2、異世界、最初の一歩はハニワルック
……知らない空だ。
青空に、太陽が二つ。
どっちも本物みたいにギラギラしてる。
幻日ってやつかなと思ったけど、位置も高さもバラバラ。──たぶん違う。
というか、そんなレベルの話じゃない。
起き上がってあたりを見渡す。
草が腰のあたりまで伸びてて、見たことない植物ばかり。
ああ、これはきっとあれだ。いわゆる「異世界」ってやつ。最近よく本屋で見かけるタイプの。
最後に覚えてるのは──電車の正面。
目の前に迫るヘッドライトと、ガラス越しに見えた運転士さんの「うわっ」って顔。
相手はトラックじゃないけど、まあ、あれだ。トラックでなくても死ぬときゃ死ぬ。
で、気づいたらこの空。
たぶん転生。あるいは転移。もしくは夢。
いや、夢にしてはリアルすぎる。湿気まであるし、草の匂いもちゃんとする。
──うん、転生っぽいな。よくあるパターンだ。
服装は、朝出かけたときのまま。制服。
右肩に通学カバン、ぱんぱんに詰め込まれたやつ。
スマホは……ない。まあ、圏外どころの話じゃないだろうけど。
ハンドミラーで顔を確認。マスクとメガネが行方不明なだけ。
あとは、だいたいいつものわたし。
つまり、誰か別の人に生まれ変わったわけじゃなさそう。
中身も外見も変化なし。──芸がないな。
それにしても、あの電車に轢かれた瞬間の続きがこれってどうなんだろ。
グチャグチャに潰れて転生、ってパターンじゃなくて、たぶん“直前”に来ちゃったんだな。
まあ、細かい理屈はいい。生きてるっぽいならそれでよし。
家族とか友達とか、心配してるだろうな……とは思うけど、胸が痛む感じは不思議とない。
父親が亡くなったときも泣けなかったし、そういう体質なのかもしれない。
友達とは普通に笑ってたけど、別に誰かに強く執着したこともないし。
──要するに、薄情。
自覚はある。いまさら反省しても遅いけど。
さて、問題はこれからだ。
まずは定番の確認をしよう。異世界といえば、アレだ。
「ステータス!」
……。
「ステータス・オープン!」
……。
「ステータス・ウィンドウ・オープン!」
……うん、やっぱり出ない。
知ってた。そういう都合のいい展開は、わたしには来ない。
ま、とりあえず現状を整理しよう。
ここは高い木に囲まれた小さな空間。建物なし。山も見えず。
かろうじて獣道っぽいのが一本。
──選択肢、ほぼゼロ。
遭難の鉄則は「動かない」だった気がするけど、助けが来る見込みもない。
つまり、行くしかない。
スカートのまま草むらに突っ込むのは無理なので、カバンからジャージを出して下に穿く。
ハニワスタイル完成。うん、実用一点突破。
ペンケースからカッターナイフを取り出してポケットへ。
食料は羊羹スティック五本とエナジーバー二本。
飲み物はお茶550ml。悪くないスタートだ。
カバンのベルトを伸ばしてタスキ掛けにして、深呼吸。
──さあ、いよいよわたしの異世界冒険、開幕です。
……なんかテンション高くない?
いや、現実逃避ってやつか。たぶん。




