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送付先なし

 朝の第4記録室。フィアネスが報告書の束を抱えて戻ってきた。


「主任代理、昨日まとめた報告書、提出しようとしたら……送付先が空欄でした」


 エグバートが顔を上げる。


「は?」

「どこに出せばいいのか、書いてないんです」

「じゃあ依頼元は?」

「そこも空欄です」


 机の上に報告書を置くと、トールがぺらぺらとめくる。


「内容は……例の補修工事の最終報告だな」

「そうです。進捗も全部書き終わってます」

「なのに、送付先が無い……?」


 3人で書類を囲み、推理が始まった。


「庶務課案件だったか?」


 エグバートが報告書を片手に、机越しにトールへ視線を投げる。


「いや、予算項目が王城本部」


 トールは椅子を半回転させ、淡々と答える。


「じゃあ本部直轄か。なら儀礼局か?」


 エグバートが身を乗り出して言うと、フィアネスが首をひねった。


「主任代理。儀礼局に補修工事の報告送ってどうするんですか」


 机の端で依頼状を押さえたまま、真面目な声。


「観光案内に使えるだろ」


 エグバートは本気の顔で返す。


「使えません」


 即答するフィアネスに、トールが小さく笑いを漏らした。

 フィアネスのもっともな疑問に、エグバートは「確かにな」と腕を組む。


「予算本部で、工務絡みで……まさかの、監査局?」


 エグバートは報告書を指でトントンと叩きながら言う。


「監査局に出すなら、もっと数字の欄が細かいはずです」


 フィアネスは机の端で依頼状を広げ、眉間に皺を寄せる。


「じゃあ会計課は?」

「会計課は予算決定だけで終わりです」


 トールが椅子を回しながら、何でもないように返す。


「……じゃあ農政局」

「なんで農政局?」

「壁の修理にも麦わら使うかもしれないだろ」


 エグバートは真顔。フィアネスが顔を上げて呆れた。


「主任代理、それ工事の報告じゃなくて収穫祭の準備ですよ」

「そうか……じゃあこれは――」


 トールが閃いた顔をする。


「もしかして、送付先を空欄にしておいて、上の判断を待つタイプの案件か?」

「それなら依頼状に注記があるはずです」


 フィアネスがひらひらさせた依頼状を見たトールが唸る。


「……無いな」


 結局、午前中いっぱい「この報告書はどこに送るべきか」論争が続いた。

 候補は庶務課・監査局・儀礼局・本部管理課と4つまで絞られたが、決定打は出ない。


「もうこれは本人に聞くしかないな」


 エグバートが報告書の作成依頼者を探しに廊下へ出た。

 数分後、戻ってきた彼の手には、依頼状の写しと一枚の新しい紙。


「キャンセル通知だ」

「え?」

「この案件、先週の時点で中止になってた。報告書は不要」

「じゃあ、これ……」

「ご苦労さま。無駄になったな」


 トールが天井を仰ぐ。

 フィアネスは報告書の束を抱え直し、「どうします?」と尋ねる。


「決まってる。保存庫行きだ」

「保存庫って……二度と出番ないやつですよね」

「そうだ。歴史の肥やしだ」


 昼下りの第4記録室。妙に晴れやかなため息だけが響いていた。




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