鳥舎見学
朝の庁舎。窓から差し込む光の中を、小鳥たちがひらひらと舞っていた。
机の端にちょこんと止まったかと思えば、すぐに飛び立ち、嘴に小さな巻紙をくわえて隣の課へ。
羽音と囀りが混ざり合い、ちょっとした市場のような賑わいだ。
「……すごいですね。庁舎の中をこんなに自由に飛び回ってるなんて」
腕いっぱいに書類を抱えたフィアネスが、目を丸くする。
「慣れればどうということはない」
一緒にいたトールが淡々と答える。
「近距離の伝令なら小鳥で十分だ。文机から文机、課から課へ。人間が走るより確実で早い」
その時、一羽の小鳥が勢い余ってフィアネスの髪にとまった。
「ひゃっ!?」
小さな足跡を残して飛び去る。残ったのは細い羽毛一枚。
「……慣れるんですか、これ……」
「慣れる」
トールの即答は妙に重い。
「でも、これを地方まで届けるんですよね? さすがに小鳥じゃ無理ですよね」
「そこで鳩だ」
案内された鳩舎には、灰色の鳩がずらりと並んでいた。
足には真鍮の筒が装着され、光を反射してきらりと光る。羽音は低く重く、庁舎を飛び交う小鳥とはまるで違う落ち着きがあった。
「わ……ほんとだ、筒がついてる。思ったより立派ですね」
フィアネスは思わず近づき、しげしげと観察する。
「これで領都まで飛ぶんですか?」
「そうだ。訓練されているからな。天候が悪くても、必ず戻ってくる。足の筒は規格が決まっていて、どの役所でも受け取れる」
トールが筒の栓を軽く示す。
「小鳥が庁舎の走り使いなら、鳩は地方を結ぶ役人だ」
「……なんか格好いい」
フィアネスの声は素直な感嘆に満ちていた。
ちょうどその時、一羽が低く鳴いた。
「クルッポー」
トールはわずかに目を動かし、淡々と告げた。
「褒められたな」
「……いや、返事にしては間が抜けすぎませんか」
「驚くのはまだ早い」
トールの声に導かれ、視線をさらに奥へ向ける。
そこには重い鉄格子。陽の当たらぬ半暗がりに、猛禽たちが静かに並んでいた。
鷹、隼。鋭い眼がこちらを射抜く。羽をわずかに震わせただけで、空気がざわりと揺れた。
「ひっ……!」
フィアネスは思わず後ずさる。
「な、なんで軍務用の鳥がこんな近くに……」
「猛禽舎は別棟だ。ここからでも気配は伝わる」
トールは平然と答えた。
「俺の家も武官よりでな。子供のころから見慣れてる。ついでに、地方にいた頃は、鷹匠の訓練場に通うのが日課だった」
「はあ……自分には近づくだけで精一杯です」
フィアネスは書類を抱え直し、猛禽たちの眼を避ける。
小鳥は庁舎を飛び交い、鳩は筒を誇らしげに鳴らし、奥からは猛禽の眼差しが光る。
そんな鳥たちの序列を前に、フィアネスはふと小声で呟いた。
「……これって、書類より鳥の方が序列はっきりしてませんか?」
トールは淡々と答える。
「現場はいつだってそうだ」




