表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/84

未読の山

 朝の第4記録室。フィアネスが机の上を見て、目を丸くした。


「し、主任代理! これ……」


 そこには、未読印が真っ赤に押された回覧書類が山のように積み上がっていた。


「……なんだこの赤スタンプの壁は」

 

 回覧書類の山にエグバートが額を押さえる。


「昨日はこんなになかったはずです」

 

 トールが近づいて、上から二、三枚めくる。


「内容は普通の回覧……でも全部“未読”のまま止まってるな」

「誰がここに積んだんですか?」

「知らん」


「まさかとは思うが、第六がまとめて投げ込んだか?」

「いや、第六なら仕分け票をつけるはずです。ついでに、フロイがこんな雑な仕事、するはずがない」


 トールが冷静に否定する。


「じゃあ……王城本部の横流しか?」

「主任代理、横流しする意味あります?」


 疲れたようなエグバートの声に、フィアネスが真剣に突っ込みを入れる。


「むしろ“未読”印だけ妙に新しいんだが」


 トールが一枚を光に透かして眺める。


「じゃあこれは誰かが途中で勝手に押した?」

「そんな暇人いるかよ」

「主任代理……ここ、第四ですよ」


「まさか、儀礼局の嫌がらせか?」

「儀礼局がわざわざ“未読”で嫌がらせするか? あっちは美文の鬼がいる。真っ赤な文書の方が嫌がらせだって」

「じゃあ第六のイタズラだろ」

「主任代理、第六にそんな余裕があると思いますか?」


 フィアネスの控えめな指摘に、場が静まった。

 第四記録室なら、あり得る。


 そのとき、部屋の隅から控えめな声がした。


「す、すみません……それ、自分が……」


 振り返ると、新人補佐官が真っ赤なスタンプを握って立っていた。


「お前か」

「は、はい……あの、押印練習を……」

「練習?」

「はい。『未読』が一番押しやすかったので……」


 3人は同時に頭を抱えた。


「じゃあこの山は……」

「ぜんぶ練習台だな」

「書類の上で練習するな!」


 エグバートが思わず声を張ると、新人はおずおずとスタンプを差し出した。


「……返却します」


 その場に妙な沈黙が広がり、最後にトールが天井を見上げて一言。


「まあ、“既読”になるよりはマシか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ