第2話凍てつく涙
――降りしきる雪が彼らの結末だったのだ。
吹雪く視界、足元に浮かんだ魔法陣の上で八歳前後のふたりは対峙していた。
吐く息すら白く、身を切るような冷気に晒されてなお少年は勇ましく彼女に手を伸ばす。
だが刻一刻と時は迫まり、じれた少年が彼女をこの場から連れ出すより先に判断がくだされた。彼は間に合わなかったのだ。
雪原に刻まれた魔法陣に魔力が注がれだす。露草色をした染料の水が流れ込むと彼らを隔てるように半円の中央には透明な膜が出現する。
少年がいくら叩こうと膜は割れなかった。
プラチナシルバーのハーフアップが揺れて少女を包む蛍の光が飛び交っている。
どこか神秘的な光景を少年は絶望的な気持ちで見守る。
自分と同じように泣き腫らした、セルリアンブルーの瞳。
少女の体がふわりと宙に浮かぶ。
彼女はそれでもまだ、固い意志を感じさせる瞳で微笑んでいた。
少年の視界に粉雪のような羽が舞っている。
「かならずむかえにいくから!!」
力いっぱい少年は叫んだ。あらん限りの、全力で。
けれど返事はない。
吹きすさぶ風が増し、嵐はより一層強くなる。
視界すべてが銀世界に覆われた。
静寂が辺りを包む。
誓ったはずの指と指は完全に離れてしまっていた。
少年はうなだれる。
膝から崩れ落ち、四つん這いで地面を叩いても、彼の前から忽然と消えた彼女は戻ってこない。
林の影から狼が現れた。
少年の背を押す二匹の銀狼たちはクゥンとないては、彼を心配するかのように寄り添った。
そんな親切な狼たちに連れられ、少年は滞在中の別荘へと引き返した。
以来、彼は少女のちいさな足取りすら掴めていない。
あれから、幾年月が経っても。
思い出すのも辛い別れの直後、少年は言葉を耳に捉えていた。だれかから直接吹き込まれたような感触とともに。
(たしかに聴いたのだ)
『会いに行くわ』、と。
少年は信じている。あれが単なる空耳ではなく、あの言葉が、少女のものであると疑わずに。
最後の日も少年は大きくうなずいて、何度も、何度も、その言葉を噛み締めながら帰路についた。
いつしか大人になったシーザーは言葉を胸の中でだけ温め、お守りと同じように大切に唱えていた。
――アリシュと巡り会う、その日のために。




