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第9話 この危機を救ってくれる人材


 清久は迷っていた。息子の稔にトクダ本体を預ける考えは、いまの清久にはなかった。せっかく創業家から操縦を離したのである。また創業家に戻せば忖度しか考えない取り巻きばかりが増えトクダの成長は止まる。

 しかし、宝田に、或いは他の者に託しても、この危機は脱せないのではと清久は思い始めていた。それほどこの危機はトクダの存在意義を揺らしている。クルマ屋からの脱却くらいでは済まないほどの転換に自分たちはいま晒されている。

(しかし、稔には、まだ・・・)

 清久の葛藤はそこにあった。彼にはまだ荷が重い。宝田の言うとおり徳田の血を保存していたのは確かだった。いずれもし自分がそうであったように不退転の覚悟で臨まなければならない未曾有の危機が訪れた時、こんな損な役を(トクダの社長が就労と報酬の面だけで見ればどんな職業より損であることは清久が誰よりもわかっていた)誰も受けたくないだろう。

 創業家はその身を賭しての最後の砦になる。その保険を清久は自分の息子に用意していた。

 彼から言わせればこれは保身ではなく危機管理であった。

 つまり、稔がトクダの社長になる時は、トクダが沈みかかっている時なのであった。

(トランザと彼にはまだ時間がいる)

 時期はまだ整っていなかった。

 宝田は言った。

「繋ぎ役である私はここまでです。トクダに稔さんを、カリスマを戻してください!」

 されど、このまま宝田に退路を断ってトクダを引っ張っていけと言う気持ちにもなれなかった。清久の中に、こんなことがいつかやって来てしまうのではという心配がないではなかったが、それがあまりに予期せぬ早さで訪れた。

(しかし、宝田は誤解している。稔はカリスマになれない)

 ここで息子を登用しても人心は得られないことを清久はわかっていた。経験が足りない。人々の期待を稔は裏切ってしまうだろう。その時、トクダには保険がなくなる。

(どこかにこの危機を救ってくれる人材はいないだろうか)

 清久は救世主を探した。


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