06:それ、分かりやすくないの?
午後の打ち合わせが長引いた日だった。
会議室を出ると、廊下はもう人が少ない。
自販機の前で足を止めると、同僚の佐伯が声をかけてきた。
「最近、よく一緒にいるよな」
それだけの言い方だった。
特に探る様子もない。
俺はコーヒーを取り出して、曖昧に頷いた。
「帰り、同じ方向だから」
「ああ、朝霧さんだっけ」
佐伯はそう言って、少し考えるような間を置いた。
そして、悪気のない調子で続ける。
「でもさ、それ分かりやすくないの?」
何が、とは言わない。
けれど、この世界では十分だった。
俺は缶のプルタブを引いて、一口飲む。
「数値、動いてないんだろ?」
断定ではなかった。
確認に近い。
佐伯は、俺の反応を待っている。
「まあ、な」
それだけ答えた。
嘘ではないし、説明もしていない。
「だったら、無理に続けなくてもいいじゃん」
助言のつもりらしい。
声の調子は軽い。
効率とか、時間とか、
そういう言葉は使わなかったが、
言っていることは同じだ。
「数値が上がらない関係って、
先が見えないだろ」
俺は少しだけ考えた。
先が見えないこと自体は、否定できない。
けれど、それが問題かどうかは別だった。
「今のところ、困ってない」
そう言うと、佐伯は肩をすくめた。
「まあ、そう言うと思った」
それで話は終わった。
それ以上踏み込む気はないらしい。
佐伯は別の方向へ歩いていった。
仕事を終えて外に出ると、
いつも通り朝霧が待っていた。
待っている、というより、
そこにいるのが当たり前のようだった。
「遅かったね」
責める調子ではない。
事実を置いただけの声だ。
「会議」
「そっか」
それ以上のやり取りはなかった。
並んで歩き出す。
いつもの道、いつものペース。
駅に向かう途中、
ふと昼間の会話を思い出す。
数値のこと。
分かりやすさの話。
けれど、今この時間に、
判断を変える理由は見当たらなかった。
信号が青に変わる。
朝霧が一歩前に出て、
それに合わせて俺も歩き出す。
数値を確認することはなかった。
変わっていないのは分かっている。
それでも、
今日の選択が間違いだとは思えなかった。




