無いようなら早い所立って私のリュートの安全を確認させて下さい。


「有難う。僕みたいなコソ泥に手を差し伸べてくれるなんて、お姉さんは本当に優しいんだね。僕はお姉さんのリュートを盗ろうとしたのに」


あどけない笑顔を浮かべ私の手を取る少年。

えっ、当然の行為ですよ?心優しき私は暴力男に撥ね飛ばされた少年の身を案じてしまうのです。リュートの身の次にですけどね。


「でもね、僕って悪い奴なんだ。優しいお姉さんにこんな事しちゃうぐらいにね?」


私を掴んだ手とは逆の手が私のお腹に当たる、地面に転がるダガーナイフとは異なる小振りのナイフ。先ほどフレスさん相手に使っていた物と比べると長芋の皮剥きに便利そうな果物ナイフですね、程度の長さの刃しか付いていないものの、私の柔らかいお腹の皮を突き破るには十分事足りそうです。あまりにリュートが心配で、油断し過ぎたようです。


「レミ!」


「卑怯だぞ!」


フレスさんとルーさんの声がまた重なってます。本当に仲が良いですね?


「えー、僕は、元々卑怯なコソ泥だよ?自分の身が危なければ何でもしちゃうんだよね」


私の手を握り、私のお腹に刃物を当てながら立ち上がる少年。楽しそうに笑っています。私も冷や汗を足らしながら苦笑いが零れます。私の心臓のテンポは乱れて、酷く乱雑な音を立てています。


「おい、俺に本気で怒ってほしいのか?」


フレスさんの口から漏れるとても低い声。既に怒ってらっしゃいますよね?


「少年、神がそのような行為を許すと思うの?彼、…彼女を離しなさい。人を殺める人間にはいつか罰が下ります」


ルーさんは既に自らの手で罰を下そうと槍先を此方に向けます。その槍に少年より、私の方がビビっているのですが。


「へぇー、ラスター教団はどんなに酷い事をやっても神に許されるのに、僕みたいな子供のまだ可愛い悪戯は許してくれないなんて、ラスター神は本当に万人に平等だねぇ」


少年から笑顔は消えていました。不機嫌になってルーさんに語る少年。深青の瞳がより深く悲しく輝いています。

その時、気付いたのです。私の首元にあるナイフが本当に細かくビブラートしている事に。救世を歌っているかのように。


「ラスター神は君のこの行為を認めないでしょう」


「はい?お姉さん何言ってるの?」


私だって何を言ってるのか分かりません。刃を首筋に突き付けられた今、私は結構必死で正常では無いのです。


「でも、世の中には色んな神が居ますよ。私の、私の父が信仰する神、フェロスは命を奪う事は、命を育む事と同等に意味があると説いています」


フェロスは私の出身カレルド地方にて未だ人気を誇る動物神の一人。それは5マヌを越える狼。山と狩猟を司る神様。動物神には他にも、農民の信仰するカエル、木こりの信仰する栗鼠、牧民の信仰する豚、商人の信仰する亀など多種多様にいます。これらは一大勢力となったラスター教に、未開で野蛮なまやかしと馬鹿にされても、人々の中に根強く残っているのです。都会では無く、田舎の大地と生きる人々の中に。


「私もラスター教ではありません。フェロスを盲信している訳ではありません」


それらの神々はラスター神のように、全ての人に恵みは与えてくれません。


「それでも貴方を救う神は何処かに居ますよ」


どんなに孤独でどんなに救われなくても、救ってくれるものはあるものなのです。音楽が常に私の側にいるように。


「…お姉さん、口達者だね?」


我ながら良く口が回ったと思いますよ。


「でも、ラスター教団員より面白いご高説だよ」


そんなに褒められたら私、照れちゃいますよ。それより早くナイフを退けて下さい?


「ねぇ、お姉さん。僕を救ってくれる?」


それは真剣に歌われた、一篇の静かな哀歌のように紡がれる言葉。その音の意味は私には分からない。ただ、人の心に哀しみを伝える音。


「ええ、私が貴方を救いましょう」


貴方を誰から、何から救うと言うのでしょうか?私は神ではなく、音楽家なのですよ?


そんな自らの言葉に戸惑う私を、クツクツと笑い出す少年。先程までの哀しみはもう無い。


「やっぱ、お姉さん面白いや。 別に僕はお姉さんに救って貰わなくて大丈夫だよ。お姉さんは素直だねぇ、私が貴方を救いましょう、って傑作だよ!」


思いっきり馬鹿を見ました。あぁ、穴が合ったら入りたいです。もう、一思いにグサリとやってください。いえ、やっぱり痛いのは嫌です。

「止めーた」


子供のような声と私の首元の解放感。


「僕、飽きちゃった。これ、返すよ。だから、見逃してよ?お姉さん?」


呆然とする私の手に渡されるリュート。本来なら、一発ぐらいひっぱたいてやる所ですが、このリュートが返って来るなら我慢します。相手は未だナイフを携帯していますしね。


「良いわけが無い!お前は犯罪を犯したんだ!我がラスター教団で裁かれなさい」


「大きい方のお姉さん、良いじゃないの。結果的に何も盗ってないんだからさ?」


「良いんじゃね、レミも別にリュートが返ってくれば良いんだろ?」


ルーさんにヘラッと笑って屁理屈を述べる少年とフレスさんの同意。今、私は少年の処遇より、私のリュートに傷が付いていないか調べる事を優先したいのです。


「そういう問題では無い!」


ルーさんが直ぐに次に続く言葉を言おうと口を開きます。


「太陽の神、ラスターよ、貴方に仕える私にその力を、我が敵を捕らえよ」


突如、何処からか流れたスペル。

空から現れた幾筋の光の縄。私と少年の身体を縛りあげます。いきなり手足の自由を奪われ本日二度目の地面に激突です。


「そう、ルーの言う通り、そういう問題では無いのですよ」


守護騎士五人を引き連れて現れたシラク司教。あの、私、少年の巻き添えを食らっているのですが?結構、この光の縄、食い込みが痛いんです。


「それでは、レミファさん。そのリュート、渡して頂きましょうか?」


地面に横たわる私に、優しく微笑みかけるシラク司教。



あれ?

久しぶりの更新です。


なんとも文が書けなくなって来てしまっている気が…。

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