書式の世代交代
朝一番、第4記録室の書類棚に置かれた束を見て、エグバートが眉をひそめた。
「……なんだこのチャンポンは」
新旧両方の様式で書かれた書類が、ひとつの束になっている。
用紙の色も印刷の位置も微妙に違うが、どちらも正式な様式印が押されていた。
「本来、今月から新様式に統一のはずでした。でも、あまりにも旧様式が多すぎるので確認に参りました」
現れたのは第6記録室のフロイライン=リースフェルト。照合作業のために出張してきたばかりだ。
「そんなの知るか。昨日まで旧様式で出してたろ」
「第6では先月から案内を回しています」
「回ってこなかったら無効だ」
言い切るエグバートの横で、フィアネスが両方の用紙を見比べて首をかしげた。
「……どこが違うんですか?」
「欄の位置が三ミリ動いただけだ」
「あと承認欄の表記が“署名”から“記名押印”に変わりました」
「だから何だ」
フロイが淡々と補足する言葉をエグバートが一蹴する。
「そうおっしゃいますが、新様式に慣れてもらわないと、来月からの改定に対応できません」
「は? まだ一ヶ月しか経ってないぞ」
その時、儀礼局のクラウス=リースフェルトが、ひょっこりと顔を出した。
「第6の案内は確かに受け取りました。もっとも、それが第4まで届いていたかは……」
「ほらな」
勝ち誇ったような声のエグバートにフロイは理路整然と言葉を続ける。
「第6としては、儀礼局経由で全部署に回ったと認識しています。
こういうことの潤滑油が儀礼局の仕事では?」
「四男、そういう屁理屈はやめなさい。本来、儀礼局の仕事は布告文の作成です」
兄弟喧嘩になりそうだとニヤニヤするエグバート。
「同じリースフェルト家の兄弟なんだから、そこはちゃんと弟の顔を立ててやれよ」
「兄弟だからこそ、筋は通さないといけないんですよ。あなたもご存じでしょう?」
エグバートの嫌みに気が付いていても、クラウスはさらりと切り返す。
「結局、旧書式でも新書式でも、出す側は困ってないですよね?」
このやり取りに困惑したフィアネスが、素朴に尋ねる。
「困るのは受け取るこっちだ」
思わず、エグバートとフロイが同時に返す。
「しかも、これ全部同じ案件ですよね。なんで旧と新が混ざってるんです?」
フィアネスの疑問に二人が一気にこたえた。
「旧派が“最後まで旧様式を使い切る”主義だからだ」
「新派は“慣れた方が早い”と切り替える」
「……それ、どっちも同じ内容の書類を二度作ってるってことですよね」
フィアネスの指摘に、室内の空気が一瞬止まった。
その時、儀礼局から新しい通達が届いた。
フロイが開封し、目を通すなり顔を引きつらせる。
「……来月から承認欄が二つに増えます。監査官の分だそうです」
「それ、押す人が二倍になるだけだろ」
「じゃあ今のやり取り、全部一ヶ月限定なんですか?」
「そんなもんだ」
「王城の様式ってのは、季節物だ」




