机の上の未解決
朝一番、第4記録室の執務机に、分厚い封筒が置かれていた。
宛名は「至急照合依頼」。差出人は──儀礼局。
「おいおい……封筒の色がすでに古代遺物だぞ」
──これは危険物だ。触れると厄介事が感染するタイプのやつ。
とはいえ、そのままにすることもできない。封を切ったエグバートが、中身をぱらぱらとめくる。
「ほら見ろ、この書式印。十年前に廃止されたやつだ」
「でも、期限“本日”って赤字で書いてありますけど」
横から中身を覗き込んだフィアネスが素直に口を挟む。
「……つまり、今日中にこれを照合して、提出するってことですか?」
「そういうことだな。廃止済みの規則で処理しろという天啓だ」
「天啓って言うんですか、それ」
書式番号を確認しようとしたところで、来客の声がした。
「失礼します。第6記録室のフロイライン=リースフェルトです。照合依頼を受けまして」
冷静な顔のフロイが歩み寄り、書類を一瞥する。
「……これ、十年前に廃止ですよ。なぜ承認欄だけ最新なんです?」
「誰だよ、化石に新品の帽子かぶせたやつは」
フロイの言葉にエグバートのボヤキだけが大きくなる。
「経路を辿ったら、儀礼局のクラウス=リースフェルト様が通してました」
「あいつか。呼びたくないが、呼ぼう」
ほどなく現れたクラウスが、眉を下げる。
「ああ、それ……祭礼関連の古い案件を整理してたら机の端にあったんですよ。日付が空欄なんて、許せませんよね。だから、埋めたんですよ」
「じゃあ、リースフェルトさんが現役案件にしたってことですか?」
フィアネスが首をかしげる。
「まさか! 私がしたのは、空白の不備を整備しただけです。元々は第6から儀礼局に回ってきたものですよ。
不備があるとはいえ、同じリースフェルト家ですからね。四男の尻ぬぐいは長男の役目でしょう?」
「いいえ、儀礼局から第6に回ってきました。それに、このような文案は儀礼局では?」
フロイが淡々と反論する。
「最初に照合依頼したのはそちらではありませんでしたか?」
「いいえ。間違いなく、儀礼局から届きました」
話がぐるぐる回る。
「つまり、儀礼局から第6。そこから、うちの第4。で、第6に戻されて儀礼局。そこから、うち……か?」
「それ……結局、どこが出発点なんですか?」
エグバートの声にフィアネスの困惑した声が重なる。
話の通りにフィアネスが指先で空中に経路を描くと、ますますぐちゃぐちゃになっていた。
「結論。この案件は、机の上に置かれたまま、複数部署を経由して散歩していただけだな」
これで終了とばかりに、エグバートが書類をぱたんと閉じる。
「今日中に処理って、処分の間違いじゃないのか?」
「処分って……どうします?」
「決まってる。博物館に寄贈だ」
「博物館って、どこの部署です?」
フィアネスの素朴な一言で、場が再び静まり返った。




