02:気にしないという態度
朝霧しずくは、数値の話をしない。
それは初対面の時に気づいたことでもあったが、
改めて意識すると、かなり徹底していた。
世間話の中で、
他人の好感度が話題に上がることは珍しくない。
上がっただの、下がっただの、
それだけで一喜一憂する人もいる。
けれど彼女は、そういう流れになると、
話題を変えるでもなく、ただ聞き役に回る。
無関心、というほどでもない。
ただ、自分の判断基準として使っていない。
それだけのように見えた。
昼休み、俺たちは並んで歩いていた。
目的地は特に決めていない。
混んでいない店を見つけたら、そこで食べる。
それが、いつの間にか出来上がったルールだった。
「今日はどうする?」
俺が聞くと、朝霧は少し考えてから答えた。
「空いてそうなところ」
それだけだった。
数値も、理由も、付け加えない。
それでいて、不足はなかった。
店に入ってからも、
会話は途切れ途切れに続いた。
天気の話、仕事の話、
どれも深く掘り下げるような内容じゃない。
それでも沈黙は気まずくならなかった。
以前なら、数値を確認していたと思う。
この沈黙は許容範囲か。
退屈させていないか。
そういう判断を、無意識にしていた。
けれど今日は、見なかった。
見る必要を感じなかった。
朝霧は、いつも通りだった。
特別に楽しそうでも、
退屈そうでもない。
ただ、そこにいる。
食事が終わって店を出るとき、
彼女がふと立ち止まった。
「午後、少し早めに戻る?」
確認するような口調だったが、
急かす響きはなかった。
俺は頷いた。
そのやり取りだけで、
予定は決まった。
数値を介さずに決まったことに、
少しだけ違和感を覚えた。
それでも、不安はなかった。
別れ際、何か言うべきか迷って、
結局、何も言わなかった。
朝霧も、振り返らなかった。
それで終わりだった。
けれど、関係が途切れた感覚はない。
帰り道、数値を確認する。
やはり、変わっていなかった。
動かないままの数字を見て、
なぜか安心している自分に気づく。
問題は起きていない。
ただ、判断に使わなくなったものが、
一つ増えただけだ。




