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隣の席の朝倉さんは、どうやら異世界帰りの聖女様。  作者: あざね
オープニング

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3/5

2.帰宅する朝倉さんと僕。







「今日は本当にありがとう、朝倉さん!」

「い、いいえ! 私にできることをしたまで、ですから!」




 放課後になって、クラスメイトが散っていく中。

 僕は改めて朝倉さんに、化学準備室での出来事を感謝した。できることをした、と彼女は言っているが、常人にはできないことだよと告げるのは野暮だろうか。野暮かもしれない。

 そんなことを考えていると、朝倉さんは小首を傾げてこう訊いてきた。



「あの、ご迷惑でなければ一緒に帰りませんか?」

「ん、一緒に……?」



 思わぬ提案に、こちらはしばし硬直する。

 だけど、こんな機会を逃すのはもったいないのは分かっていた。



「朝倉さんの迷惑じゃないなら、もちろん喜んで」




 そんなわけで、僕たちは一緒に家路に就くことになったのだ。







「こっちは車があるから、注意しないといけませんね」

「(だから、こっちって……?)」



 夕陽に照らされる街の中を二人で歩く。

 長い長い坂を上りながら、朝倉さんがそのように言うので僕はまた内心でツッコんだ。相も変わらず彼女の素性は不明な部分も多いけれど、普通に話している分には可愛い女の子。

 その事実には、あえて目を瞑ることにしていた。

 だって彼女は発言もさることながら、こちらが恋愛感情を抱くには畏れ多い。



「私、変わっているので。話してくれる相手、少ないのです」

「そ……そんなこと、ないと思うよ……?」



 だけどごめん、朝倉さん。

 敬うような感情を抱いているのに、その点については否定できなかった。

 実際問題として朝倉さんは端麗な容姿に加えて、その浮世離れした行動や発言によってクラスでは浮いている。みんな嫌っているわけではないのだが、触れないでおこう、という暗黙の了解が広まってしまっていた。

 そんな彼女と言葉を交わすのは、決まって隣の席の僕。

 キッカケは忘れてしまったのだけれど、気付けば不思議なほど自然に話していた。



「だから、とても感謝しています。……私には、中学の友人もいないので」

「そう、なのかぁ……」



 ――どうして、友人がいないのか。

 それを訊ねてしまったら、妙な世界に足を踏み入れそうなので思い止まった。彼女の言い方を借りれば、僕はあくまで『こちら』の人間として朝倉さんと対峙したい。

 そんな勝手な決意を胸に抱いていると、彼女は数歩先を行ってこちらを振り返り、




「本当に、ありがとうございます! ――宮間天音くん!」




 そう、僕の名前を口にした。

 だけどその感慨に浸るより先に、




「危ない!」

「きゃっ!?」




 僕は急いで朝倉さんの手を引いて、その小柄な身体を抱きしめる。

 すると直後に、彼女のいた場所を自転車が猛スピードで通過して行った。



「気を付けないといけないのは、車だけじゃないよ……?」

「……は、はい」




 どうにも、この少女は目を離せない。

 放って置いたら、どこか違う場所へ行ってしまいそうで……。



「あ、あの……」

「……あ! ごめん!?」




 ずっと抱きしめていたことに気付き、僕は彼女を解放した。

 互いに無言になりつつ、しかしこちらは――。



「(やっぱり、普通の女の子……なんだよな)」




 たしかに伝った温もりに、顔が熱くなるのを感じていたのだった。




 





「ふぅ……また、助けられちゃった」




 ――宮間天音と別れてから。

 朝倉冴姫は一人で家路に向かって歩いていた。

 空を見上げると、そこにはもう薄紫の闇が広がり始めている。



「『あの日』も、そうだったよね」



 そんな景色に、少女は何かを思い出すように立ち止まった。

 そして、ゆっくりとこう口にする。





「私は普通の女の子じゃない。でも――」





 改めて決意を固めるようにして。





「天音くんのことが、大好き。……だから、バレちゃいけない!」




 胸の前で小さく拳を握りしめて。

 大きく頷いて、宵の明星へと向かって宣言するのだった。




「私が異世界から帰ってきた聖女だって、絶対に!」――と。





 おそらく、バレてないと思っているのは彼女だけなのだが。

 しかし冴姫へそれを指摘する者はいない。




 どうやら、二人のすれ違いは簡単に埋まらないように思われたのだった。



 


ここまでがオープニングです。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

朝倉さんの物語、楽しんでいただけていたら嬉しいです。

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