ねぇ、誰と踊るのかしら?──舞踏会前、乙女たちの密談は今日も熱い
「──で、聞いた? 今度の舞踏会、アリシア様もご臨席になるんですって」
「まぁ……本当? それはもう、国を挙げてのお祝いね!」
「だって“お披露目”ですもの。わたくしたちの王女様、久々のご登場よ?」
「ええ、それにしても……」
「ほんっとうに、お美しいわよねぇ……」
「わかる。あの金の髪、まるで光を纏ってるみたいなのよ。歩くだけで空気が変わるって、あれ本当だと思うの」
「ドレス姿なんて、まさにおとぎ話の姫君。っていうか、王女様だし」
「それで、誰と踊るのかしら?」
「やっぱり、婚約者よね?」
「誰よ、婚約者って?」
「……え、まさか、知らないの?」
「嘘。聞いてない!」
「──グラナート家の嫡男ですって。ゼノ様。あの、銀髪の!」
「えぇっ!? あの方!? でも……」
「……地味じゃない?」
「しっ、聞こえるわよ!」
「でも、ほら、王女様が並び立つ相手としては……なんというか……」
「見劣りする?」
「そこまでは言ってないけど、でも、あの落ち着き具合というか、年齢差があまり感じられないというか……」
「それって、王女様が成熟していらっしゃるってことじゃない?」
「……まぁ、それもあるかも。アリシア様、あの笑顔で何でもこなされるから」
「むしろ、ゼノ様の方が緊張して見えるのよね。あの舞踏会の時も」
「あ、それ、わかる!」
「踊りの所作は完璧なのに、どこかぎこちないっていうか……」
「……ねえ、思ったんだけど」
「なに?」
「王太子殿下とアリシア様って、お似合いすぎない?」
「……っ、言っちゃった!」
「でも、わたしもそう思ってた。あの並び、神々しかった……」
「だって、王太子様のまなざし。あれ、妹に向けるそれじゃないわよ?」
「うんうん。あれは、もう“愛”よ、“あ・い”!」
「王女と王太子……禁断っぽくて、逆にアリじゃない?」
「ちょっと待って、真面目に言うけど、それって……つまり、王女様の婚約者って……」
「え、何? あの婚約、形式的ってこと?」
「……それ、あると思う」
「だって、王太子様、他の姫君にまったく興味を示されてないし!」
「しかも、王女様の私室にまで顔を出してるって噂よ?」
「ええええ、それもう半分、結婚生活じゃないの?」
「うらやましい……というか、こわい……」
「なにが?」
「だって、もしそうなら、ゼノ様って──」
「──まったくの被害者?」
「しっ、ほんと、聞こえるって!」
「で、結局のところ、アリシア様は誰と踊るの?」
「……正解は“王太子様”だったりして?」
「やだ、こわい」
「でも、見たい」
「……それな」
(扉の外に立つ一人の侍女が、そっとため息をついた)
(──皆さま、ほんとうにお幸せでいらっしゃいますこと)