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3.自殺未遂の翌日、平常登校。

朝7時50分、私は時間通りに電車に乗り込んだ。


「死にたい…」


この呪文は、私が毎日電車の座席に座る時の必ず唱える決まり文句だった。誰にも聞こえない、ただの小さな呟き。


多からず少なからずの乗客は、昨日も一昨日も、そのまた前の日も全てのコピペのようだ。私はイヤホンを取り出し、いつものようにノイズを遮断しようとした。


「黒崎~、おはよ~☆」


「…」


「聞こえてるよ~?まだイヤホンつけてないもんね~」


ああ、私は一個人の発言から「☆」マークを感じ取れるほど偉くなったんだ。


「もう~、無視しないでよ~」


金髪のギャルが私の座席の前までぎゅうぎゅうに詰め寄ってきて、腰を折り、そのキラキラした顔を私に近づけた。


「さん付けは?」


「え?」


「黒崎『さん』の、『さん』」


「ああ、あれか。呼び方なんて好きにしろよ、音节が多すぎて面倒くさいんだ」


嫌なギャルだ。社交礼仪はどこへやら、呼び方なんて勝手に変えていいものなのか。それに、顔も近づけすぎだ。


だが、反論するのも億劫だった。


「わっ」白石は何かを発見したような口調で言った。「黒崎、今日は前髪留めてる」


「ああ、うん」

そう言えば、これは朝、寝ぼけ眼でやらかした失敗だ。朝の洗面中、自分の前髪が長すぎて、視界を遮る範囲が大きすぎると気づいた。そこで私はためらいもなく──


前髪を切り失敗した。


別に私は外見に特別こだわる女の子ではないけど、こんな醜い前髪は余計な注目を集めすぎる。だからクリップで前髪を横に留めたのだ。


「黒崎のその髪型、海外で流行ったあれじゃない…あー、クラゲカットってやつ」

「そう?美容師の自由に任せただけだけど」


クラゲカット、その名の通り上が分厚く下が細い、クラゲが頭に被さっているような髪型だ。美容師が切ってる時、これが自分が若い頃のアイドルの看板ヘアだったと言っていた。今思えば、それってとっくに時代遅れって意味じゃないのか?


「めっちゃ可愛いよ!黒崎にすごく合ってる~」

「そ、そう?ありがとう?」


私は「ただすごく手入れが楽な髪型でってお願いしただけ」という言葉を飲み込んだ。


「こういう時の反応、それじゃないよ!『白石さん、今日のスタイルも超ーー可愛いです』って言うんでしょ!」

「やだ。」

「なんで~?!!」

「だって、おしゃれの話になったら止まらないギャルじゃないから。」

「このやろー!」


白石はフグのように、また膨れ上がった。


彼女の、過剰なチークを塗ったんじゃないかってくらい真っ赤な顔を見て、私は内心こっそり笑った。白石はまぎれもない美少女で、顔立ちも綺麗だし、スタイルも抜群だ。私が口にしなくたって、とっくに数えきれないほどの人に褒められてきたに違いない。


「ゆっくり怒ってて。私、降りるから」


電車が停まった。次の駅が私の学校だ。


「待って待って!」


白石はカバンを胸の前に抱え、何かを慌てて探し始めた。大げさなほど、カバンにぶら下がったごちゃごちゃとしたチャームが、彼女の動作に合わせてガチャガチャと音を立てて揺れている。小熊とウサギと猫とクジラと水晶のチャームが世紀の大戦争を繰り広げているようだった。


「重くない?」


「え? ちょっと待って……よし、あった!」


彼女はクラゲの形をした水色のヘアクリップを取り出した。


「ふふん、さすが私、アクセサリー購入の天才少女」


「これ、私に?」


白石は手のひらに載せたそのクラゲのクリップを、私に向けて差し出した。


「当たり前でしょ! 早く付け替えてよ。その灰色っぽいの、ダサすぎる」


「……」


このキャンディーカラーは、明らかに私の雰囲気とは一切合わない。


「早くつけてよ!」私が反応しないのを見て、彼女は自分から手を出し、私の前髪に直接取り替える作業を始めた。「じゃーん、完璧!超可愛い!すごく似合ってるよー」


白石のその言葉は、ただの戯言だと私は思った。けど私にとっては、前髪さえ留まっていれば十分で、どんなデザインかは実際どうでもいいことだった。


白石は私が彼女を信じていないと思ったらしく、わあわあと説明し始めた。


「マジで可愛いって!黒崎の学校の制服って真っ黒いじゃん?このクリップが一点のアクセント、引き立つってわかる?画竜点睛ってやつよ」


「ああ、わかった。降りる」


電車のドアが開いた。ちょうど「海浜公園駅」に到着した。目の前を曲がると、私が通う鳴瀬海浜高等学校だ。


「じゃあね~☆」

「あっ!忘れないでよ、自殺はダメ!それとクリップも外しちゃダメ!」

「黒崎の上着、今日の夕方返すから、学校の前で絶対待っててよ!」


彼女の言葉は、動き出した電車にゆっくりと運ばれていった。


やっと静かになった。


……


私は幽霊のようにクラスのワイワイ騒いでいるグループの間をすり抜け、教室の中ほど後ろの自分の席に着いた。


「クラゲちゃん、遅いよ」

後ろの席から、感情のこもっていない淡々とした声が聞こえてきた。


「普通の時間に着いただけだ」


「違うよ。今日はクラゲちゃんとリコで日直でしょ。日直は早く来なきゃ」

「忘れてた」


昨日までは覚えていたことだ。だが当時の私は自分の命を終わらせようとしていたので、どうでもいいような雑用はきれいさっぱり忘れていた。


「リコが朝、クラゲちゃんの分まで掃除しといてあげたよ。でもお仕置きとして、今日の放課後の日直はクラゲちゃん一人でやってね」

「わあ。リコ様万歳」

私は極めて平静なトーンでそう言った。


「ふふん」


星壁リコ(ほしかべ りこ)が私の後ろで得意げな鼻歌を歌った。そう、私たち二人の会話は最初から最後まで、私は一度も振り向かず、ただ自分のペースで手持ちのものを整理していた。


これは私たち二人だけの独特な関わり合い方だ。私のように透明人間なわけではないが、星壁は極めて個性的すぎて、彼女が何を言っているのか誰にも理解できないタイプなのだ。例えば、私が髪を切った後、堅苦しい場面でも「クラゲちゃん」と呼び続けるような感じだ。私も彼女と話すことはほとんどない。私たちの興味は完全に別世界だ。ただ二人とも友達がいないため、たまたま二人一組の日直制度で組まされただけで、私たちの会話もほとんど日当番の内容の割り振りに限られている。


「ヘアクリップ、可愛いね。リコ、気に入った」

珍しく、星壁は日直に関係ない話題を口にした。


「私のじゃない」

「イケメンにもらった?まさか?運命の出会い?愛の証?」


恋愛小説で世界をすべて理解しようとするこの変人に、まともに取り合う気は全くない。


「違う。黙って」

「ちぇ」

星壁は私の後ろで不满そうな抗議の声をあげると、またあの恋愛小説に没頭していった。彼女は完全に恋愛小説で生きている人間で、口を開けば小説の中のわざとらしい台詞ばかり。クラスで一番恋愛話が好きなリア充でさえ理解できないのだ。


「放課後の日直か…?」


私は落書き用紙に適当な線を引きながら、今日の予定を頭の中で計算した。白石は今日校門で待っていると言っていたようだ。私が日直を終える頃にはちょうど彼女に会えるだろう……待て、なんだかすごく白石に会いたがっているように聞こえるな。うん、私はただ自分の制服を取り戻したいだけ、それだけだ。

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