異世界からの文書?
朝の第4記録室。トールが机の上に置かれた一通の封筒を前に首をかしげていた。
「……エグバート、これ、どこから届いたかわかるか?」
封筒には見覚えのない紋章。中の書類には、聞いたこともない役職名と地名が並んでいる。
「副領軍政長官……? 何だそりゃ」
エグバートが読み上げると、フィアネスが慌ててのぞき込む。
「“白瑠璃湾特別区”って書いてありますけど、そんな場所、王国地図にありましたっけ?」
「ない」
「じゃあ新しい領地ができたとか?」
「王命でも出てない限りそんなもん勝手に作れん」
一体、何があったと頭を抱える3人。
「ま、確認してみるか」
「ですね」
「な、なんか読みたくないんですけど……」
3人で書類をめくると、さらに奇妙な単語が続いた。
「“紅鉄防壁都市”……どこだよ」
「しかもこれ、日付が“天翔暦”になってます。うちの暦と違うじゃないですか」
思わず叫び声をあげるフィアネス。一方、エグバードは少し冷静にもなってきている。
「暗号か?」
「で、でも……暗号だったら、もっと普通の地名に見せかけると思いますけど……」
フィアネスが眉を寄せる。
「あ、あの主任代理。こういう場合、誰に確認すればいいんですか?」
「儀礼局……いや、これ持ってったら絶対面倒になる」
「じゃあ第6?」
「フィアネス。第6も同じこと言う。“うちの案件じゃない”って」
トールの声にフィアネスはうなだれるしかできない。
ホントに、これをどうしろっていうんだ……
3人は机を囲んで、文書の“正体”についてあれこれ推理を始めた。
「もしかして、古文書の類じゃないですか? ほら、昔の国境がどうとか」
「古文書なら羊皮紙だろう。これ、完全に今の書式だぞ」
「でも紋章は見たことないですよね」
沈黙が流れたあと、フィアネスがぽつりと言った。
「……異世界から来た文書だったらどうします?」
「だったら、受け取り拒否だな」
「いや、エグバートらしいけど。そんな理由で返送していいのか?」
議論は堂々巡りになりかけたところで、部屋の隅から控えめな声がした。
「す、すみません……それ、自分のです」
顔を出したのは、この春配属されたばかりの新人補佐官。
「お前の?」
「はい……あの、書式練習用に“架空の案件”を作ってみたんです。手本にするつもりで……」
「つまり、この副領軍政長官も、白瑠璃湾も、全部お前の創作?」
「はい……」
3人は一瞬無言になった後、エグバートが書類をパタリと閉じた。
「じゃあこれは、第4記録室の新しい物語資料ってことで保管しとくか」
「物語資料って……」
トールが呆れ半分で笑い、フィアネスも吹き出した。




